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第五十歩「白い竹と想いの遺物」

「……(か、会話がない!)」


 まぁ、当然だ。私はニホンオオカミ?のタワラと一緒に

水瓶を抱えたまま森の中を進んでいる。手枷をしたままだが

それでも私の長い腕に対して、水瓶の大きさに余裕があるのと

ボディサイズ相応の怪力のお陰で重くはないが向こう側の縁を

持ってお腹で押さえつける様に運んでいる。

これは帰りも気をつけるか、持ち方変えないと駄目っぽいなぁ。

今まで手持ち無沙汰気味だったが、此処に来て手枷の可動範囲制限が

地味に効いてくる。うーん、出来たら鎖とか縄みたいな手錠が

良いんだけど、そこら辺は帰って相談してみよう。


「……ぽぽっ(力持ちだねぇ)」


 タワラは恐らく水の出る場所へと向かっているのだろう。

川の上流っぽい方向へとずんずん進んでいるので

私は見失わない様にいそいそと急ぎ足で着いていく。

時折、後ろを振り返っては私が逸れてないか

確認しているタワラの様子を見ると、よく訓練されていると実感する。

こんだけ大きくなるっていうのはそれなりの成犬ってことでしょ?

随分と長い時間、エルフの人たちと一緒だったんだろうね。


「……ぽっ?……ぽぽっ(ん?……これはぁ)」


 そう言っている間にも森の奥へと進んでいく中

その景色はまた、私の意識を吹き飛ばす様な美しさを見せつけていた。

真っ白い竹がある程度整然と陳列されているかの様に生え揃っており

私の視界へ、その規律さを誇っているかの様にも見えた。

白い竹の竹林、恐らくは人工的に植樹されたのであろう。

それぞれの株の間隔を保つため一定に間引いてあり、枯れた白い笹が

白い土の地面へと敷き詰められていた。


「……(この竹林は後から造った感じだよね。

    [レガシーピース]で見たシィナさんが持ってきた奴かな?

    それが白くなってこうなったって事?)」


 私が暫くそれを眺めているとタワラもぴたりとその場所で止まっていった。

どうやら、待っていてくれる様だ。なんて、躾の行き届いた狼さんなんだろう。

私は一度、地面へと水瓶を置いては白い竹林へと足を踏み入れていく。

と言っても、見た目が白いだけで竹はただの竹だった。

しかし、色が白いというだけで印象と言うのは此処まで変わるものだろうか。

真新しい紙に描かれた水墨画の世界に迷い込んだ様な感覚に

陥りつつも、ふと足元に硬い感触が引っ掛かる。あ、コレって?


「……(おっ! 筍じゃーん! ラッキー、ご飯に持っていこう!)」


 私の足元には笹と土に隠れていた筍を発見する。硬いのはこの所為か。

私がそれを掘り返して引っこ抜こうとすると後ろからタワラもそれを見て

近くにあった筍を掘り返していく。皮すら傷付けない丁寧な仕事っぷりだ。

これは何度かタケノコ掘りの経験はしているのかな?

まぁ、あまり大荷物になってもアレなので私は少量とってはタワラの背負って

腹の左右に付けられている籠へと入れていく。といっても重いと会話そうなので

5本位を入れた後は奥へと進んでいく。……そして、私は後悔した。


「……(うわっ、これは)」


 竹林が一定区画へと整備された先は開けており

何やら大きな石が整然と並べられていた。それらはまるで竹林の奥に

隠される様に配置され、石には幾何学的な模様が刻まれている。

エルフの文字だろう。そう、直感的に私には解った。これは“墓地”だ。

しかも数が尋常ではない。有に数十個あり、どれも古いモノだが

逆に言うと物凄く古そうだったり、真新しいモノが無い。


「……(これって一定の期間で一気にこれだけ亡くなったって事?)」


【[レガシーピース]〘青き竹の春の一幕〙を獲得しました】


 そんなことをぼんやりと思い浮かべつつもシステムさんの声が響く。

む、墓地で取得した割には随分と爽やかな名称だな。

まぁ、今はお使いの途中だし見るのは後にしよう。寝る前とかかな?

