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第二十四歩「歴史の断片」

 私は手に降り積もった白雪をじっと眺めている。

絵面だけはちょっとロマンティックだが、今はそれどこではない。

なんだろうこれ、雪じゃないのかな? 冷たくないし、溶けない。

顔を近づけて匂いを嗅いで見るが特に香りはない。

まぁ、そもそも雪は臭わない。舐める? 舐めてみる? お腹壊さない?

私は恐る恐る舌を出しつつも、その雪らしき白いモノを口へと運ぶ。


「……(ちょっとピリッとする)」


 やっぱり、よく分からない。ただ、この感覚は何となく覚えている。

聖水を初めて飲んだ時の衝撃に近い。なんだろうコレ?

これが聖水の素になっているのだろうか? ええと、システムさーん!

コレ何-! 教えてー! 教えてよー! 私は頭の中で訴えかける様に

声を上げてみるとしばしの沈黙の後、システムさんは答えてくれたのだが――


【この物質は[レガシー・ピース]の属性を含むため

 現時点で情報を得る事は出来ません。

 該当する〈パースト・ポータル〉の閲覧が必要です】


 し、システムさん日本語で頼む。いきなり、専門用語は辛いよ。

ピースは断片って事かな。レガシーだから遺産とか遺物?

えーと、これはアレか。なんか他の情報を見ないと解かんないってこと?

多分、その〈パースト・ポータル〉ってのを見ないと駄目なのかな。

パーストは過去だったかな? ポータルってなんだろう?

何処かに入り口があるって事かな? ゲームだとワープ地点とかだよね?


「……(システムさんが居なくちゃ解かんなかったけど。それでも解らん)」


 私が祓われた感があるから、浄化効果のある物質なんだろう。

この雪みたいな何かがこの森を白く染めているのだろうか?

私は掌の端を合わせて掬う様にその雪を溜めてみる。

うん、粉雪っぽいが多分、降っている量はそんなに多くない。

肥料とか農薬散布とかそんな規模の話なのかな?

実際にまばらに降り頻るそれは、積もり層を作る気配は全く見せなかった。

良くて、積雪1~3cm行くか行かないかという感じだろうか?


「……(あ、それより魚、魚!)」


 私は慌てて台に干していた魚の開きを木のボールに入れる。

そう言えば、作業をしている内に遠吠えの喧騒は収まっていた。

ほんと、なんだったのだろうか? 発情期か何か喧嘩でもしたのかな?

あー、後はなんかヤバイ動物なりモンスターが出たとか? それは大変だ。


「……(私じゃん!? いや、私じゃないよね!?)」


【あなたには動物・魔獣等を騒がせるスキル、称号はありません】


 ほ、良かった。システムさんの補足で安心できたよ!

ってか、そもそも私はずっと小屋に寝てたので私が原因の筈はない。

そうだったら、昨日の段階でもう獣達がけたたましく吠えている筈だ。


 私は小屋に戻っては部屋の隅に魚を置いた後、ステータス画面を開く。

昼間の内に何個か開示されてた情報があった筈。

もう、あの時は逃げたり、仲良くしようとしたりと、てんやわんやだったので

すっかり見るのを忘れていた。夜更かしになるが寝付けないのだから仕方ない。

さて、項目は……あったあった、ポチっとな。


【〘セイント・シール・エルフ〙[種族][エルフ]Level2

  NEW 大戦後、〈封印の白き森〉に居を構えるエルフの一族。

       真っ白い肌をしたハイエルフ系列の特徴が見える。

  NEW 保守的な思想で、時として大変好戦的な一面を見せる。

       一部に〘ヒビ割れ〙と呼ばれる黒い線や肌を覗かせる

       特異体質が少年期のエルフに見られる事もある。       】


「……(ほー、あれって迷彩とか入れ墨じゃなかったんだ)」


 先日の若いエルフのリーダーのお姉ちゃんを始め

弓で射掛けてきた若いエルフ達の皮膚には黒い線が入っていた。

それにしても、思い返せばほんっとに好戦的だよね、マジで。

お爺ちゃんがあのリーダーのお姉ちゃんボコボコにしたり

私に対しても躊躇無かったのも印象に残っている。

つまり、喧嘩っ早いの上に、頑固ってどんだけ江戸っ子なんだよって話ですよ。

べらんめぇ過ぎるでしょ? 火事と喧嘩がエルフの華なの?

