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第九十七歩「同じ夢を見れる日を」

「……そろそろ行く」

「ぽぽっぽぽぽっ?(送ってく?)」

「不用だ。後……もう少し色々と考えると良い」


 あだ名を付けあった後に曖昧な会話と雑談は続いていく。

ふと、何かを察したのか立ち上がる太陽の君。

なんだか心の中の声とは言え、付けたあだ名で

相手を示すというのは少しいたずら心を感じさせていく。

私は体育座りのままソレを視線で追う。特に引き止める事もなく

かと言って突き放すこともない。なんだかこの子とは変な距離感だ。

そういう意味でイケヅキ君とは大分接し方が違っているよね。


「さようなら、名も知らぬ化け物よ」

「ぽぽぽっぽぽっ、ぽぽぽぽっぽっぽぽっ(さようなら、太陽の君)」


 そう言って、太陽の君はそのまま木から飛び降りる。

最初はびっくりしたが、身を乗り出して地面を見ると

もう彼の姿は見えない。身体能力かあるいはスキルを使ったか解らないが

跡形もなく、まるで今まで過ごした時が夢幻の如く消え去ってしまった。

うーん、幽霊って訳でもないし、彼は確かに居た筈だよね?


【システム復旧しました。現段階で障害を防ぐ手立てがありません。

 修正パッチの作成を要請しています】


「……(あら、おかえりなさーい)」


 システムさんの声と共に私は現実に引き戻された様な感覚に陥った。

いや、まぁ慣れて来てしまってはいるがこれが現実というのも

辛いというか不思議なもんなんだけどね。そんな事をぼんやりと考え

下を見ていると森の中からイケヅキ君とタワラが出て来た。

もうお話は終わったのかな?イケヅキ君が木の根元から

コチラへと上がっていくのが見えるが、タワラは根本で待機をしている。

流石にあの巨体を木に上げるのは無理か。丸まって待機するシルエットは

遠目に見ると可愛い。それとは裏腹上がってくるイケヅキ君の顔は

先程、丘で別れた時同様かなりのシリアスな雰囲気の表情を刻んでいる。


「お待たせしました。何か変わった事はありましたか?」

「ぽぽぽっぽっ(うーんっと)」

「……どうしました?」

「ぽぽっ、ぽぽぽっぽぽぽぽっぽぽぽっ(うん、これは正直に話そう)」


 私は上がってきたイケヅキ君にさっきまで居た太陽の君について

話してみることにした。後から考えれば、明らかにおかしい。

色々と緊迫した情勢であるし、いくら私の性格があったとしても

妙に彼の前では素直というか遠慮がなくなってしまう。

逆に相手も相手で戸惑っていた感もあったがそれでも

私の思考も態度も無防備ではあったし、此処に連れて来た事は

悪手でもあると思う。ただ、それに疑問も否定的思考も一切出来なかった。

私はただ、あるがままに目の前の太陽の君を受け入れてしまっていた。


「なるほど……いえ、懸念はありました」

「ぽぽぽっ?(と言うと?)」

「種族的な制約、習慣というのはあるものです。

 〘ハッシャクサマ〙は子供を疑ったり傷付けたり出来ないってのが

 あるのかも知れません。後は相手がスキルを使っている可能性も」

「ぽぽっー、ぽぽぽっ(あぅー、そっか)」


 イケヅキ君も流石に怒るか毒舌の一つも出るかと思ったが

彼から聞いた言葉に思わず唸ってしまう。〘八尺様〙の情報は少ない。

推察された通りに私は少年と対峙してしまうと

なんらかの思考や行動の制限が掛かる可能性がある。

未だに情報が出ていない事を考慮すればいくらでも考えられるし

あるいは相手からそうさせる事だって出来るかも知れない訳だ。

普通に性格的な問題だと思っていたのは日頃の行い故か――って!?


「……(私、対男の子に関してチョロイン確定なの!?)」


 え、マジっすか!? ホイホイ言うこと聞いちゃうの?

某リモコン操作の巨大人型ロボットのみたいに悪にも正義にもなっちゃうの?

やばくない? 主に話の展開とか諸々の懸念ありまくりじゃない?

邪悪でビッチで羊の角と生えてる悪魔っ子ショタとか来たらどうしよう!?

くそ、想像の時点で既に可愛い!? 其処んとこどうなのよ、システムさん!


【現在の種族Levelではその関連の情報を開示する権限がありません】


「……(ありゃ、そういやまだ〘八尺様〙に関してはLevel2だったね)」


 久し振りにシステムさんとのやり取りをしながら私自身は

考える振りをする。結構〘八尺様〙として過ごしてきた日々は

濃厚であったけど、このLevelの一向に上がらなさは

本来はそれなりに長い年月を掛けて知っていくのかもしれない。

うう、これが数ヶ月とかは早過ぎて無理として数年?

