↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

61/127

第五十九歩「遺された声と想いは……ソレでいいの?」

 [レガシーピース]〘青き竹の春の一幕〙を再生し、過去の青春の一幕を見て

いよいよと終わって切り上げる所でお声がかかった。声の主はなんと

目の前に居る過去の人物であるシィナ・ツィーベッド。

新たに誕生した竹林で生ける者〘バンブー・エルフ〙であり

墓を見ている事から恐らく死亡していると目される人物である。

そもそも、システムさんの影響下で他者が介在しているパターンは始めてだ。


「……(どういうことなの!? え? 止まってるよね?)」

「ふむ、声は聞こえている様子ですね」


 世界は静止している。木の葉も揺れることはなく

虫も鳥もその場で凍り付いた様に動くことはない。

勿論、目の前のシィナさんも止まっている。私が彼女の目の前で

手の平を上下させて見てもリアクションや瞬きをすることもない。

この過去の映像の世界において私だけが動き、見聞きをしている筈だった。


「ふむ。言の葉は解りませんが知能はある様ですか」

「……ぽぽぽっ(……ええと)」

「戸惑っていると判断します」

「……(なっ!?)」


 心を読んでいる!? いや、そんなチートなスキルを持っている様には

見えなかった。隠している可能性もあるがそもそも彼女は目の前に居ない。

あくまでこれはシステムさんが作り出した立体映像。

私はそういう解釈をしていた。過去の空間に飛んでいるという訳でもない。

なので私はこの異常事態に全く対処出来ていない。

彼女はどうやって今の私を見ているんだ?

こういうのはやっぱり〘霊話〙チャレンジやってみる?

シィナさんは〘古代エルフ語〙は解る筈だから通じるよね!


「……(『〘霊話〙』 『通じる?』 っと)」

「小器用ですね。鳴き声のニュアンスでも察せますがより解ります。

 さて、いつまでも驚かれても仕方ありません。聞いて下さい」

「ぽっ、ぽぽっ!(は、はい!)」


 お、聞こえているみたい! ううむ、コミュニケーション取れなかった分

〘霊話〙での単語投げ付けはほんと助かるねぇ。まぁ、これも言語習熟した

前提っちゃ前提なんだろうけどね。そんな訳で私は彼女の制止した姿の

視線の先にちょこんっと体育座りをし、視線を合わせる様にして会話をする。

と言っても、雰囲気から察するに彼女も私のことが見えていない様子だった。


「あなたが〘死霊術〙と関わりの無い文化や生き方だった故に

 驚いている様ですが、この地域での魔術師が死者の魂を呼び出して

 話をしたり、情報を得たりする事はさして珍しいことではありません」

「ぽっぽぽっ!?(まじで!?)」

「はい。と言っても正確には喚び出されたのとは違う様ですね」

「……(どういうことなの?)」


 うわー、ありがちだよね。幽霊とかに情報を投げて貰って

今を知るっていうの。私はたまたま、システムさんがこうやって

解りやすい効果演出で見せてもらっているけど、こっちの現地の人も

〘死霊術〙って奴で死体や幽霊から情報引っ張っているって事か。

こりゃ、迂闊に死ねるもんじゃないね。まぁ、死ぬ時は死ぬんだろうけど。

ただ、シィナさんが言葉を濁すと言うよりも断定的に語らない様を見るに

これはシステムさんが組み上げたオリジナルの仕組みらしい。


「魔術理論は専門家ではないので解りません。

 ただ、恐らく私の墓前で情報を探り集めたのでしょう。

 その際、わずかに残った私の魂の残り香、未練や渇望にも及ばぬ

 ささやかな執着が、かつての私の映し身に練り込まれた存在です」

「……(詩的過ぎてちょっと解かんねぇっす、シィナさん)」

「解りやすく言うと鍋で造った汁物に沈んでいた虫の死体が

 底を掻き回したら浮かび上がって波紋を造った様なモノです」

「……(例えが汚くない!? ニュアンスは解ったけど!) 」


 随分と嫌な出汁が入った汁物だよねそれ!? 

私はそれをぐいっと飲んでしまった後に出てきた鍋の底に居た虫の死体と

おしゃべりをしているって訳かい!? うわ、汚いと言うか気持ち悪い。

いや、シィナさんが汚いとか言う意味じゃなくてね!?


