第四十八歩「心臓があったら止まってた」
「父上、これはまたとない好機ではないでしょうかぁ!」
ああ、シトモさんも額に手を当てて憂いている。
後ろの弟君らしい少年エルフも目をうるうるとさせているね。
くっそ、可愛いな。お持ち帰りしたい所存であるが
コレが過去の再生という現実が悔やまれる。そして、気付く。
当人たちが居なくて、ただの視聴者となると
私って色々と歯止め効かなくなるなと。言いたい放題じゃないか。
「……(こりゃ、現実戻った時、気をつけないと。
今、話を聴き逃したりとかしてないよね?)」
【コントロールウィンドウを表示します】
自戒及び反省を刹那に済ませて、私は目の前の視聴を続けると
システムさんが何やら声を掛けてくれた。
するとステータスウィンドウの様に光のパネルが宙空へと現れて
動画の再生ボタンみたいのが手元に出る。
ボタンの記号もそのままで早送り、巻き戻しとかも出来るっぽいけど
リアルタイムの消費を考えるとあまり頼り過ぎも駄目だね。
特にこの情報は何の役に立つかは解らないが
ココしか知る事が出来なそうだから、ちゃんと見聞きしていかないと。
「ただし、このまま押し切っても私は子供を誑かして騙す悪党。
よく、お話をして下さいね? 満場一致の納得は難しいでしょうが」
「はい! 勿論ですとも。父上、里の者を集め話し合いましょう!」
「これ、勝手に決めるな!」
優しいが釘を刺すロシカさんは……なんだろう。
逆に胡散臭くなってしまう。多分、当人自覚ないのかな?
演技って訳でもないが、これ計算で動いている?
うー、頭良いっぽいしなぁ。しかし、この遠回りと着実性を重視するのは
資金とか自信とか実績の為せる技なのだろうか?
ソレに対してこの熱血少年はほんとにもうね。大変だなぁシトモさんも。
「なに、いざとなればシツネも居ます。
この子の方が頭も回り、良い里を作るでしょう」
「に、にぃさん!?」
「今、そういう話をしているのではない!」
「私が身体を張れば他の者の不安も柔らぎ、後に続くに違いありません!」
ぽんっと弟くんの頭を撫でるお兄ちゃん。シツネ君か、覚えておこう。
ただ、これが200年位前のことって事はエルフの年齢を考えても
お爺ちゃんには確実になってる? そもそも、生きているのかな?
今のところ、エルフの年齢感は72歳が若い乙女という情報しかない。
そこら辺は種族情報……あ、そっか忘れてた!
〘レイク・エルフ〙の種族情報が前に上がったよね! 後で、見てみよう。
しかし、さらっと後継者問題とか諸々をぶっ込んできたな。
まぁ、この熱血少年エルフ君は、気は良さそうだがトップに据えるとなると
もう、色々と下の人は気が気じゃない日々になりそうだ。
「リリーサ。ドウシマスカ?」
「これは止めましょうか」
そしてその混乱の中、シィナさんが喪服の女性へと
ひそひそとささやき語りかけると喪服の女性はそれに応える。
名前はちらっと聞こえたがリリーサというのか。
これで客人側の名前が全員判明したが、今回で一気に覚える人数が増えたね。
確認してみよう。賢者で学者っぽいロシカさん
〘バンブー・エルフ〙のシィナさん、喪服姿のリリーサさん
乱入した少年エルフの弟のシツネ君と此処の族長らしきシトモさん
後、解ってないのは乱入した熱血少年なエルフ君だけか。
「失礼します……お静かに!」
今まで黙っていたが手を上げて周囲を一喝した。
全員が黙って、皆の視線が集まった所で淡々とした口調で彼女は話し始める。
その場に居た全員はまるで母親に叱られた様にぴたりと止まってしまう。
女の人の一喝の割にはドスが効いてて中々の迫力だったよ。
「シトモさん、あまり子供の情や熱意に流されては話になりません。
ロシカも若い子を焚き付けないで? 今回はココで一度切り上げましょう」
「ん、失礼。私もちょっとああいうのは懐かしくてね」
「申し訳ない。息子がはしゃいでしまって。
客人など珍しいですからな、この辺鄙な里には」
「はははっ、まぁただでさえ、我々は物珍しいでしょうからね」
リリーサさんはぐちゃぐちゃになっていた流れと空気を
ピシャリと止めてしまった。確かに彼女が仕切る事には違和感があるが
親子喧嘩を見ても仕方ない。なんつーか、ほんと冷静なお姉ちゃんだ。
顔はヴェールで隠れていておまけに立体映像だから
めくって拝む事も出来ないんだよね。
流石に3Dモデルみたいに顔を突っ込んで見るのはちょっと怖い。
「ロシカ様。その里の者と話してみますので、もう少々お時間を頂きたい」
「父上! ご決断をされるのですね!」
「だから、黙っておれ。シツネ、リトモを連れて行ってくれ」
「……(……ぇ?)」
思わず口が開いてしまった。ええと停止だ停止! ぽちっとな!
