第四十七歩「破滅への選択」
「話の経緯については解りました。ですが、承服するには難しいですね。
その……目的は何なのでしょうか?」
あ、それ私も聞きたかった! 再現映像の空間の中で
私は意味も無く手を上げる。基本的に四人の話し合いを
私が眺めているだけだから動きが無くて寂しんだよね。
そう考えるとミュージカル映画とかの急に歌って踊っては
飽きさせないという観点で良く出来ているのだと思う。
え? むしろ踊っとく? なんか、絵面的に寂しいし。
「僕達の目的はこの仮定と検証が目的を持つ前に
方法だけを不幸が起きぬ様に確立させる事です」
「と言いますと?」
「人工的な〘進化〙の促成で産まれたエルフは
単純に戦闘能力でまずは軍事に使うことが有益です。
他にも魔術の研究なども捗るし、学問の幾多の分野で未来へ一歩進める」
「一介の田舎者には理解し切れぬ話です」
私にも理解し切れぬ話です、はい。
えーと、よくある漫画とかの強化兵とかそんなノリなのは
なんとなーくイメージ出来るんだけど、作り方だけ決めたいって事?
手段が目的ってそれはそれで危険っていうか何ていうか。
やばい、このロシカさんから段々と電波っぽさを感じてくるよ。
マッドなん? やっぱり、マッドサイエンティストなのこのお兄ちゃん。
もう過去に起きたこととは言え、私はこの顛末に目が離せないで居た。
「ええ、まぁ難しい話になるので此処は簡潔に。
要するに私が思い付くという事は近い時代の天才か
もしくは遠い未来の凡才でも思い付くと言う事です」
「そういうものなのですか?」
「ええ、もっと確信的でもなく、ふわっとした何となくで
検証を重ねて証明されたり、偶然からの発見はいくらあります」
「さっきの話もそうですが別に意図して〘バンブー・エルフ〙を
新たな種として生み出した訳ではないのと一緒です」
ああ、なんかそーいう科学逸話は知識としてなんか覚えてる。
実験中に放置して上手く行ったりとかスボラな管理したのを
そのまま、保存したらいい結果が出てきたとか。
ある意味、継続と余裕があってこその発展なんだよね。
ロシカさんはそういう意味で正しく科学者さんっぽいのかな?
「問題はその際に私より貴方達へ配慮をしたり
あるいは資金や技術的に余地のある段階で検証が行えるかという話で」
「ロシカ。難しくなっています」
「あ、ええと、そうですね。要するに僕より馬鹿で金も無くて
貴方達の命だの尊厳だのどーでも良い奴が無理矢理コレをやると
まぁー不幸な歴史になるんですよ。おまけにそれに賭けちゃうんです」
「それは……想像に難くないですな」
私はリトモさんの隣でうんうんっと腕を組みながら頷いていく。
私の知識として残る記憶としては人間ってのは一発逆転って大好きだ。
聞いている限りロシカさんは多分、名誉もあって資金もあるのかな?
まぁ、こんな無理筋な話を無下にされないというだけで
彼の評判というか功績はそれはそれは大きいのだろう。
よく分からない、ぺーぺーの学者が言ったら一蹴されてる。
下手したら、言い出した段階で殺されてるんじゃないの?
「例えば、王族や貴族を唆して軍隊や傭兵でさらっていく。
金があるなら奴隷市場で買い漁って実験体をする。
戦利品や買った物品に慈悲や配慮は必要ないですからね」
「聞かぬ話ではありませんな。何処かで起きていそうな話です」
あー、解ってしまう。そんなストーリーなんてのは腐るほど
私は頭の知識から思い浮かぶ。それはエルフ以外でも子供だったり
戦地の難民や戦争捕虜とかだってありだ。武器で脅しつけて攫うなんて
誰でも考え付くし、短絡的に考えれば楽だもんねぇ。
「……(こういう力づくでやられるって怖いよね)」
多分、ロシカさんが言うのを成功させたら、名誉もそうだし
現実的に運用できたら強化エルフ軍団でヒャッハーしちゃう訳だ。
うん、ベタな悪役のベタな手口になってしまう。
そう考えるとそれをせずにこうやってお話で持ってきているのは
なんとも紳士的なんだろうけど、内容が全然違うんだよね。
「そういう事です。なのでそれを未然に防ぐ」
「貴方は何故、そうなさらないのですか?
