タイガーキリング タイム
「拙者たちがこれからやるのはガキたちと野郎どもが普段やってるクジカ(クジモンカード)なんかじゃない。興味深いことにレア度の高いパックでは売られないもう一つのカードゲームが存在する。これからやるのはそれだ」
三人で混みあがり始めるお店の中で、端のテーブルに座って作戦会議をしていた。
「なんだなんだ? 急に人が増えてきたぞ…ゴールデンアワーか?」
「俺も思ってた」
「太陽の光を浴びたことないやつらが巣穴からずかずかと出てくる時間でござる。拙者たちはこの、アシナガ氏が俗に言う”ゴールデンアワー”をつかって存分にロンダリングをする。レア度の高いカードを使ったゲーム、たりすゲームでござる。歴代関東地方一位の水谷タイガー氏も、秘密でやっているアブナイお遊びでス。負けたらカードを奪われ、勝ったらカードを奪うのが基本的な勝利のルール」
「…じゃあ、ゲーム自体のルールを教えてくれないかな?」
俺がそういうと、ナナフシさんはさっき渡してくれた変なデッキとは少し違う、表面には”がり勉”と書かれた箱をだした。
「これはがり勉ビルドを使ったデッキでござる。基本的にたりすゲームのカードは三つの属性に、カード個々のスキルを駆使して遊ぶ遊びですね。カード構成は必ず12でなければならない」
「なんで?」
俺が聞くと、ナナフシは俺に指を向けて
「いい質問ですね、優等生君」
「え…」
「ゲーム内ですべてのカードを使い切らなければ、相手が何のカードを持っていくか判断しにくいからでござる。そしてルール上12じゃなきゃ長引くから」
「最初からそう言えよ…」
彼は箱を開けて”がり勉”ビルドというカードたちを見せてくれた。
カードには三つの情報と、大きい絵があった。
最初に、丸が二つ。
上の丸の中には50と、そして下の丸には5と書いてあった。
二つ目に気づいたことは、星だった。
丸以外にカードには★のマークが刻まれている、それぞれのカードで星の量が違うことにも気が付いた。
そしてカードの下らへんにはスキルと、その効果が書かれていた。
「三つの属性。一つ目はがり勉。二つ目は力持ち。三つめはバカだ」
「まるで現実だな」
「俺がカードなら何に入るかな?」
「ハチならバカだな」
「聞けッ! でござる」
俺はカードを一つ手に持ってナナフシに見せた。
「この『50』の表記は何?」
「上の数字は必ずHPになる。下は攻撃力だ。がり勉はスキルが強いカードのほうが多いから、攻撃力が『5』になっているのは決して弱いからではないぞハチ氏」
「わかった。じゃあ★は?」
「レア度だ。★の数が少なければ少ないほどそこら辺のゲームでもよく見るカードになってる」
「スキルって何?」
「1ターンごとにプレイヤーが一回発動できるものだ。戦場にいるだけで発動するパッシブ型。攻撃すると発動する攻撃型、そして自発的に発動しなければならない発動型の三種類がある。とても少ないが、攻撃されると発動するスキル、反撃型も存在する」
「へぇ。スキルって例えば何があるの?」
「この、メガネをしたキャラがいるカードがあるでござるだろ?」
彼はデッキからカードを抜いて俺に見せた。
確かにメガネをしている。
「こいつのスキルは攻撃型ロックオンだ。彼から攻撃を受けたカードは味方、敵構わず2ターンの間狙われる」
「こういうカードはまず、どうやって使ったりするの?」
「テーブルに置くのは六枚のカードだ、前線に三つと後ろに三つだ。HPをゼロにされたカードは山から引いて後衛か前線に置くかを決めなければならない。マウンテンがゼロになって、前線と後衛もいない時初めてゲームオーバーになる。1ターンの間、プレイヤーは6カードの中で一つだけ使うスキルを選び、その他は前にある敵のカードを攻撃する。スキルを使う相手、例えば相手にデバフを与える感じのスキルは相手を選べる。基本的に後衛キャラは支援や回復が多いから、先にデバフをつけてスキルを無効化したり、凍らせて行動できないようにしたりしなければならない。ちなみにがり勉がテーブルに6人そろっている場合スキルは好きなキャラから二回発動できるようになってる」
「すごいね、本格的! それで、属性はほかに何か意味があるの?」
「あるでござるよ。がり勉はバカに対してスキル効果と攻撃力が二倍、バカは攻撃力が力持ちに対して三倍、力持ちはがり勉のスキルの受ける効果が0.5倍になるのと、攻撃力が増える」
「知識はアホに勝ち、アホは力に勝ち、そして力は知識に勝つ…ってことか、いやぁな属性たちだな」
とにかく分かった。
なんだか、まるで任務をそれぞれこなす騎士のような気分だった。
分かれ道の前で別れの言葉を告げ、それぞれのデッキを手に旅へ出かける。
なんてかっこいいんだッ!
