第二十九歩「投石雨あられ」
「ぽっぽっ、ぽっぽっぽっーーーーー!?
(よっし、全員畳んでやんよーーーー!?)」
はい、初めてです。今生――否、前世でもこんだけの大集団に
裸を見られているという羞恥を食らったのはきっと初めてです。
まさか、現実にやられると思わないじゃないですか。
まぁ、家族に見られる事とかあったと思うんです。
思い出せないけど、お風呂場とか脱衣所でばったりとかね。
後は海やプールも水着とはいえ、下着と肌の隠れている箇所は
ほぼ同じな訳なんですよ、ええ。だから気にしなくてもと思うでしょ?
「ぽぽっ、ぽっぽっ! ぽっぽっぽっぽっぽっぽっ!!?
(だが、女子として! 此処は怒らずにいられるかぁ!!?)」
そう、理屈じゃないんです。DNAに刻まれた怒りな訳ですよ。
『私の今の身体にDNAとかそもそもあんのか?』って話は置くのです。
故に私は足元の石を思いっきり掴んでぶん投げる訳です。
『当たるのか?』とか『怪我するんじゃね?』とかじゃないんです。
私は怒って投げる。このプロセスが大事だと声を大にして言いたい!
『ぽぽぽっ』しか発音出来ないけどね!?
「すげぇ揺れたぞ、おぃ!?」
「ありゃ、死霊じゃないのぅ。あの肉感は精霊体じゃ無理じゃて」
「アンデッドの屍肉も柔らかくねぇからのぅ!」
ぎゃーーーすっ! めっちゃ観察されて、観測されて、実況されてる!?
私の事をストリップ嬢扱いよろしく指笛で煽られ
少年エルフ達はやんややんやと有頂天になっていらっしゃる。
くそ、どういうことだ。なんなんだあの少年エルフの集団は!
少年騎士君も隣に法衣のお嬢さんが居るというのに私をガン見している。
ああ、目には静かに怒りを滲ませているし、めっちゃ睨んでるよ、お嬢さん!?
いや、私が見せたい訳じゃないからね? 彼が自発的に見てるんだからね!?
「ラナス! 私はエルフ達を何とかしますのであの破廉恥な奴を!」
「う、ええとぉ、んぅ? ああ、えーとはい!」
誰が破廉恥だ! 私だって好きで裸に……いや、水浴びで脱いだけど
べ、別に見られたくて脱いだ訳じゃないんだからね!
兎角、私は怒っている訳です! 裸を見られているのです!
だから、ええと取り敢えず手に取れる石を投げているんだけど。
「……ぽぽぽっ!!(当たらない!!)」
くっそ、さっきからエルフの少年たちに向けてぶん投げているんだけど
あいつら避ける素振りすら見せない。視線は胸に集中している。
多分、私の投擲軌道ではそもそも当たっていないんだ。
私は力任せに投げているので速度自体は出ているのだけど
野球とかの球技の経験も無いと思われるのでまっすぐ飛ばない!
それに加えて、酷いことにね?
「……ぽぽっ、ぽぽぽっ!(くそっ、着替えを取らせない気か!)」
「おぃっ! あの毛皮か白い服は絶対取らせてはならんぞ!」
訳が分からないが少年エルフ達はとにかく全力だった。
ひょっとするとちらりと写った〘魅了〙状態の影響だろうか。
まるで男子中学生のような性欲を丸出しで
私が着替えを取りに戻ろうとするのを一糸乱れぬ、投石で牽制する。
宙空を掠め、空気を引き裂く音を立てる石は豪速球って奴だよ。
「……(危ないよほんと! 当たったら痛いじゃないか!)」
「よし! 今じゃ!」
「エルフが接近してきました! ラナス!」
「うぇ? あ、はい!」
私がそのまま河原の石を投げ返すと同時、それをかいくぐる様に
少年エルフの数人が河原へと目掛けて駆け迫ってくる。
凄いよ、アイコンタクトだけでなんか指示出して動いてる。
そんな集団の動きを私は目で追う事が出来ない。
一人の動きを追うのすら大変だし、さっきから投げてくる投石を
斧槍で叩き落としている少年騎士君の動きすら見なきゃいけない。
あの斧槍とグリフォンで突っ込まれたら相当痛い筈。
ただでさえ薄着だったのに一糸まとわぬ状態なんだから
接近だけは気をつけなきゃいけないよね。
「水妖術〘波投扇〙! ラナス! 抜けてきます!」
「ま、任せて!」
法衣のお嬢ちゃんが手で印を結び、その手に持った筒を後ろへと担いだ後
まっすぐに振り下ろす。すると川の水の一部がまるで磁石に引き寄せられる様に
接近するエルフ達へと降りかかる。おお、見た目通りやっぱり水属性魔法か。
ただ、そのエルフ達も端からその波の軌道を読んでいたかの様に
散開して突っ込んでくる。少年騎士君が私を一時的に視界から外し向き直るが
そこには既に別働隊の少年エルフの姿は無くて……あれ?
「族長、取ったぞーーー!」
「でかした!」
「ぽっぽぽっ!? ぽぽっ、ぽぽぽっ!
