第六十五歩「声により人間性を獲得しました」
私のスキルによる声変わりからイケヅキ君の様子が
すこぶるおかしい感じになり、態度も何処か余所余所しいモノになってしまった。
まぁ、今まで喋らなかったのがいきなり家族、しかもお姉ちゃんの声になるってのは
色々とやり辛いのかな? オフにしようか迷ったが妙に
『大丈夫です』の言葉が強く言われてしまった。
結局、新たに入手したスキル〘映し鏡からの呼び声〙を起動させたままだったが。
「ぽっ、ぽぽっぽぽぽっぽぽっぽぽぽっぽっ?
(っと、それじゃまた明日の朝から一緒?)」
「は、はい! 僕も明日は一緒に行くことになりますの、で!」
ううむ、なんだかずっと赤面したまま恥ずかしがっているイケヅキ君。
まぁ、それでもこう相手と会話が出来ていると言うのは嬉しいものだ。
多分、脳内に直接語りかけると言うのは〘霊話〙と変わらないのだろうが
こうリアクションと声の発声のタイムラグが少ないのが良い。
〘霊話〙だと一度、構えて頭で単語を選んで投げるというので
どうにも話がスムーズに進まなくなってしまう。
まぁ、そんな事情を挟みつつ、私達はイケヅキ君の荷物を
タワラに載せられる様にしてスルスミちゃんの帰還を待つことにする。
また、変に誤解されても大変な事になってしまうので
微妙に距離を取りながらも床に座っているのは仕方ないとは言え
少し寂しい印象が否めない。もうちょっと、近寄りたいが近寄れないジレンマだ。
「ぽぽぽっぽぽっぽっ、ぽぽっぽぽぽぽっ。
(筍も持っていく分、作れて良かったね)」
「そうです、ね。大人達がどう感じるかは解りませんが
少なくとも食料が一つ増える事は悪くない筈です」
むぅ、なんだか〘霊話〙で話していた頃の方が距離が近かった錯覚だ。
一長一短なのかな? 私とイケヅキ君は小屋の入り口を開けて
スルスミちゃんを遠目に待っているのだが先程から
沈黙の時間が長引いてしまっている。むむぅっ、イケヅキ君の前で
ステータスウィンドウを開く訳にもいかないし、なんとも気まずい。
ええい、ココでまごまごしていていも仕方ない。聞く事聞いとこうか私!
「ぽっ、ぽぽぽっ(声、聞こえるの怖い?)」
「あ、いえそんな事は……っとただ、アレですね。
大変失礼な話になってしまうんですが」
「ぽぽっ、ぽぽっぽっー(うん、どーぞー)」
遠慮していると言うよりはやはり羞恥の気持ちが強いのだろうか。
聞いてみた後、返事が返ってくるのが大分遅かった。
それだけ色々と考えていると言うか気を使わせちゃったかな?
申し訳なさそうな声と態度は相変わらず、可愛過ぎて悶そうだが
此処はシリアスな場面だ。ちゃんと聞かないとね、私。
「その、さっきまでは『ぽぽぽっ』って鳴く〘使役魔獣〙として見てました。
トゥータやタワラみたいなかんじだったんです。
勿論、その知能があって感情もあるのは解ってたんですが
何分、こういった意思疎通の出来る魔獣との付き合いが長いもので」
「ぽぽっ(なるほど)」
つまり、アレか。鶴の恩返しみたいな状態になっているのかな?
なんか知能が高い動物が絡んでいると思っていたら
会話をするというだけでそれが人間性みたいな印象を獲得する。
タワラもそうだし、スルスミちゃんのトゥータもそうだが
この世界、あるいはエルフには動物との繋がりが結構根深い様だ。
いや、昔の日本とか地域、時代によってはそんな感じだったのかな?
まぁ、こうやってスキルで意思疎通が出来るのが一般的って考えるなら
逆にしゃべれないってだけで動物と一緒ってのは当然かもね。
「きちんと会話をすると印象が変わるんですね。
その、ちゃんと女性だったの……ええと、なんか悪かったかな」
「ぽっ、ぽぽぽっぽぽっぽぽぽっ。ぽぽっぽぽぽぽっぽっ?
(ああ、別に気にしてないから大丈夫。君は紳士的だったよ?)」
まぁー、今までペットだと思ってた犬猫が喋り出すなんて
映画か創作かって話だもんねぇ。申し訳無さと恥ずかしさで
固まっているイケヅキ君の頭をぽむぽむと撫でれば
本当に動かなくなってしまう。うむ、女の子慣れしてないのだろうか?
