↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/68

『争奪MISSION ⑻─"魔女"の罠─』

 ──五階 事務室。


 三勢力による乱戦が始まって数分。

 ジョージがやや優勢に戦いを繰り広げていた。


「オラァッ!どうした!そんなもんか!」


 ジョージは丸腰にもかかわらず、机や椅子など、周囲にあるあらゆる物を武器代わりにして暴れ回る。


(くっ……こちらの残弾はあと四発……)


(無駄撃ちはできん)


(しかし、なんて奴だ……)


(距離を取っても、机や椅子をまるでボールのように投げつけてくる……)


(室内戦では、銃よりよほど厄介だ)


 ジョージが次々と物を投げつけていると、その背後から『サーペント』の男がナイフを突き出した。


 ガンッ!


「残念だったな……」


 ジョージは今まさに投げようとしていた机を咄嗟に盾にし、その一撃を受け止める。


(チッ……これでも駄目か)


(こんな雑な戦い方のくせに、殺気には異常なほど敏感だ……)


(まるで野生の獣と戦ってる気分だぜ)


 ジョージが反撃に転じようとした瞬間、男は机に突き刺さったナイフをあっさり手放し、素早く距離を取る。


(その上、打撃はほぼ一撃必殺……)


(あんなの、まともにもらった時点で終わりだ)


 ジョージを挟み込むように、『ヴァルハラ』と『サーペント』の男が左右へ散開する。


 二人は互いを警戒しながらも、同じ結論に達していた。


(奴は危険すぎる……)


(『サーペント』は後回しだ。先にあいつを殺る)


(あいつを狙えば、『ヴァルハラ』も合わせてくるはずだ……)


 二人の視線が一瞬だけ交差する。

 言葉はない。

 だが、互いの考えは一致していた。


((最優先で、あいつを仕留める))



 

 ──出入口付近。


 翔はジョージの戦いを見守ることしかできなかった。


「ちくしょう……」


「これじゃ二対一じゃないかよ……」


 何もできない自分が歯がゆくてたまらない。


「僕なんか……何の役にも立たないよ……」


 悔しさに天を仰いだ、その時だった。


「……ん?」


 翔の目が天井に向く。

 一定間隔にあるシャッターボックスが目に入った。


「これは……」


 何かを思いついた翔は、周囲を素早く見回した。


「……ない……どこだ……?」


 次の瞬間、給湯室へ駆け込むと室内を探し回る。


「……あった!これなら……!」


 翔は素早くPDAを取り出すと、給湯室に設置されていた配電盤へ接続した。



 ガンッ! ガンッ! ドンッ!


 二人を相手にしても、ジョージは攻めの姿勢を崩さなかった。


 だが戦況は次第に拮抗し始める。


(チッ……こいつら、だんだん連携が噛み合ってきやがった……)


(こりゃ早めにケリをつけねぇと面倒だな)


 そう考えた、その時だった。


 ザザッ。


〈ジョージ、そのまま黙って聞いて──〉


 インカムから翔の声が届く。


 翔は手短に作戦を伝えると、ジョージは口元に笑みを浮かべた。


「オラァァァ!!」


 ジョージは鋼製ロッカーを豪快に振り回す。


 二人は再び左右へ飛び退き、一定の距離を取った。


「はっ、さすがのアンタも二対一じゃ疲れてきただろ?」


「卑怯だなどとは言ってくれるなよ」


「これは勝負ではないのだからな」


 二人の言葉を聞き、ジョージは豪快に笑う。


「ガハハッ!」


「まったく問題ねぇ!」


「それにな──」


「二対一でもねぇよ……なぁ、翔!」


 その瞬間──。


 ガラガラガラガラッ!!


 二人の頭上から、防火シャッターが勢いよく落下した。


「「なっ!?」」


 ドォンッ!!


