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『争奪MISSION ⑸─四つ巴の争奪戦─』

 ──洞窟内 午後八時。


 【Zero】のメンバーは夕食を終えると、作戦会議を始めた。


 実はアリスは潜入した際、セリーナの部屋へ向かう前に、七階にある笠井の部屋へ盗聴器を仕掛けていた。


 そして昼間は休んでいるふりをしながら、笠井たちの会話を盗聴していたのだった。


 相津が全員を見回し、口を開く。


「アリスの情報から、本物のチップは笠井が持っている可能性が極めて高い」


「それと、セリーナは明日の正午、ヘリで『ヴァルハラ』本部へ向かう」


「タイムリミットは明日の正午だ」


 それを聞いたレオが手を挙げた。


「なぜタイムリミットが正午なんだい?」


「セリーナがチップを持っていないなら、放っておけばいいじゃないか」


 その問いにアリスが答える。


「笠井の持っているチップが100%本物なら、そうなんだけど……」


「セリーナの言葉が、どうにも引っ掛かるのよね……」


「どういうことだい?」


「盗聴した会話の中で、笠井自身も本物だと言っていたんだろう?」


「それはそうなんだけど……」


 アリスが言葉を探していると、相津が代わりに口を開いた。


「長年、セリーナと暮らしてきたアリスの勘だ」


「勘って……」


「セリーナが勘だけでアリスの変装を見抜いたように、アリスもまたセリーナに違和感を覚えている」


「俺はその勘こそ、十分警戒すべき理由であり、こちらのアドバンテージにもなると判断した」


 自信を持って言い切る相津を見て、他のメンバーも顔を見合わせながら頷く。


「了解。

 真一がそう判断したなら、私に異論はないよ」


 レオも笑みを浮かべながら頷いた。

 相津は話を戻す。


「おそらく前回の潜入を見て『ヴァルハラ』は、俺とアリスを最も警戒しているだろう」


「だから明日の朝八時、俺とアリスはあえてボートで海上へ出る」


「奴らを誘い出す囮だ」


「俺たち二人を確認すれば、向こうも無視はできない。それなりの手練れを差し向けてくるはずだ」


「その隙に、二班に分かれて再び潜入する」


「班分けは、レオと柏木。ジョージと翔だ」


 その瞬間、翔が勢いよく立ち上がった。


「ちょ、ちょっと待ってよ!」


「なんで僕が潜入チームなんだよ!」


 相津は慌てる翔をよそに、落ち着いた口調で説明を続ける。


「まず二班に分ける理由だが、レオと柏木には、笠井が持っている本物のチップを奪ってもらう」


「ジョージと翔には、それ以外──二階から五階にある全てのチップを盗んでほしい」


「なんでそんなことする必要があるんだよ!」


 翔が思わず声を荒げる。


 柏木が苦笑しながら翔をなだめた。


「まあまあ、落ち着け翔」


 そして相津へ視線を向ける。


「相津……ジョージと翔を行かせるのは、『カルテル・ネグロ』と『サーペント』への牽制なんだろ?」


 相津は静かに頷いた。


「その通りだ」


「俺たちが笠井のチップだけを狙えば、奴らもすぐに気付く」


「だからダミーだと分かっていても、チップの争奪戦は続ける必要がある」


「ジョージ一人じゃ潜入は厳しい」


「だから翔、お前がサポートしてやってくれ」