私はコントロールウィンドウの一時停止ボタンを押す。
【[レガシーピース]賢者の依頼の再生を一時的に停止します】
空気と全員の挙動がぴたりと止まる。今、シトモさんは確かに
リトモ……つまり、私が滞在している里の族長さんの名前を言った。
これがリトモさんの若い頃か? 私はマジマジと近寄り、
腰を屈めてさっきまで気炎を上げていた熱血少年エルフの顔を見る。
そう言えば、どことなく少年に若返った時の顔と似ている。
「……(あれぇ? けど、肌の色とか体格が違うかな?)」
変だ。リトモさんも含めて〘セイント・シール・エルフ〙は
皆、真っ白い肌をしていた。数名、黒い入れ墨をしていたが
基本は北欧の白人さんみたいな透き通る真っ白肌だ。
今、目の前に居る少年エルフはドコか健康的に肌も焼けている
いかにも南イタリアとか地中海沿岸系の美少年って感じである。
体格はその後の成長とか若返りの影響かな?
「……(わー、あの族長さんこんなんだったんだー)」
まるで昔の卒業アルバムを覗き見している様な背徳感にぞくぞくする。
熱血系な少年時代からあの渋みのあるお爺ちゃんになるのか。
いい年のとり方してんなぁ。長髪髭モジャとかいかにも
おエライ長老様な見た目をしてたからギャップが凄い。
「……(よし、先進めようか。再生ポチっとな)」
【[レガシーピース]〘賢者の依頼〙の再生を再開します】
さて、程々に堪能したので私は再生ボタンを押すと
再び世界が動き出す。これって時間停止させているみたいで
色々と面白そうなんだけど、ハマったら逆に抜け出せ無さそう。
「は、はい! 兄さん行くよ!」
「では、ロシカ様! 本日はありがとうございました!」
そういってとびっきりの笑顔で部屋を後にする少年リトモさん。
そういや、名前が一字違いだからシトモさんと親子って言われても
納得といえば納得か。太郎と次郎みたいなもんかな?
そんなことを考えているとシステムさんの声が再び囁きかけてくる。
【[レガシーピース]〘賢者の依頼〙を終了します】
そう言って、場がお開きになった頃合いと共に再び世界が制止して
私の視界がまた真っ暗になる。少し頭に引っかかりが見えるが
少し寝起きの気怠い感覚を伴って私は目を醒ました。
丁度、もう少しで終わる所で停止しちゃってたのか。
肩が妙に重かったりするが、ずっと固まってた所為だろうか?
「……(とんでもねぇもん見ちゃったなぁ)」
私はそう思いながらも大きなため息とともに立ち上がる。
妙に落ち着かないから部屋の中をうろうろと動いたり
身体を捻ったりしつつも、今まで見せて貰った映像を振り返る。
200年前に起きたであろう賢者ロシカの実験依頼。
少年時代のリトモさんがいた事からアレはリトモさんの記憶という事か?
