タイガーキリング ウィズ パッション
「デス トゥ ザ ホワイトッ!」
「…12枚目」
「クッソォォッ!」
最初に手に入れたカードはフィオナとか言う緑のドレスをしたがり勉属性のカードだった。
「フューチャー イズ マインッ!!」
「未来は定められてるわけじゃない。一瞬手のひらにすべてがコントロールできる状態でも、瞬きをすればすぐにすべてが無くなる。12枚目」
「ヒョッハァァァッァァァッァ!!」
次に手に入れたカードはドゥームマンという力持ち属性の馬人間だった。
「パソコンいじったことありますか?ドゥフ。そういうの今頃知らないとかマジありえ――」
「普通に話し方と笑い方が苦手です。12枚目」
「あ、はい」
その次はパソコンをいじる大きい図体をしたメガネのがり勉属性のカード。
そしてリストは、続く。
多くの相手から大量のカードを立て続けに手に入れていると、隣にはカードを保管するナナフシさん以外にも、カード好きたちが集まり始める。
俺が何かスキルを発動させるたびに、俺のターンが終わるたびに、俺が勝利するたびに。
彼らは歓声を上げる。
そして、もっと人が集まる。
「ハチ氏、よくやってるでござる。続けてモブどもを倒して、いいカード構成を思いついたらそれでデッキを作って他を売り、そのままのデッキで水谷タイガーに喧嘩吹っ掛けるでござるよッ!」
「私の趣味はカードなんかじゃあなかったんだぁ…」
「…あの、すみません。ささっと、その凶暴なリスカードをテーブルから抜いて進んでくれませんかね…」
今度試合をしたのは、なんだか悲しそうにしていた肌黒なお姉ちゃんだった。もちろん、試合に負けていることは変わらないが、彼女が悲しんでいる理由はそれではない気がする。
頭を抱えてテーブルを見つめている彼女がなんだか可哀想に見えた。
「…ね、お姉さん…あれじゃないですか、なんか悲しいことあっても、ね? 少なくとも髪の毛はまだあるじゃないですか…ほら、長い、黒いその髪が…ね?」
「…ギャルってよんでんの?」
「なんでそうなるんですか…あの、進んでほしいんですよ、試合」
「私ギャル? ぴちぴちのJKみたい?」
「なんとも言えないです」
彼女はカードデッキを手に、両腕を前に広げて頭をテーブルに伏せ、泣きじゃくり始めた。
「う、うわ…うわあああ…」
この人、本当になんなんだ。カード好きはカードの上で泣かないぞ…
そうだ、何かやっぱりあったんだ。
水谷タイガーとプロレスで負けたとか…
いや、女性が男相手にプロレスするわけないか。
ていうかプロレスラーを女性が相手したら下手したら死ぬな。
「死んでますか?」
「もう少しです」
まだか。てことは水谷タイガーとプロレスをしてるわけじゃないんだな。
「私、実は借金だらけなんですッ!」
「俺もだよお姉さん。でも試合中のカードの上で泣いてるわけじゃない」
「すべては、うぅ、全てはあの仮面野郎のせいなんだぁ」
「パチンコですか? 酒ですか?」
「違う…カードをォ、すべて、すべてあの水谷タイガーに取られたァァ」
「じゃあその、手に持ってるデッキは?」
「レンタルデッキ…一時間3000円。負けたら奪われたカードの分も支払いしなきゃ…」
「…」
「おにいさん、ここで一番うまいTCPですよねっ! おねがいですっ! おねがい、水谷タイガーを私のために、借金を取り返すために倒してくれませんかッ!?」
彼女はテーブルに上がってカードたちの上で俺の肩を掴んだ。
「おォねがいですゥっっっ!」
「なぁ、ハチ。この女、可哀想でござる…」
「えっと、ごめんねお姉さん。お姉さんの名前は?」
「…う、うぅ。ヒメです…少なくとも友達からはヒメって呼ばれてます…」
彼女はまだ俺の肩につかまって、真っ赤になった顔で俺を泣きながら見つめている。
「…じゃ、じゃあ普通の名前は?」
「ヒメウスです…」
…姫ってかわいい名前ついてるのに、ウスで台無しだなこの人。
なんか名前まで可哀想。
「ハチ氏、拙者たちに使命ができた。ヒメを救うことでござるよ」
「…えぇ」
「ハチ氏、分からないのか? これは大チャンスですよ、ハイ! もともと拙者たちの目的は水谷タイガーだった。でも、今回で彼女のこの一言のおかげで、我々の普通の行動が、今度は正義の行動になる。この女性も一生我々についてくること間違いなしッ! でござる!」