 翔はまだ納得できない様子だった。


「でも僕じゃなくても、柏木さんでもいいじゃないか……」


「ここに残っても、ボートも護衛もいない」


「だったらジョージと一緒に行動した方が、よっぽど安全だ」


 相津にそう言われ、翔は肩を落とした。


「……分かったよ」


 渋々ながらも頷く。


 相津は続いてレオへ視線を向けた。


「レオ、お前も顔が割れている可能性が高い」


「柏木をうまくサポートして、笠井からチップを奪えるか?」


 レオは当然と言わんばかりに笑った。


「当たり前だろ」


「聞くだけ野暮ってもんさ」


「それに、孝治のことも守ればいいんだろ?」


 相津は何も言わず、小さく微笑んだ。


 柏木がレオの肩を叩く。


「頼むぜ、レオ!」


「任務が終わったら、お姉ちゃんのいる店に連れてってやるからよ」


「本当か!?」


 レオは勢いよく立ち上がると、柏木とハイタッチを交わした。


 その様子にみんなが苦笑する。


 相津は一息つき、最後に心春へ目を向けた。


「そして、心春」


「この作戦は、お前がいなければ成り立たない」


「ふぇ?」


 相津はニヤリと笑う。


 そして、心春だけに与えられた重要な役目を説明し始めた──。



 

 ──翌日 午前八時。


 快晴の空の下、静かな海に一隻のボートがゆらゆらと揺れていた。


 ボートを操るアリスの後ろで、相津は『ヴァルハラ』の建物を静かに見据える。


 手にしているのはライフル。


 照準の先にあるのは、最上階──笠井の部屋の窓だった。


 相津はゆっくりと呼吸を整え、引き金を引く。


 バンッ!


 銃声が海上へ響き渡る。


 次の瞬間――


 バリーン!!


 最上階の窓ガラスが派手な音を立てて砕け散った。


 ほどなくして、島中に警報サイレンが鳴り響く。


 二人を確認したのか、海岸沿いの見張り台から一発のミサイルがボートへ向けて放たれた。


 だが、相津は不敵に笑う。


「遅ぇよ」


 赤く輝く《アイズ》で軌道を見切り、飛来するミサイルへ照準を合わせる。


 バンッ!


 次の瞬間――


 ドカァァァァン!!


 海上で巨大な爆発が巻き起こり、水柱が高く舞い上がった。


 その爆煙を切り裂くように、『ヴァルハラ』の高速ボート二隻が海へ飛び出してくる。


 相津はライフルを肩へ担ぐと、口元を吊り上げた。


「さあ──海上戦の開幕といこうか!」


 朝日に照らされた相津の瞳は、真紅に輝いていた。




 ──一階メインホール。


 海からの襲撃を受け、『ヴァルハラ』の構成員たちは騒然となっていた。


「おい!笠井さんの部屋が狙撃されたらしいぞ!」


「さっき警備部隊の連中が慌てて海へ向かって行った!」


「またチップを狙う連中の仕業か?」


 怒号とざわめきが飛び交う中、ジョージと翔は何食わぬ顔で構成員に紛れ、建物の奥へ進んでいく。


 その時だった。


 ドンッ。


「おっと、悪い……って、あんたデケェな!?」


 ジョージにぶつかった男が振り返り、思わず目を丸くする。


「……こんなデカい奴、このラボにいたか?」


 怪訝そうな視線がジョージへ向けられた。


「あ、いや……俺は……」


(やべぇ!?)


(いっそ殴って気絶させた方が早いか……?)


