第六十歩「諦める運命」
「お墓参りですか?」
「ぽぽっ、ぽぽぽっぽっぽぽぽっぽぽっぽっ?
(そうそう、そういう風習ってどうなってる?)」
「ふーむ、あまりそういうのはうちの部族ではないですね。
また、どうして?」
私は大根おろしと一緒に茹でる事でアク抜きが成功した
筍を二人で食べながらもそんな話題を出してみる。
言葉は通じていないが最初に〘霊話〙で単語を出して
後は声の調子と表情で大まかに会話が通じる様になってきた。
それもあってちょっと突っ込んだ話を時々する。
私が話せる事は少ない、私の中途半端な知識では役に立たないので
こうやって些細な事を聞くのが一日に数回あった。
まぁ、その流れで今回切り出してみる。
回想の中のバグとは言え、あの場で話したのも何かのご縁。
あの後、もう一度再生してみたがシィナさんの霊みたいなのは
出てこなかった。だから、お墓しか彼女との接点はもう無いんだよね。
「……(〘お墓〙〘途中〙〘あったから?〙っと)」
「ああ、なるほど。えーと、そうですね。
人間などは習慣としてはあると聞きますがエルフはあまり。
理由とかは聞いた話でしかありませんが聞きますか?」
「ぽぽっぽっ、ぽぽぽっ(うんうん、教えて)」
数度の頷きの後に水で洗った茹で筍を頬張る。
うむ、ちょっと大根の辛味が残って甘味がある筍というのも
味のアクセントとしては中々良いものだ。
今、目の前には取り敢えず焼いたり茹でたりした筍がずらりと並んでいる。
大根おろしも調味料として置いてあったり、木の実や豆もある。
塩味がない事に目を瞑れば中々のラインナップだ。
それとは別に先日聞いたシィナさんの死生観に繋がる話になった。
まぁ、私が聞いてどうこうする話でも無いし、子供に聞く話でも無いが
こういう些細な事でもやっぱり会話というのは楽しいものだ。
何より、相手が美少年でエルフというのはでかい。
「エルフの場合はお墓というのは死んだ時に名前と遺体を埋めた場所として
作りますが、その後は行きたい者が時々訪れるだけで
手入れや習慣化した儀式や風習などはありません」
「……(ふむふむ)」
「理由としては死んだ者は森に還ると言う事でその地と一体となる。
後、変にお添えや儀式をするとその場所での獣や自然の発育に
影響が出るからです。何よりお墓自体が何十年と維持出来ませんからね」
「ぽぽっぽぽっー(なるほどー)」
シィナさんのお墓にお供え物でもと思っていたが
森の中と考えるとやっぱりそういうのは宜しくない様だ。
まぁ、現代日本のお墓も烏やら獣がお供えを食べ散らかすから
お供え物が持ち帰りになったり、後は墓所管理なんてのは
職業としてはあったよーな気がする。日本だと現地のお坊さんとかかな?
そして、エルフの長寿換算で考えるとお墓の維持は確かに大変そうだ。
「……(ううむ、となるとまぁ今度水を汲みに行く時に墓前報告でいいかな)」
「しかし、〘ハッシャクサマ〙は変わったこと聞きますね。
あそこがお墓だというのが解ったり」
「……(『綺麗』『整理』『だった』っと。多分通じるかな)」
「ああ、まぁ手入れはしてましたね。
族長とかの年代の人はあのお墓は大事にしてたみたいで。
ただ、僕達の世代にはやらなくて良いとは言われています」
「……?(ふむ、まぁ負担になるからかな?)」
あのおびただしい程の量とほぼ同時期って事を考えると
やはり、族長さんの世代に賢者ロシカの実験での犠牲者って事かな?
うう、こんな突っ込んだことは聞けないし、知っていること自体が
怪しまれるよねぇ。変に知り得た事を振りまくのは宜しくない。
族長さん達があのお墓のエルフ達とどういう想いで
折り合いをつけていたか解らないもの。
そんなお話を挟みながらも筍試食兼昼餉を終える。
私の食事の適量は解らないが少なくともこの数日は倒れたりは
一度もしていない。当然、口移しキッスも無い、文字通り口惜しいがぁ!
