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『追憶file.美月アリス⑵─隠された目的─』

 ──午後三時半。


 オフィスの出入口が開いた。


「ただいまー」


 戻ってきたアリスが休憩室を覗く。


 そして──。


「…………」


 フレデリカの姿を見つけた瞬間、アリスの顔が引きつった。


「なんでフレデリカがここにいるのよ!」


 開口一番、アリスはフレデリカへ詰め寄った。


「来るなら来るで、アタシに連絡してくれればいいじゃない!」


 しかし、フレデリカはまったく動じない。


 優雅に紅茶を口へ運ぶと、ゆっくりとカップをソーサーへ戻した。


「別に、どこへ行こうとあたしの勝手でしょ?」


「あんたにとやかく言われる筋合いはないわよ」


「この……」


 アリスの眉間に青筋がよる。


 そんな二人のやり取りを、相津たち四人は少し離れたところから眺めていた。


「やっぱりお前も知らなかったか……」


 相津が呆れたように呟く。


「知るわけないでしょ!」


 アリスが即座に言い返した。


「ていうか、なんで誰も教えてくれなかったのよ!」


「いや、俺たちも知らなかったし」


 相津がとばっちりを受けた。


 アリスは腕を組み、フレデリカを睨む。


「で?結局、何しに来たのよ?」


 全員の注目が集まる中、フレデリカが何かを思い出したように顔を上げる。


「あっ、そういえばお土産を持ってきてたんだったわ」


「今!?」


 フレデリカは気にする様子もなく、足元に置いていたキャリーバッグを開ける。


 そして中から一つの箱を取り出すと、柏木へ差し出した。


「はい。これ、つまらない物だけど」


「わざわざすみません」


 柏木が箱を受け取る。


 しかし──。


「……ん?」


 柏木は箱を持った瞬間、何かに気づいたように眉をひそめた。


 ほんのわずかだが、手に違和感がある。

 小さな紙切れが挟んである。


「…………」


 アリスが、柏木に横から声を掛けた。


「ちゃんと中身を確認した方がいいわよ」


「失礼な娘ね」


 アリスに促され、柏木は包み紙を開いた。


 中から出てきたのは──。


 東京バ〇ナだった。


「…………」


 全員が無言で箱を見る。


 そして相津が口を開いた。


「おい、フレデリカ。絶対これ、東京駅で買ったやつだろ」


「あら?」


 フレデリカは涼しい顔で紅茶を飲む。


「お土産の詮索なんて、無粋なことをするのね」


「相津"警視"ともあろう御方が」


「…………」


 相津の眉間に青筋が浮かび、拳をプルプルと震わせる。


「まあまあ、落ち着け」


 柏木が苦笑しながら相津の肩を叩いた。


「ほら、せっかく貰ったんだ。みんなで食おうぜ」


 そう言って柏木は立ち上がる。


「ちょっとこれ、給湯室で取り分けてくるわ」


「あっ、わたしがやりますよ」


 心春が立ち上がろうとすると、柏木は手で制した。


「いいよ、いいよ」


「ここは俺がやるから、心春ちゃんは相津を見張っててくれ」


 未だにプルプルしている相津を見て、心春は苦笑しながら相津の隣へ移動する。


「相津さん、落ち着いてくださいね?」


 そんな相津を見て、フレデリカは笑っていた。


「ふふふっ」


 そんな中、心春が無邪気に尋ねた。


「フレデリカさんは、アリスさんに会いに日本へ来たのですか?」


「ああ……娘に会うために、わざわざ日本まで来るなんて……」


 レオが感慨深そうに呟く。


「なんてお優しい方なんだ……」


「うっさい。アンタは少し黙ってなさい」


 アリスが呆れたように言い放つ。


 そんな二人のやり取りをよそに、フレデリカはじっと心春を見つめていた。


「……?」


 視線を向けられた心春は、きょとんと目を丸くする。


「さっき正面玄関で会ったときにも思ったけど……」


 フレデリカは口元に微笑みを浮かべた。


「あなた、本当に面白い子ね」


「とても純粋で、真っ直ぐな子……」


 そう言いながら、フレデリカは改めて心春を見つめる。


「あなたのような子がここにいるなんて、"ある意味"不思議なくらいだわ」


