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第二十三歩「溶けない白雪」

「ぽぽぽぽぽっーーーー!(疲れたもぅーーーーー!)」


 私は小屋の扉を開けば、その巨体に構う事なく

藁の山に敷かれた毛皮へとダイブする。

真っ白い巨体に温もりを抱き込む様に毛皮を寄せていく。

今はまだ、毛皮自体に温度は感じないが

そのうち、温まってぬくぬくすることを願いたい。

赤ん坊にでも戻ったかの様に背を丸め、瞼を閉じて惰眠への道を進む。


「……(まーーじっ疲れたんすけど。私は今日ナニをしたんだ?)」


 私は一日の行動の成果を頭の中で呼び起こしていく。

魚干して、川へ下って、なんか騎士君と連れの子のペアを見つけて

頭が痛くなって逃げ帰ってその後、ばったりとエルフのご老人集団と出会って

座って話し合おうとして若い黒い入れ墨入れたエルフのおねーちゃんと

少年エルフ達に矢だるまにされる。


「ぽぽおぉ……(マジでナニもなしてねぇ)」


 ぎゅっと帽子のつばを掴んでは、頬へと引き寄せて、現実への障壁とする。

意味ないんだけどねー。しっかし、エルフの里の人はやっぱ怒ってる?

最初のエルフ君を昏倒させちゃったからねー。まぁ、害あるって思うよねー。

寝返りを打つと藁が凹み、中に含まれた空気がぼふっと外に出される。

跳ね返る感触に包まれ、柔らかさに飲み込まれ、私は意識を段々と手放していく。


「……(もう寝よう。ほんと、ふかれたぁ)」


 そのまま私は眠った。夢は見なかったが、見れるもんなんだろうか?

〘八尺様〙として身体の機能やスキル構成は解ったが未だに精神性は謎である。

当然、寝ている最中にうとうと考えていたので起きたらすっかり忘れているが

それでも、元々現存していたら彼女は一体何を考えていたのだろうか気になった。

私みたいにいろんな事に一々驚いたり、失敗したりしたのかな? それとも――


「……ぽっ!? ぽっ! ぽっぽっぽっ! ぽぽっ!?」

(うわっ!? 暗い! 【ステータスオープン】! 今、何時!?)」


【睡眠時間6時間12分38秒。疲労の蓄積ナシ。状態異常及び変化はありません】


 そんな虚ろな思考を吹っ飛ばす起床をした。

くわっと目を見開いて外を見ると真っ暗である。午後まるまる寝てしまった様だ。

いや、予定もナニも無いが日曜日を惰眠で過ごしてしまった様な

背徳感と勿体なさと後悔が押し寄せています、はい。

そして、自らの体調と睡眠時間を適切に教えてくれるシステムさんの

冷酷無比な宣言にその後悔が加速するのです。やっちゃったなー。

いや、不貞寝をすると言ったけどこんなにがっつり眠るとは。


「ぽぽっ(しっかし)」


 困った。……いや、うん。ナニが困ったかと言うと、本当に暗いの。

そりゃ灯り無いからね。そして、うーん。曇りなのかな? 外が真っ暗だ。

手元もよく見えない。システムさんのステータス画面が無ければ

立つこともままならないし、すっ転んだり、柱に頭をぶつけていたと思う。

いやー、初日に気づいてて良かったよほんと。

私はステータス画面を展開したままのそのそと起き上がるが


――シッダーーンプリィィッズーーーワタシーーー! 姿勢を低くしろー!


「……ぽっ(待って、ちょー怖い)」


 え? なんか真っ暗じゃね? 明るさが画面一つぼんやりって怖くね?

昨日はすぐに夜は寝てしまったので気にならなかったが

改めて夜に目が覚めて思う。小屋が真っ暗で怖すぎる件!

物静かで隙間風が全くないって訳じゃない簡素な作りのそれが

今ではどこかおどろおどろしく感じられる。うわ、木目がなんか怖いよ!?


「……ぽぽぽっ(どうしーよー)」


 完全に目は醒めてしまった。ひぃっ、虫!? ネズミ?

なんか、今、天井か屋根を動く音が聞こえたし? いや、そんな森ですから

小さいお友達もとい動物なんてそりゃ居る訳ですよ。

肉食獣だって居るんだから、そりゃ餌になる小動物も居ますよ。

魚がいたんだから、そりゃ食う鳥やらも居ますよ!


『『ゔうぉぉぅぅつぉぉぁぁあんぅぅ』』

「ぽぽぽぽぽぽぽっーーー!?(ぎゃーああああああーーー!?)」


 なんだ、狼かなんかの遠吠え? でかい、声がめっちゃでかい!

