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道草日記  作者: 西村系
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7/15

ミラクルなオラクル

 俺はギャンブル依存症の人を見たことがある。

 前にスーパーにいたおじいちゃんが、詐欺を疑うほどドアホ高いブドウを見つめていた。

 俺はそれを不思議に思って、かごを片手に混みあがったスーパーの中で彼を少し観察してみた。


 すると彼はササッとポケットに入れていた手を取り出し、ブドウを掴んで口に入れた。

 早すぎる。俺でなきゃ見逃していたね。


 あれは刑務所とのギャンブルだった。それか覚悟の塊だったのかもしれない。

 あのおじいちゃんは今でも俺の中に伝説として残っている。


 あのおじいちゃんには声はかけられなかった。本当なら写真も一緒にとって記念として部屋に飾ろうとも思ったが勇気が足りなかった。

 そんな話は今関係なかった気がする。というか、何をするんだっけ。


「いやあマジっす! マジファンっす! 大ファン!」

 そうだ、ソファーとカーペットが血で汚れてしまったので、弟のセミとスズメバチさんと一緒に買い変えに来てるんだ。

「それでもなお母さんは俺のことをニートって呼ぶんだ! 駄目だろ? ダメダメえ!  なぁハチ!?」

「うん。お母さんはセミのこと嫌いだから」

「いや、そこまでじゃ…」

「でも正直そうっすよね! ハチの兄貴のほうもインフルエンサー始めたらきっとこっちのほうが有名になりますって!」

「え? えハチが? えてかハチさっき俺らのお母さんについてなんて――」

「そんなことないですよスズメさん。動画とるの一日目で忘れるか、スマホをなくすと思います」

「あれ!? ハチの兄貴ってスマホないんすか?!」

「ないです。なくすと高いので…買い換えられないんです」


 なんだか静かになった。

「あれ、セミの兄貴いつもうるさいのになんもしゃべらないんすか?」

「…なぁハチ…俺母親にきらわれ――」

「あ! おれこういう柄のカーペット好き!」

 

 大量のカーペットがそれぞれの上に敷かれた大きなお店の中を歩いていると、天井の棒みたいなもんにつるされた赤と白のきれいな模様をしたカーペットがあった。

 正直そんなことより周りの、塔のように高く積み上げられたカーペットたちに上りたい一心だったが…店に入った時にスズメバチさんに止められてからは、上りたくなくなった。


「なんだか古いお城の王座とかにありそうなカーペットだな。なんか、ポツーンと…」

「あ、セミの兄貴がポツーンと母親の頭の片隅からでさえも消えていくように?」

「うぅ」

「これ何円ですか?」


 俺は隣に突っ立っていた執事服をした変な髭のおっさんに話しかけた。

「私がここの店員だったらあんたらのきたねえケツをこの店から追い出してた。消え失せやがれ」

「あらま」

 スズメバチが口元に手を付けながらびっくりしたようにおっさんを見た。

「なあセミ! ここの天井が…ああああああ!!!!! ダメダメ! ダメダメダメダメダメダメダメ!!!」


 振り向くとカーペットの山の上で立っていたのはセミだった。

「とてつもなく短い25年だった」

 彼は閉じ、両腕を広げて風を感じる。

「よく考えてくれよセミ! これまで楽しいこといっぱいあったじゃないか!」

「例えばなんだハチ!? 例えばなんだ!? 飛び込むぞ!? どッ!」

 彼は飛び込むふりだけして俺を驚かしに来た。

 でも、降りるわけではない。


「例えば12の時にお隣さんと一緒にBBQした日あったでしょ!? あの日楽しかったじゃん!」

「お母さんが俺の存在を忘れて倉庫に閉じ込めたから2週間暗闇の中でネズミしか食ってなかった」

「……」

 

 ツンツンと、肩を指でつつかれた。

 振り向くとさっきのおっさんが俺を見ている。

「子供がカーペットに登っているが、あれは安全じゃないと思うぞ」

「名推理! おっさんはシャーロックホームズだな! コナンと並ぶくらい天才じゃないのか? 俺ですらカーペットの上に誰かがいるって気が付かなかったぜ!」

 スズメバチが笑顔で言った。


「飛び込むぞ! いいのかハチ!」

 カーペットの上からまたセミの声が聞こえた。

 冷房の効いているお店だから、上はさらに冷たいんだろうなぁと思いながら上を見上げる。

 あれ? でも上には暖かい空気が行くんじゃなかったっけ?