「……(んー、午後何しようか)」
「あ、〘ハッシャクサマ〙。あの……」
「ぽっ?(んっ?)」
私は鍋や皿を洗っていると同じく満腹気味に少し気怠げな様子の
イケヅキ君が手を動かしながらも話し掛けてきた。
珍しく顔を向けないで手先に集中する様にするのはいかにも
何かを照れ隠しにも見えるがその初々しいリアクションは実に眼福である。
ただ、お話は真面目っぽいのできちんと真面目な顔をして聞いているつもりだ。
「あ、あの。実は言い付けられていた事が一つありまして」
「ぽっ? ぽぽっぽっ?(ん? なになに?)」
「そ、その。僕に触って欲しいんです」
「ぽっ、ぽぽぽっ!?(な、なんですと!?)」
思わず、私は吹き出してしまう。いや、分からん。
どうしたイケヅキボーイ!? 筍か!? 筍食べ過ぎておかしくなって
しまったというのか!? よし、今夜も筍だね!――じゃねぇよ!
ぱぁんっと動揺し過ぎた自分に平手打ちを行い、意識をしっかりさせる。
その様子に目をパチクリとさせた後、私が落ち着くのを
待ってくれるイケヅキ君。この対応に慣れてる感じはするぅてぇと
姉ちゃんも時々やらかしてるな、絶対そうだな。
「……(『理由』『希望』っと。おちおち落ち着け私ぃ!?)」
「あ、あの変な意味じゃなくて一応、その。
族長から言われているんですがスキルを使った時以外に
接触して悪影響が出ないかというのは一度試しておかないと
いかないというのは言われてたんです」
「ぽっ、ぽぽぽっ(な、なるほどね)」
オーケーオーケー。解ったよ、うん。まぁ流石にそんないきなり
ぶっ飛んだお誘いをする程仲良くなってないのは解ってたよ。
まだ、一週間だよ? 逆に誘う様だったら脈ありどころか
私が何か別のスキルか影響を発している以外考えられないよ。
つまり、前にリトモさん触ってスキル発動した時の影響を見たけど
少年相手に自動で発動、あるいは何かが影響があるかっていうのは確かめてない。
それをやる必要性はあったのだけど、そこは信頼関係を築いてからって事か。
うむ、まぁならばそういう事だ。少なくとも同じご飯を食べてそんなに影響はない。
触れ合ってこそは居ないが多分、触る位は大丈夫だろうと思いたいな。
「……(『どこ』『触る?』っと……待て、なんだこのセクハラ!?)」
「そうですね。族長みたいに腕をと言うのは後遺症もありますし
変に身体の全面や目立つ箇所に影響が出るとその後が大変なので」
「……(ううむ)」
そう言われるとたしかに困る。前に触ってスキルを発揮してしまった箇所は
幸い利き腕ではない方だったので、その後の生活に困ることはなかったが
やはり、熱にうなされた当初と目立った黒い痕はインパクトが強い。
若干腕にはまだ熱が残っているとの事なので手足などは論外だ。
となるとお腹も内蔵に影響が出そうで怖い。お尻は座れなくなる。
胸はもうなんか私が別の意味で更に警戒されてしまう。
となると残っている身体の箇所と言えば?
「……(『背中』『無難?』)」
「ですかね? 寝る時は仰向けになりますが」
「ぽっぽぽっ(ごめんねぇ)」
「いえ、そのこれも何かの縁と思っていますので」
そう言ってはしゅるりと帯や解いて、上着を脱ぎ始めるイケヅキ君。
い、いや、少年が上を脱ぐ位はまぁ当然であり、別に問題ない。
あんなもんはプールや海では幾らでもあるし、恥ずかしくない。
そう、目の前で脱がれた所で何もやましい事はないんだよ、私!?