そりゃ見かけてましたけど! え、狼居たもんね? 吠えますよね!?

それもお仕事ですからね!? お仕事なのかな!?

今日のノルマ消化なのかな!? デイリーミッションなのかな!?


【狼の遠吠えは労働行為ではありません】

「ぽぽっ!(へぇー!)」


 いや、システムさんこのタイミングでその無駄知識はなんなの!?

あれなの、私が不安になると煽ってくる機能とか入ってるの?

そこだけOFFに出来ないの? 狼ってこのボリュームで吠えるの?

いや、狼の遠吠えなんてフィクションでも聞いた事あるかレベルだけど。

勿論、経験した記憶なんてある訳ないが、空襲警報に震える様に

私は身体を縮こませては、その遠吠えが過ぎ去るのを待つ。

中々止まない。うう、なんかそれに混じって他の鳥やら動物の声も聞こえる。

……そして、私は人間だったら顔面蒼白な気分になる。


「ぽぽっ! ぽっぽっぽぽぽっ!(しまった! 魚出しっぱなしじゃん!)」


 そうだ、矢だるまになった後、まっすぐに帰ってきたから外の干し台に

開いた魚が出しっぱなしになっているよ!? なんか食べられちゃったかなとか

思っても居たがそれよりもだ……待って、これなんか色々寄って来ないか?

生魚かつ干し魚未満の魚肉とかそりゃ餌が飾ってあるよーにしか思えない。

そもそも食べられるかは解らないが一度、取り込まねばならないのでは?

変に餌の場所だと思われてそりゃ猫の如く毎回寄られても困る。


 え? 出てくの? この猛々しい遠吠えオーケストラの中を?

ええぃっ! 私がやらねば後が面倒だろぉぉぅぅ?

私はつばを掴んだまま中腰でそろーりっと扉を開ける。

隙間を見ては外に獣の気配が無いのが解ると大きく深呼吸をする。

よし、覚悟完了!


「ぽぽっ、ぽぽぽぽっ!(八尺様、外に出ます!)」


【いってらっしゃいませ】


 無駄にシステムさんに見送られてしまった。ちょっとうれしいぞ、これ。

私は扉を開けると真っ暗な森を見る。空は昼とは一転、真っ白い木々と

薄暗い夜闇のグラデーションは実にホラーチックなのではあるが

私はそれよりも驚かねばならない事態に動転する。瞬きの回数も増えた。


「……ぽ、ぽぽぽっーー?!(ゆ、雪降ってるよぉーーー!?)」


 私は犬ではないので庭駆け回らないし、猫でもない上にこたつすら無いので

丸くなれないという悲劇と共に、目の前の振り始めた小さい粉雪を眺める。

しまった、そもそも駆け回る庭すらねぇ! まぁ、そんな事はどうでもいい。

いや、雪? 雪ですよ、白いのがぽつぽつと。いや、曇ってますけど?

なんだか白い森の木々に白い雪が舞い散り積もるってのは中々ロマンティックだ。


 ただ、そんなに寒かったのだろうか。エルフ君達も結構着込んでいたが

となると私、ワンピース一枚ってかなり薄着過ぎないか?

アレか、八尺様だと体温とかそういう概念の無いのかも?

私はそんなことを思案しながら僅かに積もった雪を撫でてみる。

体感温度とかそーいうのが気になっただけの気まぐれだったが

再び驚嘆することになる。


「……ぽっ?(あれ?)」


 この雪……溶けない?

                  第二十六歩「歴史の断片」に続く

〘フォレスト・エルフ〙[種族][エルフ] Level1

この世界に最も数の多いエルフ種族。地域により肌の色や細かい特徴は異なるが

「耳の先が長く尖っている」「長命で人間の4倍近い寿命がある」

「狩猟や弓の扱い、皮革の加工や木工が上手い」

などが一般的な認識として広まっている。


また、大抵は人類と深く交流が持たないというのもある。

彼らにとって弱点や欠点を秘匿する事に加えて、森自体が強大な利権な為

極力交流を避けているというのが一般的な見方である。


一般人をはじめとする殆どの人類はエルフの居住する森へと入ることはまずない。

〘フォレスト・エルフ〙相手に森の中で戦闘は勿論、知識も圧倒的な差があり

間伐材の木材輸出や薬草の育成、秘薬の生成、毛皮の輸出など

数多くの独占的な利権を保有しておりいる。

彼らにとって森の運用が領地であり、文化であり、技術の粋である。


この種族情報については多岐に渡る為、今回は此処までとする。

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