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第六十九歩「平和な遠足道中」

「……(どういうことなの?)」


 小屋の目の前にはイケヅキ君とリトモさんに引き連れられた

里のエルフの少年少女が大挙して押し寄せていた。

えーと、数はひぃ、ふぅ、みぃ、とりあえず学校の1~2クラスかな?

まぁ、地域によってのクラスの人数感覚は変わるんだろうけど。


 そして、一つの共通の特徴に気付いた。アレだ。スルスミちゃんと一緒で

殆どの子が皮膚に黒いヒビみたいな線が身体に張り巡らせている。

勿論、肌が真っ白な子も居るんだけど、服の下に隠れてるだけかも?

うーん、なんか意図があるのかたまたま集められたのかね。

私が目をぱちくりさせているとリトモさんが前に出て来る。


「話ハ聞イテルト思ウガ、頼ミ事ト……マァ、オ嬢チャンノ事ヲ調ベルノデ

 チト、遠出ヲシテ貰ウゾ。大丈夫カノ?」

「ぽっ、ぽぽっ。ぽぽぽっぽぽっ。(あ、はい。解りました。)」

「「……!?」」


 私が返事をすると少年少女たち、そしてリアクションこそは薄いが

リトモさんも驚きを隠せていなかった。ああ、少年少女たちが

アイコンタクトで互いの顔を見合わせるなんて微笑ましい光景が

私の目の前に広がっている。此処は天国かな? 私もう死んでる?


【現在のあなたの状態は〘死亡〙ではありません】


 よし大丈夫、生きてる私! そう! 今の私は発音こそ

相変わらずの『ぽぽぽっ』な訳だが、新たに取得したスキル

〘映し鏡からの呼び声〙により、何となくスルスミちゃんが

喋っている様に頭に聞こえるのである! ででーん!

無駄にドヤった後、頷くリトモさんは言葉を続けていく。


「ホー、コレガオ嬢チャンノ新シイスキルカ」

「ぽぽっ。ぽぽぽっ(はい。聞こえます?)」

「ワシニハ片言二聞コエルノ。〘霊話〙ノガハッキリ聞コエルガ」

「ダロ? シッカリ聞コウッテ構エナイト空耳ダト思ウワ」

「ホレ、皆ハ聞コエルカ?」


 嗚呼、言葉は発せられないが言葉が通じるこの感動よ。

ただし、やはり〘霊話〙の方が精度は高い様だ。

まぁ、現実でも電話口での一言めとか開口一番は構えないと

聞き逃してた事もあったよーな気がするので声掛けや対話姿勢は

やっぱりどんな世界でも重要なのかも知れないね。

まだまだ言葉の壁は大きいということかな、システムさんよ。


「ぽっぽっ、ぽぽっぽぽぽっー(改めて、こんにちはー)」

「スルスミ姉ちゃんの声に聞こえた!」

「スゴーイ。スルスミ姉ミタイ! ゴーレムノ喋リミタイダケド」

「ネェネェ! ナンカ喋ッテ!」

「……(あ、やばい!)」


 なんだろうこの嬉し過ぎるリアクション! くっそ、可愛いんですけど!

嗚呼、女の子も可愛いし、特に男の子は目をキラキラしててなんて可愛いんだ!

2.5次元美少年、美少女がこんなに寄ってたかってなんて

現代日本で生きていたら保母さんとかやっても無理なんじゃね?

