第四十四歩「過失か冤罪か」
はい、居た堪れない視線の集中砲火です。ヒソヒソ声が怖いです。
聞き取りたい、聞き取れない方がいいジレンマです。
むしろ、先日の石の矢のハリネズミの方が良かったよ!
何だよ、コレ! 私が変態さんみたいじゃないか!?
「マ、ソウイウ性質ナラ仕方アルマイ。
元ハ子供ノ親族ヲ失ッタ亡霊ノ可能性モアル」
「ぽぽぽっぽぽっぽぽぽぽっ(その路線でお願いします)」
「ヨシ、次ジャ。イケヅキ、コッチへ」
族長さんにフォローを貰うが視線の痛々しさは変わらない。
うう、やっぱ物珍しさもあってなのかな?
ああ、其処のお祖母さん? お孫さんの目を隠さなくてもいいよ。
そんな見てどうこう……なるよ!? なっちゃうよ!
むしろ、なっちゃってたよ!? うう、自己弁護すら出来ないよ。
私が精神状態が壊滅している中、人混みから一人の少年が
肩を借りたまま付き添われて出て来る。一昨日逢ったエルフ君かな?
最初のスキル誤発動の被害者だったのだが
密度の濃い昨日の出来事のおかげで、顔と記憶が一致出来るか大変怪しい。
多分、そうだと思うが意外とエルフも子供だと区別付か無いなぁ。
まぁ、実際、人間同士だってパッと見ただけで
他の国の人種を区別しろってのも難しいよーな記憶の感覚がある。
「ぽぽっ。ぽぽぽっ?(どもぉ。大丈夫?)」
「イケヅキ、先日見タノハ、コノオ嬢チャンデ間違イ無イカ?」
「……はい。多分、このえーと人? ええと、この個体だと思います」
「ふむ」
『個体』。そのワードが意外と心に来るものがあった。
そうか、単純にただの人間やらエルフみたいな亜人種とかは
そのくくりで見るなら一人二人なんだけど、私はそれすら入れない様だ。
ま、まぁうん。仕方ない。なんか、変なスキル一杯あるし
でっかいし、血も無いし、すぐ再生するし……うむ。
私は一応頭では納得しているのだが、どうにも瞳が揺れたり
動揺が全く隠せていない様子を見せている。
隠し方なんて解る訳もなく、族長さんの横目の視線すら
気にしてられない。うう、慣れないといけないんだけどねぇ。
「……(子供に言われるとやっぱ凹むなぁ~)」
「落チ込ンデル所スマナイガ、イケヅキ、傷ヲ見セテヤレ」
「はい。失礼します」
そう言って、促されると包帯を撒いていた腕を外しているエルフの少年。
ああ、えーと名前で認識しないとね。イケヅキ君か。
なんだか、意外と和風な名前に聞こえるがたまたまかな?
まぁ、本来はもっと違う発音なのかも知れないが私の耳では
カタカナ四文字で認識される。下手すると漢字変換されそうだ。
で、そのイケヅキ君なのだがそれを解かれた瞬間
私は思わず口元を手で隠してしまう。
我ながらポーカーフェイスも何も無いがまぁそれはいいや。
そこには黒くにじみぼやけた入れ墨みたいに
掴まれた手の痕と其処からヒビが入っていく様な線が入っていた。
線は何やら上から塗られた白い粉でうっすらと白くなっていたが
黒い部分は本当に墨か元々の肌の色の様に真っ黒だ。
「……(こ、これって?)」
「ソノ様子。演技デモナイナラ無自覚ノ様ジャナ」
「具合としてはその最初は熱が出ましたが今は大丈夫です」
「フム……一応聞クガ。治セルカ?」
私はじっとその黒い部分を眺めるがその後、首を左右に振る。
解らない。おそらくスキルを誤爆させた後、見えた黒い部分が
コレなんだろう。しかし、魚や木に対したり、グリフォンや水龍にも
同じ様にスキルは使ったがこんな状態になった様には見えなかった。
むむ、これは不味いとかそう理性的打算を思い付く前に私の思考は切り替わる。
男の子が大変ってのがもう大変ですよ、マジで!!!!
