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第三十八歩「ハートを釘付け(物理)」

「……(ひぃいっ!? ドコにそんなに隠れてたの!?

    いや、喚び出された系の奴か!?)」


 左右の茂みからまるで砂糖に群がるアリの様に

兎獣人の兵隊さんが私に向かって飛び掛かってくる。

手には大きな槍を構えており、兜と胸当て、膝当ての武装をしている。

否、正確に言うとそもそも本当に武装しているのか解らない。

なぜなら、その体躯は緑がかった青白い光で塗り染められており

その動きの軌跡には残光を残している。なんだか見ていて

実体が其処に居るという風に感覚が捉えられない。

立体的に映っているというのが適切な表現だろうか?


「……(なんだ、この縦だか横だかスクロールなアクションゲーム!)」


 槍が私の脇腹を貫きかける。ワンピースに切れ目が入った事から

その槍は物理的にも傷つけるのが可能ということなのだろう。

私は止まる事なく、前に出てきた兵隊さんの頭を踏みつけて進む。

後ろから追われる系のゲームみたいな体験で本当に大変だ。

飛んだり跳ねたり、踏みつけたり、屈んだりと反射で

この無駄にでかい体を動かして、兵隊さん達の猛攻を掻い潜っていく。

悪いが怪異称号〘深淵へ攫う者〙の効果で私自身の意識が

このスピードに追い付いていないから、もう直感と勢いだけだ。

〘捕縛機動〙の時もそうだが改めて思う。


「……(ちょっと私の体、性能がピーキー過ぎやしませんかね?

扱い切れてないよ、ほんと)」


 溜息を漏らしつつも私は水が引剥された川底を進んでいく。

徐々に水の水量が増えたのでもうちょっと進めば

コアタルちゃんの体を沈めても大丈夫な深さの筈だ。


 しかし、追いかける兵隊さん達の足の速いこと速いこと。

私のスピードも結構早い筈なのに余裕で追い付いてくる。

多分、ラナス君も鎧を脱げば、これくらい速いのだろう。

ある意味、いいところ全殺しなんじゃないだろうか、あの甲冑。


「テキショォォッーーーー ウチトルゥゥゥッ!!!」

「……ぽぽぽぽっ!!!!(ったたあああああいいぃっ!!!!)」


 言葉にならない様な叫び声と共に兵隊さんの槍が深々と

私のふくらはぎへと突き刺さっていく。ほんっとに痛いんだが

そのまま、勢いに任せて槍ごと兵隊さんを蹴り上げる。

すると蹴られた部分はまるで雪像の様にごっそりと砕けていった。

そのまま蹴り抜いてしまえば、青白い光の砂粒へと変わる。

やっぱり、生きている兎の獣人さんとは違う様だ。


「……(うーん、幽霊とかそーいう感じなのかな?)」


 水龍ちゃんを吸った分の体力ですぐに足の穴は塞がってくれた。

ちらりと後ろを振り向けば、真っ赤に発光する瞳の群れが

四方から向かってくるのが分かる。全ての兵隊さんが私を狙っている。

そして、まっすぐ川底のど真ん中を進む赤い瞳の群れを従えるのは

運動会の騎馬戦みたいに3人位に担いで貰ったままで

私へ向かってくるラナス君だ。くそ、なんかかわいいな、おぃ。


「待ってえええええええぇえぇっっーーーーー!!!」

「……(それはこっちの台詞なんだよぉぉっーーー!!!)」


 ラナス君の絶叫に私も全力で応えたいが、通じないんだから仕方ない!