そして魔王は、もちろん水谷タイガーという、なんか、人。
ルールも理解できた。
12枚のカード。テーブルに置くのは6枚のみ。一枚倒されたら山から一枚補充する。
山とテーブルのカードがなくなったら負け。
相手のカードが先になくなったら勝ち。
こういう時は、あんまり変な戦術で行くと変な方向に試合が曲がってしまいそうだからシンプルなもので行こう。
例えば、身を守ることに特化したデッキ。とか!
アシナガさんはさっそく自分のもらったデッキを手に、箱をゆっくり開けて中身を見ていた。
彼がもらったのは攻撃的な赤色と黒、白色の混ざった”力持ち”カードデッキだった。
「よっしゃあ! これが欲しいって思ってたところなんだ。力こそ正義ってよく言うだろ?」
「拙者のカードだから失わないようにだけ気を付けるでござる」
「オタク様の言う通りだな、ハチッ! 俺たちは一度も負けないぜ」
「おお! 言ったね、アシナガさん!」
俺も青色の箱を開けてみたら、そこには”バカ”と書かれたカードたちが12枚あった。
「おぬしは”バカ”デッキですなハチ氏。予想外なトラップスキルと、HPと攻撃力のバランスが保たれた、有名なカードデッキでござる。初心者にはうってつけってところですな」
「へえ、ありがとうナナフシさん」
「練習がてら、俺と一発やるかハチ? 俺は力持ちデッキだから、簡単に勝てると思うぞ」
「いいの!? やったね。ボコボコに握りつぶしてやる」
時刻は午後、6時半。
二人の初心者たちはそれぞれ六枚のカードをテーブルに、にらみ合っていた。
アシナガさんは今、攻撃特化のカードたちを前線に積んで、後ろにHPの少ない回復型を二人ともう一つよくわからないのを置いてるみたい。
俺はというと…
前線に、ホームレスが一人、不良、田舎中学の教師。か…
「準備できてるか? ハチ」
「ちょっと待って」
後衛には回復役と、大工ってカードを置いてる。
大工は、壁を作って仲間を守ることができるらしいから、彼自身を守るために後ろに置いたけど、一応HPも高いからな…
「ハチ! さっさと始めるぞ」
「ちょっと待ってって」
回復役にはコンビニ店員とガス欠の運転手か。
変なカードたちだけど、多分勝てるかもしれない。
「はじめよっか」
「よっしゃ」
試合は開始するッ…前に、じゃんけんをしてどっちが先制とるのかを決めた。
あいこを三回続けた後に、やっと俺が勝った。
先制はこの俺だ。
「ハチ氏、忘れるでないでござる。バカカードはボードに六枚揃っていると30HPブーストと5攻撃力ブーストがもらえる。相手からカードを奪う時も、積極的にバカを選んでこのブーストを使えでござる。もっと自由なカードを置きたかったら一枚力持ちだったり、がり勉でも仕方ない。でも、ブーストはなくなると思うがよい」
「わかった」
試合は、開始する。
「わすれるなよハチ、これはあくまでも練習試合だ」
「わかってるよ、でも、握りつぶさない理由はあるの?」
「…言っただけだ。勝たれた後にカードを奪われたくなからな、練習試合だとカードの奪い合いはナシだ」
「それも十分承知」
「よし、じゃあいいぞ。はじめろ」
まず最初に不良を前に出して、彼のスキルを発動させた。
”自作の巻きたばこ”
敵のテーブルに学生カードがいれば攻撃として相手が一ターンひるむが、このスキルは基本的に相手全員の攻撃力を0.5倍にするスキルだ。
「…糞野郎」
力持ちといっても、デバフを積んで攻撃力を無効化すれば相手のカードの意味がない。
「このまま前線の攻撃をする」
相手の前線カードはそれぞれ30ダメージを受け、アシナガさんのターンになる。
相手は学生カードをテーブルに置いていなかったので、怯んだカードはない。
しかし、攻撃力は減っている。
「ロマニアン兵士を使って君のホームレス不良を攻撃させてもらおう。剣術スキルの発動で隣のカードも攻撃を受ける」
「でも、攻撃力は?」
「…30」
「ただのスキルの良さがない馬鹿カードと同じだね、アシナガさん」
「…」
「あ、それと。不良カードの隣にホームレス。いるでしょ? これ攻撃喰らったら相手に物乞いするから君のカードは2ターン怯み。ロマニ何とかはもう次から動かせないよ」
「死ね」
「うん。攻撃していいよ」
「…おまえの前線三人にまた30ダメージずつ…」
「あ、またホームレスふんじゃったね」
「…」
「怯みね」
「…」
「怯みね?」
「…はい」
前線の中学教師が30ダメージ、その他は60ダメージ受けてホームレスと不良は死んでしまったが、山からまた補充した。
しかし、相手は合計二枚のカードが完全に使えなくなっている。
補充されたカードのたちは”地下アイドル”と”トイレおじいちゃん”。
「じゃあ俺ね。地下アイドルで君の”男性”のカードを全員攻撃」
ちなみに、彼のカードたちは全員男性だ。
「それぞれ30ダメージね?」
「俺の方が上手だ、ハチ。お前はすでにカードを二つ失ってる」
「それから通常攻撃で前線の三人撃破」
「ハチ、お前本当に初心者か?」
「これのために生まれてきたのかもしれない」
アシナガさんはアイドルカードを見て、今度は女侍、ムキムキ魔女、狂犬病の雌犬を入れた。
「大丈夫だ。大丈夫だ…よし、まずは狂犬病の雌犬でお前のその教師を攻撃。ダメージ20と毒を入れた。1ターンに10継続ダメージを2ターン受けるぞ。すでにHPが10しか残っていないから、次で終わりだな。ごぶごぶだ。その後にHPの少ない狂犬病の雌犬を、指揮官を使って後ろに移動。前に弓兵を入れる」
「強いね」
アシナガさんがテーブルを組みなおして、きちんと考えている。
相当負けたくないんだろう。プライドが傷つくのかな?