「ぽっ? ぽぽっぽぽぽっ? ぽぽっ?(え? これ大丈夫? 痛くない?)」
「落チ着ケ」
「ぽぽっ、ぽぽぽっ!?(だって、真っ黒だよ!?)」
「イヤ、ダカラオ嬢チャンニ――」
「(ぽぽぽっ、ぽぽっぽぽっぽぽぽっぽっ!? ぽぽっ、ぽぽぽぽっぽぽっ!?
(わわわっ、ごごごめんなさいだよぅ!? ごめん、解かんないよぅ!?)」
「〘霊話〙デ……イヤ、大体解ルカノ」
思わず、触ってしまいそうになっている私の手を慌てて引っ込める。
私は闇雲言葉を並べ立てつつも半分パニックみたいな状態になっていた。
〘八尺様〙はどうにも水に浸かったり髪を洗ったりすると
ああいう真っ黒い何かが染み出していたのは覚えている。
ということはそれがイケヅキ君に入ったって事?
え、それって大丈夫なの? 悪影響モロにありそうじゃない?
私はペコペコと頭を下げて、慌てふためいている様子を見兼ねた
族長さんは制止させようとする。
私のパニックっぷりに周りのエルフの警戒度が上がっている。
まぁ、怖いよねぇ。ただでさえ、よくわかんないのに傷だか痕だかが残るって
そりゃぁ危険視される訳だし、周りのエルフの視線もこうなるわな。
「イケヅキ、アリガトウノ。ウーン、オ嬢チャンハ無自覚ノ様ジャナ」
「コノ個体ハヤハリ危険デハ? 退治シナイノデ?」
「ぽぽっ!?(ええっ!?)」
「イヤ、下手ニ滅シテ呪イガ強クナッタリシタラ面倒ジャカラノ」
一部の大人のエルフの排除論に思いっきり震えてしまうが
リトモさんはすぐにその意見を打ち消す。うう、まるで病原菌扱いか。
結構辛いが、実害が出てしまっている時点で仕方ない。
むしろ、イケヅキ君の体調やその後がどうなるかの方が
私としては気になって仕方ない。たまたま、彼だけなのか
それともココのエルフを触るとそうなるのか
スキルを使うと誰でもこうなるのか。相変わらず私は解らない事だらけだ。
「ウム。解ランナラ、確カメルカ。ワシガ試シテ見ル」
「族長!?」
「ソレハ危険デハ?」
「コウヤッテ良ク解ランママイケヅキガ悪化シテモ仕方ナイ。
他ノ誰ゾニヤラセテモノ仕方ナイ。コウイウノハ爺ノ役目ジャテ」
リトモさんの提案にエルフ達の数名は駆け寄って説得に入る。
この人、私に逢って引き連れる時もそうだったけど、身体張るよねー。
お年寄りって保守的で若いモノに試させるってイメージがあったけど
案外この人が率先してぐいぐい行っている印象がある。
私は大人のエルフ達の相談の結果、リトモさんが身体を張る様だ。
「ト言ウ事デオ嬢チャン。ワシノ左腕、掴ンデ見テクレ」
「……ぽっ、ぽぽぽっ(では、失礼します)」
リトモさんはそう言って袖をめくっては私へ左腕を差し出してくる。
皺の刻まれているが程よく筋肉が乗っている為
とても老人のものには見えない。たくましい鍛えられた腕だ。
こんなのと殴り合ってたのかあのエルフのお姉ちゃん。
私は最初は困惑した様子を見せるが数度リトモさんの頷きに
応える様に恐る恐る彼の腕を掴もうとする。
怖い、これで真っ黒になっていたら私、もう誰も触れないよ?
目をつむって、震えながらも私はその腕を掴んだ。
ほんっと眼が開けられない。これでリトモさんに何かあったらどうしよう!?
「……フム。大丈夫ジャ」
「ぽっぽっ?(ほんと?)」
「皆モ見ヨ。少ナクトモ、触ッタダケデハ何モナイ」
リトモさんは左腕を掲げて他のエルフたちに見せる。
その真っ白い肌を見て、一同の警戒は緩んだがすぐに空気は戻る。
取り敢えず、老人や大人相手には触っても影響はないかな?
