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第七十歩「棄てられた楽園」

「……(はーー、絶景かな……ってね)」


 洞穴を抜けた先、最初に見た〈封印の白き森〉も驚いたが

今、目の前に広がるその光景にも私は度肝を抜かれている。

白い砂浜に透明度の高い水が広がる泉。まるでそう作られたかの様に

一定間隔で空を覆う梁の様に大空に網の蓋をした木々が日の光を

幻想的に遮断して木漏れ日を作っていく。地上だと言うのに

遥か彼方の向こう岸が見えずに透明な泉と砂で作られ

ところどころ日の当たるところに白い植物が生えている。

隔離された空間は正に『楽園』と言う形容が脳裏を過っていった。


「……(おー、凄い。天然でこんなになるもんなんだ)」

「綺麗ナ所―」

「俺は前来たけど、やっぱすげぇな此処」


 周りに居た少年少女のエルフ達もリアクションは概ね似ていた。

ちらほら、前来た事ある子も居た様だが初めての子は口が塞がらないのは

人間もエルフも化け物も共通なのだろう、感嘆の表情を一応に刻んでいる。

子供を遊ばせるのにもいいだろうし、秘密のデートなりってのにも

中々ロマンチックな雰囲気が出てて良い感じだ。


 上を見上げては等間隔に隙間が開いていて此処自体の気温や空気が

外の森よりもやや低い程度で落ち着いているのかどうにも

気分もまったりとしてしまう。あれ、どういう状態なんだろうか?

何か遺跡かなにかのドームが昔あって、それが残って

後から生えてきた木々が巻きついているのかな? 普通に鳥なども

飛んでいるのが見受けられるから昨日今日出来たもんでもないのだろう。

私達はそんな風景を眺めながらも白砂浜へとゆっくり歩いて行く。


【〈パーストポータル〉〘終焉に向かう正義〙の取得を開始します。

 用語辞典に〈廃棄されし者の楽園〉が開放されました】


「……(はぃ?)」


 なんぞ、コレ? えーと、まぁ此処も何かあるとは思ってはいたが

終わっちゃうの正義? 子供泣いちゃうんじゃない? どういうことなの?

私の頭の上でクエスチョンマークがマイム・マイムを踊り狂う。

私が絶景を楽しんでいた中、システムさんの声に思考を引き戻される。

正義が終わっちゃうのもそうだが、向かうって現在進行系?

さっぱり解らんな私の頭を尻目に少年少女エルフの一部はきらきら光る

砂浜と泉に今にも飛び出しそうで、何度もリトモさんを見直していた。

うむ、此処はバカンスに来たのかな?


「遊ブノハ後ジャ。マズハ挨拶ヲセントナ」

「ぽぽっ?(挨拶?)」


 む、これはアレか! 泉の中に精霊さんとかが居る流れだな!

こう、いかにも妖精さんが飛んでそうな雰囲気だもんね。

そうやって、私が泉の方を注視しているとなんだか黒い影が

ぬぅーっと近寄ってくるのが解る。ナニが出て来るんだろう。

蛇だの龍だのはもう来てるから亀とか、スタンダードな泉の女神様?

なんだか風が強くなって来たが私はじっと影を見つめていると。


「オー、来ター」

「でけぇな、ほんと」

「ぽっ?(ふぇ?)」


 そう言って少年少女のエルフ達が声に誘導された頭を上げると

軽い地獄絵図を見た。私がてっきり泉から出て来るんだろうと思って

下の方を眺めている間に、上の方で黒く大きな影が羽ばたき

上を円を描く様に周回している。それも一体一体はざっと大型バス以上は

あるんじゃねぇかな……んで、あれってあのシルエットってさ。


「……(ドラゴンさんだコレーーーー!?)」


 え、早くない? いや、水龍も見てるけどガチドラゴン先輩が

跋扈するって物語的にもっと後に持ってこない? だから、早くない?

まるでヘリのホバリングの如く、低空へと近付けば砂を吹き散らかした後

地響きを鳴らし立てる様に着地していく白鱗のドラゴンがドスンドスンと

何匹も降り立っていく。竜の巣って奴ですかコレ。


「……(でっかいなぁ)」


 私は思わず見上げたままで固まってしまい口が塞がらない。

一匹一匹が背筋を伸ばし上げれば私も小娘どころかアリンコみたいなもんだ。

余裕で身長が2~3倍以上有る上に尻尾とかの長さいれたら全長いくつよ?

真っ白いキレイな鱗に大きな翼は広げれば……ええい、でか過ぎて

逆にサイズ感が解らん! 兎に角でかい! んで、足は鳥みたいな逆関節に

ついているのが二本で前足や手は無いみたいだね。

鳥と似たような骨格というか体型だ。西洋のドラゴン的なモノのイメージとは

合致しているけど、真っ白い鱗に薄い青のブルートパーズを埋め込んだ様な瞳は

なんとも神聖さを感じさせるいかにもなカラーリングだ。


【種族情報〘セイント・フリード・ワイバーン〙の取得を開始します】


「があっ!」

「ヨッ。先日来タバカリジャガスマンノ」


 一番大きい個体がリトモさんに話し掛けている。少年少女のエルフ達も

驚いてはいるが、逃げ出したり攻撃したりしない様子を見るに

此処にこのドラゴン達が居る事を知っているのだろう。

しかし、一番でかいのがリトモさんと話している間もドラゴン達は

私達の周りを哨戒する様にのしのしとその巨体を揺らし歩いている。

尻尾とか砂浜を掻き上げる様にこすり付けては威嚇をしているのだろうか?