スルスミちゃんも一応アレはアレで女の子の筈なんだけどね。
くっそ、可愛いがココでまたスルスミちゃんに誤解されても面倒なので
まっことに遺憾ながらも手を引っ込める。
「ウォーイ、帰ッタゾー」
「ぽぽぽっ、ぽぽっ!?(おかえりー、ってええ!?)」
「あ、おかえりなさい。晩御飯?」
「ウム、丁度良イノガ居タ」
そんな中、スルスミちゃんが帰ってくる訳なんだけどね。
なんか、トゥータがでかいの咥えている訳ですよ。
大体、大型犬位はあるだろう生肉の塊をね?頭が無くて皮も剥がされて
内臓も抜かれているんで魚の開きみたいにはなってるのを。
アレ晩御飯っすか。妙に戻って来るの遅いと思ったらこの姉さん
一狩り済ませてた訳なんですね。たくましいお姉ちゃんだよ、ほんと。
「解体と血抜きを済ませてるなんて珍しいね。狩る時やり過ぎた?」
「アア、コイツガワーキャー騒イダリ、小屋ガ汚レテモ面倒ダカラナ」
「姉さんが他人を気遣ってる!?」
「ッテ、族長二言ワレテタ」
「あ、言われてたんだね。はー、びっくりした」
……スルスミちゃんもアレだが、イケヅキ君も中々大概だな。
その発言でもニコニコしているスルスミちゃんは頭が悪いのか
弟には甘いのか……嗚呼、コレは多分、両方かな?
トゥータは木の皮を敷物にして生肉の塊がどかりっと置いていく。
骨とかもあるから解らないんだけど結構な量だよね?
一晩で食べるの?と思ったりもしたがトゥータも居るんだから
そりゃこんくらいの量は食べ切るのかな?
「ンデ、ナンカ聞コエタガ、コイツノ声カ?」
「うん。なんかスキルが取れて声が聞こえる様になったみたい」
「フーン。聞キ取リ辛イカラ、良ク分カランガ」
「ぽぽぽっ(あらら)」
ふむ、相変わらず本来は効果が薄い筈のスキルも
〘少年狂愛〙の効果でイケヅキ君には有効に効き過ぎてるみたいだ。
便利には違い無いのだけどね。スルスミちゃんや他の人とも
もっとちゃんとお話出来る様にはなりたいが、まぁ焦っても仕方ないか。
むしろ、会話や言語取得のペースは普通に学んでいくより早いもの。
「それじゃ、姉さん。僕は一度報告に里に戻るから。
あ、それと姉さんちょっと」
「ン? ン、ウム。マァ、イケヅキノ頼ミナラ仕方ナイ」
そして、イケヅキ君の荷物を纏め、タワラにも積み込んだ後
何やら姉弟で耳打ちをしている模様。ちょっと行動として珍しいが
此処は聞き耳をたてないのがマナーだろうね。
タワラは耳を立てて聞こうとしている様だが、途中で興味なく
あくびを盛大にかましていた。まぁ、そんな大事って事じゃないのかな。
「デハ、明日ハコッチ二迎エ二来ル手筈二ナッテルノデ、早クナー」
「解ったよ、姉さん。それじゃ〘ハッシャクサマ〙もまたです」
「ガウッ」
「ぽぽっ(またねぇ)」
イケヅキ君達を見送ってしまうと残る面子は
私とスルスミちゃんとトゥータ。中々濃い面子であるがトゥータは
軽く一瞥した後、小屋の中の墨でとぐろを巻いて寝始めてしまう。
その巨体故に中々の存在感を放っている。蛇なんて滅多に近くで
見る事もない上にこんなでかいのはやっぱり珍しい。
蛇はやっぱり怖いといえば、怖いが大人しくしてると中々味のある見た目だ。
「ぽぽぽっー?(おやすみー?)」
「飯ト仕事ノ時以外コイツハ寝テルカラ気ニスルナ。
サテ、明日モ早イカラ飯ヲサッサト済マセルゾ。手伝エ」
「ぽぽっ(はーい)」
そう言うと何やらスルスミちゃんは床板を一部外しては上半身を突っ込んで
何やらごそごそと探している。そこ、収納になっていたのか。
変に切れ目があったから気づいては居たのだけど
単純に修理の痕かなにかという事で済ませていたけど……あら。
何やら取り出しているのはツボかな? 蓋の上に何やら皮が張られており
ヒモで上の部分はしっかりと封をされている。それを意外と器用に解き
取り出しているがちらりと見えたそれに私は思わず驚愕する。
別にその形やら塊を見知っていた訳ではない。
ただ、恐らく私の何かが直感的に“ソレ”が何か判断した。
「ぽぽっ!?(それは!?)」
「オ、気付イタカ。フフーン、イケヅキガ言ッテタガ好キナンダナ」
そ、その白い鉱物は……岩塩じゃないっすか!? マジっすか!!!
第六十六歩「墨は友情に濡れ溶ける」に続く
〘使役魔獣〙[魔獣][使い魔]
一般的に魔獣と動物の括りは曖昧だが使役出来るという点で
一定の知性と欲求の制御が出来る、あるいは調教できる魔獣を
上記の括りで表することが多い。
あくまで魔獣というのはスキルや魔術が使える獣という程度の認識だが
野生動物全般の脅威を一段階底上げするので
使役時や繁殖時の利便性や有益性もまた高い為
大変重宝され、また脅威とされている。
しかし、一見難易度が高い風にも見えるが知性が高い種族が多い為
交渉や懐柔が出来る点において対抗しうる力があれば
下手な家畜よりも扱いは容易い場合が多い。




