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踏み出す前の踏み外し「認めたくないモノ」

「ってぇめえぇえええこんちくしょぅがあああああ!!!!」


 マウス発艦! トラ・トラ・トラ! 我、怒髪天を衝く!

私の大ぶりのオーバースローにより私の十三代目PC用無線マウス

『シュレディンガー 十三世』が自室の壁へと激突する。

プラスティックの砕ける音と小さい落下音。

そこそこ愛用していた彼は同シリーズにおいては中々に長寿だった。

後に彼は私のダンボール製の『シュレディンガーの箱』に

埋葬されることだろう。この箱は大変便利だ。

まだ、使えるのか、それとも壊れたか、確かめる事なく箱に入れるので

私が壊したのか、セーフだったのかの結果が曖昧になる。


「こんんぉぉっクソがぁあ! きぃっ、SNSも炎上してるか!?」


 『シュレディンガー 十三世』は比較的長い生存期間を誇っていた。

それもこれも、この私がドハマリしているゲームのおかげであり

アニメ化の報を受けて最近は大変ご機嫌な日々だったからだ。

誠に遺憾ながら今、この瞬間終わったけどね、クソがぁ!


 さて、私が何故こんなに怒っているのかは理由がある。

私は今、アニメの放映を見ていた。

動画サイトなのでヘッドフォンとPCモニターによる視聴だ。

正直、テレビだったら画面を蹴り破っていた可能性もあるので

結果論としてはコラテラル・ダメージが抑えられた。

『シュレディンガー十三世』とTVでは値段が段違い過ぎる。

命の価値は等しくとも備品の価値はお値段通りだ。

しかして、今の私の怒りは吐き出してビームに変換出来たら

国会議事堂を融解させ、内閣を総辞職させる自信がある。


「なんで、なんでだよぅっ!? あの子が何をしたっていうんだよぅ!

 レアリティか! レアリティ低いのが悪いのくぁ!」


 そう、そのアニメにおいて私のお気に入りの子が三話で死んだ。

慌てて、私はアプリを立ち上げて、クライアントデータ内での生存を確認。

マジで泣いた。良かった、あの子は私と一緒に生きていた。

そして、怒りの矛先はSNSを通して、プロデューサーに向けるが

既に炎上は都会の深夜視聴組に起こされており

数時間後に放映された動画サイトでの視聴をした私は一歩出遅れていた。

ちっ、あの野郎ぅ既にアカウント削除してやがる。

楽しみにし過ぎて諸々の情報遮断をしていた事が裏目に出てしまった。


「……はぁ、なんでだよ。もう酒でも飲もう。明日休みで良かったぁ」


 ヘッドフォンを外して立ち上がる。キッチンへ向かい冷蔵庫から

牛乳と酒瓶を取り出す。コーヒーリキュールと抹茶リキュール!

ええい、キャラメルリキュール! オマエも来るんだよ!

今夜はお前らと飲み明かすぞ、こんちくしょう。

グラスをマドラーに突っ込んで私はPCの前へと戻る。


「かぁ、全くさぁ。アニメなら良いよ。ゲームなら幾らでもデータも残るし。

 つーか、ゲームならあんな序盤で自機を失うなんてありえん!」


 私のお気に入りはゲームでは初期の方で手に入るショタっ子だ。

そりゃ、レアリティも低く誰でも手に入る。ただ、ちゃんと育てれば

きちんと前線でも戦えるし……はぁ、なんで戦うんだよ。

子供を戦わせるんじゃないよ、ばーかばーか。


 私は憂鬱な気分を溶かす様にグラスにリキュールを垂らし注いだ後

牛乳をぶち込んでいく。茶色の液体が牛乳の白に溶けて色を失っていく。

鼻先には甘い香りを運んでくれる。うん。やっぱお酒は甘いのがいいわぁ。


「そうだよ。男の子ってのはもっとこう甘くあるべきじゃない?

