第三十四歩「汚名返上」
「……(あ、やばい。水龍ちゃん美味しい❤)」
私は両手で鼻先から生える水龍の左右の髭を掴みながら
〘魂削りの愛撫〙で水龍ちゃんから体力を奪っていく。
味を言うと甘味の丁度いい炭酸飲料とスポーツドリンクの清涼感が同時に味わえた。
ピリピリとした刺激が残っているのは聖水効果なのだろうか?
ほんのり甘く、爽やかな酸味と鼻先をくすぐり撫でる果実の様な香りが
いくらでも腹と喉を潤してくれる。身体と意識はみるみると復元されて
大穴の空いた腹がぼこぼこと膨れ上がる様に再生されていく。
「……(あ、ウエストはもうちょっと……く、いや、それは我慢しないと)」
腹部のラインが修正されていく中、少し飲み過ぎたのかお腹が膨らんでいる。
一瞬、手を止めようと思ったがこれは水龍ちゃんを吸い取り尽くさないと
私がやられてしまう訳だから、多少は無理をしないと!
悶え暴れては空中でうねる様に突き進む水龍ちゃんを捕らえたまま私は離さない。
もとい、離してしまったらまた距離を取られて水鉄砲地獄に逆戻りだ。
「……(うう、腕力があれば抑えつけられるんだけど!)」
ぼたぼたと自らの身体を崩れ零して暴れていく水龍ちゃんの様子に
コアタルちゃんにも焦りの表情が見える。見た目は幻想的な龍の姿をしている。
だが、現実の水龍ちゃんは頭を叩きつける様に私を振り落とそうとするのは
どこか犬猫のそれに見えてなんだか愛着が湧いてくる。
まぁ、そんな余裕を感じられるのも回復あってこそだ。
私はさっきからその水龍ちゃんに岩に叩きつけられるわ
木ごとへし折られそうになるわとぶん回され続けている。
犬が玩具咥えているみたいになっているよ? 玩具視点だとこんな感じなんだね。
「……(い、いたいんですけどぉ、あ、それよりも)」
散々暴れられて回復はすれど、毎度痛みで意識が飛ばされそうになる中
ようやく変化が現れる。水龍ちゃんの尻尾の方が川の水を引っ張る力がなくなり
川からにゅるっと生えている様な形状へとなる。体力を削りきった結果だろうか?
引剥されていた水が徐々に川底へと戻って流れていく。
身体の維持も難しくなってきたのかゆらゆらと揺れ始めており
振り切る力も無くなっていそうだ。
「これ以上は消耗が……一気に決めてあげます!」
中にいるコアタルちゃんも苦悶の表情を浮かべつつも
咥えていた筒を口から離すと同時、巨大な水龍は形を無くし
そのまま川底へと二人とも降り立つ。
コアタルちゃんは筒を片手に私へと接近しようとする。
私も気絶の連続から開放されてようやく一息つけそうだったのだが
それと同時にとある変化が私へと襲い掛かってきた。
「……(ごめん。い、今は止めて!)」
降り立ったコアタルちゃんは手元で印を結びながらも次の攻撃を備えている。
いや、ほんとちょっと休憩入れよう、今は大変なんだって!
タイム、少しタイムが欲しい。私は口元を抑えながらもふるふると
左右に首を降り、手を突き出して相手の制止を求めるが
コアタルちゃんはそんな事を気にする様子もなく突っ込んでくる。
「タフさと素早さに加えて、生命吸収系スキルなんて厄介な奴!
ただ、近づいてさえしまえば!」
「ぽっ……ぽぽっぽっ……ぽぽっ(あ……ごめ……逃げ)」
「へ?」
「……ぽっおろろろろろろろろろろろっ」
油断した。さっきから正直、不味かったのだ。
もう、吸っても吸ってもお腹一杯なんだけど、水龍ちゃん止まらない。
痛いからずっと回復しなきゃいけないしで、スキルで吸い続けていたんだけど
許容量なんてとっくの昔に限界でね? 真面目に私を睨みつけて
次の攻撃に移ろうとするコアタルちゃんに私はありったけの吐瀉物を
頭から掛けてしまったのです。しかもただのゲロだったらまだ良かったんだけど
吐き出したそれは色が黒いの、真っ黒なの。
ほんっと墨汁か原油かって位真っ黒でどろどろした何かが口から吐き出され
べとべととコアタルちゃんの髪の毛をコーティングしている。
あまりの出来事に私も動きが止まる。コアタルちゃんも止まる。
見ていた少年エルフ達は可哀想なモノを見る視線を私達に向ける。
【怪異称号〘ゲロイン〙を獲得しまし――】
「……(や、やめてーーーー!? そんな称号は止めてーーー!?)」
【称号獲得を破棄します】
良かったよぉぉっ!? システムさん融通が効いてほんとよかったよぉ。
無理! 私そこまで汚れに徹しきれる自信がないよ!?
これから何かある度に私、一々吐くキャラなんて別の化け物だから!
名前を思い付くのすら拒否するレベルだから!
称号限定なのかも知れないがこれからは拒否出来る事は覚えておこう。
結局はシステムさんのさじ加減なんだけどね!