凄い約得感が私の心を満たしていく。生きてて良かった、良かったよ。


「ぽぽぽっぽぽっぽぽぽぽぽっぽっ。ぽぽっぽぽぽっぽっー。

 (改めて、八尺様ですよー。よろしくねー)」

「わーー! 声がスルスミ姉ちゃんなのに言葉が優しい!」

「コウイウスルスミ姉様モアリネ!」

「俺、こっちのが良いわ。なんで普段からこっちじゃ――」

「……フンッ!」


 皆が一定の距離を起きながらもきゃっきゃと嬉しそうにはしゃぐ中

命知らずの失言をした一名の少年エルフ。言葉をいいかけた瞬間に

スルスミちゃん本人に頭を掴まれ、そのまま持ち上げられると同時

木へと投げつけられる。鈍い音と共に脇腹を大きく叩き付けられ

僅かに震えた枝からはらりひらりと木の葉が数枚舞っていく。

受け身をきちんと取ってはすぐに立ち上がって歩く失言少年エルフ。

鍛えられてんな、つーか、スルスミちゃんも容赦ねぇな。


「スルスミハ頭ハ悪イガ『こいつ悪口言ってんな』ッテ言ウ

 気配ハ解ルカラ、程々ニノ? 本人ココニ居ルカラノ?」

「「はーい」」

「ワカレバイイ。オ前モ返事!」

「いてて。はーい!」

「……(今のが『いてて』で済むのか!?)」


 特に投げられた失言少年エルフも『失敗しちゃった、テへ☆』なノリで

平然と集まりに戻ってくる辺り、此処のエルフの無駄なポテンシャルには

目を見張ってしまう。あ、そう言えば後ろの方にタワラも居るし

勿論、トゥータもスルスミちゃんの傍らには居るんだけど

エルフの老人一人の少年少女多数、狼、大蛇、〘八尺様〙各1匹って構成が

中々の混沌を極めているね。イケヅキ君とタワラにも手を振って挨拶をすると

少し頬を赤らめて返事を返してくれた。うむ、今日も彼は抜群に可愛いな。


「デハ行クゾ。マァ、半日掛カランジャロウ」

「「はーい!」」

「ぽぽぽっ(はーい)」


 取り敢えず、行き先は聞いていないがなんかもう特に否定とか

疑っていくのも面倒なので相変わらず私はホイホイ着いていく。

結構、状況に流されてるなーっとは思わないでもないんだけどね。

先頭をずんずん行くスルスミちゃんにその少し後ろをトゥータが

追いかけていき、私を取り囲む様にエルフの少年少女

そして、後ろにはリトモさんとイケヅキ君、タワラの大所帯移動が

敢行されていく。


 幸いにして、最初のつかみが良かったのか緊張感は発生せずに

少年少女のきゃっきゃはしゃぐ声を聞きながらも

森の中を平穏無事に抜けていく。時折、口を滑らせた少年が

数回木に向かけてぶん投げられていたが、特に怪我などはしてない様だ。

うむ、アレだけ丈夫となれば、元気なのは仕方ない。

しかし、森を歩いて結構経つが……ん、なんか此処らへんは

見た覚えがあるぞ? 


「ぽぽっ、ぽぽぽっぽぽっぽぽぽっー?

(えーと、何処行くか聞いて良いですかー?)」

「んーと、どうしましょう?」

「マ、着イタラ解ル。悪イ様ニハセンヨ」


 逆に不安を僅かに感じてしまっていたが、困り顔のイケヅキ君が

可愛かったので水に流すことにする。可愛いは正義なのである。

しかし、悪い様にしないというのも不思議な話だ。

最初は退治されるかびくびくしてたもんだけど

利用価値があるのかな?私って。うーん、家事や労働力としては

そんなにある訳でもないしね。戦闘もコアタルちゃんとラナス君を

倒したとはいえ、多分此処の人たちの素は十分強いし

魔物退治とか?って考えもしたがあの老人たちなら

自分でなんとかしそうだしねぇ。そんな考えを巡らせていたら

ようやく既視感と現実の視界が一致した。此処はアレだ。


「ぽっ、ぽぽぽっ(あっ、此処って)」

「知ってましたか?」

「ぽぽぽっぽぽっぽぽぽっ(気づいたらこの中に居た)」


 そう、最初に私が出てきた洞穴だ。縄に御札が付けられて

封印っぽくされているのが直されている。やっぱり、危ない場所なのかな?

