第三十二歩「どうせ落ちるなら、恋でお願いします」
私は宙を舞っていた。〘捕縛機動〙は相手の[ムーブ]系スキルに対して
自動で発動する。つまり、ラナス君が一気に宙空へと上がって距離を取り
突撃、突進するスキルを使うという事は当然、私もそれを追いかける訳だ。
いきなり、私の身体はぶっ飛んで空で宙返りしているグリフォンさんに
掴みかかる様に組み付く。いや、ほんとどうしようこれ?
足がつかないし、これ結構な高さじゃない!? 落ちたら死なない?
グリフォンさんも想定してない重量がいきなり乗っかって来た事に驚いており
大きなクチバシを開いて、必死に羽ばたいている。
じょ、女子に対して重いってリアクションは駄目だぞ!
「え? え? 飛べるの!?」
「がぁっ!」
「ぽぽぽっ! ぽぽぽっ! ぽぽぽっ!?
(落ちる! 落ちるから! 助けてぇ!?)」
グリフォンさんは私を振り落とす為に大きく頭を左右に振るが
当然、私も落ちたくないのでしがみつく。
やばい、これ以上グリフォンさんが大暴れされては私だけ落とされる!
頭に付けられた装甲に手を掛けて握りしめてはいるが
それも長くは持たなそうだ。ラナス君は鞍と手綱があるから
ちょっとやそっとじゃ落ちないだろうし
そうなると無理矢理にでもグリフォンさんに地上に降りて貰うしかない。
「こ、このタイミングで来た相手は初めてだよ!?
え、どうしよう。落ちたら怪我するよね?」
「ぽぽぽっ! ぽぽぽっぽぽっ!(ごめん! スキル使う!)」
【怪異スキル〘魂削りの愛撫〙を使用します】
グリフォンさんには申し訳ないがこうなったら落下ダメージを
君の体力で何とかして貰うよ! ごめんなさい、ほんとごめんなさい!
私はスキルをグリフォンに向けて発動させる。腹の中に満たされる味はアレだ。
タレの掛かってないバンバンジーを食べている様な感覚で味気がまったくない。
うう、茹で過ぎたささみを頬張っている様な肉感と味が舌と胃へ広がってくる。
体力が削られているのか段々とグリフォンさんの威勢が落ちて大人しくなる。
それと同時に羽ばたく力も弱くなっていていけば、一気に高度が下がり始める。
「わっ!? アポロ、大丈夫!? え、え!? 何したの!?」
「くがぁあっ」
「ぽーぽーーぽっーぽぽっ!!(おーちーーるぅっ!!)」
力なく羽ばたくグリフォンにもう飛翔する力は残されておらず
先程まで居た川辺へとまっすぐに落下する。
それも怖いといえば怖いがもうそんな事にかまっていられない。
自由落下とともにグリフォンさんから体力を削れるだけ削り喰らって
落下のダメージを減らす。うう、気分は早食いでもしてるみたいで
なんとも忙しなくて仕方ない。
「くっ、せめてあっちの水たまりに! アポロ、頑張って!」
「くぁっぅあっ」
力なく返事をするグリフォンさん。川はコアタルちゃんが
術で引剥してしまったのでもう石ころと川底しか残ってない。
それでもたまり水が残っている部分へと二人と一匹は墜落する。
大きな水しぶき、弾ける石、振動と音が周囲へと響き渡り
水龍との追いかけっこをしていたコアタルちゃんとエルフ達もその様子に気付く。
私もよろよろと立ち上がる事が出来たが折角、洗濯したばかりの服が泥だらけだ。
まともに落下の衝撃を食らったラナス君は起き上がるも出来ない様子。
最後まで誘導してくれてたのになんと申し訳ない事か。
「ラナス!?」
「あんれ、あの化け物女が倒しちまったぞ?」
「うわ、英傑殿が伸びておるのぅ」
「飛び掛かってグリフォンを墜落させとった」
水龍から上半身を出し、口に加えていた筒を水龍の鼻先に浸ける様に
右手で抑えながらもコアタルちゃんは叫ぶ。
少年エルフ達も呑気に勝因をやんややんやと語っている。
あ、いや、すいません。事故なんですよ。私、倒してないです、はい。
だから、睨まないで、怒らないで、いやほんと、ごめんなさい。
私は両手の平を見せては首を左右に振ってアピールするが
コアタルちゃんには全く通じていない様だ。
そのまま噛み付く様な視線を少年エルフ達へ向け直している。
「くっ! 解りました。この森の件から手を引きます。
しかし、英傑がただ倒されたまま終わる訳にはいきません」
「おっ、次はコアタル殿がアレに挑むのかの」
「ほほっ、連日血が滾るのぅ。よかよか」
「長生きはするもんじゃて」
くそっ、あの少年エルフ達は日和見を決める様だ。
爺口調でほのぼのしてるから妙にその態度がマッチしてしまう。
若いんだからさ、もっとガツガツ行こうよ! 何の為のショタエルフだよ!