「……い、いやああああああ!?」
「ぽっ、ぽぽぽっぽぽっ(あ、ほんとごめんなさい)」
「き、汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚いぃいやあああああっ!?」
【種族情報〘レイク・エルフ〙をLevel2まで取得しました】
コアタルちゃんの大絶叫が森へと響く。女子として汚いを連呼されるのは
大変心が傷付くのだが、吐瀉物を頭からぶっ掛けられたのだから仕方ない。
私だってそー言うと思う。だから、本当にごめんなさいをしたいよ。
コアタルちゃんが半狂乱気味にベトベトになった髪を撫でては
水が戻ってきた川の水溜まりへとそれを浸していく。
白煙を上げているベトベトとした私の吐瀉物を洗い流していく。
こう見ると凄い有害なのを私は吐き出してしまったんだろうか?
「あー、〘レイク・エルフ〙は潔癖症で有名じゃからな」
「そうじゃったかのぅ?」
「あいつら元々、水浴びや風呂に入る為に水の術を編み出してた連中じゃぞ」
「じゃったな。それで浮いてたわい」
ちょっと少年エルフ君!? そういう情報もっと早く欲しかったかな?
いや、そんなん聞かされても意味がなかったから今で丁度いいのか。
本来は私を殺しにかかっている相手に行動すべきなんだろうけど
髪を洗いながらもガン睨みをしてくる姿に手も足も出せないよ。
むしろ、あのリアクションは共感出来る。汚いのは嫌だよね、ほんと。
【敵対者の無効化スキル〘我らは湖水が一滴〙が解除されました。
〘少年狂愛〙〘少年渇望〙の発動条件を満たしています】
そんな蛇睨みに私が動けないで居る中、システムさんが意外な情報をくれる。
あれ? ラナス君や少年エルフ達と一緒にコアタルちゃんも少年特有の
ぴこーんぴこーんな信号を発しているんだけど。え? これはアレか。
「……(コアタルちゃん女装少年か!?)」
思わず、口元を抑えては驚き、コアタルちゃんの肢体を眺め見る。
最初、私が先入観として少年は騎士君だけだと思っていたが
女装していたから反応しなかったのか? いや、無効化スキルって言ってたから
今まで私の探知から外れていたのかも知れない。あんな解りやすいデザインの割に
意外と情報統制とか考えているのかな?
髪の毛を洗い終わると肩を揺らし、息を切らしたままぎろりと睨みつけてくる。
凄い殺意と言うか怨嗟と言うか、私そこまで恨まれる様な事したっけ?
えーと、胸ネタで弄るきっかけ作って、頭に石ぶつけて、ゲロ掛けちゃって?
う、この時点で既にブチ切れても仕方なくない? 全部、故意ではないんだけどね。
「許しません。絶対に滅してやる」
「……(う、うん。私も同じことをやられたら許さないよ)」
くっ、私だってあの全裸を見たエルフの少年達に一発かましたいのに
今のコアタルちゃんの怒りの方が数倍凄くて発散出来ないよぉ。
そんな困惑をコアタルちゃんは知る由もなく、指で印を結んでいく。
同時に足元には徐々に水が戻ってきて、自分達が川のど真ん中で
戦闘をしていたことを思い出させられる。
それでも水たまりが少し出来る程度で水が戻る気配がない。
上流の方から水龍ちゃんを構成する水は引っ張ってきたのだろう。
印を結び終えると術の度に口に咥えていた筒を握りしめ、腰元の大筒の入り口に
それをあてがえば、かっと目を見開いて術を叫ぶコアタルちゃん。
それ、毎回必要なのかな? 詠唱とか印の結びとか実際に実戦だと大変そうね。
「水妖術〘変幻水武〙!」
「……ぽっ!?(なっ!?)」
ずるりと大筒から引き出されたかの様に伸びていた水は棒状に形成されていく。
筒を柄にした、長い警棒の様な形へと落ち着いていくそれは何処かでと言うより
色んな所で見たことアリそうな形をしていた。数度、空を切っては調節していく。
程よい長さに調節しては今にも斬りかからんと腰を低くするコアタルちゃん。
そんな様子を眺めながら私が思うのはただ一つ。
――これ、見た目の形状は版権大丈夫なの!?
第三十五歩「百の英雄譚 Episode5 ”心は恐怖の水底へ”」に続く
怪異称号〘ゲロイン〙[怪異][投射]
口腔部からナニかを吐き出す事に特化した女性怪異に与えられる称号。
名称のイメージとは裏腹、ブレス系や酸や毒液を吐いたり
口や胃の中に武具を隠しては吐き出したり収納したりと
応用の幅が非常に大きく、投射物に奇襲等の効果が見込める。
ただし、やはり口腔部からナニかを吐き出すというのはイメージが大変悪く
好感度への印象はこの世界においても同様低くなる為この称号を隠したがる種族も多い。
加えて、酒類や一部食品に対してアレルギーに近い反応を示す事が多くなるので
実生活でも不利益を被る為、称号取得の際は慎重を期したい。




