第四十一歩「言霊を交じらせて」
「……(コレ、やばい展開じゃね?)」
「さて、お嬢ちゃん。ま、何はともあれじゃ」
取り囲んでいる少年エルフ達の手には白く輝く金属の武器が携えられている。
改めて近くで見るとほんと高そうだね。白金って言うかなんていうか
大事に使い込まれている家宝みたいな? 多分、時代が時代だから実用性も
考慮しての凄い武器なんだろなぁってのが素人目に見ても解る。
そんな中、リーダー格っぽい少年エルフが私を見上げながらも声を掛けてくる。
「多分、アレじゃな。〘霊話〙のやり方も知らんのじゃろう。
ちょっと、わしが今からやってみせるかの」
「族長!? 流石にこの手の類の奴にチャンネルを開くのは」
「どんな精神汚染や呪いを受けるか解らんぞ? 先日もそれで揉めたしの」
……なんか新しいワードが出て来た。れいわ、レイワ、〘霊話〙かな?
システムさーん、教えてくれない? ……んー。駄目か。
まぁ、これはこの自称族長の少年エルフ君の指示に従ってみよう。
もう、まな板の上の鯉みたいなもんだし、何かコミュニケーションを
試みてくれているのは逆にありがたい。
私はその子に対して解りやすく頭を数度、頷いて見せる。
「ま、一応その手の状態異常の呼ぼう魔術もコレもあるしの。
何より先日と良い、さっきの英霊殿の対応といい
積極的に他人を傷つけるタイプでも無さそうじゃしな。
ま、いざとなったら頼むぞ」
「族長、そんな悠長な」
「逆じゃ、今の内にやっとかんと色々と後が怖いからの。
ほれ、行くぞお嬢ちゃん。聞こえたら、それっぽい返事をせい」
多少、少年エルフ達の間で揉めている様子が見える。
ああ、そっか。一応、私が正体不明ってのもあるんだけど
この子達はこの子達で警戒すべき前例ってのがいるのか。
普通の背のでっかい女の子でーすって訳には私もいかないもんね。
そして、少年エルフ君が目を瞑って念じ始める。
すると頭に何やらこーんっとアルミの空鍋を叩いた様な音が聞こえる。
私もそれに集中する為に目を閉じる。段々とそのこーんって音が大きくなる。
徐々に大きくなった音は段々と形というか波形の様なイメージを与えてくる。
そして、その音の形は私の脳内に、言葉を刻む。
『ワシノ』 『言葉』 『解ル』 『可能カ?』
そう、声は聞こえない。脳裏にその文字のイメージがずらっと並べられる。
多分、言葉の意味をボンボンっと並べられて脳内の記憶に直結させているって
言えば良いのかな? 会話と言うよりも辞書に指を指されている様な感じがする。
私はこくこくと小刻みに頭を上下させる。
最悪、相槌の文化は無くても言葉が見えているのは解るだろう。
「お……上手く行ったの。やっぱり話自体は聞こえてるよーじゃ」
「なるほど。まぁ、表情で時折それらしいのは見えたが」
「うーん、となると生前はエルフ……いや、別種じゃな?
耳も人間みたいじゃし、やはり巨人の血筋かの?」
「感情の機微を感じ取っているのやも知れんの」
以前のエルフの老人達の会話と違い、少年エルフ達の議論は
かなり意味が解りやすい。もしかすると老人達もこの位の話し合いは
していたのかも知れないが、そもそも会話が片言に聞こえていたので
私が理解出来なかっただけかも知れない。
そして、私が相手の言っている事が解っていると言う理解は
話し合う事に対してかなりの歩み寄りだと思う。
私は密かに拳を握って手応えを噛み締めていた。
「よし、お嬢ちゃん。わしに向かってこうアレじゃ。
言葉を話すと言うよりも単語を念じてぶつけてみるのじゃ。
例えば、こういう風にの?」
「……(お、おおぅっ?!)」
先程と同じく族長と呼ばれていた少年エルフは
再び私に向かって、瞼を閉じては念じてくる。
浮かび上がって来る文字は段々と慣れてきて具体的に感じられた。
途中、音だけしか聞こえないのは固有名詞だろう。
えーと、改めて整理し直すとだいたいこんな感じか。
『ワシ』 『名前』 『リトモ』 『オマエ』 『名前』 『何?』
リトモ君と言うのかな? しかし、君付けで良いのだろうか。
エルフって長命だろうし、下手すると私より年上な可能性もあるんだよね。
まぁ、ソレ言ったらコアタルちゃんもその可能性はあったか。
なんだか、この子達は全員年寄り口調なのでやり辛いなぁ。
私もリトモ君がやってたみたいにちょっと試してみよう。
相手が名前名乗ったから、私も……って名前解かんないんだけどね。
ただ、解かんないモノは解かんないってちゃんと伝えよう。
「……(『私』 『名前』 『解らない』 『覚える』 『無い』)」
「お、見えた見えた。名前は覚えてないそうじゃ」
「ぽぽっ! ぽぽぽっぽぽっ!(やった! 通じた!)」
【交霊スキル〘霊話〙を発現しました。Level1に上がりました】
「……(お! システムさんも来たよ! ちゃんとスキルになるんだ)」
リトモ君と会話が通じた事は嬉しくて拳を作って上下に振ってしまう。
所作に一瞬、警戒されるが私の嬉しそうな様子にすぐに緊張は解かれた。
そうそう、まだ私はよく解ってないってのは忘れない様にしないと。
少年エルフ達は私との〘霊話〙の成功に思わず声が上がる。
「ふむ、〘霊話〙以外でも感情が混ざっている部分は読み取れるの。
言霊の力が元から強いのかも知れぬな」
「記憶が無いとなるとやはり、亡霊? いや、人造生物の可能性もあるの。
今は知らんが昔は確か、試みがあったよーな」
「はぁ、森に引き篭もるのも長過ぎるのはいかんの。
すっかり世事に疎くなる。こんなんが造られたらかなわんわい」
少年エルフ達は頭を掻きながらも私が槍で刺されている大木の枝で
喧々諤々の議論を交わしている。それは一様に真剣でもあるが
新しい都会の流行に胸を高鳴らせる田舎者のソレであった。
やっぱり〘八尺様〙は珍しい様だ。まぁ、私みたいのがそこいらに
うようよと存在するとか、そんな世紀末過ぎる世界は嫌過ぎる。
ひとしきり議論が止まれば、再びリトモ君が私に念じて
話し掛けてくる。うむ、お互いに議論と考察を挟むから
話の展開と整理がゆっくり出来て大分助かるよ!