 最初の詩的な如何にもファンタジーな抽象表現から

一気にラーメンのスープに浮かぶ黒蝿へとイメージが小汚くなったのは

この際置いておこう。いや、言葉にしたくない。イメージしたくない。

大凡はシステムさんのこの過去再生に本人が紛れ込んだという事だろう。

しかし、やはり言葉から察するに認めたくない死という事なのだろうか。


「……(『執念?』『聞く』『願う』っと)」

「実を言うと私に未練がある訳ではないのです。

 もう、私が死んで長い夜と早い朝を幾度と過ごし、身体は朽ちて

 魂と呼ばれるモノはとっくに森へと還っている。

 本来なら死霊術でも呼び出せない程の年月を過ごしていた筈です」

「……(おぅ、状況がイレギュラー過ぎて当人も解ってないのか)」


 まぁ、本来は〘死霊術〙って奴は呼び出したら聞きたい情報なり

見知った相手に語り易い様に誘導するのだろうし

逆に自然発生している地縛霊だの浮遊霊だのだったら

こっちが聞かずとも勝手にべらべらと恨み辛みや未練を語る訳か。


 なんだろう、このうっかりネクロマンシング。

呼んでしまった方も呼ばれてしまった方も戸惑ってるって

そりゃ話の仕方も慎重になりますよ。お互いパニック案件ですよ。


「それでも敢えて言うなら」

「……ぽっ、ぽぽっぽっぽっ?(お、なになに?)」

「あなた、竹は食べられる事を知っていますか?」

「……………………ぽっ?(はぃ?)」


 いきなりという程ではない。彼女から竹に言及する発言は

そんなに意外性があるものではないが、それでもこの生死の境の線を

踏んでいる様な状況で出て来る単語とは思えなかった。

思わぬ沈黙と私のリアクションでシィナさんも言葉を練る様に

押し黙ってしまった。あれ、地雷? いや、知ってる、知ってるよ?


「知りませんか? アレ、食べられるんですよ。

 竹が成長し切る前の皮に覆われた部分を剥くと柔らかい身があって」

「……(『筍』『食べる』『知ってる』っと)」

「おおっ! やはり〘霊話〙は便利ですね。

 そう〘タケノコ〙とあなたの生活圏では呼ぶのですね」


 凄い、訳が解らないがシィナさんがめっちゃ楽しそうだ。

テンションがぐぐっと上がっていてウキウキしているのが声色で伝わる。

私としては(タケノコ)と呼んでいる様に聞こえていたが

なんらかの発音の翻訳が通されている様だ。

恐らく、この再生されている過去限定の処理なのだろうか。


「実を言うと〘竹〙という植物をこの森に持ち込んだのですが」

「……(ああ、やっぱりシィナさんが持ち込んだのかあの竹ってーか、竹林は)」

「故郷でも大変重宝し、愛食していた食材なんですが土地の影響でしょう。

 採れて一日も経たずに苦味が強くなってしまう様になり

 保存に大変向かない種になってしまったんです」

「……(む、やっぱりソレは昔からの品種的な特徴だったのか)」


 そう、実を言うと二日目の昼辺りに採ってきた筍を

ご飯の時に茹でてみたのだが、苦くてとても食べられたものではなかった。

言っている通り、一日目の採ってすぐだったら良かったのかも知れないが

あそこまで苦味が一気に蓄積されているとは思いもしないよ。

タワラも口にしないし、エルフで食文化として残らなかったのも納得だ。


「竹は道具や材料としては十分に使えます。ただ、あの筍の味を

 この森のエルフの人たちに伝えたかった。美味しいのですよ、アレは。

 本当なら焼いたり、茹でるだけでも十分食べられ、長い間持つのです」

「……(ああ、好物だったのが受け入れられないのは辛いねぇ)」

「だから、アレが食べられる。あるいは食べ方を

 此処にエルフが残っていたら伝えて欲しいのです」


 話を聞いていてしみじみとシィナさんの悲壮な思いが伝わる。

まだ、味の好みやらで合う合わないと言うのなら仕方ないが

栽培の経過においての変化で本来の味が出せないと言うのは

なんとも口惜しいものであろう。……いや、ちょっと待って?

うん、私も色々と感じ入る所で話に乗ってしまったが待とう。


「……(『執念』『ソレだけ?』っと)」

「だけという訳ではありませんが、あなたに伝えたいことです。

 食べられる事を知っているなら、アレをなんとか出来るかも知れません」

「…………(いや、もっとなんかあったろ!?)」


 幽霊と定義出来るか怪しい残留思念に私は思わずツッコミを入れる。

待って、筍美味しいとか分からんでも無いんだけどさ!?

もっと他あるんじゃないの? 子供が心配とか誰がどーしたとか!?

私、わざわざこんなびっくりドッキリイベントを経て

発生したクエストが筍の味の伝導を頼まれるの? どんなフラグだよ!?


「あなたが〘フォレスト・エルフ〙でないなら意外でしょうが

 私達は自然の中で死ねば、あまり死後に執着は無いのですよ。

 遺体は森に還り、また新たな私が森を通じて別の赤子として生まれる。

 天に召されず、奈落にも落ちず、ただの木々の贄へと戻るのです」

「ぽぽっ。ぽぽっぽっぽぽぽっ?(ううむ。それでもねぇ?)」

「優しさを感じます。それは厚意として受け取りたい。

 あなたは温かい想いを持つ者の様ですね」


 なんというか死生観がエルフ特有と言うか

自然の輪廻的な思想体系の片鱗を感じる。まぁ、自然調和系の

生き方をしているとこうなっていくのかな?

