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第四十九話「鬼が居た」

「ン? 何ジャ嫌カ?」

「ぽぽぽっ、ぽぽっぽぽぽっ!?(ととと、とんでもない!?)」


 おかしい! 私はこんな幸運に恵まれる程に善行を積んだ覚えはない。

落ち着け、私! まぁ、監視は監視だ。しかも此処のエルフと考えると

イケヅキ君もかなり強い予感がひしひしとする。

あくまで私との接敵は偶発的だったし、実はこの子が

かなり戦い慣れしているという可能性は十分にあるよね。


「では荷物を纏めて来ますので先に待っていて下さい」

「ウム」


 そう言って、イケヅキ君は足早に部屋を去ってしまった。

うう、なんというか状況はびっくりだが私としては懸念がある。

一応、私は彼を一度は倒してしまっているのだ。

それと一緒に生活させると言うのは、ちょっと無謀というか

やっぱり、彼が捨て駒的扱いなんだろうか?

既に被害が出ているとは言え、それはそれで可哀想だ。

私はリトモさんにそこら辺を突っ込んで聞いてみる事にした。


「……(えーと、〘霊話〙を。『彼』『怖がった』『大丈夫?』とっ)」

「逆ニ言エバ、イケヅキガ怖クナクナレバ、皆モ恐怖ガ無クナル」

「……(そういうものかー)」


 リトモさんに小屋から連れ出されて行く間にざっくりと片言会話で

意図を聞いていく。つまり、一番里で被害が出て警戒している

イケヅキ君が私と一緒に居て、害が無ければ皆もそう判断すると。

結構乱暴なやり方ではあるがこの世界ではそういうもんなんだろうか?