私はひとまず安心を僅かに感じる。後、怖いのはスキルの影響で
少年を触ったら影響が出るのかとスキルの使用次第か。
うーん、実際に魚とか木は枯れちゃったから解らないし
グリフォンさんは羽毛とか体毛があったから
正確に皮膚が変色するのかまでは確かめられてないか。
「デハ、オ嬢チャン。次ハスキルヲ使ッテミテクレ」
「ぽぽぽっ!?(マジでっ!?)」
「族長! 流石ニソレハ」
「影響ハ実体験スルノガ一番解リ易イジャロ。回復魔術ハ詠唱シトイテクレ」
このお爺ちゃんマジでアグレッシブだな、おい。
今度はスキルの実験体まで申し出されてしまった。
まぁ、一番偉い人が影響と結果を担保してくれるというのは助かるけど
ええと、システムさーん。スキルの出力調整ってのは出来るのー?
流石にそれで族長さん倒れちゃったら怖いよ。
【スキルの威力の調整、制限を設定する機能はありません。
スキルは精神力や使用魔力、体調によって威力の変動がある為
それらの意識化のコントロールによる強弱を付けることは可能です】
「……(お、つまり私のやる気で加減出来るんだね!)」
「ヤレルカノ?」
「ぽぽっ。ぽぽぽっ(うん。やってみる)」
これは結構知っといて良かった情報かも知れない。
流石に毎回フルパワーでぶっ放すというのは怖いし暴発以外では
こっちで加減が出来るのか。リトモさんの確認の視線に
頷きで私は応え、手枷の嵌められた手を差し出し再び掴む。
「……(スキル発動! よわーく、よわーくだよ)」
【〘魂削りの愛撫〙を発動します】
「ムッ。来オッタ」
スキルの発動と共にリトモさんから僅かにだがスキルによって
胃袋の方へと栄養が送られてくる感覚が来た。
味は……正直、悪い。煮詰めた甘辛いお醤油をビタビタに浸した
ふやけたおせんべいみたいな感じがする。おまけにちょっと焦げた様な
苦味もあるしで、とても良いとは言えない味と食感ではある。
「……(って、食レポしてる場合じゃねぇ!?)」
「族長!? 大丈夫カ?」
「フム。ナルホド……ット、大体解ッタ」
そう言ってリトモさんの手を引くと其処にはうっすらと
手形を包んだ様な黒い痕が残っていた。アレ、コレやばくない!?
やっぱり、私のスキルが原因なのかな?
これは私、普通に退治されちゃうんじゃない?
私は瞳を揺らしつつもおどおどと自分の今後を気にしていると
リトモさんはそっと袖を戻して離れていく。
「オ嬢チャンハスキルヲ使ワン限リ多分、無害ジャロ。
イケヅキ、スマンガマタ小屋ニ連レテッテクレ。
年寄リト家長連中ダケ残ッテ各々仕事ニ戻レ」
「は、はい。ではえーと……こっちへ」
そう、リトモさんはその痕に何も言及する事はなく
その場を解散させてしまった。てっきり、私に何か言われるかと思ったが
そのまま、イケヅキ君に案内されてさっきの小屋へと促される。
どうしてだろう? 騒ぐまではいかなくても警戒はされると思ったのに。
そんな疑問を差し挟む間も与えずにシステムさんの声が頭に響いた。
【[パーストポータル]〘隠蔽されし森人の罪〙が開放されました。
[レガシーピース]〘賢者の依頼〙を取得しました】
む、遂に来たか。これ、つまり此処のエルフに関わる事なのかな?
第四十五歩「過去への入り口」に続く
[レガシーピース]運用概要
続いて、[パーストポータル]へのアクセスキーとなる[レガシーピース]の運用に移る。
[レガシーピース]はあくまで対象に積極的かつ興味を持たせる方向に
配置、配布される事を念頭とする。試練や選別を行うモノではないので
取得の難易度や条件を厳しくしてはいけないが、闇雲に情報を与え過ぎて
混乱と恐れを誘発してはならない。
取得手段は関係人物との戦闘勝利でもよいが、戦闘獲得のみを強いてはいけない。
会話やスキル、体験の他システム側での独自取得機会も認可されるべきである。
この世界に関わる事と過去への興味も含めて全ては対象の行動の後押しに徹しなければならない。