 それならあれだな。熱いんだきっと。

 ふーふーしたらここからでも涼しくなるかな。


 

 一時間後。セミはすでに頭に包帯を巻かれていたのに、カーペットから足を滑らせて落ちたせいで今度は腕を骨折してしまい体に敗北。

 白旗上げて看護師のお姉さんにナンパしていた。それを横目で見るスズメバチさんの顔はなんか辛辣だった。

「…弟よ、とにかく頑張ってな。お嫁さんって25歳くらいから探し始めるといってお母さん言ってたから…」

「お前は27じゃねえかいつ結婚するんだよハチ」

 二人の看護師に囲まれながらセミは病院のベッドで横になっていた。

「俺と同じくらい変な女性を見付けたら即結婚カナ」

「…おまえらしいわ。スズメバチが病院の外で待ってあげてるだろ? さっさと行って来いよ、二人で散歩でもなんでもしてやがれってんだ!」


 そのまま部屋から出て階段を降り、非常に白い病院の中から抜け出した。

 あそこの空気ってなんだか酔うんだよね。

「来たか。ハチ、俺一応運転免許あるしどっか行きたいところは?」

 そとにとまっていたスズメさんが車の扉を開けて俺を先に入れてくれた。

 彼が車に入るのを待ってから、こうへんじする。

「俺徒歩のほうが好きなんだよね」

「…ハチの兄貴。あんたって精神科とか行ったことあるか? もう一つ。セミの兄貴は? 二人とも精神科医通ったことは?」

「あるけど自信なくすお薬渡されてからは一度も行ってないし薬も棚にしまってあるよ」

「使うことをお勧めする」


 スズメバチはそう言うと車を出発させ、そのまま病院を離れた。

 しばらくドライブを楽しんでいると、車が知っている街の風景の中で止まった。

「世田谷?」

「お前んちだ。徒歩好きって言ってたよな、徒歩と言えば自分ち近くが一番いいっしょ? ハチの好きなところに連れて行ってくれ」

「ええ! いいの!」

「殺しの依頼は入ってないから暇なんだ」

 

 忘れてた。この人殺し屋だったんだ。


 バンッ! バンバンっ!

 車から出ると、家の前にあったエナジードリンクが大量に置いてある自動販売機を蹴りつけている人がいた。

 俺は一瞬スズメバチさんと目を合わせてから、彼のもとへ向かった。

「暇なら俺らと遊ばねえか兄ちゃん? あん?」

 スズメバチさんが男と肩組んで笑いながら言うと俺は

「ストップ! 駄目だよスズメさん。この人にも何か事情があるかもしれないよ! 自動販売機に親を殺されて復讐をしに来たかもしれない」

「それも正論かもな」

 腕を離して俺の隣に来る。

 

 俺たち二人の前には猫背でたつ貧乏そうな男の人がいた。

 右手首にはサポーターをつけており、やせ細っていて、やけにか弱そうだ。

「俺の名前はハチです。なんで可哀想な自動販売機君を蹴ってるんですか?」

「オラクルが言ったんだ」

「オラクルですか?」

「オラクル…くるくる…」

「…俺ハチです。自動販売機大嫌いさんの名前は?」

「ナナフシです…ハイ」


 俺はまたスズメさんと顔を合わせた。

「こいつも精神科か? 精神科か?」

「オラクルって何なのかを一回聞いてみようよ」

「…それがいい。行ってこい兄貴!」


 俺は一歩前に出て自動販売機をまた蹴り始めたナナフシさんの肩をツンツンとつついた。

「オラクルって何ですか?」

「オラクル? くるくる?」

「ハイ。さっき言いましたよ? オラクルって」

「あぁ。オラクル。くるくる…これだよ」


 そういってグーになったままの手を見せてきた。

 ゆっくりと、周りを確かめて、だれもいないことを確認し、それから開けた。


 百円玉だった。


「はい?」

「オラクル。これ、オラクル。表と裏で未来を予知してくれるんだ」

「…あぁ…うん」

「オラクル…くるくる…」


 バンッ! バンッバンッ!」

 ガチャっ、ドゥドドド。

「え?」

 ナナフシさんがもう三回キックをすると、自動販売機から炭酸が無料で。もう一度言わせてもらう。無料で。無料で落ちてきた。

「え!? なんで?!」

「オラクルだ。オラクルが蹴れって言ったんだ」


 オラクル…! くるくる!

 これはすごい発見をしたかもしれない。すべてはスズメバチさんが適当なところに車止めてくれたからだ!

 未来を予知できる”オラクル”…!

 空が黄色く色を変えるときに、俺たち三人は道路の真ん中に立っていた。

 

 スズメバチさんは信じられないような顔でホームレスのような細い顔したナナフシさんを見つめていた。

「本物か? 仕組みは?」

 彼は聞く。

 それにナナフシさんは、手を閉じて、口元に運んだ。

「真実を伝えても、大丈夫? はいなら表。いいえなら裏」

 そう、ささやくと、彼は親指の上に百円を置いてから宙に投げつけた。

 

 チャリンという音が鳴り響き、落ちてくるとパーン!っとそれを両手で捕まえる。

「答えは…」

 

 彼はそっと手をどかし、俺たちに結果を見せた。

 それは、表だった。

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