表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/48

『争奪MISSION ⑷─アリスの葛藤─』

 ──孤島の洞窟内 正午。


 コツ、コツ。


 足音を響かせながら、空洞の奥からアリスが姿を現した。


「おかえり、アリス。これで全員揃ったな」


 柏木が声をかける。


「ただいま。やっぱりアタシが最後だったか……」


 アリスは軽く肩をすくめ、洞窟内を見渡した。


 翔はパソコンを操作しながら相津と何やら話し込んでいる。


 心春は昼食の準備を進め、その隣ではジョージが手伝っていた。


「みなさん、ご飯の用意ができましたよ!」


 心春の明るい声が洞窟内に響く。


 レジャーシートの上には簡単な食事が並べられ、各々が集まって腰を下ろした。


「あれ?レオはどこ行ったの?」


 パンをかじりながら翔が尋ねる。


「レオならまだ寝てるよ」


 柏木はホットコーヒーを一口飲んで答えた。


 そして相津とアリスへ視線を向ける。


「相津、アリス。お前らも飯食ったら少し休め」


「夜通し潜入してたんだから、疲れてるだろ?」


 柏木が気遣うように言うと、二人も素直に頷いた。



 食事を終えると、情報交換が始まった。


 途中で起きてきたレオも加わり、潜入していた三人がそれぞれ報告を行う。


「──で、チップを奪ったはいいが、結局は外れだったよ」


 レオが淡々と報告を終えると、今度は相津が口を開いた。


「俺の方もダミーだった」


「ただ、盗んだ連中はおそらく『カルテル・ネグロ』じゃない」


「もしかして、来る途中で岩肌に浮かんでたボートのやつらか?」


 ジョージが尋ねる。


「断定はできないが、おそらくその可能性が高い」


 相津は翔へ視線を向けた。


「どうだ、翔。何かわかりそうか?」


 ずっとパソコンと睨めっこしていた翔が顔を上げる。


「……うん、なんとかなりそう」


「相津が写真を撮ってきてくれたおかげだよ」


 その言葉を聞き、レオが不思議そうに首を傾げた。


「でも、ここは外部との通信が遮断されているんだろう?」


「当然、ネットも使えないんじゃないのか?」


 翔は得意げに胸を張る。


「通信遮断されるのは最初から分かってたからね」


「実は前から"アイギス"を外でも使えないかなって考えてたんだ」


「僕が動けないときや、同時に複数人のサポートが必要なときに補助ツールとして使えないかなってさ」


「まだ試作段階だけど、今回はパソコンにインストールして持ってきてるんだ」


 翔はニヤリと笑った。


「名付けて──"出張版アイギス"!」


 そう言って画面を皆へ向け、Enterキーを押す。

 するとAI(人工知能)のアイギスが機械音声で話し始めた。


『データの照合が完了しました』


『"サーペント"は中東系の武装勢力組織』


『その目的は不明。詳細も不明』


『ただし、過去の犯罪歴から過激派組織と判断されています』


『構成員の多くは武闘派で構成されています』


 アイギスの報告を聞き、柏木が顎に手を当てた。


「……そういえば、十年以上前に聞いたことがある」


「公安で過激派武装集団を追っていたとき、たどり着いた組織の名前が確か『サーペント』だった」


「金次第で殺しや誘拐、拷問など、なんでも請け負う、吐き気がするような連中だったよ」


 全員が黙り込む。


 やがて相津が静かに口を開いた。


「おそらく何者かの依頼で、『サーペント』もチップを奪いに来たんだろう……」


 その時、ゴミを片付けていた心春が何気なく口にした。


「でも『サーペント』さんたちは、なんでチップが盗まれたことを知っていたんですかね?」


 その一言で、相津以外の全員が一瞬固まった。


(そうか……)


(誰かが情報をリークしたか、あるいは『サーペント』も防衛省へスパイを送り込んでいたか……)


(武装勢力ということを考えれば、おそらく前者……しかし裏切り者の可能性も……)


