第二十六歩「百の英雄譚 Episode3 "雄弁に、誠実に"」
「もぅたべられなぃよぅぅ~……んぁ、おへよぅ」
「おはようございますラナス。出立の準備をして下さい」
賑やかなお肉ばっかりの夕餉から翌日のこと。
僕、ラナス・タカノハと相棒のコアタル・ゼンズィーはお肉の食べ過ぎで
中々寝付けなかったまま、朝を迎えていた。今もちょっとお腹が苦しい。
まさか、こんな森の奥でも僕達がしょっちゅうやられる
『ほら、大きくなる為にたんとお食べ』を喰らう事になるとは。
僕もそうだけど、コアタルもまぁエルフにしては小さいからね。
「うう、ちょっとぐらぐら」
「水でもぶつけますか?」
「いや、それはいーや」
泊めて貰った小屋はなんと木の枝の上に建てられている。
ツリーハウスという家の作りは話には聞いていたが、実際に寝泊まりすると
なんだかふわふわしていて僕はちょっと落ち着かなかったよ。
しっかりと組んでいるし、そもそもエルフの手先の器用さはコアタルを見てるから
信頼はしてるんだけどね。それでも木の床が抜けないかはやっぱり怖いなぁ。
やっぱ、地下の穴蔵とかの方が楽なんだけど、まぁ仕方ない。
「では英傑様方、先日の夕餉の場所付近でお待ちしております」
「ふぇ? ああ、えーとアレ。封印を見に行くんだっけ?」
「ええ、交渉は棚上げです。成果をという面もありますが
やはり、封印されているらしきモノも危険ですからね」
「そんな怖いのが封じられているの?」
僕より早く起きているコアタルは、扉の外で集落のエルフと話をしていた。
昨日の話していたことを思い出す。一応、ナニも話が進まなかったとしても
封じられている場所は一度目にしておくとは言われていた。
やっぱり、コアタルでも大人の人達を説き伏せるってのは難しいんだね。
いつもはあんなに頭がいいのに。僕は眠気が残る目をこすり、コアタルを見上げる。
「まず、単純に手に余るから封印しているというのは影響度如何に拠らず
何かがあってからでは遅いというのが一つ」
「うむ。まぁ、そうだよね」
「その危険かも知れないモノが悪用される可能性もまた別の意味で危険なのです。
私達の動きと同時に敵もまた動いている。単純に使役、暴走させるのもそうですが
捕獲して研究されたり、吸収されるという可能性もあります。
新たな力を得られるのもまた危険なのですよ」
おおぅ、なんだか段々と寝起きには厳しい内容になってきたぞ!
いや、起きた後に時間経っていてもこれは厳しいかも知れないかな。
もうちょっとコアタルは言葉を簡単にして欲しいな。
ただ、ちゃんと説明してくれたコアタルの為にもちゃんと理解しないと!
僕はぱんっと両手で自らの頬を打ち付けて考える。……ダメだ、わかんない!
でもそれでも何か応えないと! よし!
「危険が危険で危険なんだ。はぅ、それは確かに危険だ」
「解ってませんね」
「大丈夫! 気持ちだけでも解ったつもりでいるよ! 任せて!」
「なら構いません。早く準備をして下さい」
「はぁーい! 頑張るぞー!」
よし! 心意気が通じたのかコアタルはいつものやさしい感じの顔になったぞ!
やっぱり、気持ちって大事だよね。そういって僕は扉を閉じて着替えを始める。
正確には鎧は一人で着たり脱いだり出来ないので下を着た後、鎧を付けて貰った。
それが終えて慌ただしく昨日、皆でご飯を食べた開けた場所へと向かえば
族長を始めとしたお爺ちゃん達がぞろぞろと集まっている。
えーと、数は1,2,3、いっぱい! お婆さんと若い子は居ないね。
まぁ、偉い人しか見ちゃいけない場所って事なのかな?
「ではお二方。案内をさせて頂きます。お忘れ物など無き様に」
「お気遣い感謝します」
「大丈夫でーす!」
僕が大きく手を上げて返事をすれば、お爺ちゃん達も優しい笑顔に見える。
うん、やっぱり自分が元気じゃないと周りも元気にならないよね!
