第六十四歩「君の声は」
【対象の〘パートナー・ホワイト・パイソン〙は〘恐怖〙状態になりました】
「ぽぽっ! ぽぽぽっ!(よしっ! 入った!)」
「ナッ!? トゥータ!」
そう、私が狙っていたのはスルスミちゃんじゃない。
彼女を咥え支えていた〘パートナー・ホワイト・パイソン〙の
トゥータ……えーと、君? ちゃん? まぁ、どっちでもいいや!
その瞳と視線を合わせてスキルを発動させた。
ちょっと、怖がらせてしまうのはアレだけど
恐らく、少年ってくくりでは無さそうだし、同じスキルを以前使った
タワラもその後、コミュニケーションが取れているから多分、大丈夫!
ぎょろついた爬虫類のみ開かれた瞳に私の顔が映っている。
「クッ! 維持ガ出来ナッ」
ぐらぐらと揺れているトゥータに咥えられていたスルスミちゃんが
べちょりっと唾液と共に地面に落下する。予想以上に上手く行った感がある。
そもそも、何故あの形態を選んだかという話に遡れば理屈は簡単だ。
恐らく、単純に対峙した場合はスルスミちゃん単体の方が
小回りも効くし、単純な格闘術は応用がし易いだろう。
では、何故あのナーガ状態になったかと言えば
拳の強化とリーチの関係、要するに『届かない』訳だ。
足裁きをトゥータに任せつつ、私に届く距離で効果的な打撃を放つ。
足元ばっかり攻撃して倒す事も出来るのだろうが単純に彼女が
真正面から殴り合うという事を望んでいる。それはそれで構わないが
逆に言ってしまえば、それを避けた状態が維持出来ないということは
モチベーションもかなり下がるだろうし、今からちまちま足を狙うのは
彼女のテンションから切り替えるのも難しそうだ。
なので此処はトゥータに泣いて貰う事にした。ごめんね?
「マ、マダヤレ……ッテ!?」
「シャアアア!?」
「ぽっ、ぽぽぽっ!!(どっ、せぇえい!!)」
私はそのまま恐怖でぐらつくトゥータ君の頭を脇に抱える。
うむ、行けるか怪しかったが、此処は根性でやってみて正解だった。
私は頭を抱え込んだまま、その場で踏ん張っては抱えた蛇の巨体を
横に薙ぐ様にしてスルスミちゃんに叩き付ける。
避けられる可能性もあったが、多分スキルの影響だろう。
連動していた動きを急に剥がされたものだから
立ち上がりにふらついているスルスミちゃんの身体に巨体ぶつけられる。
砂煙立ち込める中、私はその様子に目を凝らしていた。
「ぽぽっ?(やった?)」
「……ッツゥゥッ」
「……(ムッ!? 受け止めただと!?)」
しまったよ、私! くっ、要らぬフラグを立ててしまったか。
やっぱ『やったか!』とか言っちゃダメだね。大抵、結果が悪くなる。
誰だ、最初に考えた奴は! 思わず、言っちゃうし言った後
後悔確実案件だろうが! せめて、愛する相手の名前を
言っちゃう流れが良かったよ! そんな中、じろりと睨む
蛇よりも怖い蛇睨みを効かせるスルスミちゃん。
どうしよう、コレで倒れてくれなかったら次を考えないと。
「……フム。ウン、悪クナイ」
「ぽっ?(ふぇ?)」
トゥータを受け止めつつもこくこくと数度頭を下げては
一人で納得している様子を見せている。ゆっくりとその巨体を地面に下ろしては
何度も何度も頭を数度下げて思案にくれている様子だった。
この子は黙って考えている姿は艶っぽくて意外といい感じがするね。
典型的な黙ってれば美人タイプなんだろうか。
「今日ハコレデ良イ。良イモノヲ見セテ貰ッタ」
「ぽっぽぽっ?(お疲れ様ぁ?)」
私が深々と頭を下げるとそれをじっと凝視した後、スルスミちゃんも
真似る様に頭を下げていく。その様子を眺めていたイケヅキ君も
釣られて頭を下げてみる。トゥータもタワラも下げる。何だこの流れ?