 女の子でも良いけど、女子としてはやっぱショタっ子が良い訳ですよ!」


 口の中に絡みつく様な甘みと酒の香りを流し込みながらも

髪を掻き揚げてどんよりとした思考を怠惰に垂れ流していく。

頭は不満と怒りとやるせなさが渦巻いていき、酒によってもたらされる

体の熱は逃げ場を失って怒りの気持ちに油を注いでいく。


「あー、そりゃ死人が出りゃネットが沸くよね。

 ドラマティックだもんね。多少、一部のファンが怒るけど

 ゲームでは生き残っているし、他の子のファンは他の子を見て楽しむし」


 この国においてヒーローは大抵、年端もいかない少年少女だ。

大人や両親は居なかったり出張だったり、死別したり

主人公に立ちはだかる理解のない壁だったり

終いには悪道、邪道に落ちた両親が敵だなんてパターンもある。

大人が大人である事を放棄したクズ共が多いがまぁソレは良い。

今、思いを馳せるべきは私のお気に入りちゃんだ。


「あの子はもっと笑える人生だったんだよ。別にモブでも良いのよ?

 主人公君達とさ、成長して、苦しい事で一緒に泣いて

 嬉しい事は一緒に笑って、それがさ、死んだらもう出来ないじゃん」


 問題は今、私が言った事だ。私のお気に入りのあの子は死んでしまった。

これから主人公たちは楽しく成長し、強敵と立ち向かい

レアリティの高い他の子達と一緒にハッピーエンドを迎える。

きっとあの子が出て来るのか今後、回想位だろう。

私は喪失感に溺れながらもクリーナー付きストラップを握りしめる。

私は部屋にポスターをがーんっと貼ったりとかはしていない。

まぁ、そもそもあのお気に入りの子はレアリティの低いから

他の子のセット位でしかグッズがない。だから、私の宝物は少ない。


「もっと子供ってのはさー。違うじゃん、ほんと!

 いい香りがして、生意気だったり、怖がりだったり

 全然思うようにいかなくて引っ掻き回されて、それでも愛しい!」


 まぁ、ゲームキャラなんてそういう感情を呼び起こす為に

色んな人達が考え、演じ、描写している訳だから現実とは違う。

だから、きっとそこまで愛される為の努力をして皆から愛されている。

模索と精錬の結果が彼ら達な訳で……ああ、やばい。

それをあっさりぶっ殺すなんてのはありえない!


「くっそ、私も子供が居たらめっちゃ可愛がるのに!

 ……ってまぁーそもそも作る相手も居ないんだけどね」


 私は自分の遺伝子を元にあんな可愛い子達が生まれてくるなんて

流石に思わない。取り違えを疑うし、DNA検査もちゃんとしないと

色々と不幸が起きそうである。そして、この発想は流石に自虐過ぎるぞ、私。


 ただ、それでも産まれてきたら、どんな子でもやっぱ愛おしいものだ。

その為の生活の日々を疲れちまったり、上手く行かなくなったりなんて

不幸は腐る程あるし、私が起こさない保証もない。

でも、だからこそ、私は頭の中の絵に描いた子供は愛したい。


「はぁ……まぁ仕方ないんだけどさ……なんで、なんでだよ」


 私は解らない訳でもないが解りたくない。子供が戦う創作達。

大人がなんとかしたり、きちんと責任を果たす作品も勿論存在する。

世界には実際に戦場を駆ける子どもたちも居るだろう。

そんな現実と戦う大人も居るだろう。現実に動ける人には頭が下がる。


「なんで戦わせるんだろう? ゲームにならないから?

 ロボットや変身ヒーローモノじゃないから玩具とか関係ないよね?」


少年少女は何故戦うのか。大人が不甲斐ないからか? 汚いからか?

大人の合理的な妥協を覆すための超パワーを与えられるからか?

海外や古い古典でも少年が頑張るのも勿論あるか。

ピーターパンとかも少年だったし、日本でも昔話や逸話だと

桃太郎だの牛若丸とかもある。大人連中が雑魚なのも問題か?