 その言葉に、相津の表情が僅かに険しくなる。


「……そこまでだ、フレデリカ」


 静かな声だった。


「心春は立派な【Zero】の一員だ」


 相津はフレデリカを真っ直ぐ見据える。


「それこそ、あんたにとやかく言われることじゃない」


 しばしの沈黙。


 フレデリカは相津の言葉を受け止めると、ふっと笑った。


「ふふっ……そうね」


「ごめんなさい。今のは、少し意地悪だったわね」


 フレデリカはそう言うと、ティーカップをテーブルへ静かに置いた。


 そして、ここへやって来た理由を話し始めた。


「ここへ来たのは、セリーナから連絡があったからよ」


「……あんた、やっとセリーナと仲直りしたのね」


 フレデリカが淡々と告げる。


「べ、別に仲直りなんてしてないわよ!」


 アリスは途端に顔を赤くした。


「セリーナが勝手に勘違いして、勝手に現れて、勝手に納得しただけよ!」


「セリーナも同じようなことを言ってたわ」


「本当に……二人とも強情で頑固なんだから」


 フレデリカは呆れたようにため息をつく。


「体は大きくなっても、まだまだ子供ね……」


「まあ、ちゃんと連絡してきた分、セリーナの方が少しは大人かしら」


「アタシだって連絡するつもりだったわよ!」


「どうだかね……」


「うっ……」


 なぜか負けたような空気になり、アリスは頬を膨らませる。


 どうにもこのまま引き下がるのが気に入らないらしい。


「……それはそれとして!」


 アリスは話題を切り替えた。


「結局、セリーナから連絡を受けて、それを確認するためだけにわざわざ日本まで来たの?」


 フレデリカは、また一つため息をついた。


「そんなわけないでしょ」


「あたしは別の用事で呼ばれて、ここへ来たのよ」


「アタシ以外の誰に呼ばれるっていうのよ?」


 フレデリカはそう言うと、残っていた紅茶を飲み干した。


 そして、ちょうど給湯室から戻ってきた柏木へ視線を向ける。


「そうよね?柏木警視長」


「えっ?」


 突然話を振られた柏木だったが、すぐに事情を察して頷いた。


「ええ。例の件で来ていただいたんですよね」


「それなら、そうと最初からおっしゃってくれればいいのに」


「孝治、例の件っていったい何のことだい?」


 レオが不思議そうに柏木へ尋ねる。


「ああ、少し前に長官から、極秘で相談を受けていたんだ」


「盗品について詳しい人間はいないか、とね」


 柏木はそう言ってフレデリカを見る。


「そこで、フレデリカさんに連絡したんだよ」


「ただ、そのときは忙しそうだったからな。また日本へ来たときに、ここへ寄ってくれと言って電話を切ったんだ」


 柏木は頭を掻きながら苦笑する。


「……すっかり忘れてたよ」


「もう!そんなことがあったなら、アタシに言ってくれればいいのに!」


 アリスが頬を膨らませる。


「すまん、すまん」


 柏木は苦笑しながら手を合わせた。


「というわけで、すまないが今夜付き合ってくれ、相津」


「俺も?」


 突然名前を呼ばれた相津が眉をひそめる。


「お、フレデリカさんとの会食かい?」


 レオが嬉しそうに身を乗り出す。


「だったら私も──」


「悪いな、レオ」


 柏木が即座に遮った。


「長官も出席する極秘の会食だから、俺と相津だけなんだ」


 レオは見るからに残念そうに肩を落とした。


 その様子を見ていたフレデリカが、ふと腕時計に目をやる。


「あら、もうこんな時間」


 フレデリカは立ち上がると、大きなキャリーバッグへ手を伸ばした。


「それじゃあ、先にホテルへ荷物を置きに行きましょうか」


 そして、いたずらっぽい笑みを浮かべる。


「当然、エスコートしてくれるんでしょ?」


 フレデリカはそう言って、柏木と相津を交互に見つめた。


 相津は柏木をチラリと見ると何も言わずに部屋を出ていった。


「すまないが、あとは頼むね、心春ちゃん」


「は、はい!分かりました」


 柏木はそう言い残すとフレデリカと共に部屋を出ていった。

 


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