下手したら数百年とか数千年とかになったら途方過ぎるよ。


「少なくともええと太陽の君でしたっけ? その子は恐らく[百英傑]でしょう。

 派遣された二人ではなく、勇者軍の皇太子の子飼いかも」

「ぽぽぽっぽぽっぽぽぽぽっぽぽっ?([百英傑]って色々居るの?)」

「はい、大抵はかつての勇者の様に地方を回ったり特定の街や地域で

 治安維持に務めるのと勇者軍に所属している。

 あるいは皇太子達に個人的に付き従う者も居るみたいですね」

「ぽぽぽっ、ぽぽぽぽっ(ふーん、ありがとう)」

「珍しいですね。前に対峙した相手だと言うのに今、初めて聞かれました」


 そういって不思議そうに見るイケヅキ君の視線はやや痛い。

さっきの太陽の君への応対もそうだが、私は[百英傑]と言うシステムが

合わないらしい。やっぱり、子供が若い頃からあっちこっちへと

大人や地域の問題に首を突っ込んだり、化け物退治をしたりと言うのは

危なっかしいし、それに頼り切っている大人が嫌いなのかも知れない。

ラナス君もコアタルちゃんも普通にお友達とはいかなくても

敵対なんかしたくは無かったしね。そういう事で今まで避けて来た

[百英傑]だが、今回はいよいよ顔も見て、正面から乗り込まれたのか。

うーん、太陽の君。あの子とも戦わなきゃいけないのかな。


「ぽぽぽっ(嫌だなぁ)」

「それは[ひゃ]――子供だからですか?」 

「ぽぽっぽぽぽっ!(もちろん!)」

「なんというか本当に亜人類や人類みたいですね。

 特にその中でも優しい部類の性格だと思います」


 私は握りこぶしを作ってはうんうんっと大きくうなずき返す。

イケヅキ君も大分解って来たのか言い直してくれた。

うむ、こういう共感と解りやすい思考の提示が理解の第一歩だよね。

此処の世界では勿論、時代や文化相応の道徳やら倫理があるので

子供を大事にすること事態は珍しくないが、私みたいな人外に属する存在が

他種族の子供全般を大事にするというのは珍しいらしい。

そんな事を木の実と竹筒に入った水を飲みながらも話していると

段々と日が落ちていく。流石に夜にこの上で待機というのは厳しいので

二人で根本にテントを張って夜を過ごす事にした。私は火を起こしては

持ってきた保存食を炙ったり温め直している中

イケヅキ君はタワラと一緒に再び水を汲んで来る。


 ぱちぱちと燃えては音を立てる火を眺めながら刻一刻と

明日という大きな変化の日が近付いて来るのが怖くて仕方ない。

今まで行き当たりばったりかその後は当て所無く、平穏な日常だった。

決められた日に何か大きな事が起きるなんてのは此処に来て初めてだ。

イケヅキ君達が戻ってきた後もその緊張は取れてないらしく

ぎこちない会話と共に夕餉を終わらせていく。

うう、折角イケヅキ君とおまけのタワラと一緒に

ご飯が食べられているのに全然、味とか会話が弾まない。

かと言って、戦争とか族長さんと話していた事を聞いちゃうと

それがまた見たくない現実を引き寄せるみたいでちょっと嫌だ。


「……〘ハッシャクサマ〙。片付けが終わった後、お話があります」

「ぽっ、ぽぽぽっ(な、何?)」


 そんな中、イケヅキ君が夕餉の食器やらを片付けている中

話を振られる。なんでこんな嬉しい事なのに私は怖がってしまうのだろう。

情けなさを胸にしまい込みながらも恐らく、声のトーンからして

相当シリアスな話になるのが目に見えている。私は動揺をなんとか

押し込めながらもじっと対峙しては敷物へと座り込む。

意味もなく、正座だ。私がなんかお説教されているみたいだぞ?


「聞きたいことがあります。出来れば正直に教えて下さい」

「ぽぽっぽぽぽっ?(なんでしょ?)」

「その〘ハッシャクサマ〙は過去や未来の夢を見る能力がありますか?」

「ぽっ!?(なっ!?)」


 突然の告白に近い事実の確認に思わず目を見開いてしまう。

これは恐らく、アレだ。システムさんの[パーストポータル]による

[レガシーピース]の観覧、即ち過去の状況再現の事を聞かれているに違いない。

いくら私がぼんやり、ぽんこつ、あーぱー娘だとしても流石にわかる。

しかし、困った。これは私もやるべき事をやらないといけない。

こほんっと大きく咳払いをする。顔もシリアスにしないとね?


「そ、その」

「ぽぽぽぽっぽぽっ(イケヅキ君)」

「は、はい!」

「ぽぽぽっ、ぽぽっぽぽぽっぽぽぽぽっ(正座、私みたいに座って)」

「は、はい? 解りました」


 とりあえず、イケヅキ君と腹を割って話す前にやる事を済ませなければ。

うん、以前に見た[レガシーピース]の観覧時の侵入者は

イケヅキ君だったのか。可能性はあったのだろうけど

やっぱりイケヅキ君がやったなんてのは容疑者として

さっぱり出て来なかった? うう、これはこれで思考が危ないかな。

まぁ、それはそれとてまずは目の前の問題を片付けよう。


「ぽぽっ、ぽぽぽっぽぽっぽぽぽぽっぽぽぽぽっぽぽぽっ!

