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第三十六歩「ゆー るっく あっと みー」

 私は思う。アクション映画の俳優さんって凄いな!と。

実際に相手の連携技みたいなのを食らったんだけど

流れる様に連撃を繰り出して来るの。ボッコボコに殴られるわ

斬り付けられるわ、喉元突き刺されるわ、絶え間なく攻撃される訳よ。

俳優さんは元々演技の決め打ちではあるんだけど

そんな攻撃の連打をいざ体験するとほんと凄いなと感心させられる。

もう、格闘ゲームのコンボみたいに身体が覚えているんだろうね。


「……(当然、私は目に追えない訳ですが!!)」


 困った。幸い、さっきの水龍ちゃんを吸った分で回復はしているけど

痛い、マジで痛いんだって。実際に痛みは引くし、傷口は塞がるよ?

しかして、瞬間的な痛覚は当然ある訳で攻撃を食らう度に痛みが走る。

おまけになんかスライムで手錠作られちゃって両手が動かせない。

おそらく、〘魂削りの愛撫〙の効果範囲を予見されたのか

あるいはこれで解かれる様だったら全身に効果判定があるかの見極めだろう。

やっぱり、この子は頭がいい。さっきのラナス君も手慣れていたが

コアタルちゃんもちゃんと考えて戦いをしている。


「私達は百英傑。今を在りし人々の最後の希望!」

「ぽぽっ? ぽっぽぽぅ( おぅ? お、おぅ)」

「陽光照らす明日の平穏の為、この身朽ちても!」


そして、更に困った。コアタルちゃんが完全に覚悟完了為さっている。

どうしよう、こんな命懸けの決闘を望んでないよ? ラヴ&ピースだよ?

台詞が格好良いんだけど、私みたいのにそんな覚悟しちゃ駄目だって。

別に、私はこう世界と人々を恐怖に陥れる系化け物じゃないんだから――


「……(あ、そっか!)」


 ココで私は閃く。丁度、コアタルちゃんが距離を取ってくれた上に

相手の術が弾幕になっているのでチャンスかもしれない。

私はスキルの発動のタイミングを伺いつつも行動を組み立てていく。

こういう時、タフな身体というのは助かるね。

少なくとも、数秒棒立ちでも形勢はそうそう動かない。


「……(そうそう、別に相手を殺さなくても良いんだよね。

    今、私は現実に生きているんだから、選択肢は無限なんだよ!)」


【怪異スキル〘蠱惑の少年愛〙を発動します】


 改めて思考を切り替える。つまり、私は別に二人を殺す必要はない。

あの少年エルフ達も居る訳だし、ココで下手に死人を出すというのは

むしろ、現地のエルフ達への印象も悪くなる。彼らが決死の覚悟を固めても

別にどっちかが死ぬ必要はないのだ。故に私は化け物らしく

彼らに怖がって貰えば良いんだ。それはもう二度と見たくない位にね?


【相手の効果抵抗判定ナシ。〘蠱惑の少年愛〙効果発動。

 対象の〘レイク・エルフ〙は重度の〘魅了〙状態になりました】


「ぽぽっぽっ(私ヲ見ロ)」

「なっ!?」


 よし、上手くいった。よくわからないがコアタルちゃんは少年属性を

持っているらしい。女装かあるいは精神面で二重の性があるのか解らないが

とにかく通じてくれるという事が大事なのだ。興味はあるけどね?

私は〘古代エルフ語〙の言葉のイメージで語り掛けてみると

明らかに驚いた表情を見せた。エルフっぽいからこっちのが通じるのかな?

システムさんもさっきから〘レイク・エルフ〙って言ってるし。


 コアタルちゃんは苦悶の表情を浮かべては頭を左右に振っている。

効きが悪いのかな? まっすぐ、目を見てくれれば良いんだけど

上手く顔が合わせられない。ただ、足は止められたから近付けるかな?

ただ、近づいて逃げられちゃうのは駄目だよね。

次、何時襲われるかわからないし、此処はきっちりと怖がって頂きたい。


【〘ケントゥリオ共用語〙の言語理解経験値が規定値分溜まりました】


 困っている時にタイミングの良いシステムさんのアナウンス!

やった、これならちょっとは通じやすくなるかも?