私の割り切れない様な様子を少し茶化すと言うか

きっと厳しい世界を生きて、そして往生したであろう彼女にとって

私のこういった考えは子供の様なものなのだろう。

無力感に歯痒くなっていくが、今はその痒みを飲み込んでおく。

喉元過ぎて忘れてしまう事位しか出来ないんだから。


「ただ、それでも私はもう死んでいます。その上、時は経ち過ぎた。

 私が愛した人も、悔やんだ事も私自身すらも終わっています。

 故にこの私が何かを想い、行動をしても意味がないのです。

 残念と思ってもそれは今の一瞬の事。死後の私には何も引き継がれない」

「……(うう、このシィナさんはこの回想限定なのか。

    しかもこれ、次も話せるか解らないな)」


 達観している……と言うよりは恐らく死後もあの墓の下で

彼女自身が折り合いを付け、納得したゆえの言葉なのだろう。

それは何度も願い、想い、悔み、望み、諦めた後に滲み出た

僅かな執着だけが今の彼女の言葉を紡いでいる。

まぁ、その執着が筍の味伝導ってのはどうかと思うのだが

重要視していない分だけ深く考えられないんだろうか。

諸々熟慮し続けて納得した末にぽつんと残った

好物のアレやソレってまぁー、取り掛かる気にはなれない気は解るが。


「……それを踏まえた上で敢えて言うなら。

 ものすっごく恥ずかしいんですよ、さっきのを見られたのは」

「ぽっ、ぽっぽぽぽっ!(あ、それはごめんなさい!)」

「いえ、良いのです。きっとこれが見られるべきと言う事なのでしょう。

 私とも話すべきと言う判断なのでしょう。恥ずかしいですが!」


 私がしみじみと感じいっている中、ぼろんっと出てきた言葉は

とても低い声でいろいろな感情が篭っていた言葉だった。

これはさっきまでの色々な想いを重ねて選別したモノと違って

ついさっき溢れた感情ってことか。うむ、勢いのままぶつけられると

大変怖いと言うかやはり、年食っている故のドスの効き具合が凄い。

きっと表情の変化が可能だったら物凄い赤面してそうだ。

うん、心から謝っておく。この一瞬が消えて無くなるとしてもね。


「現に私の思考と言の葉に縛りが入っています。

 例えば、今から無理に言ってみますね。この〈封印の白き森〉は

 〘ブ〈ピーーーー〉〙になったリ〈ピーーー〉が聖〈ピーーー〉」

「……(謎のP音が仕事をしとる!?)」

「やはり、駄目な様ですね。逆に言ってしまえば

 さっきまで聞こえていた事はあなたが知っていて良いということです」

「ぽっ、ぽぽぽっ(な、なるほど)」


 なんだか声色苦しげにシィナさんが重要っぽいワードを発した瞬間

本当にテレビでの表現規制の様に音で掻き消されていた。

つまり、この状況はシステムさんが黙認しているという事だろうか?

情報を規制する意味がわからない以前に、何故提供されているのかも

私は解っていない。規制をされたのは初めてでも無いが

そんな事を考えている余裕のない数日だったものね。


「何故かは私には解らないし、今の私が疑問に持つ事は意味がない」

「……(事実だが中々に寂しいなぁ。仲良くなれたかも知れないのに)」

「それでもこの言の葉があなたに意味を持たせられたのなら

 それはそれで死んだ私も嬉しかったでしょう」

「ぽっ、ぽぽぽっぽっ(いえ、こちらこそ)」


 すると段々と世界が暗転していく。そろそろ刻限という事だろうか。

システムさんのアナウンスが入り、いよいよ別れの時になった。

シィナさんも気付いたのか少し名残惜しさを滲ませる様な

それでも突き放す様な強い言の葉を最期に残していく。


【[レガシーピース]の静止はこれ以上維持出来ません。

 離脱行程を開始します】


「では名も知らぬ心温かき者よ。私が掻いた恥の分位は生きて下さい。

 すぐにお仲間になって森で一つになる事を歓迎しません」

「ぽぽっ、ぽぽぽっぽっぽぽっ(はぁい、そちらも安らかに)」

「後、筍をよろしk――」


[レガシーピース]〘青き竹の春の一幕〙の再生を終了します】


 最期は締まらなかったが私はシリアスなのよりも、こっちの方が好きだ。

この一幕を経て、私はこの地で育った筍を何とかする命題を持つに至ったのだ。

                第六十歩「諦める運命」に続く

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。