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第十九歩「聞きたくない第一声」

「ぽぽぽっ!(お前がやるんかい!)」


 く、『ぽぽぽっ』としか言えないから突っ込めないこの想い。

すごいめっちゃ静かな顔で蹴りを繰り出すご老人。そして、木へと叩きつけられる

若い女エルフのリーダーちゃん。あ、木が若干傾いて白い木の葉が舞っている。

わぉ、鳥さんも避難開始している中、追撃する様なご老人のドロップキックが

リーダーちゃんの腹部へと叩きつけられる。あ、あれは痛い。

というかご老人、一発蹴るどころか追撃まで叩き込むのか。


「■ド■、ワ■■■■ム■■■■ハエ■■■■ッタ■■■■ノ■!」

「■■ン! ゾ■■■ウ■■■タ!!!」

「■メ■! ■ル■■ネ■■■■シ■■!」


 ご老人の右ストレートがリーダーちゃんの顔面を捉える。すごい男女平等だ。

と言うかさっきからご老人のフットワークが半端ない。打撃の音が重過ぎ。

一見、いかにも儀式用な身動きの取りづらそうな服装だというのに

軽快なステップと共にリーダーちゃんをボコボコにしている。

アッパーカットで軽く宙に飛ぶ黒い線の迷彩が入った白い肌の女体。

映像作品だったらスローモーション入るわ、今の当たり方。


「■メェ! ■■ク■■■イ! ブッ■■■!!」


 リーダーちゃんもブチッて切れた模様。鼻血を垂らしながらも睨み返しては

老人の襟を掴んでそのまま、ぶん殴り返す。あまりに過激な暴力沙汰に

周りの他の老若男女エルフがもう必死に止めに入ってきた。


――いや、違う!


 あれは止めに入るという建前で乱入しようとしている人が数名居るぞ!

え? マジ何なのコレ? どうしよう。ねぇ、システムさんどうしようマジで。

私、矢だるまにされた上に放置ってどんなプレイ? え? もう帰った方がいい?


【未確認の〘セイント・シール・エルフ〙2名が〘狂乱〙状態になっています】


 あ、解説どーも。え? どういう事なの? 〘狂乱〙?

怒り狂っているの? 沸点低いの? カルシウム足りてないの?

あー、確かに森だとカルシウムってどう摂取するんだろ? 魚?

牛乳はあるのかな? そもそも牛って森に居るのかな?


 困難と混乱気味の上、面倒臭い状況に思考が脇道へとずれる。

駄目、今すべき事をちゃんとしないと。えーと、両手でも上げておこう。

私は降参ですよー! 戦う意思はないですよー!っと言う感じで

目いっぱい上げて敵意の無さをアピールする。通じて、お願い!


【〘古代エルフ語〙の言語理解経験値が規定値分溜まりました。

 種族情報〘セイント・シール・エルフ〙がLevel2にあがりました】


「族長! アイツ 両手ヲ 上ゲル 攻撃 スル!」

「ァ!!? 殺ル気カ オ前!」


 お、ようやく上がって片言ながらに相手の言葉が……ってえぇ!?

え、違う違う! 私は首を左右に振るが、一瞬にして敵意の混濁が

私へと一直線に整列されていった。いかん、族長とか呼ばれていた老人が睨む。

リーダーちゃんに現在マウントポジションを取って、ボコボコに殴り続ける姿勢のまま

老いたその顔からは想像だに出来ない激しい殺気をぶつけられる。

おぅふ、後ろにでかいトラが見えるんじゃないかな漫画とかだと。

超怖い、おしっこ出るかわからないけど失禁不可避な様相を呈している。

思わず後ずさりをしつつも、視線の圧力には屈しまくりです、はい。


「……ぽっ、ぽぽぽぽっ!!(ご、ゴメンナサァイーー!!)」

「あれ、今の誰の声?」

「ァ? 何モ聞コエナカッタゾ?」

「スルスミ、テメェ、今日ハ キッチリ 説教ヲ ソノ身体ニ 教エテヤル!」

「ハッ! ジョートウダ! 死ニ損ナイ! アノ世へ 殴リ飛バシテヤラァ!」


 私は踵を返してはそのまま森の奥へと逃げ帰る。くそぅ、またこのオチか。

何回、私は逃げ続けなきゃならないんだよ! 事態が毎回悪化してないか?