 相津は小さく息を吐いた。


「その点も気にはなるが、今考えても仕方ない」


「実際に奴らはここへ来ている。それが事実だ」


 そう言うと、アリスへ視線を向けた。


「アリス、お前の方は?」


 アリスはセリーナと接触したこと、部屋で交わした会話を要点だけ簡潔に説明した。


 全員の情報を整理すると、翔はパソコンへ入力し、"アイギス"にも共有する。


「ほんと僕に感謝してよね」


「僕が来なかったら、こんなに情報集まらなかったんだから!」


 翔は得意満面に胸を張る。


「なんだぁ?」


「あんなにヤダヤダ言ってた奴が、急に偉そうになりやがって」


 ジョージが笑う。


「やれやれ」


「ボートで泣き喚いていたのは、どこの坊やだったかな?」


 レオも肩をすくめた。


「……うん、そうね」


「ありがとう、翔」


 アリスが自然に礼を言う。


「うるさい!この僕をなんだと──って……」


 翔は途中で固まった。


「えっ……?今、なんて言ったの?アリス」


「えっ?普通に"ありがとう"って言っただけだけど……」


 アリスは少し眠そうに立ち上がる。


「アタシ、少し疲れたから寝てくるわ」


「おやすみ」


「あ……うん、おやすみ」


 翔は呆然とアリスの後ろ姿を見送った。

 そして振り返り、みんなを見る。


「……なにあれ?どうしたの?」


 しかし、誰もが「さあ?」という顔をして首を傾げるだけだった。


 そんな中、相津だけは去っていくアリスの背中を見つめながら、静かに何かを考えていた。



 

 ──一方その頃 七階 笠井の部屋。


 セリーナは笠井の部屋を訪れていた。


 朝方、アリスが部屋へ侵入してきたこと。

 そして二人が交わした会話の内容を笠井へ報告していた。


 笠井は話を聞き終えると、ゆっくりと口を開いた。


「ふむ……おそらく彼女たちは、最近噂になっている【Zero】という特別な警察組織でしょう」


「……ゼロ?」


 セリーナが首を傾げる。

 笠井は嬉しそうに笑いながら説明した。


「ふふ、あなたが知らないのも無理はありません」


「日本の警察組織内に作られた特殊部隊です」


「数年前、突如として現れた【Zero】は、日本国内で起きた数々の裏事件をことごとく解決してきました」


「噂では、メンバーは警察官だけでなく、裏社会の人間や元犯罪者まで所属していると言われています」


「おかげで我々も大損害ですよ……」


 得意げに話す笠井を見ながら、セリーナはしばらく黙って考え込んでいた。


「ですが、セリーナ」


 笠井は視線を向ける。


「報告はありがたいのですが、なぜみすみす彼女を帰したのですか?」


「捕まえていれば、色々と聞き出せたでしょうに」


「まさかとは思いますが……彼女のことを恐れていたのですか?」


 挑発するような口調だった。

 だが、セリーナは表情一つ変えない。


「あら?」


「私にアリスを捕まえてほしかったのかしら?」


「捕まえてあげても構わないけれど、生憎、私が請けた依頼はチップを盗み、持ち帰ることだけ」


「ここから先は別料金になってしまうわ」


 そう言って笠井へ歩み寄る。


「あなたが"どうしても"と言うなら、請けてあげてもいいけれど?」


 妖艶な笑みを浮かべ、笠井の体に触れると、上目遣いで見つめた。


「ふん……まあいい」


 笠井は目を逸らしながら背を向けた。


「奴らも私の作戦の前では無力でしょう」


「事実、今朝もダミーチップを掴まされていましたから」


「私が本物のチップを持っているとも知らずにね……はははっ」


 そう言って笠井はポケットからチップの入ったカプセルを取り出して笑った。


「あら、残念」


 セリーナは肩をすくめた。


「それじゃあ私は予定通り、明日のお昼頃、ヘリで『ヴァルハラ』本部へ向かうとするわ」


「ええ、その予定で構わないですよ」


「明日の正午にヘリがこちらへ到着します」


 その言葉を聞いたセリーナは満足そうに微笑むと、静かに部屋を後にした。



 

 ──洞窟付近の岩場 午後六時半。


 アリスは大きな岩に腰掛け、夕闇に染まり始めた空を静かに見上げていた。


「こんなところで何してるんだ?」


 声のした方へ振り向くと、そこには相津が立っていた。


「別に……ちょっと風に当たってただけよ」


 素っ気なく答えると、アリスは再び空へ視線を戻した。


「そうか……」


 相津は少し間を置いて口を開く。


「お前、休むって言ってたけど、全然寝てないだろ?」


 その言葉に、アリスは少しだけ眉をひそめた。


「何?アタシのこと見張ってたの?