まぁ、その枯れている感じが逆に今、助かっているのも事実だ。
これで少年エルフ達とコアタルちゃんが共闘で私に向かってきたら
それこそもう勝てる気が……いや、コアタルちゃん単体でも無理だよね。
私は鎌首をもたげて睨みつける水龍とコアタルちゃんを見上げる。
「百英傑が一人、コアタル・ゼンズィー。ラナスの仇、取らせて頂きます!」
「ぽっ、ぽぽぽぽっ? ぽぽぽっ
(おぅ、意外と熱いお方? けど、仇って)」
「名も無き破廉恥な化け物女。ご覚悟を!」
「ぽぽっぽっ!(破廉恥違う!)」
覚悟をとか言われても『出来るか!』と伝えたかったがそれよりも
ツッコミどころが後から来たのでそっちに引っ張られてしまった。
それは断固抗議したい訳ですよ、女子として!
だから好きで脱いだ訳――あ、あの大口を開けてるって事は。
「ぽぽぽっ!!(きゃあああっ!!)」
「逃しません!」
水龍は大口を開けたと同時に水流をぶつけてきた。純粋な水鉄砲なんだが
もうこれ鉄砲水が直接ぶち当てられているのと同じだよね!?
河原の石と一緒に……ってか、ラナス君までふっ飛ばされているよ!?
私は頭の帽子が飛ばない様にしつつも水に流されていくが
森の木の枝に身体が引っかかってなんとか事なきを得る。
く、これは仕方ない。あの少年エルフ達にも身振り手振りで伝えないと。
私は両手を大きく振ってジェスチャーをしながらも呼び掛けてみる。
「ぽぽぽっ! ぽぽぽっぽっ!(エルフさん! 騎士君をどかさないと!)」
「ん? ありゃ?」
「あー、どかせって言ってるのかの?」
「英傑殿は……ありゃ聞きそうにないしの」
「ったく、年寄りを働かせるとは」
お、ニュアンスを汲み取ってくれたのか
エルフ達数人がラナスくんを回収に動いてくれた。助かったよー。
私は帽子に手を置いて抑えながらも河原を駆けていく。
うう、石がゴロゴロしてるから走り辛いんだけど、森の中に逃げる?
いや、ココで私が逃げちゃうとコアタルとエルフ達がまた喧嘩を再開するか
私が普通に二人に喧嘩を売っただけで終わっちゃう!
「ぽぽぽっぽぽっ、ぽぽっぽぽぽっ!
(もう逃げたくないから、きちんとしないと!)」
「水妖術〘雫の蛟・雫粘弾〙!!」
「ぽぽっ!?(のわっ!?)」
此処はちゃんと対応してエルフ達への誤解も解く為の踏ん張りどころだ。
って、今度は水弾が飛んできたが……これは中にスライム入りか!?
河原や木にぶつけられた水弾はねちょっと粘性を感じさせつつも
そのまま石や木々の合間に取り付いて剥がれたり、流れたりしない。
あ、これ当たったら動けなくなるやつだ。ひぃー、今のは危なかった。
もうエルフ達もそうだが、基本的に此処の世界の人達は
命を取るのに躊躇も無い上に、手法が多種多様過ぎないかな!?
何、この世界ってこんなに命のやり取りが激しいの?
この森を抜けたら世界はヒャッハーな世紀末なの?
「ええいっ! ちょこまかと!」
「……(ってか、私の身体もなんだか頑張るなぁ!)」
こんなに走って跳ねてもそんなに疲れないのは化け物の役得か。
しかし、困った。投石をしてもあんなでかい水龍相手には意味はない。
どう見ても物理攻撃とか効きませんな見た目をしているし
空を駆ける水龍はあまりにも位置が高くて遠い上に
その鼻先に上半身を出すコアタルちゃんには視線を合わすのは絶望的だ。
あんなのどうしろって言うの? 武器は? もっとなんか無いのか私!
「かくなる上は……お覚悟!!!」
「ぽっ、ぽぽぽっーー!?(って、わーー!?)」
再び、口に筒を咥えると水龍の中へと潜って行くコアタルちゃん。
あれか、上半身を出すと術や水を吐くのを使ったりと遠距離に対応出来るが
動きがゆっくりになる様だ。逆にあの筒を咥えて、潜ったまま水龍を動かすと
格段に動きの機敏さが増していった。正にその動きは激流が如し
宙空に螺旋を描いた後まっすぐに向かってくる。そう、私目掛けてね!?
「……ぽぽぽっぽっーー!?(体当たりですかーー!?)」
第三十二歩「脅威のウエストダイエット(物理)」
英傑の奇跡シリーズ[百英傑] Level1
百英傑と呼ばれるケントゥリオ勇国に出現した英傑達の奥義。
それぞれに一騎当千以上の威力を有するが単純な威力や運用、汎用性は
ほぼ英傑の個性に直結する為不確定かつ戦術的に組み込むのが大変難しい。
加えて、年若き英傑達のメンタルや体調等にも左右されるので
大盤振る舞いする英傑は大変少ない上に情報がかなり規制されている。