「よし。では続けていくぞ。『種族』『覚エル』『無イ?』っと」
「……(『〘八尺様〙』『多分?』『解る』『無い』)」
「なるほど、名前は知っているが解らんと。〘ハッシャクサマ〙?
聞いたことはないの。知ってる者は……おらんな」
「名前の響きからすると西国か? いや、それにしても服が東の作りじゃ。
西国の流れ者の邪霊路線か? 海の魔族でも見たこと無いぞ」
私は余計な事を言わずに聞き耳を立てているが何気に
色々と情報が入ってくる。この少年エルフ達はどういった事情かしらないが
かなり見識、見聞が広い様に見受けられる。本で読んだのか
それとも自らの足で赴いて、見聞きしたかは解らないが
彼らの話だけで私自身も結構な量の情報が得られた。
西に生前の東洋的な文化圏があって、東側が多分、元の西洋文化圏か?
鏡写しみたいなもんだけど、僅かな記憶のイメージとの差異で大分ごたつく。
後、魔族って言ったか? やっぱ、居るのか、デーモンだの鬼だのが。
羊の角頭に生やしたり、スペード型の尻尾とか生えてるんだろうか。
「しかし、いい生地や裁縫じゃ。元は貴族の妾か実験生物か?」
「これ、下手に怒らすな。なんだかんだで女の性質みたいじゃし
さっきみたいに揉めるのはごめんじゃ」
私がそんな憂鬱な推察をしているとワンピースの裾をつままれる。
私は振りほどく様にすると残念そうな少年エルフ君。
その後、叱られているのを見れば、その流れに安堵する。
流石にさっきのセクハラ地獄再開は勘弁願いたい。
ただ、いい加減そろそろおろしていただきたいが
そもそも、彼らにこの槍引き抜けるんだろうか?
半分以上大木に突き刺さってるんだけど……ひぅっ、あんまし
傷口は見たくないなぁ。
「……(『お話』『願う』 『降りる』『願う』 『友好』『願う』っと)」
「ふむ。ああ、降りたいのか……ちょっと待ってのつぅっっっ!」
「族ちょ……ア、如何、ソロ……ソッ」
「ぽっ、ぽぽっぽぽぽっ!?(ちょ、大丈夫!?)」
ダメージも流石に無い訳のか意識が徐々に朦朧としていく中
少年エルフ達が突如苦しみだしては膝をついていく。
手を伸ばそうとするがやっぱり槍が刺さったままなので動けない。
何も出来ないのは大変苦しかったのだが私は驚嘆と共に気を失ってしまう。
そして、失った意識が溶け出す中、強く、強く思い突っ込むのだ。
「……(集団老化とか、君達のがよっぽどホラーだよ!!?)」
そう、その少年エルフ達の集団は急激に体が老いて
髪の毛も白髪と抜け落ち、髭が一気に生えるという光景を繰り広げ
私の理性と正気を見事にぶち砕いてくれたのである。
踏み出す前の踏み外し「認めたくないモノ」に続く
〘霊話〙[交霊][会話]
これは本来、既に肉体の言語を発する器官を失った死霊や屍
また、精霊などの口語を介せずに意思を伝え合う存在等との会話を行う為の魔術である。
魔力によりお互いの脳内の記憶の単語や情景、意思を記号化し
それを引き出し合って単語や動詞同士を繋げて会話をする術。
お互いの言語理解がそもそも達成されていない場合は
お互いの言語と記憶が合致しない為、使用する事が出来ない。
堅苦しい記述になっているが要するに頭の中で
チャットスタンプ同士で会話をするようなもので
言語理解とはそのチャットスタンプが何を指すのかの理解ということで問題ない。
動物や使役召喚物などにも使用できるがそもそも言語中枢の未発達や
物体への理解が乏しい知性の相手の場合は会話が成立しない。




