↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

21/127

第二十歩「血も涙もない(物理)」

「……!?(うわっ、中どうなってんの!?)」


 私は傷痕を見る。うん、いや。どうなんだろう? え、えーと。

血が出ない。そして、肉がない……え? 骨もない? 私、どう動いてるの?

皮膚は人間の肌の様に裂けている。裂けていて、一皮剥いたら……ぇ?

暗い? 昏い? 冥い? 暗い? クライ!? 何コレ、中が真っ暗。

テラテラとこう原油の様に鈍い光の光沢を持つ、どろどろしたモノが漏れている。

と言っても盛大に血を噴き出していると言うよりは、空気中に霧散しているのか

煙の様に漏れていく。え、これ私、全部出たら死んじゃうんじゃない?!


「ぽぽぽぽっ? ぽぽっ、ぽぽぽっ!? ぽっぽぽっ!?

(あわわわ、何かで塞がないと? いや、洗うのが先!? どうしよう!?)」


 ええと、消毒? しなきゃダメ? いや、待て待て。

消毒液とか保健室とか医療所とか無いよ? え、どうするのこれ?

私、昨日の段階で警戒してたんだけど! うっかり、怪我しちゃったんだけど!

いざ、直面するとマジでどうしたらいいんだろ?

え、ファンタジー的に回復呪文? 薬草? 宗教施設に駆け込む? 宿屋?

誰だ? どれだ? 効果あるのか? してくれるのか? そもそも通貨持ってない!


「ぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽっ

(ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ)」


 私、死ぬの? ええ!? ええと、取り敢えず水で洗わないとダメかな?

川は多分、綺麗な筈! 私は暗黒物質みたいなのが漏れてる手の傷口を

川の水へと漬ける。あ……私、馬鹿だ! すっごいバカだ!?

そう、気づいたのが遅過ぎる点も大馬鹿者である。


「ぽぽぽぽっ!?(いってえええよぉぉっおぃ!?)」


【《人工聖水》の退魔効果により、ダメージを受けています】


 すさまじい悲鳴とともに河原の石のじゅうたんに身体をもんどり打つ。

やばい、傷口からちょっと白煙が出てる。私、祓われてる!?

いったい、マジで痛い。実体験の記憶が無いから感覚でわからないんだけど

比喩の表現としては傷口に塩を塗りこんだり、焼き鏝で炙ったりする感覚?

ぁー、なんか香ばしい香りが! 私自身が焼き焦がされるなんて

ラブソングの歌詞のノリで美味しそうにこんがり仕上がってるよ!?


「ぽぽっ! ぽぽぽっ!(いったーい! 刺さってる!)」


 って、ぎゃーー! 矢が転がった先で更に深く刺さっていく!

私、HP削られてるよ。ヤバイよ、死んじゃうよ!?

痛いってマジ痛いよ! ちゃんと矢抜いてから転がるべきだったよ!

いや、そもそも転がる必要ないからね!? 落ち着けよ、私!


「……ぽぽぽっ(これは不味い。マジで不味い)」


 どうしたら、どうしたら良い?  そうだ、HPって生命力だよね!

つまり、吸収するって事はそもそも注げる枠みたいなのがあるってことだよね!?

大丈夫か? 何もしないより、最悪ちょっとお腹に入れる位だと思えばいい。


「……(スキル使うよー)」


【スキル〘魂削りの愛撫〙を使用します】


 私はよろよろと起き上がっては近場の木に抱きつき寄りかかる様に倒れこむ。

手で真っ白い木肌を撫でる様にしながらもスキル〘魂削りの愛撫〙を使用する。

相変わらず、味は酷いがそれでも背に腹は代えられない。

辛みのない大根?甘味のないきゅうり? あー、生の茄子とかズッキーニ?

そんな感じの食事感覚を味わっていく。おお、段々と身体が楽になってきた。


「ぽぽぽっ?(回復してる?)」


 そう言って、傷口を見る。そして、マジで吐きそうな位に盛大に凹む。

思わず、目が離せないこの状況を実況しよう。まずはその傷の穴。

ぐにょっと凹んで矢の先端の殺傷でえぐれている所に位中身が

まるで煮詰めたあんこの様に気泡と共に膨れ上がる。この時点でかなりグロい。

それを更に白い線が張り巡らせる様に残っていた皮膚が

ボコボコと膨れ上がっている中身が抑えつける様に橋を渡す。

段々と肉のラインを型取り中身を覆う白い線が膨張していって

その黒い中身を元の形へと押し込んでいく。

矯正ストッキングで体のラインを無理矢理造ってる様な感じだろうか?