となると[パーストポータル]は他の人の記憶を眺められる
システムなのかもしれない。しかし、これの情報アドバンテージは凄いね。
「……(アノ顛末を聞き出すって相当仲良くなっても無理じゃね?)」
改めて思う。私が見聞きしたあの話って超機密事項って奴じゃなかろうか。
まず、そんなことが起こっていた事すら知り得ないだろうし
仮に知ったとしても、それは他人にホイホイ言えるもんでもない。
私なんて化け物だし、まず話すという選択肢すら無いに等しい。
「……(誰の意図かまでは解かんないけど、これは凄い情報なのかな)」
今はまだ、信頼を得て仲良くする所だから駆け引きなんて考えられない。
そんな私に投げられても、とても上手く使える自信は無い。
やっぱり、誰かに知って欲しかったか伝えていきたいのだろうか?
実験やその後の顛末がどうなったか解らないが、リトモさんは今も存命している。
「……(ってことはあの実験は行われなかったのかな?
それとも成功したのか。まぁ、皆強かったよね、此処のエルフ)」
あのリトモさん達の機敏な動きでコアタルちゃんやラナス君達を
軽々と捌き切っていたことを考えれば、その結論に行く気はする。
素で此処のエルフが強いって可能性はあると言えばあるけど
仮にやってるなら、あの実験はまだ続いているのかな?
まぁ、そもそもロシカさんのやろうとした実験が解らないんだけどね。
私がそんな事を考えていると扉の向こう側から声がかけられた。
「入りますよー」
「ぽぽっ(はーい)」
そう言って、扉の外をガチャガチャと操作する音と共に
恐らく、イケヅキ君の声だろうか? 念のため、敷物を盾の様に構えつつも
扉を開くとイケヅキ君とリトモさん(老体)が居た。
うん、さっきまで貴方の熱血少年な姿を見ていたとはとても言えない。
ほっと私が敷物を降ろして頭を下げると二人が中へと入ってくる。
「ウム、大人シクシテタ様ジャナ」
「本当に大人しいですね。連れて行ったり、部屋に入れても暴れたり
不安がったりしないっていうのは野生では無いですし」
「マ、ソレ程自我ト理性ガ強イノジャロウ」
二人は私を見上げながらもそんなことを話している。
うう、私って無警戒過ぎるのかな? まぁ、こうやって軟禁されていても
変なことされないってイメージが思い浮かばない。
やっぱり、前世がよっぽど平和だったんだろうか?
そこら辺の意識ってやっぱ変えないとこの世界では厳しいのかな。
「マァ、良イジャロウ。サテ、オ嬢チャンノ扱イガ決マッタ」
「ぽっ、ぽぽぽっ(お、どうなるんだろ?)」
「オ嬢チャンノ危険性ハ無イト思ウガ、里ニハ置ケン。
ズット小屋ノ中ト言ウノモ嫌ジャロ?」
私はリトモさんの問いかけにこくこくと相槌を返して返事をする。
確かにずーーっと小屋軟禁では流石に私も嫌だ。
暇は潰せるのかも知れないが私としても何か働いたり
動きが無いと大変申し訳無い。だって、皆が日々生きる為に
働いているのに自分だけ食っちゃ寝とか素敵だけど
印象も良くない上に確実に気まずいよね。
「ええと、僕がしばらく貴女の監視という事になります」
「トイウ事デ、川ノ先ニ客人用ノ小屋ガアル。
訳アッテ、デカク造ッテルカラ不便モ無イジャロウ」
おお、監視付きだが里の外で暮らせという事か。
小屋ってのは多分、私が居候させてた小屋の事だよね?
でっかく造ってあるって言ってたし?
「……(これは暫く様子見案件かな?)」
「ト言ウ事デ暫ク、イケヅキト一緒ニ住ンデ貰ウゾ」
「はい。よろしくお願いします」
「ぽぽっぽっー………ぽっ?(よろしくー………え?)」
ちょっと待って? それってーとつまり、美少年エルフと同居!?
そんなご褒美貰えるの? 今、私に心臓あったら止まってたよ? マジで?
第四十九話「鬼が居た」に続く