私の告げた言葉にむっとリトモさんは顔を上げてじーっと視線を送る。

怪しまれてる? うむ、怪しい存在であることは否定出来ないのだけど

流石に怪しまれているのはあまりいい気分ではない。

しばしの緊張の空気を醸し出した後、すぐにその緊張感は解かれた。


「フム。奥ニハ行ッテナイノカノ?」

「ぽぽっ。ぽぽぽっぽっ(はい。すぐに出て森に行きました)」

「ナルホド。今日ハコノ奥ニ行クゾ」


 おおぅ? まさかの洞穴大冒険? 私は図体がでかいし

特に暗視とか出来る訳でもないし、方向感覚が優れている訳でもないから

なんで一緒に行くのかさっぱり解らない。まぁ、此処の奥が目的ってことは

この洞穴自体は通過点とか通り道って感じなのかな?


「〘ウォーム・ライト〙!」

「〘ウォーム・ライト〙。皆、ランタン出してー」


 スルスミちゃんとイケヅキ君が言葉を発すると同時に

手元から何やら光りだすとの光源が発生する。おお、なんか如何にも

それっぽい魔法だ! 蛍の灯りを数倍強くした様な柔らかい光が

僅かな熱と共に伝わってくる。照明用の魔法なのかな?

それを追う様に少年少女達はすでに用意していた竹で作られた

ランタンを片手に掲げるとスルスミちゃんとイケヅキ君が一人一人に

その光源からランタンの中のロウソクに光を灯していく。

ロウソクの蝋は獣の脂系の原料なのか少し香ばしい匂いが僅かに漂う。


「ぽぽぽっぽっー。ぽぽぽっぽぽっぽっぽぽぽ?

(便利だねー。火起こしには使えないの?)」

「これはロウソクとか燃えやすい小さい火種や灯りには良いんですが

 薪なんかに火を灯すには向きませんね。その分、長時間灯せます」

「ぽぽぽっぽぽっー(なるほどなー)」


 低出力、長時間って事なんだろうか? 私は手ぶらのまま

中に入ろうとするとぎゅっと後ろからイケヅキ君から手を握られる。

当然、私はドキッ♥とかしたい訳なんですけど、刹那に前方から

蛇より怖い蛇睨みがぶっ飛んで来る訳で視線の惨殺事件です。

もう暗い中から眼光ギラギラで本気で怖い。私よりモンスターじゃね?


「姉さん、不慣れだろうし、転んでも危ないからね?

他の子も流石に触れるほど、まだ打ち解けても居ないし」

「……ワァーッタヨ!」


 当然、視線と声の主はスルスミちゃんな訳だが。

不満を振りまきながらも前方へと顔を向ければ、一気にその気配も消える。

根が真面目なんだろうね。となるとストレスの原因は私の存在と言うか

イケヅキ君と仲良くする他者に自動反応するって感じかな?

道中は子供達に対しても効果は兎も角、面倒見自体は良かったし

やはり、どんな世界でもブラコン姉の呪縛というのは共通なんだろうか。

一晩とはいえお泊りをした仲でもあるし、仲良くなりたいんだけどね。


「……ぽぽぽっ(おおぅっ)」

「大キク拡張シテルガ、頭ハ気ヲ付ケテノ」

「ぽっぽぽっ(はーい)」


 洞穴の中は照らされると意外と広い作りになっていた。

私の身長の人が二人立てに積み重なっても平気な位の高さがある。

しかも拡張って言ってたって事は広げたのか? 何のために?

実は鉱脈か何かあるのかね? うーん、鉱夫として私が必要って訳でも

ないだろうし、それだと子供達を連れて行く意味が解らない。

やっぱり、疑問が一杯な訳だけどイケヅキ君が握ってくれる手が

まぁ、温かくて細かい事に頭が回らん訳なんですよ、はい。


そして、そんな知恵熱寸前の状態にトドメと言わんとばかりのソレが

来た訳です。暫く歩いた先に溢れる大きな光と共に澄んだ空気に頬撫でる風。

それに包み込まれる様に足を運んでいった私達はその先で


――“まるで”なんて形容も要らない『楽園』が視界を覆うのであった。

                 第七十歩「棄てられた楽園」に続く


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