『FIRST MISSION ⑶─《アイズ》の能力─』
──九頭龍会屋敷一階 裏口付近。
ザザッ──。
〈レオ、一階と二階の幹部はまだ残っているか?〉
〈とっくに片付けたさ。私は今、三階にいる〉
〈さすが、仕事が早いな〉
相津はアリスたちの脱出経路に問題がないことを確認すると、次の指示を飛ばした。
「真一、裏口へ続く最後の廊下まで来たわ。
でも出口に四人。たぶん正門から戻ってきた小隊ね」
アリスは壁際から静かに様子をうかがう。
〈問題ない。
俺の合図で、そのまま出口まで走れ〉
「はぁ?嘘でしょ?蜂の巣にされるじゃない!
何の意味があって突っ込めって言うのよ」
すると相津は、いつもの調子で言い放つ。
〈この俺が言ってるんだ、これ以上の根拠はねぇだろ〉
その自信満々な口調に、アリスは深いため息をついた。
「はいはい。
死んだら化けて出るからね」
人質の二人へ短く説明し、合図を待つ。
〈3〉
〈2〉
〈1〉
〈──走れ〉
タッ!
アリスが飛び出した、その瞬間──。
バンッ!!
裏口の扉が勢いよく開いた。
「なっ──!?」
敵小隊が反応するよりも早く、前後から挟み撃ちとなる。
ガンッ!
ガンッ!
ガンッ!
ガンッ!
相津の銃声が四度響き、敵は一瞬で崩れ落ちた。
あまりの鮮やかさに、アリスは思わず言葉を失う。
相津は何事もなかったかのように二人へ歩み寄った。
「君が美里さんかい?」
「え……あ、はい!」
「お父さんからの依頼で助けに来た。
その子のことは知っているか?」
「いえ……。
私がここへ連れてこられた時には、もう一緒に閉じ込められていました」
相津は小さく震える少女の前でしゃがみ込み、そっと目線を合わせる。
「怖かったな。もう大丈夫だ。
天才のお兄さんが助けに来たからな」
自信満々に笑う相津を見つめ、少女は少しだけ笑顔を取り戻した。
「……てんさい?
……お兄ちゃん、ありがとう」
相津は少女の頭を優しく撫で、立ち上がる。
「普通、自分で天才って言う?」
アリスが呆れたように肩をすくめる。
「他に俺を表す言葉が思いつかないからな。
それより、その子。
助けた時より落ち着いて見えないか?」
「……そういえば。何かしたの?」
「《アイズ》で軽い視覚催眠をかけた」
「ああ……。だから目を合わせてたのね」
アリスは納得したように頷く。
「《ヴァンガード》までのルートは掃除してある」
「二人を連れて、このまま柏木たちと合流してくれ」
アリスはじっと相津の顔を見つめた。
「……何だよ?」
「アンタの手際が良すぎて、何か腹立ってきたわ」
──九頭龍会屋敷 玄関付近。
ダダダダダダッ!!
銃声が夜の屋敷に鳴り響く。
「ハーッハッハッハ!」
ジョージは両手にサブマシンガンを構え、楽しげに敵陣を駆け回っていた。
「な、何なんだあいつは!?」
「まるで軍隊が攻めてきたみたいじゃねぇか!」
「あ、ありえない……。
きっと未来から来たターミネーターだ……!」
敵兵たちは完全に戦意を失い、逃げ惑うばかりだった。
ザザッ──。
〈ジョージ、もう十分楽しんだだろ?
そろそろ予定の時間だ。
ポイントBへ移動してくれ〉
インカムへ柏木が強制通話を割り込ませる。
「あぁ?もうそんな時間かよ。
せっかく体が温まってきたってのによぉ!」
ジョージは名残惜しそうに肩を鳴らすと、背中のウェポンケースへ手を伸ばした。
取り出したのは、一本のダイナマイト。
ニヤリと笑みを浮かべる。
「みんな大好き、花火の時間だぜ!
派手にいこうかぁぁぁぁぁ!!」
導火線へ火をつけ、そのまま屋敷へ放り投げる。
ドッカァァァァァン!!