ラナス君の槍から出される赤い光は空中に兎の頭のマークを作り

それを旗印にわらわらと茂みや地面から青白い兎獣人の兵隊さんが

湧き出てくる。なんか、ちょっとしたホラーだね。

出て来るのは背の低い兵隊さんで玩具みたいで可愛いんだけどなぁ。

真っ赤な目で殺気ムンムンなの止めて、槍を刺して来なければいいのに。


「……(あ、やった! あそこらへんなら大丈夫そう!)」


 私は追い迫る兵隊さんを蹴り飛ばし、踏み付け砕いていった先に

ようやく、上流の水が溜まっている部分が視界に届いた。

後、もうちょっと! これでコアタルちゃんを何とか出来る。

最後の力を振り絞り、跳躍する。途中、手足や肩を槍で貫かれて

川底へと縫い付けられそうになる。だから、危ないってほんと。

コアタルちゃんに刺さったら本末転倒じゃない!


「ぽぽっっ、ぽぽぽぽっ!!!

(うぉぉぉっ、とらあぁあああぃいいぃぃっ!!!)」


 さっきからほんと私も相手も叫んでばっかりだな。

そんな事を思いながらもまるで倒れ込んで放り出す様にコアタルちゃんを

水たまりへとぶち込んでいく。どぼんっとした水音がした。

大丈夫かな?と顔を上げる。 頭とか体とか打ってないかな?

遠目にしか見えないが浮かんではいるし

呼吸は出来ているっぽいからこれで良さそうだ。

よし、ミッションコンプリート! やったよ、私。

後はちゃんと謝って……ってぇ!?


「……(うぉぉっ、って、私が蝶の標本っぽくなる!?)」

「テキショウウゥッタオスゥゥッ!!!!」

「イチバンヤリィィッ!!!」


 手足に突き刺されていた槍は体を起き上がると同時に深々と刺さるが

なんとか地面への貼り付けせずに済んだ。わらわらと体に突き刺す群がる

兎の兵隊さんを振り落とそうとするが、後から後から湧いては

私へと向かって槍で貫き、飛び掛かってくる。

振り向けば、ラナス君も距離を詰めてくる。

ええい、止まってくれないの? ちょっとストップ、ストップ!


「……(くっ、数が多すぎる。少しでも減らさないと!)」


【怪異スキル〘魂削りの愛撫〙を発動します】


 このままではラナス君に謝る前に私が串刺しで殺されちゃうよ。

……待って! さっきまでコアタルちゃんの事で必死過ぎたけど

これ結構ピンチなんじゃないかな!? 気付くの遅いよ!

私は迫りくる兵隊さんを掴んではスキルを発動する。

この兎の兵隊さんも吸ってみると意外と美味であった。

口の中で溶けて水飴っぽくなる綿菓子みたいな触感を感じている。

おそらく〘八尺様〙の命の好みなのかも知れないが

少年、あるいは少年が作ったりしたモノは味が良いのかな?


「……(うう、けど吸い過ぎてまた吐くのは嫌だな。

    〘ゲロイン〙称号は流石に嫌過ぎるよぉ)」


 文字通り、手当たり次第千切っては投げる様に兵隊さんを撫でては

命を吸っていく。字面は怖いのだが実際は彼らを一無でしただけで

崩れるので雪像を相手にしている様な感覚ではある。

いくら傷つけられてもこの兵隊さん達から吸った分と水龍ちゃんの分で

全然、回復が遅れる様には感じられない。


「……(だが、ちょっと待って欲しい)」


 私も私でさっきから散々槍で刺されまくっているのが

女子として、こうダメージ慣れしてしまうのはいかがなものだろうか?

『いやー』とか『きゃー』っとか『いたーい』とか本当は叫びたいんだ。

結局、全部ぽぽぽっになっちゃうか痛過ぎて気を失ってしまうんだ。

これだとなんか私が痛みを全然感じなくて、余裕みたいじゃないか。

そんな差し迫っても居ない難点を考えていると遠くから

ラナス君の声がする。これはスキルの詠唱かな?


「巡り渡るは白兎の数え歌! ひい! ふう! みい! と声上げて!

