タイガードロップ エレクトロニックス
「タイガードロップッ! タイガードロップッ! タイガーーーーッッ トォッッッロップゥッ!!!」
少し肉付きがいいメガネをしたお兄さんがカードショップで椅子に足つけてポーズをしていた。
「やあやあ 二人とも、真の挑戦者であればこのワタクシッ! 水谷タイガーッッ! を挑戦してみた前よ…世田谷1スーパーピカ1の元プロレスラーッ!」
「ねね、ナナフシさん。中学生ってプロレスラーになれるの?」
「…ラーメンいっぱい食べたらなれるらしいね、少なくともこの人の体形から見て」
今日はナナフシさんに誘われてカードショップへ来た。
変な生き物が載ったカードたちを見て叫びあう大人の男性たちを見ていると、なんだか未来の日本が少し明るく見えた。
ナナフシはカードショップにいる人たちにとけ込むため、アニメのTシャツとメガネをし、すでに短かった髪をところどころ自分でバッサリ切っている。
ズボンは黒いジーンズで、腰には古そうなチェイン。
手袋をして、彼は片手にカードたちを…
えっと、彼が言うには、
「ホールド」
しているらしい。
前のオラクルの件もそうだったが、ナナフシさんは少し流されやすいタイプの人間かも知れない。
「えっと、ナナフシさんはなんでカード始めたの? ていうか、なんで俺を呼んだの? 全くこういうのやったことないんだよね」
「大丈Vだぜハチさん…じゃなくて、ハチ氏!」
「え、えぇ…」
「うぉ水谷氏、ここにて登場ですかドゥフ…拙者、そういうキャラ非常に興味深いと思いますよハイ。評価したいところです、いいね案件」
彼は突然水谷タイガーだとかいう変なデブ…じゃなくて、少し大きい人に返事をした。
「…ナナフシ。俺の文化はお前のコスチュームじゃない、そのカードをテーブルにぶちまけて堂々とお前のまま勝負をしろ」
しかし、スペインっぽい仮面をつけて一番ふざけていそうな水谷タイガーに怒られてしまう。
「スパニッシュタイガートラウトサーモンさん、ナナフシは今変な年齢なので無視してあげてください」
「…」
「ほら、謝りなナナフシさん」
「かたじけないでござる」
「自殺しろ」
水谷タイガーが俺たち二人に指を向けながら言ってきた。
なんて重い言葉なんだ、ヘルニアになってしまう。
「まって、ナナフシさんッ!」
俺はナナフシさんを後ろに引っ張って、二人で部屋の角で少し話を始めた。
「なんでここに来たんだっけ? 俺は何で呼ばれてるの? カードなんかやったことないってさっき言ったよね?」
「ハチ氏、俺…じゃなくて拙者はな、相手にカードで勝って、勝利した時に相手のデッキから一つカードをもらう”一か八か”勝負をネットで見たんだ」
直後、彼は手に持っているカードを俺に見せてきた。
「見えるか、ハチ氏。これはただのカードじゃない、お金なんだ。これを売ればオラクルが百万個もらえる。えっと、このカード自体はそれくらいの価値じゃないけどね…」
「ってことは、カード集めを趣味にしてる人に勝負持ち掛けて、勝ったらカードをもらい、そのまま売り飛ばすってこと?」
「ピンポン侍」
「卓球してる…」
それなら、お金に興味がある人を知ってる。
少し角から離れて、ナナフシに電話をしてくると言った。
テーブルをまじまじを見つめる初対面の水谷タイガーには何も言わず、そのまま建物の階段を下がり、一階にいた店員から受話器を使わせてもらい電話をした。
「こちら糞珈琲店、糞ったれ糞糞糞人生糞バイト先で働いてるクソナガですゥ~」
「アシナガさん。お金を一瞬で稼ぐ方法が分かった」
瞬きをするとアシナガさんは俺の隣でスマホを見ていた。
「何をするんだ?」
「…早いんだね」
「脚が長い人って足も速いことが多いんだ。で?」
「二階だよ」
「いこう」
アシナガさんの後ろに付いて行って階段を上がっていると、彼はすぐさまオタクのコスプレをしたナナフシと目が合う。
「なんだあの変な格好した政府から金もらってそうなやつは?」
「ナナフシだよ。今回カード・ロンダリング業に俺”たち”を紹介してくれる人」
「”たち”だと? ハチ、お前もやっぱ加わるのか? こういうことには普段手を染めないと思ってたんだが…」
「正直、やらないでおこうと思ったんだけど、お金に困ってるんだよね。長い間借金取りも家に来ないから心配だし、少し貯めておこうと思うんだ」
「お前にも計画があるんだな。よし、とにかくだ。何をするのかはあいつが説明してくれるってことだな?」
「うん」
「よし」
そしてアシナガさんのことに気が付いたナナフシは手を前に出す。
「夜露死苦ゥ」
彼はアシナガさんをなんかのヤンキーだと勘違いしているみたいだ…
「おぉ、熱いハンドリング。これはプロの臭いがするな…クンクン…同時に風呂入ってない大人のワキガの臭いもするぜ」
「アシナガさん、この、これがナナフシさんだよ。ナナフシさん、この人がアシナガさんだよ」
「…拙者は人間じゃないのか」
「で、あのデブはなんだ?」
「水谷タイガー氏でィすか?」
「スペインからきたプロレスラーだとかなんだとか。でも俺はカード界の人間じゃないからわからないや」
「ハチ、完璧な説明だ。それだけであいつが馬鹿だってことがわかる」
そして三人で水谷を見つめた。
彼は、バカな顔というほどではないが…確かに見ていてむかつく態度と目つきをしている。
アシナガさんのいつもの他人に対しての暴言を安易に受け入れるのは俺の普段のルーティーンとは少し違うが、ここは認めるしかなかった。
水谷タイガーはバカ顔してる。
「馬鹿は馬鹿でも仮面も外せないほど不細工な馬鹿だったらどうする? カード勝負をする場所だから、カード勝負をすると思うが…彼の顔面を直視しなければならない場合は吐いてしまうかもしれない」
「よくわかったねアシナガさん! カード勝負をして、勝ったら相手からカードをもらうんだ。ここはオタクも多いおかげでレアカードを持ってる人の確率が高いってさっきナナフシさんが言ってた」
「ほう。それでレアカードを売るってか? 俺の普段の稼ぎ方とは違う上に遅いし、めちゃくちゃくだらないがまあ暇つぶしにやるか」
「じゃあ普段アシナガ氏は何やってるでござるか?」
「道端で人殺して財布を取ってる」
「確かに簡単そうですな」
嘘だと思うけど…
いや、嘘だったらいいな。
ただでさえアゲハさんがいるし。
「冗談だ」
「ふぅ…」
「拙者はデッキを持ってるでござる。残りのデッキも何本かあるから、一人一つずつ渡す。これから個人個人で勝負を行って、レアカードを集めてほしい。負けてカードを失った場合は下の階に安いカードが売られているから構成を考えなおして来いでござる」
「オーケー!」
「了解」
「これからは戦争だ。拙者たちは、この戦争で勝者になる。準備はできてるかな?」
「万端だよ!」
「問題ナッシングッ!」
そうして、カードバトルが始まる――