 男の疑いが深まっていく。

 その時、横から慌てた声が飛んできた。


「す、すみません!」


「このデカブツ、先日警備部隊に配属されたばかりで、すぐ迷子になるんですよ!」


 翔だった。


「ほ、ほら!早く行くよ!」


 翔はジョージの背中をぐいっと押し、そのまま逃げるようにその場を離れた。


 二人は二階へ上がると、人のいない機械室らしき部屋へ飛び込んだ。


「あっぶねぇ~……」


 ジョージはその場にしゃがみ込み、大きく息を吐く。


「助かったぜ、翔」


 翔は呆れたようにため息をついた。


「あのさぁ、ジョージ……」


「さっき、一瞬『殴って気絶させよう』って思ったでしょ?」


 ギクッ。


 ジョージの肩がぴくりと震える。


「ほんと脳筋だよね!」


「あんな大勢の前で殴ったら、気絶させても全員に見られるじゃん!」


 翔が指を突き付ける。

 ジョージは少しムッとして言い返した。


「結局殴らなかったんだからいいじゃねぇか」


「それに、もし見られても全員気絶させれば済む話だろ?」


「そういうところ!!」


 翔は思わず大声を上げた。


「はぁ……。

 ただでさえ、僕は人と話すのが得意じゃないんだから……」


「それなのに潜入でジョージと二人とか……絶対、相津の組み合わせミスだよ……」


 恨み節を漏らす翔をよそに、ジョージは部屋の中を物色し始める。


「今さら言ったって仕方ねぇだろ」


「やれることやるしかねぇさ」


「ん?」


「……なんだこりゃ?」


 ジョージは大きな棚の扉を開いた。


 そこには整然と並ぶ大量のコンピューターが収められていた。


「はぁ……単細胞は気楽で羨ましいよ……」


 翔はぼやきながらジョージの方を見る。

 そして棚の中を見た瞬間、目の色が変わった。


「これは……!」


 翔は駆け寄ると素早く機器を確認し、リュックからノートパソコンを取り出した。


 口元がゆっくりと吊り上がる。


「ジョージ!ナイス発見だよ!」


「これなら、何とかなるかもしれない!」


 ジョージは何が起きたのか分からず、ぽかんと翔を見つめるだけだった。

 



 ──七階 笠井の部屋。


 笠井は双眼鏡で海を見ていた。

 

 部屋の中には笠井の他に割れた窓ガラスを片付けるメイドとボディガードらしき男がいた。


「くっくっく、何か仕掛けてくるとは思っていましたが……」


「まさかこんなバカ正直に正面から現れるとは」


「おそらく他にも仲間がいるのでしょうが、所詮は手足ども。あなたたち二人が最も警戒すべき対象ですからね」


 笠井は高みの見物と言わんばかりに笑みを浮かべて相津とアリスを見下ろして眺めた。




 ──島周辺の海上。


 相津とアリスの乗ったボートを、二隻のボートが猛スピードで追いかけていた。


 ブゥゥゥン!


 水しぶきを上げ、波間に白い軌跡を描きながらボートが疾走する。


「できるだけ頭を低くしていろ!」


「後ろは気にするな。奴らは俺が引き受ける!」


 相津の声に、アリスは頷くと長い髪をなびかせながら身を低くした。


 アリスは海面から反射する強い日差しを避けるため、サングラスを掛けている。


 相津はレオが奪ってきたチップを取り出すと、防水カプセルへ入れて首から提げてわざと敵へ見せつけた。


 まるで金メダルでも自慢するかのようだった。


「なめた真似しやがって……あの野郎……!」


 敵の男は完全に頭へ血が上り、ロケットランチャーを肩へ担ぐ。


「バカ!そんなもん撃ったら、チップまで吹っ飛ぶぞ!」


 ボートを操縦していた男が慌てて制止する。

 しかし、もう遅かった。


「くらえぇぇぇ!!」


 男が引き金を引こうとした、その瞬間。


 相津と目が合った。

 

 すでに相津はライフルをこちらへ向けていた。

 

 まるでロケットランチャーを撃つことが分かっていたかのように。


(なんでだ……?)


(なんでお前が、もう狙ってる……?)


 ボカァァァン!!


 ロケット弾は『ヴァルハラ』のボートから射出された瞬間、相津の銃弾に撃ち抜かれ、大爆発を起こした。


「これであと一隻……」


 炎を上げて沈んでいくボートから視線を外し、相津は正面へ向き直る。


 すると、前方から新たな一隻のボートが高速で迫ってきた。


 《アイズ》を発動させ、望遠鏡のように視界を拡大する。


「ちっ……今度は『カルテル・ネグロ』か」


「『ヴァルハラ』を煽るために見せたチップが、裏目に出ちまったな……」


 そのとき、アリスが静かに呟いた。


「大丈夫……。わたしが何とかする」


 相津はライフルへ新しい弾倉を装填すると、アリスの隣へ腰を下ろし、不敵に笑った。


「よし!お前に任せる。このまま突っ込むぞ!」


「了解!」


 エンジンが唸りを上げる。


 ボートは白い波しぶきを巻き上げながら、真正面から敵へ向かって加速していった。



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