 二人は咄嗟に両手で受け止めたものの、そのあまりの重量に身動きが取れなくなる。


「くそっ……いったい誰がこんなことを……」


 『ヴァルハラ』の用心棒は歯を食いしばる。

 そして次の瞬間、何かに気付いた。


「あの小僧か──!」


 気付いた時には、すでにジョージの拳が目の前まで迫っていた。


 ドゴォォォン!!


「がはっ!」


 渾身の一撃をまともに受けた用心棒は吹き飛び、そのまま意識を失う。


 その隙に、『サーペント』の男が防火シャッターの下を転がるように脱出した。


(少し【Zero】を見くびってたな……)


(あの小僧もメンバーの一人……何か秀でたものがあるってことか)


 男はナイフを構え、一気にジョージの首元へ飛び込む。


 バンッ!


 銃声が響いた。


「なっ!?」


 放たれた銃弾が男の頬を掠める。


 ジョージは倒れた『ヴァルハラ』の用心棒が落とした拳銃を拾い、発砲していた。


 男の意識が拳銃へ向いた、その一瞬。


 ジョージは一気に間合いを詰める。


「終わりだぁ!!」


 男の身体を豪快に掴み、そのまま壁へ向かって投げ飛ばした。


 ドカァァァン!!


「ごふっ……」


 男は壁へ激突すると血を吐き、その場へ崩れ落ちた。


 防火シャッターを上げて、二人が倒れたことを確認すると、給湯室から翔がゆっくりと姿を現す。


「ジョージ!やったね!」


「ああ!翔もサンキューな!」


 二人は笑顔を交わし、勢いよくハイタッチを決めた。


 


 ──七階 笠井の部屋。


 コンコン。


 扉がノックされると、メイドが応対した。


「はい。ご用件をお伺いいたします」


「下のフロアで侵入者同士が交戦しているため、ご報告に参りました。また、研究員の避難も完了しましたので、併せてご報告いたします」


 メイドは笠井へ視線を向け、指示を仰ぐ。


「ふん……そんなことは分かっています。お引き取り願いなさい」


 笠井がそう告げると、メイドも来訪者へ向き直った。


「申し訳ございません。お引き取り──」


「承知しました。その前に一つ、お渡ししたいものがございます」


 来訪者は言葉を遮るように続けた。


「侵入者が所持していたPDAを回収しました。何かお役に立つかと思い、お持ちしました」


 その一言に、笠井の目が鋭く光る。


(PDA……確か【Zero】の連中が使っていた端末)


(くっくっくっ……うまくいけば何かデータが残っているかもしれませんね)


 笠井は口元を歪め、メイドへ命じた。


「……いいでしょう。中へ通しなさい」


 メイドが扉を開けると、白衣姿の柏木が部屋へ入ってきた。


「あなたがPDAを回収したのですか?」


 笠井が尋ねると、柏木はポケットからPDAを取り出しながら肩をすくめた。


「ああ、いや……回収したっていうかさ」


「このPDAは──俺のなんだよ」


 その軽い口調に、笠井が眉をひそめた。


 次の瞬間──


 バキィッ!


 天井が破れ、一つの影が舞い降りる。


 ザシュッ!


「がっ……!」


 護衛の男は反応する暇もなく首を斬られ、血を噴き出して倒れた。


「きゃあっ!」


 メイドが悲鳴を上げた瞬間、柏木が背後へ回り込み、薬品を染み込ませたハンカチを口元へ押し当てる。


 メイドはそのまま意識を失い、静かに崩れ落ちた。


「ふぅ……これで邪魔はいなくなったな」


 レオはナイフに付いた血を布で拭き取り、笠井へ刃先を向ける。


「逃げ場はないよ。それと、このフロアにはもう誰もいない。助けを呼んでも無駄さ」


 笠井は顔を引きつらせながら後ずさる。


「貴様ら【Zero】なんぞにチップを渡すくらいなら、いっそのこと──!」


 ポケットへ手を伸ばした、その瞬間。


 ヒュッ──ザシュッ!


