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第五十七歩「監視同棲という名のパワーワード」

「むー」

「ぽぽぽっー(うむー)」


 私が〘セイント・シール・エルフ〙のイケヅキ君と

ひとつ屋根の下で暮らして一週間を迎えていた。

当初は私の出来る事がなさ過ぎて憂鬱であり、劣等感を叩き込まれていたが

何時だかは判らないがある時を境にこう考える事で気持ちは楽になった。


『そもそも、彼らとは考え、実践し、成し遂げた年月の重みが違う』


 そう、冷静に考えたら私が森生活を始めたのはわずか一週間と数日前。

経験は勿論、記憶もろくな技術知識もなく、教えてくれる人も居ない。

ソレに比べて、エルフ達は何千何百と森での生活を考え、実践し

取捨選択の元に現代の形になっている。そして、眼の前に居る

年端の行かない少年ですら何十年とこの森の中で生きる術を身に着けている。

積み上げ、練られたカリキュラムも過ごした日々の経験も違うのだから

私が下手に追い付けると考えるのが烏滸がましいのだ。


 それを踏まえて私はいろんなことを彼から学ぶことが出来た。

と言っても彼らにとっては簡単な事ばかりだ。

火打ち石の使い方では最初は何度も指をぶつけて痛い思いをしたし

木に登るのもこの大きな図体ではとても苦労した。

跳躍は出来るのだが力加減が出来る訳ではないので枝は踏み折るし

指先は痛めて幹を掴む時間も最初は短かったがそれでも低い木なら

ある程度一番低くて太い枝には乗れる様になった。


「大丈夫でしょうか?」

「ぽぽぽっ?(多分?)」


 そんな素敵な日々の中、私でも役に立てる事があるかも知れない。

それで思い至ったのが今、鍋の中で煮えるこの筍である。

意外な事にエルフ達は筍を食していなかったらしい。

あくまで建材や道具の素材として竹を運用していたらしく

筍を食料として食べていなかったという事を聞いた時は驚いた。

ちなみに私が最初に持って来た時は何か解らず

私専用の食事か何かだと思っていたらしい。


 さて、そんな意外に注目をされていなかった筍さんだったのだが

『ココで食用としての調理法を教えれば彼らに貢献出来るんじゃね!?』と

甘い幻想を抱いて居たが、現実は失敗した煮筍の如く甘くなかった。


「……ふむ。見た目は変わりませんね」

「ぽぽっぽぽぽっぽぽっ(かじって見る)」


 私は木製のお玉から引き上げられた熱々の茹でた筍を眺めている。

そう、筍はアク抜きをしなければならないのだが、この森には重曹がない。

いや、正確にはそれを含むもんがあるのかも知れないのだが

重曹単体では無いので一部の姫筍しか水煮で食べられないのだ。

なので私はなんとかそれを伝え、夜は暇なので実験していた。

確かお米の研ぎ汁でも出来た筈なのだが米どころか穀物がない。

なのでまぁ、ご飯を食べた後、適当に余った野菜や薬草と一緒に

煮ては捨てての繰り返しをしていた。


「ぽっ!(あっ!)」

「いけますか?」

「ぽぽっ!(多分!)」


 そう、そしてその実験の日々が早くも実を結んだ様に思える!

今日一緒に煮たのは大根だ! なんと森に自生していた。

日本で売られているあの太さは無くてどっちかというと

さつまいもみたいな形だった。私としては甘味の連続だった中

辛味を出してくれる時点で救世主だったが活躍はそれにとどまらない。


「……しかし摩り下ろすとあんなに辛味が強くなるのもそうですが

 コレでアク抜きですか」

「ぽぽっ(食べてみて)」

「解りました」


一応、彼らにも食べられる野菜としては認識していたが

大根おろしという発想は無かったそうだ。

なので、私は試しに作り、意外と好評だった大根おろしを入れた

雪見鍋で残った汁を今、筍のアク抜き実験をしている所である。

私がかじってみた所、多少は辛味は残っているが

えぐ味や苦味は抜けた印象がある。私はイケヅキ君の食べた

反応を向かいに座ったままじっと観察していた。

実食! 正に緊張の一瞬である。


「あ、凄い。まだ、調節は必要ですけど味は良いですね。

 採って来てすぐの味に近いです!」

「ぽぽっぽっ!(やったー!)」


 私は両手を上げて喜びを表現しようとすると梁に手が掛かりそうになった。

危ない危ない。大きく造ってある小屋とは言え

全力で飛んだり手を伸ばすと色んな所に届いてしまうことも

この一週間で学んだ内の一つだ。実際に梁に手を何度ぶつけたことか。


 そ・れ・よ・り・も、食べてみた筍はアクがそれなりに抜けていた様で

私もようやく彼らに対して役に立つ事が出来たかも知れない。

そう、筍は保存が効くし、採れる時は結構な量が採れる。

問題は長期保存におけるえぐ味、苦味の蓄積だ。

特にこの森で取れた筍は苦味が強い種類だったらしく

1日置いただけでとても食べられたものではないシロモノだった。


「個々の好みに寄るかも知れませんが

 食料の選択肢が増えると言うのは大変良いことです。

 何分、僕達はあまり森から出歩きませんし、これは良いですね」

「ぽぽぽっ? ぽぽぽぽっぽぽぽっ?(でしょ? でしょでしょ?)」


 すっかりご満悦な私、無駄にでかい胸を張りつつも

茹でた筍を少し上げて水で洗う。さて、一応食べられる様には

下処理はしたので後はどう食べるかだよねぇ。

一度煮てしまったから焼くのって行けるのかな?