 思わずその場で膝をつく私。ぽろぽろと矢は抜け落ちては地面へと散らばり

肉体の穴凹は綺麗に塞がり、着ていた帽子やワンピースすら元通りになる。

ええい、もうこの感情叫ばずにおられるか。私は叫ぶぞーーー!


「ぽぽっぽぽぽっ!!!(ちょっとディティールに拘り過ぎだろぉ!!!)」


 一応、ある程度のグロテスクは覚悟をしていた。

例えば、生肉がうねって血とか骨とかが超再生して元通りみたいなのは

肉が暫く食べられなかったり、見たくない程度ではあるが自然な方だろう。

ただ、血肉もなかったのでこれは無いと予想出来てきた。


「……(生きているのかどうなのかってレベルを軽く越えてるよ)」


 他の予想は例えば、割れた陶器が逆再生の様に元に戻っていくパターン。

もしくはデジタルな存在っぽいノリで

四角のマスの群れが傷口に詰められて形を形成するパターン。

うん、血が出ないならこれらのパターンが最有力だと思っていた。


「……(しかし、今のこの再生の仕方はなんなんだろう?)」


 そこまでやる必要があるのか? 原理とかどうなっているのだろう?

私の中身はこの黒くてドロドロした何かを内包してかたどっているのか?

骨とか肉とか無いのにどうやって立って、どうやって動いているんだ?

という冷静な指摘、分析を差し挟む理性の欲求を塗り替える

圧倒的な化け物としての演出。八つ当たりに叫ぶのすらもはや虚しい。

自分が血肉と骨すらないよくわからない何かで身体が形成されている。


「……(うっわー、マジで今の私なんなの?)」


【あなたは怪異〘八尺様〙です】


 うう、システムさんにまでトドメの一言を頂いてしまったよ。

今までシルエット的には人間っぽい何かだったから一種の救いにあった。

しかし、エルフ達の討伐の場面、降り注がれる矢と殺意の眼差しを受けて

他者からの認識を改めさせられた。自身の再生の描写によって自分がもはや

人間どころか生物ですらないという結論が、何度も頭の中で渦巻いていく。


「ぽぽぽっ……ぽぽっ(ほんとさ……なんなの)」


 『ぽぽぽっ』しか出ない声が虚しい気持ちをドコまで表せているのだろう。

私の感情は〘八尺様〙という化け物の存在では必要ないのだろうか?

何のための目だ、何のための口だ、何のための肌だ、何のための心なのだ。

解らないなぁ。私がナニをしたんだろうか? この状態って何かの罰?


【現在の状況は懲罰的意味合いを持ち合わせません】


「ぽぽっ(なんだそれ)」


 多分、人間だったら泣いている筈なんだけど、私の頬が濡れる事がない。

システムさんの冷静な解説が逆に心に来る。そのくせに肝心のものが出てこない。

頬を伝えてくれる涙すら流れてこない。泣きたいけど泣けない。

これは中々大変だ。感情の発散が出来ないというのはなんとももどかしい。

涙目位になっていた気もするのだが、それは気の所為だったのだろうか?

どうしたものか。友も捕まってない上に妹の結婚式も無いが走ってみるか? 


「ぽぽっ、ぽぽぽぽぽっぽっ!(そもそも、友も妹も居ないんですけどね!)」


 ヤバイ、中々重症だ。つまらない事を悲しむことすら出来ない。

巻き込んだ太宰治先生とメロスに申し訳ない。うー、どうしようか?

考えながらも木々を枯らしては身体の傷を癒やしていくと

当然、枯れた木々が乱立されたのでやたら目立つ結果になっている。

おおぅ、なんかこれはこれで暴れた後みたいでちょっと考えないと駄目だ。

えーとえーと、えーとだな! あーー、分からん!


「ぽぽっぽぽぽっぽっ!(よし、不貞寝しよう!)」


 もう知るかボケェ! 私は現実から逃げるぞ! あの小屋に引き篭ってやる!

            第二十一歩「百の英雄譚Episode1 水くみエルフの交渉」

〘百の英雄譚〙[歴史][英雄]

ケントゥリオ地方に後に語り継がれる英雄達の物語

国から派遣された魔を退ける英雄達が地方を駆け

様々な困難や苦闘を描かれた史料の一端である。


この時期の英雄譚にしては異常なほどの詳細な記述と

膨大な数量は歴史学者への挑戦とも捉えられている。

ただ、一部学者の意見ではこれらはプロパガンダ的な側面や

後世に伝えられる為の史料という目的の他に

本来は全く別の用途で編さんされていたのではという見方が強い。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。