第七十一歩「封じられていたモノ」
「……(よし、説明を待とう説明を)」
「あ、ええとです……ね」
私は首をわっかりやすくがっくりと横に倒して、『解らん!』の意を伝える。
そのまま、ポロッと落ちちまう勢いなんじゃないかで押し通すと
イケヅキ君は一瞬、ぎょっとするも言葉を続けてくれた。
しかし、語られる言の葉重く、また一つ一つ確かめ、目配せする先は
族長のリトモさん。本人が説明をすれば良いのだがあの少年モードは
おいそれと使えないのだろう。故に言葉が通じる少年で一番慣れている
イケヅキ君が代表で喋っている形になっている。
ええ、周りには別の少年少女エルフとでっけぇ白いドラゴンに囲まれて
思考が下ネタに逃げたくて仕方ありません。私はダメな大人です!
「僕達〘セイント・シール・エルフ〙は過去に受けた呪いを
この森の聖なる力によって封じています。よく勘違いされますが
森の中で封じているのは僕達自身なんです」
「……ぽぽぽっ!?(なんと!?)」
「あ、別に僕達が何か邪悪って訳じゃないですよ?
まぁ、悪いエルフが居ないと言ったら嘘になるかも知れませんが
基本的に普通の〘フォレスト・エルフ〙と変わりません」
「……(其処は逆に素直だな)」
イケヅキ君の言い方に感心してしまった。
『僕は良いエルフですよ、悪いエルフはいませんよ』
と言っちゃうとまぁ、仮に本当にそうだとしても若干嘘くさい。
其処を誠実にと言うのは利害か誠実かそれとも交渉が下手なだけか。
これが故意的に話しているのだったら相当な性悪ショタビッチな訳で
私の好み的に案外美味しいのだがまぁ、イケヅキ君はそういう子ではない。
しっかし〘セイント・シール・エルフ〙の語源はそんな感じだったのか。
誰が名前付けたんだって話でもあるが言葉の意味が解った。
呪いと言うのは恐らくロシカさんの実験で受けた結果かあるいは途中で
何らかの過程で混入した事故か、其処は私が彼らに聞く事は出来ないが
そこら辺の見立てで問題ないだろう。
「世代を経ていく度にその呪いの影響は薄くなっていると僕達は思ってました。
ただ、先日〘ハッシャクサマ〙にスキルを使われた時のコレが
僕や一部の子はたまたま表層化して無かっただけで
身体の深くに呪いが潜在していただけだと解ったんです」
「……(『ソレは』『ごめんなさい』っと)」
私は〘霊話〙を使って即座に謝罪をする。心情的にはその場で
マッハ土下座でもしたい気持ちでもあるが今はそのやり取りすら
ちょっと出来ない空気っぽい。流石にこのくらいの空気は私でも読める。
そう、彼が掲げて包帯を解いた腕には以前にも見せた真っ黒いアザの痕。
話を聞いていると私が体の中に染み込んでいた呪いとやらを
引き摺り出してしまったのだろうか? コレは存外ショックな案件じゃない?
「いえ、元々あったものが見える様になっただけですから。
むしろ、僕達にとっては僥倖です」
「ぽぽっぽぽっ?(どういうこと?)」
「説明が難しいのですが」
マジマジとその痕を見つながら、さっきの申し出と辻褄を合わせる。
えーと『抜いて下さい(エコー補正込み、浴室みたいなの)』って事は
むしろ、これが見える事が良かったってことなの? 黒いのは出たけど?
抜けるって事はあの黒い呪いとやらが吸い出せるって事なのかしら?
「これはまだ仮説ですが〘ハッシャクサマ〙は僕達が封じる事に
利用している[聖属性]を忌避していて、この呪いの主体である
[混沌属性]を好む性質にあるみたいなんです」
「ぽぽっ、ぽぽぽっぽぽっぽぽぽっぽっぽっぽぽぽっ。
(ああ、そういや川の水とかしゅわしゅわ祓われてたわ)」
「監視中も普通に使ってましたけど白煙立ってましたしね」
うむ、最初普通に手洗ったり水飲んでる時も白煙立てて驚かれたんだけど
私としてはそんなしゅわしゅわドライアイス祭りよりも手を洗ったり
水を飲む方が大事だったので以後、スルーしてもらっていた。
ああ、弱点的なもんは感じていたけど、能力的にも忌避してたのか。
……ちょっとストップモーメンツ!? 待て、私それじゃ弱点属性で
満たされている様な消毒液の森みたいな所で過ごして居たのか!?
今まで良く生きられてたな。ていうか、案外大丈夫なのか私。
あ、止めて!? 少年少女エルフちゃん達どころかドラゴンさんまで
『コイツバカなんじゃね?』な視線で見ないで!?
そのただの爬虫類な瞳孔ラグビー型の瞳でも感情が乗って見えるのよ!?
