第三十歩「視線を独り占め」
「よし、軽く遊んで差し上げるかの」
リーダーっぽい少年エルフが手で軽く合図を送ると今まで投石と牽制をして
野次を飛ばしていた集団は一斉にカップル二人組と私へと駆けて来る。
私の投げた石など物ともせずに手にしているのは手斧に短剣、曲刀など様々。
凄い! メイスとか初めて見たよ。先端が尖っている棒はピックかな?
どれも短く切り詰められており、森の中での戦闘を想定しての武装なのかな?
「くっ、ラナス! 迎撃が!」
「コアタル! すっごく強いよこの人達!?」
水鉄砲を乱射しつつも少年エルフ達の接近は止まらない。
少年エルフ達の狙いは主に川に設置された砲台代わりになっている
水で出来た女体達だ。首を切ったり、胸元をぶち抜いたりしている。
水相手にダメージを与えているというよりも
衝撃で形を崩してぶっ飛ばしており、その度に水鉄砲の射撃が止まる。
後、いい加減二人を名前で呼ぼうか。えーと、少年騎士君がラナス君で
法衣のお嬢さんがコアタルちゃんね? コアタルちゃんへの接近を許しても
なんとかラナス君の斧槍の横薙ぎで追い払っては居るがそれも時々受け止められる。
「……(なんだか私が守られている様なポジション)」
少年エルフ達・コアタル&ラナスペア・私という立ち位置の並びなので
庇われている様になっている。私の怒りも収まってしまったのだが
一体全体どういう事で少年エルフ達とこの二人は戦っているのだろうか?
後、この少年エルフ達はなんだか口調が年寄り臭い上にちゃんと言葉が聞こえる。
ショタでエルフで爺口調とか属性過多過ぎるだろとは思うが、それは脇に置く。
〘古代エルフ語〙で喋っていて〘少年狂愛〙の補正で聞き取れているのだろうか?
そんなことをボケっと考えながら次の手を私が考えていると――
「ぽっ!?(ひゃっ!?)」
「族長! 尻は柔らかいし、最高じゃ!」
し、尻を触られた!? くそっ! 少年エルフの一人が後ろに回り込んでいた。
指を沈める様に両手で尻肉を直で掴んで揉みしだいている。
私は大ぶりに相手の頬目掛けてビンタをしようとするが当たらない!
裸を見られるわ、尻も触られるわ、なんだこのセクハラ地獄!
苛立ちを隠せないが胸元を隠している毛皮もあってろくに動けない。
くっ、洗濯バサミでもあれば、身体に巻くくらいは出来るのだけど!
「かかかっ、遅い遅い。でかいととろいのぅ」
「ぽぽぽっ!(ビンタを避けるなぁ!)」
私の〘魂削りの愛撫〙は接触しないと威力は出ないし
〘畏怖の視線〙は相手と視線が合わせられない位相手が早い。
なんなの!? こういうシチュエーションって女子が怒って
普通は男子がボコられて正座で説教される流れじゃないの?!
くそっ、美少年だったら何してもいいのか!? 美少年なら――
「……(心情的には許せる! けど、今は許しちゃいけないんだよぉ!!)」
私の欲望と現実の葛藤で右往左往している隙にも
コアタルちゃんが造った水で出来た女体はどんどんと数を減らされていく。
ラナス君の斧槍で何度か少年エルフたちはふっ飛ばされているが
ダメージを負った子は後ろに下がって、別の少年エルフが殴りかかってくる。
集団戦の強みを活かした絶え間ない攻撃で二人の体力を削っていく作戦か。
くっそ、せめて、服を! 服を取り返せばどっちかに……あれ?
「……ぽぽぽっ。ぽっぽっぽっ?(どうしよう。どっちに味方したらいいの?)」
私は当たらない投石をしながらも考える。
現実的に現地の少年エルフであろう彼らに利する方が良いのかも知れないが
この二人組が囲み追われているのは事実である。
理由はさっぱりだが、この二人はエルフ達に何か悪い事でもしたのかな?
いや、だからって集団で寄ってたかってのはね? けど、この二人も結構強いし
集団で何とかするって選択が悪いことではない。
そして、私としても服を取り返さない事にはこの場から逃げられないので
なんとしても事態を丸くなくても収めたいところである。
え? え? けど、私はこの何をしたか解らない二人をいじめるの?
「ぽっぽっー。(それはないなー)」
「コアタル危ない!」
「ぽっ、ぽぽぽっぽっぽっぽぽっ!!!
