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第七十ニ歩「骨の柱」

―時刻はお仕事を受けた直後に巻き戻る


「では、暫く野営になります。皆、取り敢えず寝床を作っちゃおうか」

「ぽぽぽっ(はーいっ)」

「「はーい」」

「マ、子供連中ハオ泊マリ見テーナモンダナ」


 イケヅキ君が他の子の段取りを見つつもスルスミちゃんはテキパキと

寝床の設営の手伝いをしている。私も指示待ち気味ながらも

そのキャンプの手伝いをしていく。簡単な木の枝と毛皮で作られる

簡易テントの様な寝床を砂浜に打ち立てている間に

周りにはドラゴンさん達は居なくなっていた。

危険はもう無いという判断か、邪魔になるという気遣いなのだろうか?

やっぱ、頭いいんだろうね、ドラゴンって。リトモさんと話してる様子を

眺めているだけだったが、少なくとも〘古代エルフ語〙は話していたし

此方の会話に爬虫類面でリアクションもしていた。

ほんと、3D映像みたいに顔の鱗とか筋肉が動くもんなんだね!


「ぽぽっ、ぽぽぽっぽぽっぽぽぽっ?

 (しかし、スキル大丈夫なのかなぁ?)」

「まぁ、そこらへんのペースや段取りも含めて

 実際にやって詰めていかないと解らないですからね」

「ワシモ最初ハ見ルガ基本此処ハイケヅキ達ニ任セル。

 無論、何カアレバ大人連中ハスグ駆ケ付ケルカラノ」


 リトモさんも流石に此処で掛り切りと言うのは無理か。

あの人は若い頃の映像とのノリからやたら現場に居るイメージに

なりつつあったが、ちゃんと政務は政務でしてるんだね。


 そうこうしながらも野営準備は殆ど終わっていった。

後は人数分の水瓶の水汲みとかだが幸い泉も近いし

何より自然豊かなので……ってそういやご飯どうするんだろ?

いくら子供が多いのと今回、私はスキルの使用が仕事だから

お腹は減らないんだけど、この人数のご飯って大変なんじゃね?

まぁ、考えなしでも無いだろうからイケヅキ君に聞いてみるか。


「ぽぽぽっぽぽっぽっ?(ご飯どうするの?)」

「ああ、それはご心配なく。見たこと無い子も居るから

 その子達と採りに行きましょうか」

「ぽぽっ?(採る?)」


 イケヅキ君も一緒に居るエルフ達も一向に食料の心配をしている様子はない。

採る、採取するという意味だとなんか芋畑か群生地帯でもあるんだろうか?

うー、それだと毎日芋煮になるのかねぇ。まぁ、この子達はそれが日常だし

私が贅沢を言う訳にもいかないか。


 数人のエルフの子達とイケヅキ君とタワラのパーティで私達は

泉を沿う様に砂浜を歩いて行く。手には籠を持っており

タワラの左右の腹にも籠が背負わされている。

等間隔に開いている日差しは何処か幻想的にも近代的にも見えて

とても不思議な気分だ。透き通った泉は透明度が高くて

砂底がくっきり見える。時折、水面を揺らす事から

中に魚とかの生息が確認出来る。なら、いっそ釣りか漁でもするのかね?


「グオォォォッ!!!」

「ぽぽっ(ひぅっ)!?」

「ああ、さっきのワイバーン達ですよ」

「意外とビビリだなこの姉ちゃん」

「フフッ、カワイー」


 そうしてしばらく、歩いていると薄っすらと聞こえていた鳴き声が

近くなり、それが怒声に近い鳴き声だと解る。耳がキンキンと鼓膜を

揺らされていくにも思わず帽子のツバを持って頭を伏せようとする。

ソレを見ていた少年少女のエルフ達に思いっきり笑われてしまった。

し、仕方ないでしょ! ドラゴンとか日常で見てた訳じゃないんだから!