あんまし、見るものではないと思うのだが、ぼんやり眺めていると

ぼわっとウィンドウと共に文字が映されていく。


【「シヒラ」「シカド」「リナリ」「リヨリ」】


「……(これは死んだ人の名前かな?)」


 あれだ、VRアプリみたいに視界の中にぼんっと枠と文字だけ浮かぶ

と言うのは中々に新鮮な体験でもあるが、事が事だけにしんみりとしてしまう。

うーむ、なんだかあんまし見るもんじゃないかなぁ? 

そう言ったが何らかの情報が得られるのではと思い、墓石を踏まない様に

進んでいく。すると大きい石と小さい石が寄り添う様に置かれていた。

勿論、名前も刻まれているのだがそこには――。


【「シィナ・ツィーベッド」「リイエ」】


「……(シィナさんが亡くなっとる!? マジで!?)」


 思わず、声を上げそうになりつつも背筋が伸びてしまう。

恐らく、[レガシーピース]で見た〘バンブー・エルフ〙のシィナさんだろう。

これはリトモさんが生きているという事は彼女が先に死んだという事?

しかも意味深に小さい石と並べられているのを見ると

「リイエ」はシィナさんの子供の名前かな?

他にも似たように大きい石に寄り添う小さい石の墓石は多い。


「……(親子揃ってってのはきっついなぁ)」


 うう、映像で見てただけだけど、普通に生前の姿を見た後

その人のお墓を見るってのは中々にきついもんがあるね。

私は思わず、合掌……は手枷で出来ないので片手だけで拝む。

この世界に神はともかく、仏は居ない可能性高いけどね。

私はその墓地へと一瞥した後、見ている間にタワラが掘り起こした筍を

籠へと入れて目的地へと進んでいく。


「ぽぽっ、ぽぽぽっ(さて、行こうかぁ)」

「がうっ」


 タワラは相変わらずつんつんとした態度だが仕事は真面目にしてくれる。

もう少し、色々とハプニングが起こるかと思ったが何事もなく

タワラに着いていくと竹林を抜けた先に木で作られた社の様な場所と

其処からこんこんと湧き出ている水を受けている大きな石を見つける。

それは木で蓋がされていたが水を溜めておける様に中がくり抜かれていた。

なんだか、神社の手水舎を西洋風にした様な作りだ。

裏返しにした木桶が近くに置かれているのでコレを使えという事だろう。



「ぽっ?(んっ?)」

「がぅっ!」


 タワラはその社の近くへと腰を下ろせば、軽く吠えて急かしてくる。

ああ、このままの態勢で水瓶に水を入れろって事か。

私は慌てて近寄っては木桶を一度水で濯いだ後、水を汲み上げては

タワラの備え付けられた水瓶へと注いでいく。

どんだけ、手慣れてるんだよこの狼さん。……ってそっか。


「……(水って水道の蛇口捻らないで使うとなると

    こういうのを毎日やるんだろうね。ファンタジー大変だな)」


 うーむ、里には井戸っぽいのがあったがなんだかんだで川は近い。

そして、小屋も川の近くだったがこうやって湧き水の場所が確保されている。

狼さんがこんなに手慣れる位にはそれは習慣として続いているのだろう。

私の前世は現代人である程度の文明の利便性を謳歌していたのだろう。

だから、こんな事にもすぐ気付けず、そして実感するのだ。


「ぽぽっぽっ、ぽっぽっぽっー(タワラちゃん、偉い子だねー)」


 そういって私はタワラの頭を撫でてみる。

最初は警戒されていたが逃げず……もとい逃げられないのかな?