「ダメだ、考えがまとまんない。私も頭悪いしなぁ」


 私は酒に逃げる。子供が戦わなければならない。私が酔い潰れる間にも

少年少女たちは武器や魔法や超能力を駆使して悪い大人や敵をぶっ倒す。

痛快な娯楽劇で悪魔も神様も皆、ひれ伏してハッピーエンド。

途中で色々と死ぬが世界は平和になりましたとさ。


――なんでだよ。戦うなよ。戦わせるなよ。


 逃げろとか実際にむざむざなんか愛する人とかが殺されろとか

そういうのも嫌だけど、そもそも子供が戦わせなきゃならん状況が

駄目なんじゃないの? カードと玩具とゲームデータで世界危機陥るなよ!

まぁ、そういうのも販促的には必要なんだろうけど、死人出すなよ!


「ぐあー、ダメだ……私、もーダメだ。マスター二杯目、次は抹茶で。

 ヨロコンデー」


 きっとマスターはヨロコンデーとか言わない。居酒屋かよ。

そもそも、私はそーいうノリのお店行った事ねぇわ。

マドラーをガチャガチャと無造作に掻き回しながら

妄想エンジンのスイッチを入れて、軽く吹かしあげて見る。

ぽわーんっと浮かぶのは雑居ビル、店内は薄暗くてシックな音楽が

自動演奏のグランドピアノから流れてくる……と見せ掛けて実は有線。

自動演奏のピアノとか高いしメンテナンスとか大変だし

そもそもビルの中によく入ったなグランドピアノ。

上に運ぶのも店の中に入れるのも大変じゃね? クレーンで釣るの?


「無いかなぁ。ショタっ子がハーフパンツな燕尾服っぽいの着て

 カクテルとか作ってくれる大人な雰囲気のバーみたいな何か?

 ……風営法とか児童労働とか諸々に引っ掛かるわぁ!」


 寂しい私の独りノリツッコミ無双が空を切り、敵将を討ち取る。

むしろ、チキショーである……やばい、寒い。発想が寒い!

頭を振っては酔いを更にガン回して逝く。

そうだ、もっと楽しい事を考えよう。なんで、私がバーの入り口に

グランドピアノをぶち込む方策を考えたり

風営法やら諸々に怯えなきゃならんのだ。やらんわ! 求人出せんわ!

ショタっ子バーテンダーとかどうやったら来るんだよ!


「あー、あぁー、そーだそーだ! 今度のアレ! 流れたりしない?

 別にあの子とは関係無いよね? ……ぁー、けどショックとか余波がなぁ」


 私はPCのSNSを立ち上げる。悪いが酒が入ったまま

スマホのフリック操作とか無理だからね。予め酒が入る前に

剥いておいた『シュレディンガー 十四世』を接続する。

ずぶっと初めてを接続しちゃうんだぜ?

ふふ、こういう所だけは無駄に用意周到だぜ、私。

何せ、『シュレディンガー 十六世』まで家には控えているからな!


「ふむ……ああ、確認してるか。うん、大丈夫そーねーぇ。

 まだ、大分先だけど、今のうちに軽くランニングと靴ずれ起こさない位に

 慣れておかないとなぁ……うう、けど今日は良いや」


 ほっと胸を撫で下ろす。無い胸を撫で下ろす。悪いか、無いんだよ。

とりあえず、先の事は明日の私にレシーブ&アタックしておこう。

一人時間差攻撃だぞ明日の私。この今夜の私の一撃に耐えられるかな?

私は無駄に唇の端の口角を上げて、くいっと八重歯を見せる様に

凶悪な笑みを作っていく。苦労するの私だけどな。


「あー、もーいーやー。明日のログインボーナスもあるし、寝よ。

 もーチョー寝よ。もう、夢の中であの子にベロチューして

 頬撫でて、ケツ揉んで、太もも撫でて、慰めてあげよう❤

 最後は股間を――」


 ふと思う。仮に私が将来、記憶喪失とかになって

うっかり今の事だけを思い出したら、ぜってー認めたくないな、色々と。

               第四十二歩「消された既視感、見える既視感」に続く


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