その慈悲深い方とは思いますし、人徳者だと伝説では伝わっております」
「理由には難しい話と簡単な話で二通りあります」
「お伺いします」
あ、シトモさんも同じ疑問を持っていた様だ。
なんとなーく、このロシカさんはやろうとしてる事は危ないが
わざわざ、紳士的に協力を求める理由が解らない。
当人が言ったとおり、後からこの方法を試す存在が出るのも解るけど
一応本人がどういう考えか聞くだけ聞きたいよね。
「……(嘘ついたり、建前だったりするのかも知れないけど)」
私はすっかり話を聞き入ってしまう中、今回の目的を思い出す。
この[パーストポータル]は既に起きたこの事に
どういう意図があったのか伝える事だと推測する。
勿論、それは各々の解釈次第で受け取り方は違うだろうし
その後に起こせる行動も限りがあるけどね。知って欲しいのかな?
この過去の人達……いや、“事象自体”がなんてのはロマン過ぎるかな。
「では難しい方から。結局、単純に奴隷や捕虜となると
数の確保が難しい上に環境を整えるのも大変です。
まして、少数の実験をしてもそれは個体の〘強化〙であって
種族的な〘進化〙とは違います。育成環境、継続性が重要ですので」
「私達は奴隷としては珍しい上に高いですからな。
戦い奪うとなっても無傷、無血とはいきますまい」
「ええ。まして、そんな方法では実験の運用で反発もありますし
いざ成功しても、実験体に裏切られたら意味がない」
「……(あ、このお兄ちゃん性質悪いぞ☆)」
やばいな、ロシカさん。おそらく、創作物とかである
マッド博士の典型的失敗例とかそもそも前提として間違ってる点を
しっかり埋めに来てるぞ。まぁ、そっか。数人強くしたところで
結局、その強化したエルフ達が死んじゃったりしたら終わりだし
言うこと聞かなかったら返り討ちにされちゃうもんね。
此処で洗脳とか命令を聞かせるアイテムとかの手段を取らないんだ。
取れないからって可能性は捨てないけど、多分それはどーでもいいことなんだ。
「簡単な話の方は何より私としてはこの実験の大義はあれど
生き方全てをコレに費やすべきでは無いと考えます。
老若男女、エルフだろうと人間だろうとね?」
「……ふぅむ」
「奴隷や捕虜でその子の人生を全てこの実験の礎にする。
そんな人生は悲しいし、私はさせたくありません。
あくまで事業の一つに留めたいのです。
その為にはまず、きちんと話し合って信頼を築いていきたい」
改めて思う。このお兄ちゃんは凄い。
めっちゃ善人じゃん!? そして、相手のことを考えている。
ロシカさんは“やろうとしている事”に振り回されていない。
焦ってもいないが妥協もしない。確実に思い描いた通りの為に
しっかり、考えてこの場に来ているんだ。
「……(そういう意味で、シトモさんは今、凄い決断を強いられているだね)」
恐らく、この決断はこの人の里の存亡にまで十分及ぶし
事業としては肝になる……が、それに注力をさせられない。
単純に負担も責任も増えつつ、今までの日常を維持する。
うわぁ、考えるだけで胃がキリキリしそうだよ。
信頼と実績の担保はきっとシトモさんの見てきた世界と人の中で
誰よりも差し出している。しかし、手を出していいものなのか。
「今までの言葉が真であるなら信頼できる方に思えます。
無論、このままそれを素直に受け止められ賭けられる程に
私はこの里を軽く見てはおりません。まぁ、故郷ですので」
「実に結構、そう有るべきですし、私は今まで話して
貴方が紳士かつ慎重に受け止めている様は実に好印象です」
ロシカさんは笑う。シトモさんも苦笑い気味にその笑みを返す。
女性陣二人は冷めきっていると言うよりもロシカさんへ