そして、その場の三人と二匹が頭を上げた後
其処には自然と笑いが溢れていった。うむ、一件落着かな?
【[レガシーピース]〘墨の落とし子〙を入手しました。
怪異称号〘有象無象の声色〙よりスキルが派生しました。
怪異スキル〘映し鏡からの呼び声〙が発現しました。
Lv1に上がりました。スキル効果によりサンプル音声を入手。
[〘セイント・シール・エルフ〙少女A]を登録します】
お、なんだかシステムさんが張り切ってらっしゃる。
レガシーピースが手に入ったのもそうだが、久し振りに新スキルだ。
怒涛の更新を今、チェックするのはアレなので後回しにして
今は余韻に浸りたい。随分と複雑そうなのぶっ込まれたっぽいね。
「はい、姉さんも満足したみたいだし、良かったよ」
「ウム。ヤハリ、外ノ奴ト闘ウノハ良イナ。色々ト新シイ気付キガ多イ」
豪快に股をあけっぴろげにしたままスルスミちゃんは笑う。
そろそろ、何か履いて頂きたい所であるが唾液で足元がベチョベチョなので
もう、私はその件については黙っておくことにした。
イケヅキ君が水瓶から二人分の水を椀に入れて持ってきてくれる。
うむ、出来た弟君である。一動きした後の水は美味しい。
ちょっと温いがまぁそれは仕方ない。冷蔵庫も自販機も無いもんね。
「ア、サッキノ話ダガ、イケヅキハ一度里二戻レ。
アタシモ一度、川デ身体ヲ洗ッテ来ルカラ、荷物ヲ纏メテオケ」
「解ったよ姉さん。……っと、暫くは姉さんが監視って事?」
そして、なんだか私が水を一人でぷはーーっとやっている間に
話が進んでいた。ぬぬっ、イケヅキ君との監視同棲は終わりか。
大分、彼のおかげで森生活をエンジョイ出来ていたが仕方ない。
むしろ、スルスミちゃんがちゃんと身体を洗う気で居てくれて助かった。
あのベチョベチョのまま小屋で過ごす気とかワイルド過ぎる。
後、やっぱりそろそろ履いてくれ。
「イヤ、族長ガ若イノトコイツヲ連レテ行クラシイ。
明日ノ朝出立スルノデ、アタシトコイツデ後カラ合流ダ」
「何の用事だろう? まぁ取り敢えず解ったよ」
「ぽぽっ(あらー)」
明日、皆で何処かに行くらしい。私も一緒なのか。
てっきり、私に対して何かをスルのかと思ったが他の若い子も一緒?
何を考えているかさっぱりだがまぁ、悪い様にはされないかなと思いたい。
そう言って、レギンスを持ってはスルスミちゃんとトゥータはいそいそと
その場を離れていった。気を使わせちゃったかな?
「という事で今夜はスルスミ姉さんと一緒で移動です。
多分、色々と報告もしなきゃいけないのと……筍も持っていきますね」
「ぽぽっ(分かったー)」
「……へ?」
「ぽぽっ、ぽぽぽっぽぽっぽっぽっー(じゃあ、荷物片付けないとねー) 」
私は帽子を返してもらうと被り直してはうむっと小屋へと目を向ける。
なんだかんだで数日滞在しただけだと言うのに荷物も増えた。
道具も洗って戻しておかないとね。立つ鳥跡を濁さずって奴だよ。
ああ、しまった。それならスルスミちゃんと一緒に
水の補充に行った方が良かったかな? 色々と洗うのに使うだろうし?