 それとも、お得意の《アイズ》で見抜いたのかしら?」


「そんな必要ねぇよ」


 相津は苦笑しながら隣の岩へ腰を下ろした。


「《アイズ》なんか使わなくても、お前の顔見りゃ分かる」


 アリスは返す言葉を失い、黙り込む。

 しばらく波の音だけが二人の間を流れた。


「……昼間に聞いた"セリーナ"って奴と、何かあったのか?」


「別に無理して話さなくてもいい。

 話したくなけりゃ、それでいい」


 アリスは目を閉じ、小さく息を吐いた。

 そして、ゆっくりと相津へ向き直る。


「……アタシとセリーナは、同じ師匠の下で育った姉妹弟子なの」


「昔、とある仕事がきっかけで喧嘩別れして以来、ずっと会ってなかった……」


 そこまで話すと、言葉が止まる。

 相津は静かに頷いた。


「数年ぶりに、ここで再会したってわけか」


 アリスは小さく頷き、風に揺れる長い髪を耳へ掛けた。


「今さらセリーナをどうこうしたい訳じゃない……」


「仲直りしたい訳でもない……」


「昔のあの時も、全部アタシ自身が決めたこと。

 だから後悔はしてない……」


 いつの間にか太陽は沈み、辺りはゆっくりと夜へ染まっていく。


「……でも、なんかモヤモヤしてるんだろ?」


 相津の言葉に、アリスは何も答えなかった。

 しばらく沈黙が流れた後、突然相津が笑い出した。


「ははっ」


 アリスがじろりと睨む。


「悪い悪い。

 お前でも、年頃の女の子らしく人間関係で悩むことがあるんだなと思ってさ」


「あっ、そう!

 どうせアタシは、人でなしの泥棒ですよ!」


 立ち去ろうとしたアリスの背中へ、相津が静かに声を掛けた。


「それでいいじゃねぇか」


 アリスの足が止まる。


「お前に後悔がないなら、悩む必要なんてねぇだろ」


「本物のチップを盗んで、今のお前をセリーナに見せつけてやればいい」


「なんなら……セリーナ自身を盗んだって構わねぇ」


 アリスは振り返った。


「何よそれ……」


「本気で言ってるの?」


 相津は迷いなく笑う。


「ああ、本気だとも」


「アリス。俺たちは仲間だ……」


「けど、だからって遠慮する必要なんてねぇ」


「もっとワガママになってもいいんだぜ」


「それとも、お優しいアリスさんは、俺たちを巻き込まないよう気を遣ってくれてたのかな?」


 一瞬の沈黙。


 そして──


「あはははっ!」


 アリスは堪えきれず笑い出した。


「確かにそうね……」


「アンタの言う通りだわ」


「ワガママに生きてこそ、アタシよね」


 その笑顔を見て、相津も満足そうに笑った。


「調子出てきたじゃねぇか」


「二代目"怪盗ファントム"と謳われた実力、見せつけてやれ」


「ふふっ」


「アンタも言った以上は責任持って、アタシの望みを叶えなさいよ?」


 相津は不敵に笑う。


「当然だ」


「この俺が言ってるんだ。これ以上の根拠はねぇだろ」


「あはははっ!」


 アリスは再び声を上げて笑った。


 胸の奥に重くのしかかっていた迷いは、いつの間にか消えていた。


 二人は並んで歩き出す。


 仲間たちが待つ洞窟へ向かって──。



読んで頂きありがとうございます。

良ければ、ブックマーク、評価をお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