「ぎゃあああっ!」


 レオが放ったナイフが笠井の腕を貫いた。


 悲鳴を上げて床へ転げ回る笠井を見下ろし、レオは静かに言う。


「そこで大人しくしてな」


 レオは笠井からチップを取り上げ、そのまま手足を素早く拘束した。


 受け取ったチップを柏木が特殊ライトで照らす。


「……まあ、分かってたけど偽物だな」


 そう呟くと、柏木は部屋の奥へ歩いていく。


「本物は、こっちなんだろ?」


 クローゼットを開けると、その奥には厳重なセキュリティボックスが鎮座していた。


「な、なぜ貴様らが、それを知っている!?」


 笠井は狼狽し、叫ぶ。


 二人は答えない。


 柏木は翔から預かったロック解除装置をボックスへ取り付けた。


 電子音とともに解析が始まる。


 それを見た笠井が歯を食いしばる。


「あの女、ファントムの仕業か……」


 怒りで身体を震わせながら吐き捨てた。


「あの時……捕まえておけば、こんなことには……!」


「もう諦めな」


 レオが肩をすくめる。


「チップさえ回収できれば、命までは取らないよ」


 ピッ……


 ガコン。


 解析が完了し、ボックスがゆっくりと開いた。


「よし、これで任務完了──」


 レオが立ち上がろうとした、その時。

 チップにライトをあてた柏木が呟いた

 

「嘘だろ……」


 レオが柏木に声をかける。


「どうしたんだい?」


 柏木の声が低く響く。


「……これもダミーチップだ」


 部屋の空気が凍りついた。

 レオと柏木は無言で笠井を見据える。


「そ、そんなはずはない!」


 笠井は顔面蒼白のまま叫んだ。


「このセキュリティボックスの解除番号を知っているのは私だけだ!」


「チップを保管してから、一度もこの部屋を離れてはいない!」


「本物じゃないなど……あり得るはずがない!」


 狂ったように叫び続けた笠井だったが、不意に言葉が止まる。


 何かを思い出したように目を見開いた。


(まさか……あの時、すでに……!)


 笠井は歯を食いしばり、憎悪を込めて叫んだ。


「……あの"魔女"め!!」




 ──屋上 午前十時。


 セリーナは展望室で優雅に紅茶を口に運んでいた。


「うふふ……そろそろ笠井のチップが奪われた頃かしら」


 ティーカップを静かにソーサーへ戻し、満足そうに微笑む。


「さあ、建物中を隅から隅まで私を探し回りなさい……」


「もっとも、私はどこにもいないけれどね」


 その光景を思い浮かべたのか、セリーナは堪えきれず笑みを漏らした。


「あはははっ!」


「残念だったわね、アリス」


「海上戦で囮になっているように見せかけて、本当の狙いは彼の"眼"を使い、海上から屋上にいる私を監視することなのでしょう?」


 セリーナは一度ゆっくりと深呼吸し、静かに目を閉じる。


「その判断自体は間違っていないわ」


「でも、その"信頼"こそがあなたたちの敗因なのよ」


 再び目を開くと、口元に妖艶な笑みを浮かべた。


「建物へ潜入した仲間たちは、あなたたち二人を信じている。だからこそ、誰一人として屋上へは来ない」


「そして私は動かない」


「ヘリが到着したその瞬間、一瞬だけロープを掴めば、それで終わり」


「あなたたちが気づいた頃には、私はもうこの島にはいないわ」


 セリーナはティーカップを手に取り、勝利を確信したように微笑んだ。


「結局、あなたは他人を"信頼"したから負けるのよ……アリス」


 そう呟くと、双眼鏡を手に取り、海上で戦う相津とアリスへ静かに視線を向けた。



読んで頂きありがとうございます。

良ければ、ブックマーク、評価をお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。