借金はこの人のせいではあるんだけど、これ以上何か駄目なことを言っちゃうとシャツに涙が来て濡れてしまうので承諾することにした。
「これはメインクエスト発生ですよ、ハチ氏」
「お前ら何の話をしてるんだ?」
アシナガさんがあっち側で試合を終わらせたらしく、俺とナナフシさんとヒメさんがいるテーブルに来た。
「なんだこのかわいい外人風の女は…」
「ナンパならセミがすでにいつもやってるから役を奪わないであげて。アシナガさん。」
「…糞が」
彼はナナフシの後ろによって俺とヒメを見ている。
「作戦はすでに実行に移されているでござる。でも、今度は最終段階です」
「おお!」
俺とアシナガが同時に声を上げた。
「ハチ氏はすでにタイガー氏に勝てるほどのデッキを構築しています。あとは彼を挑戦するだけです!」
四人で、階段近くの、人が集まるテーブルのほうを向いた。
「あの肉のリュックサックみたいなデブにやっと立ち向かうのか」
「拙者たちの、最初からの使命でござる」
「俺楽しみ!」
「あんたらってまさか頭おかしかったりする…?」
勝敗はすでに決まっているわけではなかった。
でも、俺たち三人…いや、四人の中では確実だった。
スプーンは口に運ぶためにある物である。
これより確実なことは、俺たちの勝利だけだった。
「立ち向かうか。この俺様に…?」
一般市民たちが俺と、その仲間たちが彼の方向を歩いているのを見ると、道を開ける。
俺の後ろにはデッキを持つ二人の戦士と、囚われの身の姫。
目の前には、テーブルにふっとい面と、椅子の下に当たるデカい腹が座っていた。
「そいつは…ヒメウスちゃんじゃないですか? さっきぶりだねお姉さん」
「私…」
「いいんだ。喋るでないヒメ氏。これから拙者たちがタイガー氏を倒す、君は見ているだけで大丈夫でござる」
水谷タイガーは片手のデッキを山にして、6枚のカードを取り出し、テーブルに広げた。
「試合がしたいのであれば、クチャクチャとしゃべっている暇なんてあるのかい?」
「俺は一年中ほぼ暇だよタイガーさん」
あ、返事しちゃった。ダメダメ…相手魔王なんだから屈辱的で相手の怒りを買うようなことを言わなきゃ…
「おまえの母ちゃんデブすぎて人工衛星のカメラから見えるもんッ! 地球のほくろって呼ばれてるもんッ!」
すると突然アシナガに肩を軽くたたかれた。
「ハチ」
「え?」
全員で輪を組み始める。
作戦会議みたいだ。
「本当に試合するのか? ハチ」
「試合以外ないでござるよ。拙者たちは彼からスニーク100してカード奪うわけにはいかないでござるし…」
「あんたら全員男子何だから頑張りなさいよ」
「フェミニストって男女の差をなくす人たちのグループじゃなかったっけ…」
「私はいつフェミニストだって言った」
「男が嫌いでござるのか?」
「俺はそういうプレイも嫌いじゃないぜ、縄できつく締めてくれれば…」
「何言ってんのアシナガさん…?」
「だ か ら。 何をするって聞いてるでござるよ! 本当に試合するのか?」
「男殴るのが趣味なのかヒメちゃんは? 嫌いじゃないってさっきも言ったけど」
「そういうわけじゃないわ」
「アシナガさんズボンにコントローラー入れてる?」
「俺のスティック…」
「黙れ。黙ってくれ。てめえら全員黙れ」
「俺の母親と全く同じだな『アシィ、黙りなさい~』『アシィ~アシィ~』」
「本当にアシナガさんのお母さんの声? 聞いたことないけど似てるね」
「あんた女になれるんじゃない? 下のをちょん切るの手伝ってあげようか?」
「あ、ぜひ」
パッチィンッ!
その時店内で、そんな音が響いた。
「いたいな」
「黙れ」
「やっぱりあれだよね。ナナフシさんは下ネタ嫌いだから一回下ネタじゃなくて上ネタ話そ」
「どういうこと?」
「俺顔真っ赤なんだけど」
「黙れ」
「私関係ある?」
「アシナガさんはヒメさんのせいで興奮してるからあると思う」
「アシナガ氏ッ! 力づくで水谷タイガーからカード全部奪ってこいッ!」
ナナフシがそういうと、アシナガは次の瞬間に椅子をタイガーの方向に投げつけていた。
「脂肪しかないから効かないと思うわよ」
「ストレスさえなくなればそれで済むんだよ、ヒメさん。これから二人の大人の男性が肥満症の高校生を殴るから、シネマみたいに一回座ってみてようよ」
「いいアイデアだわ」
そしてまた楽しい一日が終わった。