でも、今度は男性カードが三つしか相手には残っていないし、まずアイドルで攻撃をしても一発で倒せそうにない。
教師はすでにこのターンでリタイア。
タンク毎ターン自己回復を重ねているモンクが後ろにいて、左のキャラにもHP回復の恩恵上げているみたいだ。
「ねえアシナガさん。その、後ろのモンクってキャラのスキルちょっと読ませてよ」
「それありなのか?」
アシナガさんはナナフシさんのほうを見て聞くと、ナナフシさんは頭を上下にゆるく振った。
「ちょっとだけな」
そういってアシナガさんはモンクのカードを俺に渡す。
そこには確かに、回復と攻撃力を備えたパッシブスキル持ちのつるつる頭がいた。
前線にこいつを置かれたら、破壊力と相手のスキル構成次第ですぐに溶けるかもしれない。
すべてが。
なお、俺には後衛攻撃キャラが今のところいない。
教師の死亡で引きなおしを喰らったとき、後衛攻撃カードが引けるかもしれないが、これは運しだいだ。
「なぁ、ハチ。お前、おかしいと思わないのか? 俺が女カードを三つも連続で引けた理由が」
「…山を全部開いて、その中から選んでるのを見たけど、それってありなの」
「モンクの隣にいるカードを見てみろ。そのカードのスキルには”山から好きなカードが選べるようになる”と書いてあるだろ?」
「…」
こいつ。
「あんまり調子のるなよ、ハチ。俺の勝利はすぐそこだ。よぉく考えて行動しな」
「…」
トイレおじいちゃんのスキルを確認しよう。
何か勝ち筋があるかもしれない。
スキルは…
すごい、すごい物を引いてしまったのかもしれない。
こいつは、こいつはすげぇ、ヌルヌル蛇口みたいにアシナガさんのHPと、おじいちゃんのケツからアレが流れる。
勝ち筋はすでに見つかった。
実行は、時間と、俺の腕の問題だ。
まず最初にガス欠の運転手をスキルを発動させて仲間全員を励ました。
「ポジティブがいいって言うもんなぁ?」
アシナガさんはニヤりとしながら俺のカードたちを見てくる。
全仲間のHPがたとえマックス状態でも+10、攻撃力がこのターンの間だけ+20される。
そのあとにトイレおじいちゃん、地下アイドル、そして教師の最後の攻撃をさせた。
55。40。そして50。
相手の前線のキャラは全員半分HPが減っている。指揮官だけがあともう一発で死ぬ状態になってる。
「よし、俺のターンだな…」
「違うよ、ちょっと待ってね」
「え、」
トイレおじいちゃんのスキルは、下痢だ。
そのターン中攻撃を喰らった敵全員に毒状態と+20の攻撃力が追加される。
なので実際は、75。60。そして70になる。
教師をテーブルから抜いて、山から違うカードを持ってくる。
「ターン、エンド」
「…」
相手の前線のHPは30を切っている。
「ハチ、ハチだめだ、ダメだハチ…全員毒で…」
「俺が次のターンに攻撃をしたら、前線と、その犬もなくなると思え」
「ハチィィィィィィッ!!」
そして勝負は続き
結果は、悲惨なものだった。
12対5。
相手のカードはすべてHPをなくし、山の隣に、引けない、触れない、何もできないただのカードの”山”を作ってしまう。
そして俺が失ったカード数はたったの5だった。
才能かも知れない、バカと力持ちの相性問題だったのかもしれない。
でも、相手にも勝ち筋はあった。
つかめなかった彼が悪い。
次は、他人をボコすことにする。