全て託しているのだろう。彼が駄目なら自分たちでは話にならない。
ふたりとも静かにことの成り行きを見守り始めた。
「私達の里を選んだ理由をお聞かせ願いたい」
「まず、大き過ぎて拡張的野心が強い里はそのまま強兵化を進める。
小さく困窮している里はこの実験に全てを捧げてしまう」
「でしょうな。飛び付く里は必ず居るでしょう」
「特に問題も起きておらず戦準備もしていない。
冬は越せるが来年の冬の為に余力と準備を進められる里。
大変良い統治を為さっております」
「皆、よく働いてくれているのと大地の恵みです。
私は凡庸な田舎者に過ぎませんよ」
二人の話し合いは続けられる。外堀を埋めているのか
埋められて欲しいから確認をしているのかもう解らない。
ロシカさんは頭の中である程度の質問を想定して準備している。
シトモさんもそれが解っていながら確認事項を引き出している。
世辞ではない本心の賛辞に僅かに顔が綻ぶがすぐに真顔に戻る。
「この実験は安全なのですか? やはり、その」
「はい。この実験には命の危険はあります。
全てが最初から上手く行くとは限りません」
「でしょうね」
「だからこそ信頼関係が必要なのです。
身体の不調は勿論、心理的影響も包み隠さず相談出来る関係性。
不安や恐れで精神的に崩れぬ様にしっかりと故郷は身近であって欲しい。
そうでなければ、続けられないでしょうし、やらせる気はありませんよ」
神様ってのが居たらこのお兄ちゃんになんて業を背負わせてるんだ。
気付いてしまったんだね。危険性も、可能性も色んな未来も、起きる不幸も。
たまたま、一介の学者さんが気付いたら墓まで持っていくか
あるいは悪用したり、されたりしていたかも知れない。
この人が此処まで拘るのは自分が出来ると目算が立っているのだ。
そして、やるからにはやりきる覚悟を持っている。
「父上、お話聞かせて頂きました!」
「に、兄さん、入っちゃ!?」
「これ! 客人の前で!」
私の関心を蹴り倒す様に扉は勢いよく扉が開かれる。
書割の部屋の外の景色からべりっと剥がれて膨らむ様に現れる少年エルフ。
なんというか、眩しい。健康的で体躯も良く、歯も真っ白だ。
このままスポーツ漫画の主人公やれるんじゃないかって顔をしている。
その後ろには服の裾を引っ張る様に後ろでは背の低い幼い少年エルフが居た。
押しの弱そうでなんだかおどおどしている様子は実に庇護欲をそそられる。
後ろの子の方が好みかな? ……って、違う!
「父上! 里の子達とこの御方に協力しましょう!
エルフのこの地に生まれ落ちてからの呪縛から逃れ
永年の悲願が果たされるのです!」
「お前はまだ子供だろう! 軽々しく言うんじゃない!」
「ええ、ですから口だけではありません。私も参加します」
「兄さん!?」
ふんすっと鼻息荒く胸を張る少年エルフ。
ドコか既視感を感じられるが、それよりも勢いが凄い。
それよりも悲願? そう言えば、ロシカさんも最初の方で
長年のなんたらとか言ってたよね。そして、親子喧嘩勃発。
ああ、眩しいな少年エルフ君、マジで眩しいな。
きっと希望や活路を見出してしまったんだろう。
思わず、その熱血青春的な勢いに甘酸っぱさを感じてしまう。
「ありがとうございます。興味持って頂いた事は嬉しい上に
やはり、いざ実際に身を投じる方の意気込みがあるのは実に良い」
「いえ、私も盗み聞きとは言え、ロシカ様の人柄に惹かれました!
外の御方でこれ程までに礼儀と慈悲に溢れた方を見たことがありません!」
「に、兄さんってそんなに森出たこと無いでしょ」
よし、このエルフのお兄ちゃんもなんか駄目だな!
第四十八歩「心臓があったら止まってた」へ続く