まぁ、私自身よく解ってないし、彼らが納得するならそれで良いのだろう。


「後、何カアッタラ……姉ノ“スルスミ”、サッキノ女エルフガノ」

「……ぽぽっ(把握)」


 そっか、あのブチギレおねーちゃんが居るのか。

というか、イケヅキ君と姉弟だったんだね。随分と似てないなぁ。

あのヒャッハーなお姉ちゃんエルフのスルスミちゃんが居るから

それで釘を刺しておけばという判断も込みという事か。

うう、たしかに下手な事したら地獄の果てまで殺しに来そうだ。


「……(って、アレって)」

「ぐるぅっ!」


 なんだか絵本とかで見るロバみたいに鞍と籠を載せた狼が広場に居た。

なんか見覚えがあるよーな気がするなぁと眺めている私を見れば

前足の部分を屈めて戦闘態勢みたいな感じで唸ってくる。

周りを見れば、この里にはちょこちょこ家畜っぽい獣や鳥も居る様だが

それでも一回り大きい狼は異彩を放っていた。

其処へとリュックに荷物を詰めたイケヅキくんが戻ってくると

ソレに向かってわんこっぽく尻尾を振っている。くそ、デカ可愛いな。


「ではハッシャクサマ行きますよ。

 あ、えーとこの子はタワラです。数日前見ました?」

「…ぽぽっ!(ああっ!)」


 アレか、洞窟を抜け出した時に一番最初にエンカウントした

ニホンオオカミ(?)か! なるほど、イケヅキ君のペットと言うか

里の狩猟犬みたいな扱いの子だったんだね。

私はぱんっと手を思い出したというリアクションをする。

素の行動だったのだが私の手の叩く音が大きかったのか

びくっとなるオオカミのタワラ君。むむ、そういえば〘畏怖の眼差し〙で

一発目にかましてしまっていたっけ。アレ、厨二病かと思ったけど

実際にスキルとして効果を発揮してたんだよね。


「ぽぽっぽぽぽっ(前はごめんなさいねぇ)」

「ん、タワラ。ハッシャクサマは謝ってるよ」

「ぐるっ!」


 イケヅキ君に促されてはいたがタワラはぷいっと顔を背けられてしまった。

ま、まぁいきなり警戒を解けっていうのも動物相手に無理な話か。

それでもイケヅキ君の荷物を背中の籠に載せている最中は

じっと止まったまま動こうとしない。なんて出来た狼ちゃんなんだ。

うーむ、わんこいいなぁわんこ。私もああいうの欲しくなっちゃう。


「まぁ、そのうち慣れますよ。では行きましょうか」

「ぽぽっ(はぁーい)」


 苦笑したままタワラ君を傍らに歩き始めるイケヅキ君。

私は手枷をしたままなのと一応、警戒対象なので

特に荷物らしい荷物を持たずにエルフの里を後にする。

途中、里を抜けるまではやはりエルフの人たちの視線が痛かった。

まぁ、大人連中の警戒は仕方ないのだけど、子供に対する親御さんの

『見ちゃいけません』的なアクションをあからさまにやられると

もう、なんか色々とハートの柔い部分を抉られる感覚に陥る。


「……(ううっ、まぁ親御さんは警戒するべきだよ。子供の為だし)」


 私個人としては当然悲しいと言えば悲しいが親からしたら

正体不明で子供に対応特化しているなんてのが解れば

そりゃ、警戒は強くなるに決まっている。それは行動として正しいよね。

だから、私はぐっと我慢する。うん、それは察して上げないと。

そんな里の様子を察してか言葉少なにイケヅキ君は早歩きになってくれた。

うむ、さりげない優しさ、グッドだね!


「……ぽっ、ぽぽっ(あ、そう言えば)」

「どうしました?」

「……(『霊話』『タワラ』『使う』『可能?』っと)」

「嗚呼、うーん。一応、何となくは解るみたいですが

 エルフ同士みたいに会話としての理解は難しいですね」

「ぽぽっ(把握)」


 私は思い出した様にイケヅキ君に〘霊話〙で声をかけてみる。

実際に〘霊話〙というのが動物に通じるかの確認もあったが

やはり、狼の知能でも通じるのは難しい様だ。

むぅ、タワラとも仲良くなりたいと言えばなりたいんだけどね。

やっぱり、こうアレでしょ! ファンタジーででっかいもふもふ獣に

身体を預けるってロマンだからね! 絶対、一度はやってみたいよね!


 私がそんな妄想を垂れ流しつつもにこやかな様子を

ずっと観察されていた事など露知らず、河原へと出れば上流を登っていく。

午前中辺りの戦闘の痕跡が少し残すが、真っ白い森の日常へと戻っていた。

うう、あんなのは二度とごめんだよ。


「……(あ、やっぱり此処なんだ)」

「ん、一応可能性としてはありました。

 やっぱり此処に住み着こうとしていましたか」

「…ぽぽぽっ(あはははっ)」


 そう言って、私は今朝方出た居候中の小屋へと戻ってきた。

どうやら出入りした様子や外に出されている毛皮や諸々に

イケヅキ君は察してくれたらしく、私は頭を数度下げていく。

エルフの人たちも私が此処に住み着いている可能性は把握していた様だ。

となると、黙ってあのまま住み着いていたら襲撃されていたかも知れない。


「まぁ、その……女の人の野宿ってのはあんましですからね」

「ぽぽぽっ(ありがとぅ)」

「ただ、暫く誰も使ってなかったから――」

「……(『掃除』『片付け』『少し』『した』っと)」


 そう言って、扉を開けるイケヅキ君。

うむうむ、なんと優しくて出来たエルフだろうか。

そうだよね? 女子としていきなり野宿はハードル高いって!

私が何度も頭を頷いているがイケヅキ君は微動だにしない。

なんでか知らないがリアクションもなく、じっと小屋の中を眺めている。


「……(あれ、怒ってる?)」


 私は思わず変わり始める空気を敏感に感じ取る事が出来た。

そのまま、イケヅキ君は無言で小屋の中を入っては、窓を開けていく。

板の上の部分に蝶番みたいなってて、木の棒で支えさせていくタイプの奴だ。

改めて昼間に見ると、この小屋の作りは本当に大きく造られている。

私が悠々と過ごせるサイズなのでイケヅキ君は普通に小人か子供の様に

家具とのサイズ比を見せていた。本当にお可愛いので目のやり場に困る。


「……ぽっ?(あれ? おかしいな)」

「すぅっーー」


 私は深く呼吸するイケヅキ君を眺めながらも違和感に襲われる。

目の前にはかわいくて優しい少年エルフのイケヅキくんが居た筈なのに

空気というか気配がスルスミちゃんと対して変わらないのを肌で感じるよ?