爆炎が夜空を真っ赤に染め上げた。
「「「何なんだ、あいつはーーーーっ!!」」」
──九頭龍会屋敷三階 組長、九頭龍直樹の部屋。
外の花火をよそにレオは部屋の中を一通り調べ終え無線で報告する。
「真一、予定ポイントに到着したがターゲット、九頭龍直樹がいない」
ザザッ
〈まあ、そうだろうな〉
これだけの騒ぎだ、戦況を見て逃げるのは簡単に想像がつく、相津は最初から分かっていたような口ぶりだった。
「それともう一つ、幹部の人数が一人予定と合わない。おそらくは離れの倉庫に向かったと私は思うよ」
〈屋敷の起爆装置があるからか?〉
「さすが、気づいてたんだ。
さっき処理した幹部が言ってたんだけど証拠隠滅の為、ターゲットが逃亡次第、爆破だってさ」
相津が無線で翔と心春に指示を出す。
〈翔、レオの位置から離れの倉庫までの最短ルートを割り出してくれ。敵との接触は気にしなくていい〉
〈了解。一分待って〉
〈心春、アリスが保護した人質を連れてそろそろ到着する頃だ。子供もいる。安心させてやってくれ〉
〈了解です!お任せください〉
心春は自分にお願いしてくれたことが嬉しかった。
〈あと二人とも回線はオープンにして素早く対応出来るようにしておいてくれ〉
〈〈了解〉〉
レオが外の戦況を眺めながら相津に問いかけた。
「それで?この先はどうするの?
さっきの口ぶりだと私は幹部の方を追うのかな?」
〈ああ、幹部の処理と共に爆破の阻止だ〉
「でも倉庫に到着する前にターゲットに逃げられたら爆破されちゃうよ」
〈そっちは大丈夫だ。俺が行く。
逃亡することはありえないから幹部を片付けたあと、ゆっくり爆弾を処理してくれていいぞ〉
「ふふふっ、相変わらずの自信過剰だね、はははっ」
レオは珍しく楽しそうに高らかに笑った。
〈任務中はクレバーなんじゃなかったのか?〉
「おっと失礼、クレバーなナイスガイが台無しになるところだった」
レオが両手で髪をかき上げて整えた。
〈ねぇ、早く仕事してくれない?
とっくにルート検索終わってるよ。
まったく、ナルシストとナンパ野郎の会話なんてイタすぎて鳥肌立ってくるんですけど〉
翔の声が二人の空気を切り裂いた。
回線をオープンにした為、翔と心春にはずっと会話が聞こえていた。
ちなみに柏木も責任者として最初からオープンにしているので全て聞いている。
(はぇっ!?
わたし普通にカッコイイと思っちゃったけどな……。黙っとこ……)
心春の頬は赤く染まっていた。
(あーはっはっはっ!腹いてぇー)
柏木が肩を震わせて笑っていた。
──周辺の公園駐車場。
装甲車両車内。
車両の正面から、三つの人影が近づいてくる。
「あれ……柏木さん。
アリスさんたちじゃないでしょうか?」
心春の声に柏木は目を凝らす。
「ああ、アリスだ」
二人は車を降り、人影を迎えに向かった。
「アリスさん、ご無事で何よりです。
お疲れさまでした」
「お帰り、アリス。その二人が人質か?」
「うん。心春、お願いできる?」
「はい!」
心春は二人の前へしゃがみ込み、優しく微笑んだ。
「もう大丈夫ですよ。ここは安全です。
しばらくこちらで休んでください」
二人を車内後方の長椅子へ案内すると、クーラーボックスから冷えたペットボトルとおしぼりを取り出して手渡す。
「どうぞ」
美里と少女は夢中で水を飲み干した。
張り詰めていた緊張の糸が切れたのだろう。
安心したように涙が頬を伝っていく。
「ぐすっ……ありがとうございます」
「ひぐっ……ありがとう、お姉ちゃん」
心春は二人を安心させるように、そっと微笑み返した。
柏木はその様子を見届けると、スマホを耳に当てる。
「もしもし、柏木です。
人質二名の安全を確保しました」
「現在、こちらで保護しています。
至急、護送をお願いします」
柏木が通話を終えると、アリスが大きく伸びをした。
「んーっ!はぁ〜、疲れた。その後はどう?」
「今のところ順調だ。
予定外はあったが、想定外はない」
柏木は簡潔に状況を伝える。
「そっか。
じゃあアタシも少し休ませてもらうわ」
「翔と一緒にモニター見てるから、何かあったら教えてちょうだい」
「了解」
アリスは軽く手を振ると、翔のいるコンソールへ向かった。
柏木は一本の煙草に火をつける。
紫煙をゆっくりと吐き出しながら、小さく呟いた。
「ようやく折り返しか。
ゴールまで、あと半分だ」
「頼むぜ……"相棒"」
柏木は夜空を見上げる。
満天の星が、静かに瞬いていた。
──その穏やかな星空とは裏腹に、作戦は、いよいよ佳境へと突入していく──




