ワニ救出 パート2
「あぁそれでなマイハニー、酒場の野郎に言ってやったんだ”死ね”ってな」
「あぁ、なんて文学的なマイダーリンッ! 大好きィ!」
冷房の効いた百円ショップの中にはいると、物の数に圧倒されると同時に若いカップルがカウンターでイチャイチャしているのが見えた。
それにももちろん圧倒されたが、認めたらなんだか恥ずかしいし、彼女いない歴=年齢だとバレてしまうので今のところは
かわいいカップルだな~
程度でいいや。
…
「マイハニーッ! オーマイハニーッ!」
「マイダーリンッ! アァマイダーリンッ!」
さすがにきついな~。
速足で中に入っていろんな品がつるされた壁たちを見て回った。
虫取り網虫取り網虫取り網…あぁお菓子!
そういえば今日熱いし飲み物もかおうかな、セミだったらお茶好きかな。
でも外でそういうの飲むとトイレ行きたくなるっていつも言ってるから、外で漏らすより熱中症で倒れたほうが楽かな。
……迷うなぁ。
じゃなくてじゃなくて! 虫取り網! 虫取り網だ!
さっそく扉近くにあった青い虫取り網を手にもって、カウンター近くにあったガムもつかんだ。
カップルの間に入って、商品を置く。
「なんだお前?」
「ハチです」
「ハチって言ったな、ハチね? ハチ、消えたらどうなんだ。今は少し忙しいんダ、ナ? マイハニー♡」
「うんうんそうねマイダーリン♡ 子供の虫取り網なんてそこらへんのレストランでもプレゼントとしてもらえるし、さっさと出ていきなさい! 私はマイダーリンと素敵な一日をすごしてるの」
この人たちならワニの餌になってくれるかもしれない。
「一日中あるわけじゃないんだ、寄り道禁物だし。だからさっさと虫取り網だけでも買って戻らないと…」
「話を聞いていたのかいそこのリュック背負った頭お花畑そうなヤツッ!」
「聞いてたよ、でも世界が君の都合で動くわけじゃないからここにいるよ」
「聞いていたのであればいいじゃないか! 違う百円ショップいけよ」
「そういえば二人とも似てるね、しゃべり方もそうだし。あ、そういえば自己紹介したっけ? 近くのカフェで働いてるんだ、ハチだよ」
「お前の名前は知ってる、さっき言ったから! でも名乗らないぞッ! ストーカーの可能性もあるしな…」
「キャアアアアア!!!」
「二人とも一緒に過ごす時間が多すぎて似ちゃったのかな」
「帰れ! 帰れ花畑野郎!」
「……」
「帰れや!」
迷惑な人たちではあるけど、全てが恋のためかも知れない。そうだったら悪い人ではない、こう、もっと、目の前が見えてないだけかもしれない。
そうしたら少しびっくりさせた方がいいね! 目の前を見させてあげよう!
俺は虫取り網を手に取った。
「あぁそうだ商品を戻して来い、もう戻ってくんなよ?」
ワニの餌になっておなかで少し過ごしたら、すぐに彼女といられる時間を大切に、そして周りを見ることを覚えると思う。
多分ね。
俺は虫取り網を宙にあげて、優しく彼の頭にかぶらせた。
「な、何してんだ」
「ついてきてくれますか」
「…俺の彼女が付いてくんならいいけど?」
「じゃあ来てくださいね」
餌が増えた。
「もうすぐ?」
「まだだよ~」
「なあもうすぐ?」
「まだだよ~」
「なぁハチもうついたか?」
「まだだよ~」
「ハチあついよー」
「まだだよ~」
「なあ網外してくれよ」
「飛んでいくかもしれないし、やめとく」
「虫じゃないってば!」
「まだだよ~」
「ちゃんと返事しろ! くそ!」
「大丈夫よマイダーリン、私がすぐ後ろで見守ってるから」
視線もあってこの人はさらに熱いんじゃないのかな、すこしくらい彼女から離れればいいのに。
「ニーハオ中国の視聴者たち! 見ての通りワニっぽい何かを観察していますが、実はこのワニ、環境にやさしいワニなんです! さっきから川に入ったごみを拾って…はい! 拾って、ゴミ袋の中に入れてるんです! すごい賢いワニだ!」