 〘因幡兎の渡海跳び〙!!!」

「……(って、ラナス君来た!?)」

「コアタルは返して貰うんだからぁあああ!!!」


 兵隊さんの頭を踏ん付けるとラナス君の足先はまるで

流れ星の様にキラキラとした光を足先から垂れ流しては

一歩一歩早さと高さが増していく。

まるで川辺を跳ね渡る平たい水切り石の様に私との距離は詰め上げ

天高く舞い上がっていく。ほんと、この子は跳ぶのが好きだな。

そして、これはアレだ。となると、やっぱり私は……考えるのも嫌だなぁ。


【[ムーブ]系のスキルの発動を確認。〘捕縛機動〙を発動します】


「……ぽぽっ、ぽぽぽぽっぽおっ!?

(これ、狙われに行ってないかあああ!?)」


 ある程度覚悟をしてはいたが、想定通り無慈悲にも〘捕縛機動〙は

宙へと足先をきらきらした青い光と共に跳び上がるラナス君を捕らえる様に

私も謎の力で跳躍しては弾丸の様にその後を追わされる。

ラナス君もびっくりするかと思ったらなんだか唇の端を上げて

ご満悦な表情を為さっている。これは策が上手くいった奴の顔だよ!?


「お姉さんが来るのは解ってたよ! だから、この場で叩き落とす!

 〘兎の(ムーンサルト・)月面宙返り(ラビット)〙!!!!」

「ぽっ、ぽぽっ!?(な、なんとぉっ!?)」


 跳び上がる私を待ち構えていたかの様にラナス君は空中でひらりと

後方へと宙返りをしていく。足の光の吹き出すエネルギーを器用に

向きを変えては、私が跳び上がるのを撃墜する為に槍を突き下ろす。

槍の矛先は深々と人間の心臓の位置へと突き刺さり、黒々とした体液を

ワンピースから漏れ出し、吹き出しては相手の服を黒く染めていく。

重力とその足元の青いエネルギーの噴射に任せて

私はそのまま地面へと叩き付けられた。

バトル漫画みたいに大岩は水底の岩は砕かれ、クレーターを形成する。

そこに群がる様に兵隊さんが私の体へと槍を突き立てに飛び掛かる。


【存在存続の危機を予測しました。存在保全プログラムを履行します。

 〘魂削りの愛撫〙限定出力解除。一時的にLevel5まで状態を引き上げます】


「……(ぇ? な、何 システムさん)」


 槍を貫かれたまま、どっどっと心臓らしき部分からまるで

電気ショックを当てられたみたいに大きく跳ね上がっていく。

ラナス君もその鼓動に槍をぐらつかせるがそれを必死に抑えて

私が起き上がらない様に体重を乗せていく。

この鼓動は私が感じているよりも大きく、一部の兵隊さんは

その鼓動に跳ね除けられる様に吹っ飛んでいる。


【対象の複数目標を確認。怪異スキル〘黄泉より追い縋る手〙の解除申請。

 申請は受領されました。怪異スキル〘黄泉より追い縋る手〙を発動します】


「な、何?」

「……(だ、誰? システムさんは誰と話しているの?)」


 次の瞬間、私の背中から――正確に言うと影から無数の生白い手が

兎の兵隊さんとラナス君へと目掛けて掴みかかっていった。

             第三十九歩「大人の決断」に続く

〘因幡兎の渡海跳び〙[ムーブ] Level1

足元に魔力の放出を行って跳躍力と飛翔を連続で行うスキル

その際に踏み込みをした箇所の周囲の魔力を足先に一時的に集めて

濃縮→爆発させていく過程を瞬時に行っている


一応、自然物や他の生命体を踏みつける事でも可能だが

自身の召喚物や打ち合わせ済みの仲間等、魔力譲渡に支障が無い相手を

踏み付けた方がより効率的かつ高速、高高度の跳躍が可能となる


ちなみに因幡兎とはこの世界には現存していない架空の兎の種族であり

その逸話をヒントにスキルが開発された記録されている

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