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第三十三歩「脅威のウエストダイエット(物理)」

 後ろをちらりと見れば、大口を開けた龍が私へと迫っていた。

水で形成されて、飛沫の向こう側にはコアタルちゃんが透けて見える。

鎌首をもたげたまま上から水鉄砲を撃っていた形態と違い

うねりながらも宙空を泳ぐ様はもう、スペクタクルでハイスピード過ぎる。

不慣れだが森へ入って隠れるか? 否、それはエルフ君達の心象が悪くなる。


「……(コアタルちゃん怒っているから木々を潰してでも来るよね)」


 あの子は前の様子でも自然を大切にしたい系のテンプレなエルフのノリを

感じるのであまり環境破壊はさせたくない。

と言うか、鱗とかラナス君に意識が行っていたけど改めて彼女を見ると

結構耳が長いのでやっぱりエルフの一種なのかな?

あるいは半魚人とかそういう系かも知れない。深きものども系だと

ちょっと怖そうだが、そういう陰湿さは感じないのが幸いか。


「……(って、考察してる場合じゃないよ、私!)」


 腰を大きく屈めるとさっきまで頭があった場所に噛みつきに来る水龍の頭。

正直、迂闊に触れない恐怖はある。〘八尺様〙である私とはベクトルが違って

触ったらそのまま引き込まれて溺死とかスライム入りの水弾の様に

べっちょりトリモチみたいにくっついてそのまま上から叩き落されるとか

シンプルな形状から実はみたいな策がいくらでも浮かぶのだ。

そういう面でコアタルちゃんの技は底が知れないものが多い。

水を扱うというシンプルな形から正に変幻自在に攻め立てて来る。


「追いかけっこはまだ続くかのー」

「おーい、でかい姉ちゃん。ちったぁ気張れぇ」


 少年エルフ達はもう完全に観客気分で私達の追いかけっこに並走している。

実際、彼らはなんでラナス君とコアタルちゃんを追い回していたか知らないが

もう危険がないと判断されているのだろう。

先程のコアタルちゃんの宣言を受け入れる余裕も含めて

なんでこう美味しくて安全なポジションを取り続けるんだあの子達は!


「……(しかし、百英傑みたいな事言ってたから有名な所属なのかな?)」


 なんとか騎士団とかなんとか新撰組とかそんなノリなんだろうと

推察する余裕が生まれているのは、見事に後ろから噛み付かれているからです。

横に向けた龍の頭ががっつりと私の腹部へと噛み付いている。

実体は水なので牙が食い込むということはないが

凄い水圧で押しつぶされているのと息苦しさを感じる。

おまけにそのまま空へと向かって螺旋を描いているので

風圧とかいろんなものが身体にビシビシと当たっていく。

あれ、これはこのまま叩きつけられるパターンだろうか?


「ぽっぽっぽっぽっ!(いたいたたたたた!)」


 ひぃっ、身体がミシミシと音を立てていくよ。

やばいやばいやばい、どうしよう? 潰されるのか私は?

不思議な事に私はこんな状況ながらも帽子が飛ばない様に

必死に頭を抑えているのは何故か誰か教えて欲しい。

まぁ、衣服は貴重だからね、失くしたくないのが強いのかな?

そんな事を考えている間、私は河原の大岩に叩きつける様に

上空から龍に咥えたまま私は落下する。おお、石が飛び散る様が

バトル漫画みたいで、映像だったらスローモーションにして頂き所。

背中は気絶しそうな程の激痛な訳だったのだけど、何故か痛みが長引かない。


「……ぽぽっ? ぽぽぽっ!(あれ、ひょっとして? システムさーん!)」


【現在〘魂削りの愛撫〙の還元された体力を消費しています】


 おお! なるほどなー。あのスキルはありがたいことに

吸い取った余剰分はストック出来るのか。Levelが上がったからか

それともマスクデータなだけだったのか知らないが

さっきから皮膚が裂けてもすぐに真っ白い肌へと戻っていく。

勿論、あのグロテスクなあんこ煮詰めで白紐縛りな再生模様なのだが

細かいことは言ってられない。私はその場でむくりと立ち上がる。

怪我が再生しているのに死んだふりは意味ないもんね。


「……(しかし、ドン引きされる顔を見るというのも中々きつい)」


 コアタルちゃんの視線がこう『なんだコイツ?』的な意味合いを込めて

ビシバシと送られてくる。私のスキルよりいろんな意味で威力が高い。

立ち上がった私目掛けて、水龍は平手打ちをする様にその巨体を

薙ぎ払う様にぶつけてくる。頭を隠す様にガードはするが

あんなでかい範囲の攻撃を避けるとか防ぐとか出来る訳がないでしょ!?