(あ、ごめんなさいああああいいいい!!!)」
「くっ!」
私が考えながら投げていた石がコアタルちゃんに当たってしまった。
やばい、こめかみにクリーンヒットしているし、血もちょっと出てる。
ああ、どうしようどうしよう。やっぱ、石投げるのって危ないって。
けど、それしかやれる事ないんだって!
コアタルちゃんは袖口でその血を拭いながらも咥えていた筒を一度離す。
「ラナス、埒が明きません」
「ごめん、コアタル。えっとね、えっとね」
「どうしました? さっきから集中出来てない様子ですが」
再び、ラナス君とコアタルちゃんは背中を合わせる様にして周囲を睨み付ける。
確かにコアタルちゃんの言う様にラナス君は集中を欠いている様な
発言の間を感じさせる。多分、〘蠱惑の少年愛〙がなんでか知らないが
掛かっている状態なのだろう。Level2になった影響か
あるいは隠された効力が発動しているのだろうが当然、二人には解らない。
むしろ、効果を発揮している私すら把握出来ていない。
故に今から悲劇が起こされてしまった。
「僕、もうおっぱいしか見えないんだけど、どうしよう!?」
「――っ! つぅぅっ!」
「え? 何してるのコアタル!?」
言ってしまった。ラナス君の一言に瞬間的にキレたコアタルちゃんだったが
彼女の放ったビンタは当然ラナス君の兜に阻まれていく。
思いっきり手の平を金属で打ってしまったのが痛かったのか
震えながらも抑え僅かに膝を屈ませていく。うん、あれは絶対痛い。
ラナス君にとっては突然の奇行に走る様子にびっくりした様子で居た。
おおぅ、跨られているグリフォン君もなんか溜息がでかいぞ?
人語とかある程度のやり取りを理解出来てるのかな?
「いや、ラナス殿。今のはねーのじゃ」
「え? え? だって、お爺ちゃん達だってそーでしょ?」
「まぁ、そうじゃがなぁ。けど、ラナス殿にはコアタル殿もおるじゃろうし」
「え? だって、コアタルはおっぱい無いよ?」
「――っ!」
少年エルフのリーダーっぽい子がフォローを入れる。
最初はナイス!と思ったがその後に続く発言に
私、少年エルフ達が同時に吹き出してしまう。いかん、いかんてラナス君。
それは、それは言っちゃ駄目だって、ほんとね?
ああ、コアタルちゃんが目を見開いて、もう逆に泣きそうだよ?
これはいかん、奇しくもヘイトを溜めに溜めってしまった。
「……ラナス。後でお説教です。もう、終わらせますよ。
あっちのおっぱいしか見れない破廉恥を片付けて下さい」
「え? コアタルなんで怒ってるの? え?」
「私はもうあのエルフ達をまとめて倒します。
百英傑を侮る事を後悔させます」
「うん。よく解かんないけど解ったよ!」
コアタルちゃんが絞り出す声はもうなんか筆舌に尽くし難い鬼迫を見せる。
ぐっと親指を上げるラナス君の無邪気な無理解は他人事ながら
これ、大変だったろうなとしみじみ感じ入る。
しかし、怖い事態になってしまった。おそらく口ぶりからして本気だ。
そして、その本気をあの少年エルフ達にぶつけていく模様。
これは攻めるということだろうか?
コアタルちゃんが素早い動きで印を結び、指を動かす。
さっき見たのをより倍近い長さなので必殺技の予感をひしひしとさせる。
「流れる一雫は願いの一滴、揺れる水面は龍の胎動
湖面に浮かぶ神の写し身の力を今、求めん。
百の英傑コアタル・ゼンズィーが望みしは巨龍の鮮流!!!
英傑の奇跡〘雫の蛟〙 」
コアタルちゃんが術の名を唱えた後、再び筒を口に咥える。
同時に腰の大筒からは蛇口を捻ったかの様に透明の粘液が漏れ
川へと注がれていく。
――そして、粘液に川は飲まれ、龍へと形を変えていった。
第三十一歩「月までご一緒?」
〘水妖術〙[水属性][妖術]Level2
この術式の土台は純水や水分の[操作][圧縮]とする水を操る術と
水妖と呼ばれるスライム状の粘体を使役、操作する術の複合からなる。
極めて物理的な威力を用いているので実際に〘スペルキャスター〙系の
魔術防御を貫通したり、意味を為さない事もある。
反面、威力を上げる際の待機時間、印の指の結び、魔力の集中など
単体での運用は厳しく、集団や仲間との連携で発揮する。