緊張した様子のまま、頭を撫でられるとじきにぶたを下げていく。

くぅっ~! 狼とは言え、犬っころの和む様子と言うのは癒されるねぇ。

さて、左右に垂れ下がる籠の片方の水瓶が一杯になるがタワラは立ち上がり

頭を軽くひねる様に振りつつも社の屋根からはみ出ない範囲で

僅かに身体をずらしては座り直す。今度は私の水瓶をという事なのだろう。


「……(ふーむ、大分、減っているからちょっと待とうか)」


 くり抜かれた石の中の水は大分無くなっている。

暫く溜まるまで待たないと思い、周囲へと視線を上げてる

社の近くには上部が軽く削られている座る用の石を見つけた。

ほんと、至れり尽くせりだね。生活の一部なんだから当然なんだろうけど。

私はその石に座りながらも水が貯まるまで筍の皮を剥いていく。

タワラも最初は不思議そうに眺めていたが飽きたのか

大あくびをした後、その場で眠ってしまった。


「……(ん~、結構硬いイメージだったけど、流石化け物パワーだね)」


 真っ白い皮をバリバリと剥き上げていくのだが見た目の割に

難なく引剥せていた。指先にちょっと泥や筍の香りが着いてしまったが

まぁ、こんなのは作業の必要経費だ。幸い、近くに洗う水場はあるしね。

一個位タワラに上げても良いかなと思ったが、狼って筍食べたっけ?

システムさんに聞いて見るかな? 教えてくれるかな?


「……(システムさーん、狼って筍食べさせても大丈夫―?)」


【その要求された情報の開示にはスキルが足りません】


「……(む、駄目かぁ。まぁ、当然かな)」


 流石にこれで答えてくれたら便利というか私が勉強しなくなるか。

そもそも勉強させる必然性があるかは解らないがシステムさんは

あんまし、そういう甘いことをしてくれないイメージがある。

出来る事や可能な事の提示はしてくれるから大分親切なんだけどね。


「……(ふむ、コレで実は大好物ですとかだと可哀想。

まぁ、せっかく出し〘霊話〙で聞いてみるかな?)」


私は〘霊話〙でタワラに尋ねてみる事にした。

イケヅキ君はそんなに通じないって言ってたけど物は試しだ。

チャンネルを開いている様子はないから

呼び掛ける様な形でどれだけ通じるかな?

私は指で剥いた筍を差しつつもタワラの目の前で屈んで

〘霊話〙を試みる。ウトウトと眠りこけていたタワラは

その呼び掛けにぱっちりと目を開く。

うむ、澄んだ黒目がやっぱり正面で見ても可愛いなぁ。


「……(『聞こえる?』『コレ』『食べる?』っと)」

「……ぐぁ!? ……がぁっ」


 タワラは驚いた様子で軽く吠えるが、差し出された筍を見て

すんすんっと数度匂いを嗅いだ後、首を大きく左右に振る。

む、やっぱり駄目か。ま、しかし今のは〘霊話〙で伝わったのか

それともジェスチャーとか含めて通じたのかは解らないが

少しは交流出来たかな? それだけでも収穫としよう。


「……(っと、水も溜まってきたかな? これ汲んだら戻らないと)」


 うむ、狼さんとお散歩して水汲んで家路に着く。

帰ったら美少年エルフが待っている。なんだろう、この幸せな日常。

こういうのがずっと続いたらそれはそれで幸せなのかなぁ?

         第五十一歩「黄泉の手も借りたい」に続く

〘筍〙と犬科について


システムの解説を伏せてしまった代わりにココで解説を挟みます。

注意事項として筍は基本的に犬の餌には向きません。

イノシシなどが掘り起こして食べている事例はありますが

彼奴らは下手な肉食獣よりも噛む力が強い故です。


犬は本来、ああいった食物繊維が豊富なモノは消化が向いておらず

食べられないことはないですが体調悪化の要因になりえます。

ただ、味付け次第では口に入れてしまう事と季節の食品故に

ネギや玉ねぎ程警戒されていません。お気をつけ下さい。

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