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第四十六歩「賢者の依頼」

「……(し、システムさーーーーーーん!? どうなってんの!?)」


【[レガシーピース]から得られる過去の再現の始めから再生しています。

 ソレ以前の会話情報はありません】


「……(解った! けど、ええええっ!?)」


 ええいぃっ!? 話の途中だから訳が分からん。

この若者が子供を実験台にする為に交渉? いや、待て待て。

これって交渉するもんなのか? ドコをどう脅しつけるか

好条件出せば、首を縦に振るんだ!? むしろ、振らせる気なのか!?

この初老のおじ様が所属するコミュニティーはそんなに困窮してるの?

飢饉中か迫害でもされてるの? くっ、兎にも角にも話を聞こうか!

子供がピンチだ。主に私としては男の子がピンチだというのが重要だ!


「……もし貴方が名乗った通り、生きた伝説とまで言われた

 大賢者ロシカ・フィネーク様だとしても

 我々には理解が及ばぬ言葉になります。子供を差し出せなど」

「ご心配なく、虚偽はありません。

 そして、私は戯言を言いに来た訳ではありません。

 シトモ殿、コレは誰かが為さねばならぬ事なのです」

「……お話をもう少しお聞きかせ下さい」


 初老のおじ様の困惑も事情を聞けば、私も十分に共感できた。

出てきた新ワードにはちょっとびっくりしたがこの若者は凄い人っぽい。

大賢者って言うんだから、えーとノーベル賞取った学者位の勢いか?

まぁ、そんな人がいきなり考えもなしに言うとも思えない。

ただ、それでも内容がかなりショッキングだ。


 取り敢えず、名前を一致させよう。

この初老のおじ様の名はシトモさんでエルフの里の長っぽい?

んで、このお肌ガサガサのお兄ちゃんがロシカさんで偉い学者さんっぽい。

実績が他種族に伝わっているって事はかなりの偉業を為したんじゃないかな?

シトモさんが謙っているのが何よりの証拠だ。

普通の人じゃ此処まで話聞いて貰えないよ、ほんと。


「私も人間の身ではありますが、貴方達の事はそれなりに学ばせて頂きました。

 自然と調和し森や湖、様々な秘境で暮らし独自の文化と力を得ている」

「……はい。一般的なエルフへの見解で相違はありません」

「あなた方の適応力と言いますかそういった力は凄まじい。

 正に大自然の神秘を体現している。そして、今回その奇跡の一端を」

「そのロシカ様……ええと」

「ロシカ。詩情的に賛辞を送るのは後で良いでしょう。

 今はシトモ氏への誤解を解くのが先決です」


 今からミュージカルが始まるんじゃないかって勢いで

ロシカさんは立ち上がり、歌い上げる様な賛辞を告げる。

お、喪服の女の人が突っ込みに入り、ぐいっと彼のローブを引っ張る。

成る程、ロシカさんがボケで彼女がツッコミか。私、覚えた。

こほんっと咳払いをしてロシカさんは座り直す。

オブラートに包んで評するならば意外と情熱的な方の様だ。

そして、髪色に反して冷静そうだなこの女の人。


「ああ、失礼を。焦らしている訳ではありません。

 ただ、それを裏付け、さらなる可能性を感じる事がありましてね」

「可能性……ですか?」

「そうです。ま、実物を見て頂きましょう。

 シィナ、すまないがシトモさんに姿を見せてくれ」

「解リマシタ」


 二人が並んで座る中、後ろで立っていた長細いローブの人が

フードとローブを外す。その人は高めの襟をあしらえた

アジア系の民族衣装のアオザイに近い作りをした

シンプルな柄の衣装を着込んでいた。胸はそこそこあるが

スレンダーさの方が印象として強く残ってしまう。

太もも辺りにはスリットはあるが下はズボンを履いており

装飾品は一切ないが身軽そうだ。


「……(おぅ、なんか細いな)」


 そう、服装だけならちょっとアジアンチックを

滲ませる感じではあったが端的に体の特徴を言うなら

“縦に長い”


