アシナガの野望
「トランプ教ってのがのねハチ君、今流行ってるんだよ知ってたか?」
「トランプ教ですかね。あぁ、聞いたことがあります。トランプで遊ぶ人達ですよねアシナガさん」
「トランプがトランプにしてもどっちのトランプの話なのか正直わからない、ハチ、お前はどっちだと思う」
「黄色いほう?」
「アリス・イン・ワンダーランドのほうのトランプだ」
「あぁ」
俺は真夏の昼にカフェの中で一緒にアシナガさんといた。
今日は珍しく客が少なく、いつものようなラッシュにはならないし、ゆっくりしながら話をしてコーヒーが飲めた。
しかし、アシナガさんは少し寛ぎ過ぎだと思う。カウンターの裏に、何か月か前にもってきて倉庫に置いたままだった彼自身のキャンプ椅子に座っていたのだから。
「アシナガさん。座りたいならあっちのテーブルとかに座ってみたらどうです?」
「あっちは客席だろ、突然だれか入ってきて俺のことを見たらどうする? 怠慢な店員が脚上げて鼻くそほじってるところを見られなければならないのか?」
「トランプやりますか?」
「ケネディーみたいに?」
「はい?」
「間違えた。殺るほうのやるだとおもっちまった」
長い、静かな時間だけが過ぎていく中で、アシナガさんが急にキャンプ椅子を後ろに落としてそのまま自分も地面とぶつかっていた。
「糞ッ! 寝かせやがれ!」
「寝てたの」
「寝る以外ないだろ。仕事ねえんだから」
「掃除はどう? アシナガさん掃除好きでしょ?」
「よぉしいいこと教えてやるハチ。それはな、お前がたった今言ったことはな、正論って言うんだ。俺はな? 俺は、正論が大嫌いだ」
「うん」
「お前が掃除しやがれ」
前みたいにまたナポレオンさんが来て暇をつぶしてくれないかなー
アシナガさんにもナポレオンが来たって言ったのに、信じてくれないし。セミはまずまずお母さんに学校へ行かせてもらえなかったせいでナポレオンより歴史全体知らないし。
ロミオとジュリエットは消えたし、キタキさんは香水屋にいて、俺はここから離れられないし…
アゲハさんも同じ。
セミは大食いライブをするって言って出かけてたし。
はぁ。
「なぁハチ。俺はな、野望があるんだ」
「野望ですかね、俺にもあるよアシナガさん」
「お! 本当かハチ! 言ってみろ! コーヒー以外な」
してやられた。
何を言おう。
「えっと、そうだなぁ…例えば、お客さんとじゃんけんをして負けたら俺がその人の目の前でその人の頼んだコーヒーを一気飲みしてから帰らせるとか…」
「コーヒー関係ナシって言ったろ」
考えてなかった。
何かあるかな。
「じゃあ、異世界転生かな! 俺、ゲームとかやったことないけど、アニメでよく見るあれだよ」
「それが野望か。悪くないかもな、二つ目の世界でヒーローか!」
「うん」
「よしじゃあ俺だな! 俺の野望はとっても簡単だ。金だよカネカネッ! お前が異世界転生して手に入れた金をこっちに持ってきて山分け…とかできたら最高だと思うけどな。ま、叶うとしてだけどな」
「お金が野望? 見たことないの、お金? 緑の紙だよ」
「いや、それは見たことあるけど…要はなハチ。世界、金で完結する話がとてつもなく多いんだ。考えてみろ、サザエさん見たことあるか? あれ金あればただのリッチな家族になって終わりだろ? 例えばドラえもんもそうだ」
「でもドラえもんはお金じゃ交換できないよ」
「できる。今の一言の最後に丸を置くくらいできる。金があればスネ夫すら圧倒されて脳震盪起こすような大豪邸買って黙らせる。ジャイアンに関してもとても簡単で月額のサブスクリプションみたいに何百円か渡せばクソガキなんだから満足するだろ。あ、それとだな、学校の成績だ。これも学校買収して直せばいい」
世の中お金かー。インフルエンサーって稼ぐらしいし、セミも同じ思想なのかな…
そうしたらなんだか悲しいな。
「トランプ教の教祖様って多分稼いでんだろうなあ~。俺も教祖とかになったら稼げると思うかハチ?」
「行けるんじゃない?」
「よしなら、秘密を教えてやる。トランプ教が存在するって話は嘘だ。真っ赤な嘘な。これは今日寝てる間に見た夢で、実現させようと思ってたんだが自信がなかったからお前の意見を聞くために話を振ったんだ」
「アシナガさんは頭がいいんだね」
…本当にいいのかな。
「そうだろッ! そうだろッ! よしハチ、俺決めたさ。教祖になってドチャメチャに稼ぐわ! 一回信者集めなきゃだからKPOP好きそうな女が集まってるスタバに行ってくるッ!」