いや、山火事というか森林火災は致命的過ぎるって、ほんと。


「……(最初は友好的だったり、大人しい相手が良かったよ)」


 私は独り言ちては、大きなため息と共に頭を項垂れさせる。

初期ステージとしては難易度高くないっすかね?

ま、本来はこーいう情報すら解らず、放置されてた訳だから

これでも幸せだと考えよう、うん。

何も解らないまま死ぬよりは良いんだと自分に言い聞かせる。

さて、次は昼間大活躍だった〘矢弾掴み〙先輩を確認しないと。


【〘矢弾掴み〙[カウンター][回避]

  NEW ショートボウ、スリングショット、デリンジャー、吹き矢等

      小型の射撃、投射武器の矢弾を掴む事が出来る。

      スキル発動には手に何も所持しては発動しない。

  NEW ロングボウ、和弓、拳銃などの矢弾を掴むことができる。   

      〘矢弾掴み〙は〘隠遁〙状態からの射撃には能力が制限される】


「……(おー。シンプルに強い!)」


 なるほど、〘矢弾掴み〙はLevelが上がる事に止められる種類が増えるのね。

エルフ君達が装備してたのは、そんなに大きい弓じゃなかったからショートボウか

射っていたロングボウを〘少年狂愛〙のLevel補正で受け止められていたのかな?

武器だの何だの持つ予定は無いから、これで中距離以降は安心かな。

ただ、どうやら狙撃や暗殺系の奴には弱いみたいだから警戒はしないとね。


「……(うむ。ちょっとずつ情報とスキルが充実してきたよ)」


 手応えを感じられると自然と思考もポジティブに切り替わっていく。

昼間のアレは若いエルフちゃん達に結構やられたけど

ご年配の方達には平和アピールが出来たのだ。

流石に傷口とかのアレは凹んだけど、前向きに考えれば少しずつ好転してる。

よし、明日はエルフ君達の里か集落を探してみよう。

〘古代エルフ語〙の言語理解度も上がってきたし

コミュニケーションも前よりは行けるはず! 前向きに行こうよ、前向きに。


「……(さて、では明日というか今日の行動を)」


 今はまだ私の正体が未確定な内に、敵とか害獣と認定される前に

なんとしても友好的な存在だというのを印象付けないと!

その為にはエルフ君の一件をちゃんと謝らないといけないんだよね。

事故とは言え、なんとか伝えられる方法はないかな?

言葉が通じれば、もうちょっとなんとかなるんだけど。


「……(捕獲作戦とか動いている様だったら、それに乗っちゃうのもあり?

 いや、それは流石に危なすぎるね)」


 私は思い当たったがすぐに取り消す。流石にギャンブル過ぎる。

もし、捕獲ではなく、討伐や消滅、あるいは封印なんて事になったら

それこそ、ゲームオーバーだ。化け物生活三日目へと突入する訳だし

いつまでもこのまま逃げ腰と運頼りにやっていても仕方ない。


 此処数日、急展開に次ぐ急展開というか序盤から飛ばし過ぎな感はある。

兎耳の騎士君と法衣のお嬢さんも気になるし

エルフさん達と連携して、対策を練ってしまうとソレはソレで怖い。

多分、あの二人組も戦闘とか慣れているっぽい見た目や装備だった。

あれをフル活用されたらと思うともう頭の中がバトル漫画状態だ。

ん? ちょっと、待って私。また、大切なナニかを忘れてないか?



「……(化け物生活三日目……三日目!?)」


 そうだ、私は最重要な事を思い出した。いや、解っていたんだ。

ただ、色々とすっ飛ばしてたんだ。ただ、気付いた。気付いてしまったよ。

私は頭を両手で抱えながらもうずくまる様に震えては床を見つめる。


「……(お前、女子が三日も風呂も洗濯もしてねぇってどういうことだよ!?)」


 これは最高に不味いですよ!?



                      第二十五歩「いざ、川へ洗濯へ」に続く

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