 私はため息とともに改めて目を凝らしてみると其処は綺麗な景色との

ギャップ著しい奇怪な光景が広がっていた。


「……(何やってんだろ、アレ)」


 結構な数のドラゴンさん達が黙々と鳴き声を上げながらも作業をしている。

うん、さっき来たのはほんの一部だった様で其処はうじゃうじゃと

白い鱗の龍達がたむろっているのは解る。此処が彼らの生息域で

私達が野営した所からは少し離れていた。

ドラゴンの響く鳴き声とその作業音は工事現場クラスの騒音ではあるが

ハッキリ言って作業内容が訳が解らん事になっている。


「ぽぽぽっぽっ?(何アレ?)」

「〈骨の柱〉と呼ばれています。アレを処理するのが彼らの生業です」


【用語辞典の一部が開放され〈骨の柱〉の項目を追加します。

 現在の情報取得情報から一部の情報しか得られていません】


 大きな岩を尻尾に撒いたかと思うと、まるで其処に突き立てられたかの様に

真っ白に天へと伸びていく白い柱へと叩き付けてはそれを折っていくドラゴン達。

砕いていく白い物体〈骨の柱〉とやらはドラゴンすら一人では運べそうにない。

数匹で持ち上げては大きく平らに敷かれた岩盤の様な大岩の上へと運んでいく。


「……(ああ、これって石臼みたいなもんか。すり潰してんのね)」


 それとは別の数匹が今度は大きく丸太を何本も突き刺された巨大な岩を

縄で吊し上げてその敷かれた上の岩へと覆いかぶせる様に降ろしてていく。

鈍い音と共に〈骨の柱〉は砕かれて下敷きになっていくと

その丸太をくわえ込む様にしてドラゴン達はその大岩をごりごりと回転させれば

敷かれた〈骨の柱〉がどんどんと体積を減らしていく。

なんだか、古代の奴隷労働みたいな作業だが当竜たちは不平不満の表情を作る事無く

日常化した作業としてそれを行っているのがなんともシュールな光景である。

しかし、設備自体は手の無いドラゴン達に合わせた大きい滑車や

皮かなにかを撒いた丸太もあり、多分、エルフ達が設備を作ったのだろう。


 大岩と丸太で造られたその巨大な石臼でドラゴンさん達の作業が行われる中

休憩をしていたのだろうか? 寝転がっていたドラゴンの一匹が頭をもたげ

私達の方へとそれを向けてくる。動きが大スペクタルだが寝そべったままで

あれだけ距離が稼げるのはなんとも便利そうな首だ。


「森ノ友、ドウシタ?」

「食料を貰いに来ましたが大丈夫ですか?」

「リトモカラ聞イテイル。丁度、アッチノ〈骨の柱〉ガ採レ時ダロウ」

「解りました」


 そう言ってぐいっと顎を上げて方向を指し示すドラゴンさんの

ダイナミック方向指定の先にはやはり〈骨の柱〉があった。

ただ、他の柱との違いが遠目からでもよく分かる。なんだかピンクだか

赤だか解らない何かがくっついていた。うむ、しかもちょっと動いてないか?


「……(な、生肉が生えておる!?)」

「コレがご飯です。見た目はちょっとアレですけど

 食べられる上にアレ、腐らないんですよ」

「ぽぽぽっ?!(マジでっ!?)」


 そう、近づいていくと解るのだがまるでカビが生えたかの様に

その〈骨の柱〉には肉の塊がどたぷんっとくっついていた。

それも何か人の手とかで付けられたという感じではなく

肉を解体処理していたら骨に肉が残っていたかの様にべとべとと

あっちやこっちに塊でくっついている。大体一つで牛とか豚1頭は

あるんじゃないかって大きさのソレがまだら模様に見える位に

群生しており、なんだろう。肉のスライムみたいだ。

私がそれを凝視しているとシステムさんの声が入るが


【この物質は[レガシー・ピース]の属性を含むため

 現時点で情報を得る事は出来ません。

 該当する〈パースト・ポータル〉の閲覧が必要です】


 お、これも久しぶりの[レガシー・ピース]案件か。

なんだか今まで安定していたが此処に来て新しい情報が

雨後の筍如く湧いてくるのでこれは夜にでも情報を確認し直さないと。

うう、なんだか他の人との集団行動だと調べる機会って減るね。

一人ならスマホ感覚で検索観覧出来たんだけど。


「ぽぽぽっぽぽっぽぽぽっぽっぽぽっ?

 (ドラゴンさん達もコレ食べてるの?)」

「ええ、主食です。あの巨体ですからね。あ、それと」

「ぽっ?」


 皆があの生肉スライムを剥ぎ取りに掛かり始める。なるほど、あれが

どの程度の頻度で生えるか解らないがドラゴンさんの胃袋を満たす程度に

発生しているとなると数は結構増えそうだ。

ふと、イケヅキ君の空気と声が変わる。急にシリアスになってしまうのは

ドキッとしてしまうが私もシリアスに意識を切り替える。


「彼らは〘セイント・フリード・ワイバーン〙と言って

 ドラゴンとは違います。ドラゴンを神聖視していた時期もあるので

 刺激しない為に彼らを呼ぶ時はワイバーンと呼んで下さい」

「ぽぽっぽっ~(了解~)」

「と言うかドラゴンを知ってるんですね。

 この森周辺では見掛けませんが」

「ぽぽっ、ぽぽぽっぽっぽっ(なんか、覚えてた)」


 っと、いけないいけない。コレは私もうっかりしていた。

まあ、逆にワイバーンとか細かく種族まで初見看破していたよりはマシだが

それでも知らなそうな単語をいきなり口走るのは警戒されそうだ。

実際に本当に何か覚えていた以上に私は何も覚えていないんだけどね。

シリアスな空気はその一言で終わり、私も生肉回収作業を手伝い始める。


「これを持ち帰って食べた後、いよいよスキルの使用ですね。

 頑張りましょう」

「ぽっ(うんっ)」


 しかし、焼き肉で景気付けと言うのは中々豪勢な事だ。

期待を含めての事もあるかもしれないし、コレは頑張らないとね!

            第七十三歩「OJT(お仕事、実際、大変)」に続く

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