よし、今度はもっと丁寧にね。前みたいにいきなり無言で

スキルをぶっ放したりすると余計警戒されちゃうもの。

コアタルちゃん達の話してる言葉の……ってか日本語に聞こえる

この〘ケントゥリオ共用語〙のイメージで話しかけてみるよ。

言葉が通じる可能性もあるなら優しく諭す様にしないとね!


【怪異スキル〘蠱惑の少年愛〙を発動します】


「ぽぽっぽぽっ?(私を見て?)」

「……見……ます」


 あ、やったやった♪ こっちに顔を向けてくれた。

うんうん。ほら、じっとしていると美人で利発そうな良い子じゃない。

未だに性別がどっちか確信出来ない位の中性っぷりだけどね。

ただ、私の手に掛けられたスライムの手錠は未だに解かれない。

あー、魅了でもこれは戦意がある内は解けないのか、独立してるのかな?

ま、ちょっとアレだ。この子も色々あって暴走気味みたいだから

お説教も込めて怒っておこう。まぁ、そういう時勢や世界かもしれないけど

やっぱり、暴力にすぐ訴えるのはお姉さんよくないと思うんだ。


「ぽっ? ぽぽっぽっぽっぽっぽっ? 

 ぽぽっぽっぽっぽっぽぽぽぽっぽっ?

 (いい? いきなり相手を傷つけるのは駄目だよ?

 お姉さん別に喧嘩がしたい訳じゃないんだからね?)」


【怪異スキル〘畏怖の眼差し〙を発動します。

 対象の抵抗判定ナシ。重度の〘恐怖〙状態になりました】


「………ごごごごめんんななぁあぅああっささささささっさ――」

「ぽっ!(あっ!)」


 あれ? コアタルちゃんの目を見て話掛けたら

そのまま瞳が上を向いて、後ろに倒れてしまったよ!?

本当は白目を剥いてって表現したいけど、この子白目が無いよ!?

それを慌てて両肩を掴んで抱き止める。危なかったよー。

川の石に頭ぶつけてたら、下手したら死んでたよ!?

何、何が起こったの? なんか漫画だったら泡吹きそうだったよ!?


【怪異スキル〘畏怖の眼差し〙により相手を昏倒させました。

 記憶称号〘追想の百景〙発現しました。

 英傑のレガシーピース〘映し身の湖面〙を獲得しました】


 って、システムさん!? 私、別にスキル使いたく無かったよ!?

私がパニクっている間にも手に巻かれていたスライムの手錠は

ぼとりっとそのまま落下していく。意識を失ったと同時に術も切れた様だ。

あれ、私やっぱりこの子を倒しちゃったのか? 別の流れ弾とかじゃないの?

なんかシステムさんが色々言ってるんだけど言葉が頭に入ってこない。


「……(え、暴発すんの? そういや何回かしてたな、おぃ!?)」


【記憶称号〘追想の百景〙により、[レガシーピース]のタグを持つイベントから

 過去のイベントの回想を観覧出来る様になりました。

 以後、[レガシーピース]タグの称号取得の度にイベントの回想が開放されます】


 そうか、しまった! コアタルちゃんにも少年判定に入るから

スキルの効果もどっぷりマシマシで味わう事になっちゃうのか。

てか、私としてはちょっときつく叱る程度だったのに

スキル使用判定に引っ掛かるのか! 効き過ぎって話じゃないよ?

昏倒とかしちゃったら、しばらく起きられないじゃん!?

ひぃ、私はスキル暴発トリガーに指を掛けながら生きなきゃならんのか!?

そして、システムさんからは処理できない程の情報をスパムメールは続いていた。

いきなり色々言われたって無理だって! 後で見るから!


「……」

「……(いや、そんな事よりも!? いかん!?)」


 どうしよう!? コアタルちゃんが――〘失禁〙為さっておられる!?

これ川の水じゃないよね? ちょっと色ついてるよね?

私は改めてコアタルちゃんの股間を見る為に

ちょっと掴んでいた両肩を掲げる様に上をあげる。


【対象の〘レイク・エルフ〙は〘失禁〙状態です】


 システムさんからダメ押しの一言入りましたー!

え、え、これどうしよう? お漏らしキャラとか付いちゃうよ?

私だったら今日この日がトラウマ過ぎて、明日が生きていけないよ!?