 (まず、女子の寝顔や寝床を覗き近づくのは〘八尺様〙怒りたい!)」

「そ、そっちですか!?」

「ぽぽぽっぽぽぽぽっ! ぽぽっ? ぽぽぽっぽぽぽぽっぽぽっぽっぽぽっ。

 (そっちですとも! いい? 幾ら私が化け物でも恥ずかしいです)」

「そ、それはその……ごめんなさい」


 そう、私だってイケヅキ君の寝顔とかみたいし、寝姿を撫で撫でしたいし

一緒に添い寝したいとか絡み合って寝たいとかそれは色々ある訳ですよ。

もう、お互いの寝相で打撃を与える位近距離で寝たい訳です。

けどね、私はまだそれはやったダメだと思うのですよ!


 私だって何時死ぬか解らぬ身の上です。化け物故どんな影響が出るか。

何より、流石にこんなに優しくして貰って面倒を見てくれる子に

手を出すたぁあのブチギレおねーちゃんじゃなくても憤怒な訳です。

それはもう夢の中とか妄想ではアレやソレやな訳ですが! ですが!

そこはリアルと脳内の一線がある訳なんですよ、解る?

解ってしまったら私が捕まる! 故に此処は毅然と怒らないとね?


「ぽぽぽぽっぽぽっ?(反省した?)」

「はい、本当にすいません」

「ぽっ、ぽぽっ。ぽっ、ぽぽぽっぽぽっぽぽぽっぽぽぽぽぽっ。

 (なら、良し。で、質問の方だけど私は夢に見るのは過去の出来事です)」

「意外とあっさりと!? あ、いえ」

「ぽぽぽっぽぽっ、ぽぽぽっぽぽぽぽっぽぽっ?

 (見たとならば、隠しても意味無いでしょ?)」

「それもそうですが」


 という事で私はシステムさんの存在等は伏せつつも

『土地土地に起こった過去の出来事を夢で見る事が出来る』という体で

イケヅキ君に説明する。それは私にもよく原理とかも解ってないけど

なんとなく見たい時は見れると言うことにしておいた。

恐らく、彼が次に望む事はおおよそ解る。故に私はきちんと

見てしまい、それを告白して反省する彼の誠意に応えたい。


「ぽぽぽっぽぽぽぽっぽぽぽっぽぽぽっ、ぽぽぽっぽぽぽっ。

 (私はイケヅキ君が一人で聞かなかったら、答えませんでした)」

「ありがとうございます。で、ではその」


だって、その気になれば勝手に覗き見る事も出来るだろうし

それこそ族長さん達と囲んで私に詰問する事だって出来ただろう。

ただ、それをせずに今、イケヅキ君一人だけに信頼と信用を賭けて

私に問うてくれたのだ。それはそれで嬉しいし、また彼らにとって

託すべき相手が彼一人ということだろう。うん、気分は悪くない。

お互い正座で向き合ったまま、イケヅキ君は混乱を抑えられずに

次に出す言葉を惑っている。うむ、これは私から切り出そうか。


「ぽぽっ、ぽぽぽっぽぽっぽっ? ぽぽっ、ぽぽっぽぽっぽぽぽっ。

 (また、見たいのでしょう? まぁ、気になるものね)」

「はい。明日から始まるそれにどれだけの理由を教えてくれるかは

 解りません。僕はこの森、エルフ達と過ごし纏める上で

 必要だと族長は言ってくれました」

「ぽぽぽっぽぽっ。ぽぽぽぽっぽぽぽっぽぽぽぽっぽぽぽっ。

 (解りました。あなた達には恩義は大き過ぎる程にあります)」


 ふむ、なんだか私まで口調と態度が堅苦しくなってきたよ。

ただ、それでも此処はガシッとシリアスに決めないとね。

背筋をピンっと伸ばす。くそ、座高がやっぱり高い。

体型的には寸胴ではないんだけど、やっぱり男の子なイケヅキ君と

身長2mを越える私とでは脅威の身長差である!


「ぽぽぽっ、ぽぽぽっぽぽぽぽっぽぽっ。ぽぽぽっぽぽっぽぽぽぽぽっ。

 (だから、私は私の出来ることをします。明日の事もそうだけど)」

「はい。その――」

「ぽぽぽっぽぽぽぽっ。ぽぽぽっぽぽっ。ぽぽぽっぽぽっぽぽぽっ。

 (お礼は終わった後で。何が見えるか、君がどうするかはその後だよ)

「解りました。では、改めてその過去の夢見

 〘セイント・シール・エルフ〙代表のイケヅキが拝見させて頂きます」

「ぽぽっ、ぽぽぽぽっぽぽっ(はい、許可します)」


 そんな感じでまさの一緒に夢を見る事になろうとは。

詩的な表現だけど、実際は動画シェアしてるだけという世知辛さだよ!?

                第九十八歩「正義の走狗」に続く

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