あれれ、えーとどうしたのかなー? 私は数度目を擦るが

やっぱり、埃が僅かに舞い上がり、窓から木漏れ日の様に

僅かな光が照らす室内の中で佇むのは修羅の気配を漂わせる何かだった。

彼が大きく息を吸った後に振り返り、私を見上げる。

ドキドキ、何だろう。告白? いや、まっさかー。


「いいですか、ハッシャクサマ!」

「ぽっ、ぽぽっ!(は、はい!)」

「掃除というのは道具を適当に纏めて棚にぶち込んだり

 ワラで埃を拭き散らかして、その後を放ったらかしにしたり

 似たような箱や籠を隅っこに積み上げていく事は言いませんよ?

 これは掃除ではなくて、散らかしたのを隠しているだけです」

「ぽっ、ぽぽぽっぽおっ!?(ご、ごめんなさぁい!?)」


 そう、言葉は優しいんだ。顔もにっこりと笑っている。

ただ、淡々とその“圧”を私へとぶつけてくるイケヅキ君。

怖い、何だこれ!? あのコアタルちゃんの水龍より迫力がある。

それと同時に早口気味にまくし立てられる正論の乱れ打ち。

優しい少年かと思ったがまさかの〘家庭の鬼(おかあちゃん)〙属性か!?

まぁ、アノお姉ちゃんが居るとなると、そうならざる終えんのか!?


「前の状態なら少し掃除すれば良かったのですが、もう駄目ですね。

 暗くなる前に綺麗にしましょう。今から始めれば日が暮れる前に終わります。

 僕が道具の整理と分別を全部し直しますから

 ハッシャクサマはタワラと一緒に水瓶に水を汲んできて下さい」

「ぽぽっ!(はぃっ!)」


 タワラから荷物を降ろしながらもテキパキと指示を飛ばしては

完全にお掃除モードへと入り、装備を整えるイケヅキ君。

真っ白とまではいかないやや黄色味の入った三角巾が熟練の主夫感を

醸し出しており、くっそ可愛い。そうか、洗剤とかも無いし

色が着いたら大変なんだね、そうなんだね。


「水瓶はコッチです。あ、こっちの道具は漁ってなかったんですね」


 そう指示を受けては小屋の裏にあった大きい水瓶を私が抱え

もう一回り小さい水瓶をタワラへと載せる。

小屋を見つけた当初は嬉し過ぎて小屋の裏まで見てなかったな私。

なんか、微妙に道具が充実しているし、水瓶とかもあったのね。


「ぽぽっぽっぽっ?(なんで二個?)」

「えーと族長から念のため、使う水は分ける様に言われています」

「ぽっぽっ! ぽぽぽっ(了解! 気にしないで)」


 なるほどね。同じ水を使って病気なり、彼の症状が悪化したらとなると

大変だからか。なんだろう? 思いっきり大自然田舎のノリなんだけど

要所要所で妙に清潔さと言うかそういう知識の片鱗が見える。

後、結構疑問なのだがこの私が抱えている水瓶は

どう見てもタワラが運べるサイズではないよね。

もっと大型の荷役用の動物を飼っているのかな?


「……(ロシカさんの実験での経験なのかな?)」

「わふっ!」

「片方の籠にはタワラが適当に食べ物を見つけて来ると思うので

 それを入れて置いて下さい」

「ぽぽっ。ぽぽっぽぽぽっぽぽっ(はぁーい。いってきまーす)」


 そんな事を考えるとタワラがせっつく様に軽く吠えられる。

うむ、まさか狼さんとお使いに行くことになるなんてね。

ほんっと、こっちの世界は何が起こるか解かんないよ。

              第五十歩「白い竹と想いの遺物」に続く

家庭の鬼(おかあちゃん)〙[母][称号]

尊き畏怖すべき母なる存在の一面

何も言わずひれ伏し、怒りを収めるべし

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