醤油で似たり、炊き込みご飯にしたりする記憶あるが

筍単体でどう食べるのはエピソードは勿論、経験の記憶すらない。

何より此処はエルフさん達との好みに合わせないとね!


「しかし、今でも信じられません。

 その此処まで協力的とは思ってませんでした」

「ぽぽっぽっ?(そーう?)」

「はい、監視ということなので変なストレスを与えない配慮は

 心掛けようとしていたのですが途中からそれも忘れてました」

「ぽっー、ぽぽぽっぽぽっ(あー、そうだったねぇ)」


 正直、言われるまではそんな事は気にしていなかった。

まな板の上の鯉ではないが私なんて

その気になったらエルフのお爺ちゃん達が本気を出せば

あっという間に退治されてしまうだろう。

そんな風に考え、考えるのを止めた結果が取り繕わず

思うがままに相手の事を考え、自分の出来る事をなんでもする事だった。

何せ、記憶もとんと思い出せないので取り繕うものがそもそもない。

イケヅキ君はそんな様子に心を許してくれたのかな? そうだと良いな。


「あまり、僕も長居をし過ぎると情が移ってしまうので

 監視が続くなら誰か他の人と交代する。

 あるいはもう必要が無いと判断されるかもしれません」

「ぽぽっー、ぽぽぽっぽぽっ(あぅっー、それは寂しい)」


 私は思いっきり眉尻を下げながらもため息を吐く。

うう、仲良くなれたとまでは解らないが少なくともこうやって

普通に料理が一緒に出来る位には警戒が解けたというのに。

いよいよ、この監視同棲生活も終わってしまう事を告げられると

気落ちせずには居られなかった。


「……(中々のパワーワードな期間だったけど楽しかったなぁ)」

「ああ、落ち込まないで下さい。里に自由に入るのは難しいでしょうが

 この調子で大人しいのが解れば、大丈夫ですよ」

「ぽぽっ(おぅふっ)」


 うーん、まぁそりゃ一週間やそこらで信じろてのも難しい話か。

私はそんなことを考えながらも一緒に鍋を片付けていく。

これからは雪見鍋→筍のアク抜きのコンボを多用する事になりそうだ。

手慣れておいた方がいいのでいつも以上にテキパキと動いていく。

すると今度はイケヅキ君も感慨深そうに話続けていった。

声のトーンが一段落ちてシリアスな空気が小屋の中に流れている。


「恐らく、族長は何か仕事を任せるでしょう。

 狩りや里の仕事は頼まないと思いますが何か考えあってのことです」

「……(んっ、やっぱりそうか)」


 流石にこのまま、この程度の役立ち具合でこの森に住ませると言うのは

些か虫の良い話だとは思っていた。何か私に頼み事があるのかな?

私に何をやらせるんだろう。モンスターと戦えってのはベタな所かな?

ただ、お爺ちゃん達が普通に強いし、スルスミちゃんも

結構な武闘派なのでアレ以上に強い相手を私が勝てるとはとても思えない。

ただ、私が頑丈そうなのを踏まえて危険任務を当てるというのは考えられそうだ。

あまり、そっち方面で期待されても女子として辛いが。


「……(『何』『役立つ?』っと)」

「ソレは聞かされていません。僕もただの子供ですので

 大人たちの事情とか思惑ってのは流石に」

「ぽぽぽっー(そっかー)」


 〘霊話〙で尋ねてみるが収穫無し。意外と情報管理が徹底している。

ココでぽろっとヒントの一つや2つは聞けると思ったが甘かった。

やっぱり、[レガシーピース]とかで裏事情を探ってくのが

順当なのか。しかし、アレはアレで意外ときついんだよね。

ただ、過去の映像を見るだけだったら良かったんだけど。


「……(あ、そうだ。後でお墓にお供えに行こう。

    うーっと、どう説明するかそれともどう誤魔化すか)」


 そう、そして私は思い出す。監視同棲が始まって三日目の夜の事。

イケヅキ君が寝静まったのを確認した内にこっそりと

私は[レガシーピース]〘青き竹の春の一幕〙を再生していた。

筍を食べようとしたきっかけはこれだったりしたんだよね。

              第五十八歩「青き竹の春の一幕」に続く

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