 そんな印象だ。顔もやや頬はコケており、眼は糸目の様に細い。

手足のバランスもドコか私に近く胴に比べて長く

加えて手の甲、足の甲が縦に長い。足元はサンダルなのか

薄い革のモノをヒモでくくりつけており、手も同じく手の平が

滑らぬ様に革をヒモで括り付けている。

なんか、スタイルのシルエットだけ見たらエジプトの壁画みたいな人だ。


「彼女を見てどう思います?」

「お嬢さんでしょうか? ……あまり見たことがない種族の方ですね」

「成る程。シィナ、自己紹介を」

「初メマシテ。シィナ・ツィーベッドト申シマス。東国ノ地ニ産マレ

 今ハロシカ様ノオ手伝イヲサセテ頂イテオリマス」

「なっ!?」


 口を開いたシィナと名乗る女性はなんだか片言みたいな

妙なイントネーションで話し始めた。訛りが酷いって言えば良いのかな?

コレは此処の里のエルフ達の言語に近いの感じがした。

私は傍で聞いていてぼんやりそう思っていたがシトモさんは

それよりも強い驚嘆の表情をしていた。なんで驚いてるんだろう?


「完璧な〘古代エルフ語〙の発音ですね。祖母の話し方の様です。

 他種族の方で此処まで上手く話すことは出来ません。

どうしても発音的に難しいのが何箇所かありましたが」

「当然ですよ。彼女の親はあなた方と同じ〘フォレスト・エルフ〙です」

「えっ!? そんな馬鹿な? あまりにも姿が」


 多分、シトモさんは自分と同じ〘フォレスト・エルフ〙という点で

驚いたのだろう。イケヅキ君達みたいなあの森のエルフとは違って

こっちのシトモさん達の方がスタンダートなんだろうか?

まぁ、そんなファンタジー常識の話は置いといてだ。


「ああ、失礼。彼女72歳の乙女なのでご配慮を」

「むっ、そんなお若い。失礼を」

「イエ、大丈夫デス。慣レテイマス」

「……(マジで?)」


 そう、こっちだこっち。72歳で乙女なのかそうなのか。

しかも若いって言われてるぞ。こっちに私は驚いてしまった。

72でこんな張りのあるお肌ってエルフってほんと半端ないな。

おぅ、触ろうとしたらずるっと身体の中に指が入ってしまった。

本当に立体映像なんだね。触感も温度も感じないよ。


「私から説明致します。彼女は両親共に〘フォレスト・エルフ〙です。

 魔術的な改造や後天的な疾患、呪い等がある訳ではありません」

「むぅ、しかし」

「これを御覧ください。私の故郷で過去、西国の地方から輸入された

 〈竹〉と呼ばれる植物です」

「〈竹〉……ですか? 確かにここいらでは見ませんが」


 さっきツッコミをいれたきり、黙っていた女性が話を始める。

淡々とした話し方と共に鞄の中から細い〘竹〙の枝と切られた幹を出す。

うん、学術的に差異はあるかも知れないが漢字と見た目が一致している。

完全に春に筍として出てきて緑で中が空洞の硬い幹の〘竹〙だ。

まぁ、あんましヨーロッパで見るイメージはないが

エルフの人から見てもやっぱり珍しい植物の様だ。


「はい。彼女は私の故郷でこの〘竹〙を植樹し、量産していました。

 その際に戦争難民だった〘フォレスト・エルフ〙の方々に

 入植と同時にご協力頂いた村落があり、彼女はその村の出身なのです」

「戦争と言うとざっと数百年前? いや、地域はしょっちゅうやってますが」


 ちょっと気になる事柄が何個か出てきた。

まず、戦争が多い地域があるらしくそれが数百年続いている事。

そして、この地域では珍しい〘竹〙を人工的に群生させていたと。

確か竹ってかなり生命力がある方でコンクリートとかぶち破って

平気で生えていくって情報の記憶はある。

そのイメージからか一度定着したら一気に増えそうだ。

なんだかこうエルフだ戦争だなんだって話の流れで

〘竹〙をぶっ込まれるのは中々違和感を感じさせる。


「ええ、痛ましいことです。そして、その村落で数名の

 〘フォレスト・エルフ〙がこの様な姿で生まれました」

「本来、人格的には問題がありませんが姿が姿ですのでね?