そうして、僕たちは改めて〘封印の白き森〙を歩いて行く。
族長様とアポロに跨っている僕が先頭に並んでいる。それをすぐ後ろにコアタル。
その後ろからエルフのお爺ちゃん達がついていく様な形になっている。
「今日はお爺ちゃんばっかりなんですね」
「昨日の夕餉で若い者がはしゃぎ過ぎましてな。謹慎をさせておりますので」
「あはは、皆、楽しそうだったですもんねー」
昨日の楽しげな宴を思い出し、肉の味を軽く思い出しながらも
僕達はこの白い白い森を歩いて進んでいく。
最初はお爺ちゃん達だということでスローペースでのんびり行くかと思ったが
意外や意外だったよ。本当にお爺ちゃんとは思えない。
やっぱり、森育ちのエルフってのは足腰がほんと強いんだね。
結構なペースで進んでいるのにびっくりするし、疲れた様子も見えないんだよ?
「族長殿。ところで、私達が聞いた『ぽぽぽっ』と鳴く化け物は
どう考えておられますか?」
「ああ、アレですか。若いのが物珍しく追いかけ回しておりましたが
流れの精霊か幽霊か何かですかのぅ。ソチラが言う様に戦や火種は燻っております。
辺鄙な森とは言え、迷って来るモノが居ないというわけではありませんからの」
うーん、なるほどなー。確かに幽霊とか幽体系の精霊様とかだと
僕が感知するのは結構大変だったりする。コアタルの方が得意かな?
僕は多少の魔力耐性は持ててもそーいうのは〘水妖術遣い〙のコアタルや
当然、他の〘スペルキャスター〙系の百英傑には足元にも及ばない。
って、気が滅入っちゃ駄目だね! 僕は僕が出来る事を頑張らないと!
僕たちは世間話をしながらも、森の中を進んでいく。
木々の白さ、地面の白さ、遠近感が狂いそうになるが
それでも野生の勘という程ではないが何となく、察する事が出来た。
ちらりとコアタルに目配せすると、鋭いコアタルも気付いている様だ。
僕はぐっと持っている斧槍を握りしめて、背筋を伸ばす。
それを見て、コアタルが少し足早に僕達に並走するまで前に出る。
丁度、僕、コアタル、族長様の3人が並んでいる。
「族長殿」
「なんでしょうかの」
「森の外へと向かっていますね?」
その言葉に後ろからぴりっとした空気が漂ってくる。
う、これはひょっとするとひょっとするな。手綱を握る手に力が入る。
こーいうのは控えろって偉い人達には言われてるんだけどなぁ。
僕は横目でちらりちらりと視線を送りつつもまっすぐに前を向く。
そうだ、僕が前を向かないと駄目だよね。族長様の歩調も口調も変わらない。
まるで、最初からそう決まっていたかの様な空気のまま、僕達も止まる事が出来なかった。
「ええ、若い者を襲った化け物を、見事退治して下さった英傑様達を持て成す。
そして、送り届ける。そういうお話になっております」
「理由を聞かせて下さい」
「それを知る必要はございません。
この英雄譚を持ち帰り、此処の事は忘れて下され」
「出来ぬと言ったらいかが致しま――ラナス! 走りますよ!」
「うん!」
アポロの手綱を引いては一気にそのまま族長様を置いていく様に走り始める。
やっぱり森の中じゃそんなに早く走れないし、飛ぶには助走も足りないし
木の枝が多いから此処じゃぶつかっちゃう! せめて開けた場所に行かないと!
コアタルが先導する様に開けた木々の隙間を先行する。
コアタルもエルフなので十分速いんだけど、相手もエルフなんだよね。
「では痛みを与えて雄弁に、血潮を流して誠実に、考え直して頂きますかのぅ」
族長様の低い声は先程までの優しいお爺ちゃんのモノとは別物だったよ。
第二十七歩「百の英雄譚 Episode4 "追跡の先の桃源郷"」に続く
〘スペルキャスター〙[職業]
職業分類の一つで厳密に言うと〘スペルキャスター〙という職業はなく
〘スペルキャスター〙系列という形で使われる職業名である。
呪文を唱える者という事で魔術、妖術は勿論
祈祷や奇跡、召喚術の使用者などもこの分類に入り
大まかな枠としては聖職者や治療師もこれに分類される事がある。
物理、化学的なモノ意外から別の理を用いて
接続、契約、交渉して結果を導き出す事を定義とされ
科学的アプローチで解明されるまではよく分からない現象も
奇跡や術という事にされがちな為この単語の汎用性は高い分
細かい事象の理解の低さに嘆かれる事も度々ある。




