ナポレオン・ボナパルテ
コーヒー。
コーヒーコーヒーコーヒー。
「おはようございます今日は何にしますか? 早く出たい朝であればエスプレッソ一発喉ぶち込んでエネルギーいっぱい! おすすめですよ」
「…普通のラテで」
毎日カフェで元気よく働いていると気が付くことがある。他人は明らかに俺とは違う温度差でしゃべって、暮らしている気がする。
あんまり元気じゃないのであれば、エスプレッソを飲めばいいものの、彼らはなぜかそうしない。
ブラジルの豆だってあるのに、彼らは豆の話になると全員わからない顔をして俺を見つめる。
俺が思う理想の世界を今ここで言葉にするのであれば、多分この世のすべての人間が俺になった世界だろう。
すべてのファストフード店はカフェになり、コーヒーのために戦争をし、そしてコーヒーのために人が死ぬ。
いや、人が死ぬというか、俺が死ぬのか。
「戦争について考えてそうなお兄ちゃんですね、私そういう話大好きです!ハイハイ!」
カウンターの向こうにいたのは変な服と大きな帽子を着たおじさんだった。
片手は服の中に入れて、なんだかポーズをするように立っている。
「ブラジルのコーヒーを扱っているようですね。しってました? 実はポルトガル王だったジョアン六世は私の侵略を受けてブラジルの地に足を踏み入れたんです、フランスの大群がポルトガルを押し寄せる前に彼は民を捨てて船で出かけました。私が、ポルトガルに行きつくともうそこに誰もいない! なんてこった…って話だよね、だがね、これは実は初めてのことだったんだ。この私ナポレオン・ボナパルテが大馬鹿野郎に騙されて、か弱い民しかいない地を荒らしたのは。なぜ彼をバカと呼ぶって? 彼は頭がよかったって?」
「…はい?」
「ジョアン六世については当時のジャーナリストたちと、この私自身のぱっちりお目目の証言によると、かれはすべての娘にマリアという名前を付けて、焼きあがった鶏を一匹丸ごと服のポケットの中にしまい込んでいたからさ。あんなデブの大馬鹿野郎に私はやられてしまったのだ…糞!」
「あぁ、コーヒーいりますか?」
「抹茶ラテを頼む」
「あ、はい」
すぐに実行にうつり、カウンターを移動して抹茶の入ったコップを手に水と混ぜてそのあと牛乳――
「はい」
「あ。ありがとう、お兄ちゃん。じゃあ私はポルトガルの侵略に戻るとするよ、君は頑張って仕事をつづけるんだね。私は仕事をする人が大好きでたまらないよ」
「はい」
彼はカウンターに六百円残して出て行った。
おかしいな、抹茶ラテって六百三十円だと思ってたんだけどな。