「ええと、〘ハッシャクサマ〙?」
「ぽぽっ?(何~?)」
「………あ、えあ、ええと」
私が色々と思案していると何故かイケヅキ君の顔が紅潮してらっしゃる。
うん? なんだ告白でもしたいのか若いのよ? おねーさんの魅力が
別れ際になって伝わっちゃったかな?――流石にそれは違うかな。
しかし、どうにも落ち着かない様子のイケヅキ君である。
あのスルスミちゃんの弟という事で日々それはもう大変だったと
当人から聞いているのでこんなに動揺している姿は
初見に対峙した時以来に見た感じだよ? 大丈夫?
「ね、姉さんの声で聞こえる」
「ぽぽっ、ぽっぽぽっ?(あら、本当?)」
む、なんだかイケヅキ君を真っ赤っ赤にしていたのは私の声の所為らしい。
いや、私としては相変わらず『ぽぽぽっ』しか言えていないし
声としてもそうは聞こえている感覚ではない。
ただ、やはりスキルの影響があるみたいだ。
なんかそれっぽいスキルを確かに取得してたしね。
顔を覗き込む様に腰をかがめれば視線を避けるイケヅキ君。
くっそ、可愛い件! ちょっと嗜虐心をそそられてしまう。
「……(『スキル』『影響』『調べる』っと)」
「霊話は普通に……いや、それもちょっと違うんですけど。
ぼ、僕は小屋で荷物片付けて来ます!」
「ぽぽぽっ(解ったよー)」
そう言って、足早に小屋へと入ってしまうイケヅキ君と
心配げに彼の後を追うタワラ。むむ、事態は意外と深刻そうだ。
コレはきちんと調べておかないといけないね。
とりあえず、スキルの説明から。何となく字面で想像は付くけど。
「……(これも数日振り? ステータスウィンドウオープン!っと。
新規スキルを見ておこう)」
【怪異スキル〘映し鏡からの呼び声〙Level1[怪異][コピー]
New [言語理解経験値]の蓄積した言語を発する対象の声が
模倣され、対象の脳内に直接聞き取れる様になる 】
ふむ、なるほど。コレの影響か……そういや種族特性にあったね。
恐らく、この項目で登録された[〘セイント・シール・エルフ〙少女A]は
スルスミちゃんの事という事だろう。お、ちゃんと登録名を
修正出来る様になってるじゃん。これは変えた方が良さそうだね。
じゃあ[スルスミちゃんボイス]って解りやすくしておこうか。
一応オン、オフは切り替えられるっぽいが影響と効果を確かめたいから
暫くこのままにしておこう。言葉が通りやすいのは色々と助かるし。
【[〘セイント・シール・エルフ〙少女A]の登録名を
[スルスミちゃんボイス]に変更します。残り登録数は11/12個になります】
「ぽぽぽっぽーぽっ。ぽぽっぽー、ぽぽぽっぽぽっぽっ。
(イケヅキくーん。わかったー、スキルで聞こえるっぽいー)」
「ひゃ、はい!? そ、そうなんですね!」
…………くそぉっ! このリアクションはもっと監視同棲中に
たくさん、たくさん堪能したかったよぉぉっ!!!
なんで、別れ際ちょっと前で出るかな!?
第六十五歩「声により人間性を獲得しました」に続く
〘パートナー・ホワイト・パイソン〙[魔獣][使い魔]
一部の蛇の魔獣は知能が高く亜人類、人類と相互協力関係を求める傾向がある。
彼らからは犬の使い魔よりは忠誠心は薄く、猿の使い魔よりも器用さと知恵は回らないが
猫や鳥の使い魔よりも真面目かつ従順に働くのでニッチな需要がある。
何よりも餌の少なさと単純に彼らは打算と合理性で動くので
下手な感情的な動物系の魔獣よりも懐柔も協力も得やすい。
手駒という点では理想的だが、真の意味で相棒として心を通わせるには
長い年月が必要とされている。