なんだか去り際に色々言われていたが、もうそんなの気にしていられない!

うう、走る度に刺さった矢が自分の身体へと変に食い込んでいく感覚が気持ち悪い。


 私はなんとか川岸へと逃げこんでいく。静かな清流の水音だけが聞こえる中

振り返っても人影や気配がない。幸い、エルフ達は老若男女追っては居ないか?

《少年渇望》の能力でも特に探知は出来なかった。いや、追っ手とか出さないの?

皆、あの二人の喧嘩に夢中なの? え、それはそれでどうなのマジで。


「ぽぽぽっぽぽぅ(ほんっと訳わからん)……ぽっ(って……うわぁ)」


 私は落ち込みながらも水面に映る自分の姿を見て……盛大に気分が凹む。

化け物じゃん、ほんと。なんだこれ、矢が本当に弁慶の最期みたいに刺さってる。

木に石の鏃になんかの鳥の羽根が付いたエコで原始的な武器。

目をつぶりながら左腕に刺さっていた一本を引き抜く。うひぃ、痛いよ!

口元を抑えて声を殺し、ふぅーーふぅーーっと呼吸を荒げては

瞼をゆっくりと開けていく。こわっ、マジでこんなの人に向けて撃ってんのか。


「っぽ、ぽぽぽっ(って、私はもう人じゃないか)」


 気分は更に落ち込みながらも、矢をもう一本、もう一本とゆっくり抜いていく。

いや、現実はそんな淡々としたものではなかった。もう、本当に怖いのだ。

身体に異物が、攻撃の痕跡が残っている上、その一本一本が殺意の証。

私を殺すという意思の元で撃ち、敵意を載せた紛れも無い攻撃なのだ。

そりゃ、私だってそこそこ生きてれば喧嘩もあったのだろう。

ただ、殺し合いなんて到底イメージ出来ない。これはゲームじゃない。

紛れも無く、私は殺され掛けて、死に掛けて、そして今、生き延びているのだ。


「ぽぽぽっぽぽぽぽぽっ(なんで上手くいかないんだろう)」


 オオカミさんエンカウントからこう相手がどんどん凶悪凶暴になっていく。

ていうかエルフが〘狂乱〙とかあの喧嘩っぱやさはマジでなんなのかな?

普通、エルフって森の中で多少しきたりとかに厳格だけど温和だったり

保守的なこう、いかにも森の守り人的なのじゃないの?

私がそんなに災厄か! いや、現に被害者一人出しちゃったけど!

やっぱ、化け物相手には厳しいのかな? 


「……ぽぽぅ……ぽぅ(ぜぇ……はぁ、マジしんどい)」


 私は憂鬱なまま、矢を引き抜いているとふと何か違和感を感じる。

なんだろう? こう、私、すっごい事見落としてないか?

うーん、と言っても今の化け物ボディの尺度で考えれば

何もかも規格外なのは当然なんだけど……あれ。えーと、なんだ?

情報の見落とし?は後回し。今は矢を抜いちゃおう。

多分、毒とかは無いのかな? まぁ、あったとしたらもう手遅れだ。

私、走ってさっきの遭遇場所から逃げているから十分毒があったら回ってる筈。

それもそれで大変なんだけどね? 今、もっと違う何か、えーと……ぁ!


「……(私、出血してねぇ!?)」

                 第二十歩「血も涙もない(物理)」に続く

[言語理解経験値]の仕組み


上記経験値はスキルによる言語理解を経験値化し、スキルとして取得する値である。

本来、言語の読み書きや会話の習熟はスキル問わず

学習や経験を持って取得するが[怪異]を始め、世界の理とは別の次元に生息する存在は

その感情、経緯、行動から他者の言語を理解する事により初めて、対話が可能になる。


経験値取得に際し、単純に見聞きしたり、通常の学習での取得は意味をなさない。

好印象も悪感情など種類やベクトルは問わず

感情をお互いに交差させる事でその感情の理を

理解する事から言語の理解へと繋がる。それは取得者個人が向けても意味はなく

その言語使用者がその取得者に対して、会話をしていない場合は取得に至らない。


簡潔に言うなれば、取得者に感情的に声を発したり(例:罵倒、告白、礼賛)

感情を込めて対象を限定した文章を見ない限り(例:恋文、警告書、誓約書)

経験値を取得できない仕様になっている。

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