『争奪MISSION ⑺─凸凹コンビの戦い─』
──四階 研究室内。
「オラァァァ!!」
ジョージが手当たり次第にチップを回収しているのを見て、『カルテル・ネグロ』側も変装を脱ぎ捨て、チップの回収へ動き始めていた。
「ジョージ、あっち!」
翔が指差した先を見ると、防犯ガラス扉の向こうにある研究室で『カルテル・ネグロ』の連中がチップを回収していた。
ジョージは扉を開けようとする。
ガチャッ。
「……開かねぇ」
防犯ロックが掛かっていた。
それに気付いた『カルテル・ネグロ』の男たちは、余裕の笑みを浮かべながらジョージへ近付いてくる。
「せっかく俺たちがコソコソ隠れてチップを集めてたってのによぉ!」
「全部、台無しにしてくれやがって!」
「そこで大人しく指でもくわえて見てな!」
「まあ、お前のおかげで隠れる必要もなくなったけどな!」
「その辺だけは感謝してやるよ、このゴリラ!」
五人の男たちは笑いながら再びチップの回収へ散っていく。
「この野郎……!」
頭にきたジョージは、近くに転がっていたパイプ椅子を持ち上げ、扉へ叩き付けようとした。
「待って、ジョージ!」
翔が慌てて止める。
「雑に壊してシステムまでダウンしたら、もっと面倒になるよ!」
「でも、このままじゃ逃げられちまうだろ!」
「大丈夫、こういう時のために僕がいるんだから」
翔はそう言うとPDAを取り出し、扉横の制御装置へ接続した。
カタカタカタ………ガチャリ。
一分も経たないうちにロックが解除される。
「よし!」
ジョージは勢いよく部屋へ飛び込むと、近くにいた男を拳一発で気絶させた。
ドサッ。
「……なんだ?」
「こいつ、チップ持ってねぇじゃねぇか」
物音を聞きつけ、残る四人も集まってくる。
「てめぇ!どうやって入ってきやがった!?」
「あぁ?」
「てめぇらみたいな猿と違って、こっちには優秀な頭があるんだよ!」
「……いや、ジョージも向こうと一緒だから……」
翔が小声でツッコむ。
すると敵も同じことを言い返した。
「何バカなこと言ってやがる!」
「てめぇみたいなゴリラに、そんなことできる訳ねぇだろ!」
『カルテル・ネグロ』の四人のうち、二人がジョージへ襲い掛かる。
残る二人はチップを抱えたまま五階へ逃げていった。
ジョージは向かってきた二人の攻撃を軽々といなし、そのまま一撃ずつ叩き込む。
ドサッ、ドサッ。
二人はあっさりと気絶した。
「……この二人もチップは持ってないね」
翔は倒れた男たちの体を確認しながら呟いた。
ジョージと翔は顔を見合わせると、逃げた二人を追って五階へ駆け上っていった。
──五階 事務室。
ジョージと翔は五階へ上がると、すぐ近くの事務室へ入った。
室内には五十人ほどが使用できるデスクが整然と並び、奥には給湯室やトイレも備えられている。
騒ぎを聞きつけて避難したのか、人の姿は一人もなかった。
「誰もいないね、ジョージ……」
翔が周囲を警戒しながら呟いた、その瞬間だった。
「伏せろっ、翔!!」
ジョージは咄嗟に翔の服を掴み、その場へ引き倒した。
ヒュンッ!
次の瞬間、壁際に身を潜めていた男のナイフが、先ほどまで翔の首があった場所を鋭く薙いだ。
「あれっ?」
「完全に気配を消していたつもりだったんだけど、よく気付いたね……」
男は興味深そうにジョージを眺める。
「なるほど……」
「アンタの感覚は、まさに獣そのものってことか……」
「ハハハ」
翔の首筋を冷たい汗が一筋流れ落ちる。
ジョージはゆっくりと立ち上がり、男を睨みつけた。
「てめぇ……さっきの連中とは違うな」
「さっきの連中?」
「ああ、『カルテル・ネグロ』のことか」
「勘弁してくれよ。あんな連中と一緒にされちゃ困る」
「俺は『サーペント』の一員だ」
「アンタらだって、もう知ってるんだろ?」
「なんたって【Zero】のメンバーなんだからさ」
その言葉に、ジョージと翔の表情が僅かに変わる。
翔はゆっくりと立ち上がると、男の背後へ目を向けた。
そこには、血だまりの中で倒れる『カルテル・ネグロ』の二人の姿があった。
「ジョージ……あの男の後ろ……」
「ああ、分かってる……」
男は二人の視線に気付き、肩をすくめた。
「ああ、後ろの二人なら俺が殺したよ」
「チップも全部いただいた」
「次は……アンタらの番だ」
男は両手にナイフを構え、ゆっくりと距離を詰めてくる。
(翔……出口の方まで下がってろ)
ジョージの言葉に翔は小さく頷き、静かに後退する。
その一方で、ジョージは一歩、また一歩と前へ出た。
そして、不敵な笑みを浮かべる。
「面白ぇじゃねぇか」
「サーペントだかチューペットだか知らねぇが──」
「この俺を、そう簡単に倒せると思うなよ?」
──一方その頃 七階廊下。