「っと、話が逸れました。ええとそれでですね。
さっきの抜いて下さいっていうのはこのアザの所、反対側を見て下さい」
「……(あ、赤い? いや、皮膚がちょっと)」
「引き摺り出した[混沌属性]が凝縮されたので逆に身体から抜けてるんです。
ほら、こうすると」
そう言ってイケヅキ君が軽く手招きをしながらも砂浜の先の
泉へと向かってその腕を水の中へと突っ込んでいく。しゅわぁあああと
大きい白煙と少し痛そうな表情から私も慌てて彼の傍へと近寄りながらも
その水に沈められた腕を見つめている。
【用語辞典の一部が開放されました。
〈高濃度竜造聖水〉の項目を追加します】
お、久しぶりに用語辞典が来た。竜造聖水ってことはこのドラゴンさん達が
この聖水を作っているって事なのかな? 此処の水が流れたり
染み出して川になっているってと〈天然聖水〉って事になるのかね。
まぁ、そんな項目については後回しで良い。
泉から引き上げられた腕には私だけではなく、他のエルフやドラゴンさんも
目を見張る様にその腕を眺めていた。
「と、こんな感じです。僕が里でやったのは普通に川の水と
薬だけですが、残っていた部分もこんなにも」
「……(おおぅ、ボロボロ落ちてる。日焼けで皮が剥けたみたい)」
「元々此処ハ、ヒビノ黒イノガ多イ奴ガ湯治ニ来テタノジャガ
少シ表面ガ剥ガレテ薄クナルダケデ、マタ黒クナル」
そう言って、引き上げた腕の黒いアザをぽりぽりと爪で引っ掻いていると
砂浜へとそれは剥がれ落ちていく。その剥がれ落ちた皮膚もなんだか
砂浜の上で化学の実験風景の様に白煙を上げて溶けていった。
この黒いアザがかさぶたみたいになっていたのか、剥がれた部分の皮膚は
赤くなっており、じゅくじゅくとした傷口を覗かせる。若干グロいねコレ。
リトモさんが補足説明を入れる中、赤くなった皮膚に包帯を
巻き直すイケヅキ君。少し痛そうに片目を瞑る様はとってもキュートだが
ことの成り行きは大分シリアスになっている。
「という事で〘ハッシャクサマ〙にはスキルを使って僕達の身体に
染み付いている[混沌属性]を抜き集めて貰って僕達はそれを此処の水や
砂を使って洗い流す。これがお願いしたい仕事です」
「……ぽぽぽっぽっ、ぽぽっ?(ひょっとして、全員?)」
「老人は勿論、大人も急激な浄化は身体に負荷を与えますので
まずは身体が丈夫で活力の有る若い者を中心に集めました」
「ぽぽっ、ぽぽぽっぽぽっぽっぽっ(ああ、それでこの子達なのね)」
「何よりスキルの通りが良いみたいなので」
「……(あ、その忘れてたけどコイツ変態だった的な視線は今やめて!?)」
大体、今回の依頼が解った。私が〘魂削りの愛撫〙で吸っているのは
どうやら〘セイント・シール・エルフ〙に染み付いた[混沌属性]の呪いを
中心としている様なので、それを体中から集めて吸い出せるらしい。
今のところ私だけにしか出来ない様だし、彼らにとってこの呪いは
不治の病だと思われていたみたいだから親切だったのかな?
うう、そんなちょっと訳あり具合が解ったのと、ドラゴンさんこそ
何のことか解らない感じだったのに一歩下がる少年少女エルフ達の
挙動に心の傷は更に抉られる訳ですよ。
「……(ええぃっ! 切り替えて行こう私! 折角お役に立てるんだ!)」
「ええと、協力して報酬という訳ですが生活の面倒を見る事と
ものすごく永く生きていけるなら精霊として祀る事も良いそうです。
あくまで此方の生活が安定している間という話になりますが」
「ぽぽぽっ(なんと!?)」
生活の面倒を見て貰えるとかかなり私としては破格の申し出である。
生活拠点としてこの森が使える訳で、今回の私の仕事如何によっては
此処のエルフ達がこの森から出られる可能性だってある。
何せ、呪いを取り除ける様になれば、ココで封じられている必要が無くなる訳だ。
後、案外そんなあっさり信仰とかされて良いんだろうか?
いや、まぁ確かにそういう形で収めといた方がなんか色々と
説明が楽な雰囲気でもあるがとんだ地元の精霊様である。
普通に年に数回少年の生贄求めてそうなノリだな、ほんと。
うーん、まぁ寿命がどうなってるか解らんと言うのはあるし
下手したらエルフ達よりも早く死んじゃうかも知れないので
其処はあまり期待しないでおこう。何よりカリスマ性とか現状皆無だしね。
「……(『了承』『頑張る』っと。何にせよお仕事は良いことだ)」
「ありがとうございます!」
「ホレ、皆モ」
「「ありがとうございます!」」
「では、此処で暫く他の子達と一緒に野営しながら
治療を進めますので、テント張りますよー」
「暫ク、騒ガシクナッテスマンノ」
「ウム、マァ良イダロ。タマニハ」
私は〘霊話〙で解答をするとぱぁっと明るい顔になるイケヅキ君。
リトモさんとドラゴンの一番偉そうな人は和やかに会話をする中
楽園キャンプ治療のお仕事が始まったのだった。
――そして、2日の時を経てなんという事でしょう。
「1、2! 1、2! 1、2! 1、2!」
「ぽっ、ぽぽっ! ぽっ、ぽぽっ! ぽっ、ぽぽっ! ぽっ、ぽぽっ!
( 1、2! 1、2! 1、2! 1、2!)」
「「1、2! 1、2! 1、2! 1、2!」」」
「敵ヲ! 殺セ! 命ヲ! 燃ヤセ!」
「「「敵を! 殺せ! 命を! 燃やせ!」」」
「ゴルァア! 腹カラ声出セ、声!」
「ぽぽぽっぽっ!!(はぃぃっ!!)」
其処には砂浜を元気にブートゥキャンプ気味にランニングする
少年少女エルフと〘八尺様〙の私の姿があったのです!
第七十ニ歩「骨の柱」に続く




