幕間4『キャバクラミッション〜大人のテーマパーク〜』
──とある日の夕方 【Zero】オフィス。
相津とレオは仕事を終え、オフィスへと帰ってきた。
途中で買ってきた飲み物や雑誌を手に、それぞれデスクへ腰を下ろした。
しばらく二人で雑談していると、柏木も戻ってきた。
「あれ?もう今日はお前ら2人だけか?」
柏木は二人にそう聞くと自分のデスクに座った。
「ああ、俺たちも今帰ってきたところだよ」
相津がそう言うと、レオも雑誌を見ながら柏木に言った。
「退屈な仕事だったよ。女の子もいないしさ……」
「そんなしょっちゅう女の子と出会う仕事なんてないからね!」
柏木がレオにツッコミを入れると相津が目を向けた。
「柏木、依頼された仕事は問題なく終わったよ。
あとジョージと翔は今日、帰って来ないから。
なんかジョージが自衛隊の知り合いにパソコン詳しいやつ居ないか相談されたみたいで、仕事が終わったあと、そのまま翔とそいつのところへ行ったよ」
相津が買ってきたペットボトルのお茶を飲みながら淡々と報告した。
「まあ、仕事さえしてくれているなら何してても構わないけど、よく翔が承諾したな」
柏木が意外そうな顔をしていると雑誌を閉じてレオが言った。
「そんな訳ないだろ。
喚き散らかす翔を無視して、ジョージが笑いながら翔を抱えていったのさ」
「あー、なんか目に浮かぶわ……」
柏木は二人から細かい仕事の報告を受けると立ち上がって言った。
「二人ともご苦労さん、報告は分かった!
じゃあお前らこのあとは暇だな!ちょっと付き合えよ!」
「別に構わないがまだアリスと心春が戻ってきてないぞ?」
相津が聞くと、柏木は答えた。
「大丈夫。その二人には地域課の手伝いが終わったら今日は帰っていいよと伝えてある。
それよりレオもこのあと付き合ってくれるかい?」
「いいけど、女の子いるの?」
レオの問いかけに柏木はニヤリと笑った。
「ふっふっふ、誰に言っているのかね?レオナルド君」
「??急にどうしたんだい孝治?」
レオが不思議そうな目で柏木を見ていると、満面の笑みで柏木は二人に言った。
「男なら一度は行くべき夢の国があるんだよ……。
そこには美しいお姉さん、酒、癒し、夢、希望、男の望みの全てがある!
今夜君たちを招待するのは『キャバクラ』。
ジャパニーズテーマパークだよー!」
柏木が小踊りしながらステップを踏むと、相津が急に立ち上がった。
「やっぱり急用を思い出した──」ガシッ
「そんな連れないこと言うなよー、もう逃さねーからな」
柏木は出ていこうとする相津を後ろから捕まえていた。
「いやいや、俺じゃなくてもジョージと翔がいる時に、あいつらを連れて行けばいいじゃないか!」
必死に抵抗している相津に柏木が説明する。
「おいおい、よく考えてみろよ。
翔はまだ若いし、何よりずっと引きこもりだっただろう。さすがに翔には刺激が強すぎるって。
逆にハマっちゃうのも怖いしさ……。
ジョージはお前……分かるだろ?
酒飲んで調子に乗って、服脱いでパンイチで踊ろうもんなら、一発退場の出禁だぜ」
柏木の言葉に相津は納得せざるを得なかった。
「たしかに《アイズ》を使うまでもなく、そうなる未来が見えるな……」
「つーわけでお前ら二人な訳だ!
ボンッ!キュッ!ボンッ!のおねーちゃんがたくさんいるんだぜー!」イエーイ
「お前……ついこの前Velvetで奥さんのことを最高の女とか言ってたばかりだってのに……」
相津が柏木に苦言を呈したが全く効果は無かった。
「もちろん、俺は沙織一筋だよ!
でも……ソレはソレ。コレはコレ。
人間、切り替えが大事なのだよ相津君!
今日は大人の事情ってやつを上司である俺が実演して教えてあげようじゃないか!はっはっはっ!」
「いや、ちょっと待って───」
浮かれる柏木に相津が断ろうとしたが、レオが立ち上がり制止した。
「何を言ってるんだ真一。上官命令だぞ!
私たちは従う以外の選択肢なんてものは無いだろ!」
レオはとても真面目な顔をして相津に熱弁した。
「私はこの任務、命を懸けても遂行する!
さあ、いざ麗しいレディたちの花園へ!」
「ああ、ともに行こうレオナルド君!
大人のテーマパークへレッツゴーだ!」
柏木の小踊りにレオが加わり、相津を取り囲むように二人で踊っている。
柏木が相津の背中を叩いて促した。
「ほらほら行くぞ!