これはピンチだ。コアタルちゃんの人生における比較的デカいピンチだよ。


「お、もう一人の英傑殿も倒されたの」

「おー、お姉ちゃんやりますなぁ」

「族長、わしらもけしかけてみるかの?」


 そんな混乱を他所に更に事態は深刻になる。

気付けば、少年エルフの集団が集まり始めていた。

手にはいかにも高そうな白金の武具を片手に目をキラキラとさせている。

この状態のコアタルちゃんを男子中学生全開の少年エルフ達に預けるのはダメだ。

私は彼女を掴んだまま、右往左往しているのはアレだね。

赤子を抱いたら下半身が重くなってあれ、これどうしようっていうね。

ダメだ、例えが例えになっていない!? 直球表現じゃん!?


「……(突破っっ!!!!)」

「む、英傑殿を持って帰る気かの?」

「流石にそれはまずいのぅ」


 ええい、なるがままよ! 私はコアタルちゃんを両手で持ったまま

少年エルフの包囲を突破しようとする。私はあんなジャンプ力あるのか。

オリンピックで世界新が出そうな位の幅跳びで彼らを追い抜いた後

来た川辺を逆走する様に走る。アレ、なんか凄い速くなってない?

さっきの戦闘でLevelでも上がったのかな?

そんな事をぼんやり思えば、間髪入れずにシステムさんの声が響く。


「まずいの族長。あのお姉ちゃん速くなっとる」

「じゃな。今の儂らでもちときつい。後、そろそろ時間も来ておるしの」

「ま、仕方ない。一度術をかけ直すか」


【怪異称号〘深淵に攫う者〙を獲得しました。

 誘拐行動の際にステータスが大幅に上昇します】


 ちょっと待ってシステムさん!? 何なのその犯罪臭溢れる字面と説明!?

私、誘拐犯なの!? いや、まぁコアタルちゃんを持って行ってるけど!

キャッチしているけど、ちゃんとリリースするよ!?

取り消し! 取り消しお願い! 私、持って帰る気はないよ!?


【この怪異称号は取り消せません】


 また、システムさんの微妙な匙加減か! もっとざっくりで宜しくてよ?

いや、暴発してるからざっくり過ぎても駄目だ!?

ええい、そんなん後だ、後! コアタルちゃんが引剥した川の水は

上流辺りでは戻っている筈だ。それにぶち込んで誤魔化すしかない!

後ろを振り向けば、少年エルフ達が私を追ってきている。

くっ、まぁ当然だが、後ちょっとでいいんだ!

ほんのちょっと川にぶち込んで誤魔化すだけだから!


「コアタル!?」

「英傑殿、まだ起き上がっては」

「駄目、コアタルが、コアタルが連れてかれちゃう!」


 上流へと向かう途中、ラナス君が兜を外されて

少年エルフの一人に介抱されていた。当然、上流へ向かう私と目が合う訳で

その言葉と同時に勇ましく……というつもりなのだろうが斧槍を杖の様について

立ち上がっていく。うう、その立ち上がり方は痛々しいのでちょっと心に来るよ。

鎧の一部が外されて、甲冑の騎士と言うよりは槍歩兵みたいな格好になっている。

多分、堕ちた衝撃で色々と鎧が歪んでしまったのだろうか?

勿体無いことをしてしまったよ。多分、鎧って高いよね?


「お姉さん! コアタルは、コアタルは大事な人だから連れてかせないよ!」

「……!?(ヒーロー見参な流れだこれ!?)」

 

 そうして、私の進行先の前に再び兎の少年騎士ラナス・ノタカハが

立ちふさがるのであった。くそっ、私もああいう事言われてぇよ!?

               第三十七歩「勇気を掻き集めて」に続く

〘我らは湖水が一滴〙[エルフ][情報隠匿] Level1

〘レイク・エルフ〙種だけが持つ独自の[情報隠匿]スキル。

彼らは性的な特徴が薄い人体的構造及び特徴をしており

また、独自の思想教育により極めて性別の判別がし辛い性格になっている。

それ故に一時の妊娠・出産・育児の際の女性個体以外は殆ど性別の見分けがつかず

魔術やスキルの類ですらその判別を不可能にさせる。


しかし、一定の精神的動揺と体力、魔力の消耗を経た状態になると

全ての魔術やスキルなどの判定に対して相手側に有効に働いてしまうデメリットがある。

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