 僕が保護し、別の〘竹〙の森林を作って保護しています。

 すると次世代の子はほぼ全て彼女と同じ姿になりました。

 もはや別種族ということで彼女たちは〘バンブー・エルフ〙と呼ばれています」

「言葉だけですと、とても信じられませんが」

「……(確かにねー)」


 思わず私も納得してしまう。目の前のシィナさんとシトモさんが

同じ種族と言われても私はとてもじゃないが信じられない。

シトモさんだって〘古代エルフ語〙の訛りが無ければ

信じられなかったのだろう。今、このロシカさんがオブラートに包んでいるが

この姿で実際に産まれて育ってきたら、そりゃ皆びっくりだし

色々と軋轢と言うかどう考えても問題が起きるのが解る。

そういう意味でロシカさんは良い人? 少なくともシィナさんは

こうやって72歳まで生きて、付き従っているというのが証拠かな?


「さて、本題です。私はこの経緯から一つの仮定に到達しました。

 生命は環境や状況に適応する存在です。私達人間も貴方達エルフも

 各々の生活環境の中で性質や道具、環境などを整備し、追求している」

「失礼ながら、そのご意見はそちらの信仰に反するのでは?」

「あはは。まぁ、それはそれで置いときましょう。

 つまり、彼女もまた〘竹〙の育成栽培と共に環境に適応したエルフの

 一つの姿という事だと思うのです。生憎、人間はそこまで即応出来ませんが

 あなた方エルフはわずか1~2世代で完璧に順応してみせた」

「ロシカは学術的にこの状況を〘進化〙と言う言葉に規定しました。

 進んで化けると書きます」


 嬉しそうに語るロシカさんに緊張した面持ちで水を差すシトモさん。

あー、そっか。時代とか宗教とか絡んでくると科学的に正しいってのも

言えない場合もあるのか。まぁ、此処までぶっ飛んでると

信じられないし、病気やら呪いやらと片付けられてしまうが

このロシカさんはある意味科学的にこの事態を見ているのだろう。

なんか、この人は思考がちょっと現代に近いのかな?


「その……私はあくまで里の長であり、学者の方の考えた事を

 どうこう言える立場ではありませんが、いざ実物を見せられると」

「そう。別に彼女たちは特別な事をしておりません。

 ただ、〘竹〙を育て、生活に使い、食していただけ。

〘竹〙という植物を育成する為に〘進化〙をしたのです」

「ふむ。それで最初のご依頼に繋がる訳です……か」


 シトモさんは困惑の表情のまま受け止められていない。

当然といえば当然か。里の長と言っていたから普通に村の顔役程度で

特段学問をってノリじゃないだろう。まして、勉学機会の格差なんて

地域や時代によってはほんと大きいんじゃないかな?

文字通り、二人は魔法使いの様に見えて当然だろうし

実際にそういう扱いなのだろう。

その困惑に対して目の前のシィナさんという存在は大きい。

だって、目の前に居るんだから否定なんて出来ないもんね。

そして、いよいよ本題か。今までの流れ的に嫌な予感しかしないよ?


「そう、つまりあなた方エルフを幼少時から魔力や毒物などで

負荷を与え続けて育成していけば、それに身体が順応し

人工的に〘進化〙させられるのではないか?」

「その為に我々に協力して欲しいと」

「ええ、あなた方にもこれは好機です。

 長年の課題を克服出来るかも知れませんよ?」


 ああ、やっぱマッドな方向に行っちゃうのね、そうなのね。

              第四十七歩「破滅への選択」へ続く

〈竹〉[植物]

現実世界ではアジア原産のイメージがあるが実は

樺太やアフリカ中部など比較的多くの地域で群生する植物。

ササと呼ばれる細く短いタイプの物とタケと呼ばれる長く太く育つタイプの物があり

話の中では混同されているが大体は太く長いタケのタイプの認識で構わない。


硬さと柔軟性を備え、中空の幹の性質から健在から道具まで多種多様な用途に用いられる。

この世界においては現実世界に見られない植物等は多く有るが

逆に現実世界で見られる物はよほど変わった名称や逸話が無い限り、同一の物と見て間違いない。

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