(それ、私の!? いや、今は前を隠そう!)」
「「ちっ」」
振り返ると高々と掲げられているのは〈鋭い枝〉と干されたワンピースである。
ちょっと待って、そんなもんを取る為に突っ込んできたのか?
いや、困るけど、とってもとっても困るんだけども!!!
私が慌てふためきながらも、その隙に手近にあった毛皮へと手を伸ばす。
少年エルフも取得しようとしていた様だがギリギリ奪取に間に合った。
よし、バスタオルみたいに前に隠すことは出来そうだよ。
その瞬間の少年エルフ達の統制の取れた舌打ちにびっくりだ!
子供か!? ……そっか、相手は子供だよね!?
「ラナス」
「は、はぃ!」
「ちょっと本気出します。あっちの破廉恥を」
「う、うん!」
ああ、法衣のお嬢さんがまるで地獄の底から這いずり出る様な低い声で
指示を出している。凄い機嫌悪そうなのは真面目な子だからだろうか?
うん、私もなんでこんなアホな事になっているか解らないよ。
内心、同情を向けながらも私は投石を繰り返す。
なんとか着替えを取り返したいのだが、軽快に動く少年エルフ達を
視線で捕らえる事すら難しい。相手は私の胸をガン見しているのに
なんでこうもこいつらはちょこまかと動けるんだろうか!
「水妖術〘操粘雫〙!!!」
手で法衣のお嬢さんが素早く印を結んだ後、腰に付けていてた大筒の蓋を取る。
すると、中からどろりどろりと……スライムか?
粘度の高そうな液体が明らかに筒の容量より多く漏れ出しては川の水へと混じる。
少年エルフ達はその様子を特に邪魔する事無く、微笑ましく眺めている。
さっきから余裕過ぎるよこの男子達。邪魔とかしないの? フェアプレイなの?
なんだか、二人組がイジメやからかわれているみたいだ。
むむ、御姉さんとしてはそういうのはあんまし見過ごしたくないが
それよりも早く服を回収したい。少年騎士も少年エルフ達も
ちらちらと私の胸への視線を向けるのを止める様子は皆無だ。
「……ぽぽっ! ぽっぽっ!(おぅっ! ぞろぞろと!)」
「ほぉ、水の木偶を並べて、どうするのじゃろ?」
その筒から漏れてくる粘液が川の水と混ざると
水で出来た女体が川から湧き上がってくる。む、今度はお嬢ちゃんが私を見る。
主に胸部を見た後、再び印を結んでは何やら瞼を閉じて、集中している様子。
するとすぐにその変化は先程の魔法で作られた水の女体に変化が現れる。
「……(いや、お嬢ちゃん。なんで無意味に胸部増量したし)」
「サービス旺盛じゃの」
「威力を上げただけです」
「まぁ、胸はでかい方が威力はあるが――」
「参ります。水妖術〘雫圧閃・一刺し〙!」
少年エルフの茶々なのかガチなのか解らない一言を爽快に無視した後
お嬢ちゃんは筒の中央を横に口で咥えていく。
筒のはしからは先程の大筒から漏れた粘液が髭の様に太い線となって
川へと漬けられると同時、水で出来た女体が一斉に動き出して口を開くと
ナニかを吐き出してきた。
「ぬっ!」
「ほぉっ! 随分と派手な水芸じゃな!」
険しい目つきのお嬢さんがエルフたちを視線で追うと
水で出来た女体はそれを追撃するかの様に口から水を吐き出し続ける。
元は川の水だと思うがそれの勢いが凄い。絶え間なく射撃を続ける水は
先程から木々に穴を開け、河原の岩や石を砕いていく。
これ、川の水を圧縮してる水鉄砲みたいなものなのか?
水で出来た女体の中に気泡と共に凄い勢いで水流がうねっているのが解る。
少年エルフ達は相変わらず、私の胸部へと視線を外さないが
先程の余裕ぶった態度とは違い、機敏な回避行動をし始めた。
アクロバットな動きはサーカスかアイドルのダンスみたいだ。
「よし、準備運動はこんなもんじゃろ。皆の衆、そろそろ行くぞ」
「む、もぅかのぉ」
「ま、あんまし遊んでも仕方あるまいて」
そういって、少年エルフたちは少し距離を取った後
リーダー格っぽい少年が合図をすると、ごそごそと袖や胸元へと手を突っ込む。
そして、出される“ソレ”に私は勿論、お嬢ちゃんや少年騎士君も驚いていた。
「な……あれは」
「え? え? ほんと?」
「……(無駄に高そうな武器だな、おぃ)」
彼らが一応に手に持っていた武器は石器ばかりだった今までの装備とは違い
まるで鏡の様に輝き光を反射させる白銀の武器の数々だった。
第三十歩「視線を独り占め」に続く
〘投石〙[投擲][射出]
ただ、石を投げる為のスキル。
大抵は[投擲]系のついでに覚える初歩のスキルなのだが
実戦においては何かと役に立つスキルである。
石など探せばいくらでもあるし、陶器や煉瓦、屋根瓦なども
適応される上に使用用途は幅広い。
山岳地帯などに住む種族は殆ど、所有しているが
実はとある事情により[エルフ]種族の〘投石〙スキル所有率も非常高い。
自然の中で生活する彼らが狩猟等の目的で所持し易いというのが一般的な見解である。