 ――うん。今更誤魔化すのも気付かない振りも無理だ。

ドラゴン達は全員私を見てた。まぁ、確実に珍しいもんね。

た、食べられないよね? いきなりバクっと行かれないよね?


「……デ、コレガソノ娘カ」

「ぽっ、ぽぽっ!?(えっ、私!?)」


 そう言ってなんだか話し込んでいたドラゴンさんとリトモさんの視線が

一斉に私に向く。当然、私は視線を避ける様に顔を横に向ける。

このまま、やり過ごせないかなぁー。口笛とかは吹けないので

ひたすら、時間が過ぎるのを待とうなんて考えて数秒が流れる。


――はい、無理ですごめんなさい。改めて、向き直って頭を深々と下げる。

お辞儀は大事、良くわかんないけど頭を下げる事位しか私は出来ないよ。


「最初ハオーガトエルフノ間ノ子カトモ思ッタガコノ気配」

「ジャロ? 普通デハ無イ」

「……(蛇に睨まれた事はあるけど、ドラゴンは流石に無理っす)」


 私は立ちすくむという状態を初めて経験しているのかも知れない。

凄い、呼吸をする度にあの巨体の筋肉がうねり、鱗が波打っていて

作り物とかフィクションでもない本物の巨大な空飛ぶ爬虫類が

目の前で私を品定めする様に目を見開いているのだ。

トゥータに睨まれた時も結構驚いては居たがこれはもう段違い。

空気というか存在の圧力が比べ物にならない。


「最初、リティカ関係ノ怨霊カ残留思念ノ類モアッタガドウジャ?」

「フム。……娘、御無礼」

「ぽぽっ?!(はぇ!?)」


 そう言って、ドラゴンさんは私の顔をへとその鼻先を向ける。

くちばしの様に尖った口先に牙が僅かに覗かせていく。すんっっすんぅっと

吸い込まれている息に私の特に自慢する相手も居ない長い黒髪が

吸い寄せられる様に匂いを嗅ぎ取られている。そのまま、こつんっと私の

額辺りにその鼻先が当たる訳なんですが……怖い、壮絶に怖い。

冷静に考えて、でかいトカゲが居るだけでも怖いのにそれが空飛んで

人語を介して、おまけに鼻先ぶつけてくるとか訳が解らない。

気絶しそうになる所をなんとか踏ん張っていくが泣きたい、帰りたい。

どういうことなのマジで?


「違ウ。コレハモット昏ク、儚ク、ソシテ……解ラン。

 俺ガ解ランナラ他ノ奴モ知ルマイ」

「オ主等デモ解ランカ。オ嬢チャンスマヌノ。

 コイツ等ハ今ハ引キ篭モッテオルガ、世界中ヲ飛ンデタノデナ。

〈深魔海〉辺リ以外ナラ大体、検討ガ着イタンジャガ」

「ぽぽっ、ぽぽぽっ(あ、いえいえー)」


 どうやら、私の正体に関してこのドラゴンさんが知っているか

聞きに来たのが目的の一つらしい。こんなでかいのが世界中

びゅんすか、ぶっ飛んでたのかこの世界。鳥とか普通に飛べるの?

なんか全体的に寿命とかサイズ感おかしい気がするよ。


 そう思いながらも首を横に向けてはマジマジとブルートパーズみたいな

薄い色合いかつ透明度の高い水色の中に真っ黒な爬虫類系の細長な瞳で

私の顔を見続けるドラゴンさん。なんかこの瞳を見ると、そりゃドラゴンの瞳とか

レアアイテムなんだろうなとビンビンに感じる位に綺麗に輝いて見えた。


「マ、細カイ事ハ後ジャ。イケヅキ、説明ヲ」

「はい。っということで〘ハッシャクサマ〙。

 貴女にはお手伝いをして欲しいのです」 

「ぽぽっぽっ! ぽぽぽっぽぽっぽっぽぽぽっぽぽっ?

(はいはい! どんな感じでお役に立てるのかな?)」


 イケヅキ君とリヒトさんが私の顔を見上げる。

ドラゴンさんもじっと見つめるし、なんか少年少女のエルフ達全員も

見てるし、マジでこの状況じゃどんな無理難題も断れなくね?

正直、エルフ達でも辛いのにドラゴン軍団による圧迫感が

偉いことになってますよ? 折角の綺麗な楽園が台無しですよ。

ただ、それでもイケヅキ君の、美少年エルフの願いとなれば

真摯に聞きますよ、むしろかぶり付きで聞かせて下さい。


「貴女に僕達の身体に染み付いた呪いを抜いて欲しいんです」

「……(はぃ?)」


 最初の単語が突発的過ぎて『抜いて欲しい』だけが頭に響いて

最低だな、私って思う。そんな瞬間でした。

             第七十一歩「封じられていたモノ」に続く

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