笠井の部屋から少し離れた廊下に、レオと柏木は身を潜めていた。
「ジョージが派手に暴れてくれたおかげで、結果的には助かったな……」
柏木はそう呟くと、壁越しに廊下の様子をそっと窺った。
レオと柏木は混乱に乗じ、『ヴァルハラ』の研究員たちが避難用の裏階段を使っている隙を突いて建物へ侵入した。
その後は白衣を着て研究員に紛れ込み、ほとんど敵に気付かれることなく七階までたどり着いていた。
「そう楽観視もできないよ、孝治……」
「部屋の中の様子が分からない以上、無闇に突入するわけにはいかない」
「ここからが私たちの本当の仕事だ」
レオが静かに言うと、柏木も真剣な表情で頷いた。
「それは分かってる。だが、実際どうするんだ?」
「翔もいないし、いつもみたいに監視カメラをハッキングすることもできないぞ」
柏木の問いに、レオは自信ありげに微笑んだ。
「ふふっ。だから前回の潜入で、色々と調べてきたのさ」
「大丈夫。このフロアの構造は、アリスから聞いて把握している」
「私が合図したら、孝治は予定通り部屋をノックしてくれ」
「えっ、この格好のままでか?」
「白衣を着てるだけで、何も変装してないぞ」
柏木は驚いたようにレオを見る。
するとレオは肩をすくめて笑った。
「ふふ、大丈夫」
「孝治の顔は、まだ奴らに割れていない」
「少しの間だけ注意を引きつけてくれれば、あとは私が何とかするさ」
柏木は小さくため息をつくと、観念したように頷いた。
「……分かった。レオに任せるよ」
その返事を聞くと、レオは音もなく廊下の奥へと姿を消していった。
──五階 事務室。
『サーペント』の男は、ジョージの猛攻に押され、防戦一方となっていた。
「アンタ……相当強いね……」
男は苦戦しながらも、どこか余裕を感じさせる口調でジョージに話しかける。
「なんだ、今さら降参か?」
「チップを渡すってんなら、見逃してやっても構わねぇぞ!」
ジョージはそう言うと、渾身の回し蹴りを放った。
ドォンッ!
男は咄嗟に両腕で受け止めたものの、その凄まじい威力に体ごと吹き飛ばされる。
「いてて……」
「こりゃ、あいつもやられちまうわけだ……」
「あぁ? いったい誰のことだ?」
ジョージが問いかけると、男は口元を緩めた。
「アンタの仲間に昨日やられた奴のことさ」
「【Zero】ってのは、みんなこんなに強いのかい?」
その言葉に、ジョージと翔はわずかな違和感を覚えた。
翔が入口付近から戦いを見守っていると、不意に廊下の方から物音が聞こえた気がした。
そっと廊下を覗き込む。
「てめぇ……いったい何が目的だ?」
ジョージが男へ問い詰めた、その瞬間──。
「ジョージ、危ない!!」
ババババババッ!!
翔の叫びと同時に、廊下側の壁を突き破るように銃弾の雨が降り注いだ。
三十秒近く続いた激しい銃声が、ようやく止む。
バタンッ!
サブマシンガンで蜂の巣となった壁を蹴破り、一人の男が姿を現した。
「くたばったか……薄汚い鼠どもが」
男は弾切れとなったサブマシンガンを放り捨て、新たにハンドガンを構える。
「ジョージ……」
「うそ……うそでしょ……」
翔が呆然と立ち尽くしていると、男は翔の存在に気付き、銃口を向けた。
「お前みたいな小僧が、遊び半分でノコノコ侵入してきたことを後悔するんだな……」
男が引き金を引こうとした、その瞬間──。
ガシッ!
バンッ!
デスクの陰に身を潜めていたジョージが飛び出し、男の腕を掴んで拳銃を叩き落とした。
「チッ……」
男はすぐさま距離を取る。
だが、その背後から『サーペント』の男がナイフを突き出した。
バシッ!
男は身を捻って致命傷は避けたものの、左腕を浅く切り裂かれ、鮮血が流れる。
「しぶとい鼠どもだ……」
男は表情一つ変えず、足首に隠していたもう一丁の拳銃を抜き放った。
「何してくれてんだ、てめぇはよ!!」
ジョージが怒鳴りつける。
「で?アンタはいったい、どこの誰かな?」
『サーペント』の男が問いかける。
三人は互いを警戒しながらゆっくりと歩き、自然と三角形を描くような位置取りになった。
「俺は『ヴァルハラ』に雇われた用心棒だ」
「貴様らがどこの誰かなど興味はない」
「ただ、この建物内で暴れた以上──生きて帰すつもりはない」
チップを巡り、図らずも『サーペント』、『ヴァルハラ』、そして【Zero】。
三つの勢力が、ここに激突する。
「なるほど……」
「俺たちを始末するために雇われたってわけか。
……アンタ、真面目だねぇ」
「上等だ、この野郎!
まとめて相手してやらぁ!!」
「……殺す」
男が引き金を引いたのを合図に──。
三勢力による激しい乱戦の火蓋が切って落とされた。
読んで頂きありがとうございます。
良ければ、ブックマーク、評価をお願いします。