もう観念しなさい、このムッツリさん!」
相津は観念したのか、深い溜め息をついて答えた。
「はぁ、分かったよ……。行けばいいんだろ」
柏木とレオがハイタッチをして、出入口に向おうとしたその時……休憩室へ入る為のオートロック扉がなぜか勝手に開いた。
ウィーン。
休憩室から現れたのは眉間をピクピクさせ、とても恐い笑顔をしているアリスと満面の笑みで目をキラキラさせている心春だった。
「あら、どちらへ行くのかな?御三方」ゴゴゴゴ
アリスが腕組みしながら首を傾げて目線を三人に向けた。
その後ろから心春がひょこっと顔をのぞき込む。
「あの、テーマパークって聞こえてきたので、私たちも行きたいなって思って……。ご迷惑でしたでしょうか?」
アリスとは違い、心春の純粋無垢な視線が柏木に突き刺さった。
「ぜ、全然、迷惑なんかじゃないよ、心春ちゃん。
でもなんでここにいるのかな?
今日はたしか直帰のはずじゃなかったっけ?」
柏木の額から冷や汗がダラダラと垂れていた。
「はい、わたしもそのつもりだったのですが、地域課の手伝いが思ったよりも早く終わったんです。
特に予定もなかったのでアリスさんと前から狙っていたケーキを買って帰り、休憩室でお茶してたんですよ」
「あ、そうだったの。
でも全然話し声も聞こえなかったから、てっきり誰もいないのかと思っちゃったよ」
柏木が乾いた笑いをするとアリスが口を開いた。
「ケーキを食べ終えて、心春とオセロしようってなったのよ。
ちょっと集中して静かにやってたから、アタシたちの声は聞こえなかったのでしょうねー。
でもアタシたちにはアンタたちのステキな会話が聞こえてきたわよ。
ちょっとアタシたちにも詳しく聞かせてもらえますかねー」ピキピキ
アリスのこめかみに一層青筋がピキピキと浮かぶ。
それを見た柏木は咄嗟に言い訳をするも墓穴を掘ってしまった。
「あわわわ……。も、も、もちろんだよ!
これからテーマパークに行こうって三人で話してたんだよ。もちろん、みんなでね!
ディ〇ニー?ユ〇バ?どっちがいいかな?」
柏木の説明、もとい言い訳を心春の疑問が一刀両断した。
「ほえ?これからですか?
でもこんな時間から行ったらもう閉園してますよ?」
「だよねー、ディ〇ニーでもユ〇バでもなかったわ!
ごめんね、おじさんどこ行くかうっかりして忘れちゃったな〜。どこへ行くんだったっけレオ?」
柏木の無茶振りに臆することなく、レオは真っ向から受け止めて答えた。
「ふっ、心春。
私たちの目指すところは子猫ちゃんにはまだ早い大人の天国……。キャバ───」
「アンタはちょーっとこっちに来なさい。
二人きりで大事なお話があるのよね……」
レオが言いかけたところでアリスに遮られた。
さらにレオはアリスに奥の作戦指令室へと連れられて行った。
ドカッ!バキッ!ボコッ!───チーン……。
数分後、アリスが戻ってきた。
「なんかレオ、眠くなったから仮眠するってさ」
柏木、相津(アイツ死んだな……)
プルルル
その時、柏木のスマホの着信音が鳴った。
柏木はチャンスと思い、ここぞとばかりに見せつけるようにスマホを取り出した。
「おっとすまない、上層部から緊急の連絡だ!
悪いがあとは頼むな相津!」
柏木は相津に目配せすると颯爽と消えていった。
「おいっ!」
(絶対、上層部からの電話じゃないだろコノヤロー)
アリス (ゴゴゴゴ)
心春 (ワクワク)
アリスの刺すような視線と心春の純粋無垢な視線が相津に集中する。
とても居た堪れない空気となり、相津は熟考の末に口を開いた。
「……映画でも見に行くか?
レイトショーなら今からでも間に合うだろ?」
相津の言葉に心春とアリスは互いに顔を見合わせると喜んだ。
「わーい、映画なんて久しぶりですよー!
何が上映してますかね?何見ます?」
「アンタの奢りだからね!
もちろん帰りにアタシと心春にパフェも宜しくね♡」
二人が手を取り喜んでいると相津が一人呟いた。
「ああ、命の対価だ。喜んで全額払わせて頂こうか……」
「ふぇ……?いのち?」
心春が不思議そうに相津を見た。
「何でもない。さあ、行こうか!」
──なお、この日相津の財布は中身を全て吐き出すほどの致命傷を負ったと後に語っていた──
おしまい
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