セミの声が聞こえるほど近くなってきた。
「先の方で何か聞こえる、ハチまさかお前の知り合いなのか?」
「うん、弟のセミだよ~」
「…こいつ何でもかんでもフワっとしてないかハニー?」
かれは歩きながら振り向いて、彼女を見ながら言った。
「…少しフワフワだけど面白い人かもねマイダーリン」
「あぁハチッ!」
「セミ!」
セミは俺にスマホを向けてきた、まだまだ遠いのに気が付くと手を高く上げて振っている。
彼氏彼女の方はというと、不思議そうに彼を見つめている。
「あれ、有名なセミなんじゃない? あのネットで動画配信してる…」
「私みたことあるわマイダーリン! お母さんが食卓でセミ見てお父さんと離婚してたわ!」
「ハチ戻ってきたのか、その二人は?」
近くまで寄って、清掃員みたいなワニの前まで止まった。
「エサだよ、半ワニ、半人間でもこういうエサはたべれると思って持ってきた」
「でも半人間なら共食いになるんじゃないのか? どこかの国で牛に牛の肉を食べさせて病気になったって話を聞いたことが…ハチ! お前本気か! ワニを病気にする気か!」
「ブラジルの大統領はまずまず半ワニ、半人間だなんていってない! ワクチンを接種したらワニになるって言ってた! だからもう半分人間じゃなくて、彼は完全にワニだ!」
「あぁ! それも正論だ! さすが俺の兄だ!」
彼氏の方を向くと彼は目をまん丸く開けて俺を驚いた顔で見つめている。
「ワニの餌になるのか?! 俺たち!?」
「うん」
「なるなら彼女と一緒になっていいか?」
「大きすぎて入らないんじゃない?」
「お願いだハチ! 一緒に死なせてくれ!」
あぁ、難しい返事だな。
死なないって言ったら、おなかの中に入っても安心して多分反省しないし、死ぬって言ったらそのまま網を頭からとって逃げちゃうかもしれない。
「エサはさっさと入れッ!」
セミは彼氏の腕をつかんで川の中に投げ込んだ。
次の瞬間水が飛び上がり、彼氏は背中を川の中でぶつけた。
「ブリャッフォッ!!」
水を飲みこむと同時に空気を吸いこむ音だった。
「キャアアアアア!!」
この二人、なんだか異常にイチャイチャするな。
「セミ、この二人の名前を聞いてないんだけど…名前を付けるなら何がいいかな?」
「食べられるッ! 食べられるッ! マイダーリンがしぬぅぅッ! キャアアアアアア!!!!」
「ああ、まぁ。彼氏彼女みたいだし、相当好きぴ同士みたいだからそれに合った名前がいいよね」
「キャアアアアア! ダーリンッ! マイダーリンッ! キャアアアアアア!」
「じゃあロミオとジュリエットとか?」
「ダーーーーーーーリーーーーーン!!!!!」
「それいいね」
セミが手で「おk!」サインを出しながら満面の笑みで頷いた。
ワニのほうを見た時、水のなかで立ち上がらずに両手両足を勢いよく振っているロミオがいた。
「彼泳げないの!」
あんまり関係ないと思うんだけどなぁ。
俺は虫取り網をセミに渡した。
「セミ、あのワニとれると思う?」
「…なぁハチ、考えてたんだ」
「どうしたの」
「ワニを捕まえても、どうやって人間に戻すんだ? 人間ワクチンみたいなのを開発するのを忘れてたじゃないか」
「…確かに」
「あんたらうちの彼氏を無駄に溺れさせたってコト?! ぶっ殺すわよッ! あんたら二人ともぶっ殺すわよッ!?」
「餌に見えるジュリエットさんの彼氏が悪い、俺の兄は何もしてないぜッ!」
セミはそう言ってジュリエットに虫取り網を渡して、俺の肩に手を置き
「やっぱあきらめようぜ、ワニを人間に戻すなんてできないや」
とだけ言って笑った。
振り向くと浅い川の中で浮きながら動かないロミオと、あとをついていくジュリエット、さらにその後ろでゴミ袋を持ちながら長い棒でロミオを刺して袋に入れようとするワニが見えた。
今日も楽しい一日だったなぁ、でももう疲れちゃった。