敢え無く、身体をふっ飛ばされては水を引剥された川底へと

転げ落とされる。痛みは感じるのだが傷がすぐ治ってしまうので

これはこれで逆に無限地獄なんじゃないだろうか?


「ぽぽっ、ぽぽぽっ!?(ちょっと、女子に対して攻撃厳しくない!?)」


 私は握りこぶしを上げて、抗議を示そうとするが

鎌首をもたげた水龍は口を大きくあけており……あ、これは不味いですよ!?

龍の胴体からうねる水流がまるで洗濯機の様に渦巻き、うねっては徐々に

口元へと収束されていく。これあれだ、態勢崩して必殺技ぶち込む流れだよ!?

水中で指の印を結んでいたコアタルちゃんが再び上半身を鼻先から出す。


「水妖術〘雫の蛟(しずくのみずち)・岩抜き〙! ……これで!」

「ぽぽっぽぽぽっ!?(いやあああああああ!?)」


 横に咥えていた筒をそのまま両手で前に突き出して術名を叫ぶと

水龍の口からは圧縮された水が私の土手っ腹へと貫いてくる。

さっき、女体でやってきた水鉄砲より威力が段違いだ。

私の腹部は貫かれ、川底の岩もまるで奇麗にくり抜かれた様に

丸い穴を開けている。待って、これ完全に殺しに掛かってるよね!?


「……ぽっ、ぽぽぽっぽぽっ!?(な、なんじゃこりゃああっ!?)」

「まだ、起き上がるのですか!?」


【ダメージは〘魂削りの愛撫〙の回復量を超過しています】


 攻撃が終わった後、私のお腹は見事にまるっと空洞が空いていた。

凄い、こんな状態でも私は動けるのか。腹部がないのに腹痛がする。

手で触ってお腹が無いって中々のウエスト周りの絞りっぷりだと思うの。

し、しかし、流石に痛いと言うかバランスが悪くてふらふらする。

システムさんが教えてくれた様に〘魂削りの愛撫〙での

回復は期待出来ないから何か、何か吸わないと私死んじゃうよぉ。


「再生はしてない! よし、真っ二つにしてあげます!」

「……(ぁあ、もうやばい。倒れる)」


 意識も段々と朦朧していて来たのでコアタルちゃんが何を言っているか

正直、よく分からない。ただ、その土手っ腹の腹部へと攻撃しようと

水龍が突っ込んで来るのが朧気に見えてくる。

再び手に持っていた筒を横に咥えて、水龍の頭へと潜るコアタルちゃん。

くっ、えーとアレだ。諦める訳にはいかないがもう身体が思う様に動けない。

ワンチャン、試してみるか? あの水龍に効くのかな?

うん、アレが効かなかったもう私はゲームオーバーだ。

目の前に迫る水龍に私は両手を開いて受け止める様な姿勢を取る。


「そんな細腕で止められるとお思いですか!」

「……(た、〘魂削りの愛撫〙。お願い効いて!)」


【怪異スキル〘魂削りの愛撫〙を対象に発動します】


私は水龍にふっ飛ばされながらも相手を掴んでスキルを発動する。

受け止めることは叶わないが徐々にぼたぼたと水龍の身体は

まるで溶けかけ氷像の様に水を滴らせていく。

その様子にコアタルちゃんは目を見開き、私も別の理由で驚きを隠せない。


「ぽぽっ? ぽぽぽっぽぽっ!(あれ? 意外といけるじゃん!)」


 何でも試してみるもんだね、世の中。

                第三十四歩「汚名返上」に続く

英傑の奇跡〘雫の蛟(しずくのみずち)〙 [百英傑][英傑の奇跡] Level1

百英傑の一人、コアタル・ゼンズィーの所有する必殺技。

百英傑個人がそれぞれ一つ持っているオリジナルの戦技、魔術等の一つ。

この妖術は自らの魔力を用いて純水あるいは液状のモノを龍の形へと形成し、使役する。


この術の肝は水龍の使役による多彩な妖術の派生もあるが

何よりも驚異的なのは液体の大量浮遊移動にある。

本来であれば湖一つ分を丸ごと浮遊、移動させる事が出来る上に

龍の体躯として生きているかの様に動かせる点である。

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