解る? 解ってるの、私の理性? 大丈夫? 変なスイッチ入っちゃ駄目だよ?
そんな自分を戒める念を悶々と格闘する中、顕になる真っ白なキャンパス。
うむ、生白くも引き締まった背中にうっすらと陰影を作る肩甲骨と背骨の隆起。
筋肉ラインは柔らかさと固く鍛えられたそれの程よい調整具合が
なんとも未発達かつストイックな彼の人生を象徴させる。
座り込み背中を向けるポーズはなんだか彫像の様にも見えた。
「……(うむ、なんか凄い詩情的になってしまった)」
「で、ではお願いします」
「……(『変わった事』『すぐ』『報告』っと。さ、さて)」
緊張する一瞬、相変わらず私の両手は木の手枷を付けられたままだが
その自由になっている手の先をそっと相手の背中へと当てる。
彼はそっとまぶたを閉じたまま落ち着こうと深く深く呼吸をしては
息を整えていく。小屋の中に響く静寂をくすぐる僅かな呼吸音。
この環境の何もかもが私の緊張を高めていく。
「あっ」
「ぽぽっ?!(大丈夫!?)」
「いえ、冷たかっただけです」
ええぃっ!? びっくりしたリアクションに
私がびっくり死ぬかと思ったよ! 心臓あったら口から吐き出してたよ。
いや、実際に口の中に心臓は収納されてないんだけどね!?
そんな小刻みに震えて小動物っぽさがアピールされても困る!
お姉さんとっても困る訳だよ、ほんとにね!?
私も私でほんのりと温かい人肌の感触に胸が高鳴ってしまう。
くっ、落ち着こう私の理性! こ、これは試みとして必要なのよ!?
「んっ、大丈夫そうですかね?」
「ぽぽっ?(多分?)」
「もう少し強く触ってみて下さい」
「ぽぽっ、ぽぽぽぽっ(りょ、了解)」
そういって今度は少し強めに、擦る様に撫でてみる。
くっと唇を噛み締め震えるイケヅキ君がもう、どうすんのよこれ!?
え、影響は出ていない。特に私が触っても自動的に
スキルは発動してないし、イケヅキ君の肌は
白いつやつやとしたもう何だこれ!? 私、何してんの?
影響が、スキル的ではないなんか別の影響が出ないの?
そんな葛藤をしている中、開けられる扉。午後の穏やかな気候から
そよ風も小屋の中へと入っては悶々とした空気を颯爽と洗い流してくれる。
正に快活、元気と希望に満ちた女の声がその洗い流された空気を
からっと乾燥させる様な声色が最初だけ、ほんの最初だけ聞き取れた。
「イケヅキー! 族長カラ呼ビ出シダ。
ソノ化ケ物女ハアタシガ見張rイイダロウ、上等ダテメェ、表二出ロヤ」
「ね、姉さん!?」
「ぽっ?!」
………………相手を確認。イケヅキ君のドブラコン姉のスルスミ。
現状再確認。目の前に上半身裸、赤らんだ頬のイケヅキ君。
息が乱れているイケヅキ君と私両名。視覚的状況は以上とする。
私の姿勢はイケヅキ君の背中へと押し当てる様に手をかざしており
今にもそのまま伸し掛かってしまいそうな状態になっている。
それから導き出される最も解りやすく尚且つ、彼女の提案の意義を確認。
把握、否定の立証の可能性を模索。満面の笑みをするスルスミ。
私は初めて、彼女の笑顔というのを見た。恐らく、怒りが振り切れている。
私は彼女との邂逅で基本キレている顔を見ている。
怒気は口調から十分に察せられる中、あの表情が顔を刻んでいるのだ。
「姉さん、コレはね、えっとね」
「ナ?」
「ぽっぽっ(了承)」
ごめん、言い訳とか説明とか無理だわ。ちょっと殴り合ってくる。
第六十一歩「姉さんが事件です」に続く。




