幕間3『夏祭りミッション〜屋台を完全制覇せよ〜』
──八月上旬 【Zero】オフィス。
【Zero】のメンバーたちは作戦指令室に集まっていた。
全員、真剣な顔で椅子に座り、作戦会議が始まるのを静かに待っていた。
そんな空気の中、相津が立ち上がり、会議を始めた。
「全員集まったな、これより来週末に行われる"最重要任務"についての最終作戦会議を行う」
ビシッ「「「「「「了解!」」」」」」
相津が開催宣言をすると全員がその場で敬礼をした。
「まずは柏木、他部署との調整や根回しの状況を報告してくれ。ここが全ての土台だ。
これが崩れると計画自体が続行不能になる……」
相津の真剣な眼差しに対し、柏木は笑みを浮かべて報告する。
「くっくっく、万全だよ相津。
毎年のことだが地域課などが警備にあたるため、公安は完全に休みだ。
しかも零課は今回わざわざ長官にまで確認をとってある。万に一つも出勤はない」
「さすがだな。よし、次は翔。
予定ポイントの探索の方はもう済んでいるか?」
相津が翔に目を向けると、スクリーンに地図が映し出された。
「ふっふっふ、もちろん完了しているよ。
今光っているこの場所が今回の予定ポイント。
対象に対しての距離、角度、これ以上ないポイントさ。さらに会場も近く、穴場であまり人もいない。
まさにここはURだよ」
「完璧だな。だが、この最高の場所を敵に取られては何の意味もない。ジョージ!」
相津がジョージの名前を呼ぶと、ジョージはゆっくりと顔を上げた。
「ああ、俺に任せな。
三日前からそこで寝泊りし、周りを威嚇する。
猫一匹たりとも近づけさせやしねぇ!」
「頼んだぞ。これでフィールドは整った。
だがしかし、まだ問題がある。
今回は特殊案件につき、予算が少ない……。
この状況を打破する為、レオ、アリス、潜入捜査の報告を頼む」
待ってましたと言わんばかりにレオとアリスはドヤ顔を見せつけた。
「ふっ、事前調査の結果、最近はキッチンカーでの販売が増え、販売員も女性が多くなっているとのこと。
私の得意分野さ。最低限の予算で最大の成果をお見せしよう」
「アタシの方はもう対象に接触済み。
例年通り出店する屋台のおじさんたちはアタシが骨抜きにしてあげたわよ。
いまやアタシが行けば顔パスよ」
「二人ともプロだな。
最低限のコンプライアンスは守るよう注意してくれ。
これで状況も整った。
あとは心春、当日の足は確保できたか?」
心春は普段とはまるで違う、自信に満ち溢れた顔でニヤリと笑った。
「はい、交通課の友達に頼んで、大型ワゴンを借りられました。
しかもこの車、最新モデルでなんと後付けサイレンまで装備しているのです!
もし渋滞でもサイレンを鳴らして突入できます」
[※注意 使ったら始末書です]
「まさかニュータイプを用意するとは……。
心春、デキる女になったな……」
心春が褒められてホクホクしていると相津が自身の報告と共に総括した。
「みんなご苦労だった。俺の方も順調だ。
当日の出発前にVelvetからキンキンに冷えた酒が入ったクーラーボックスが届く手はずだ。
もちろん心春用にノンアルも入っている」
全員が「おお!」と歓声が上がると、相津が締めの号令をかけた。
「以上が花火大会における"夏祭りミッション"だ。
それでは成功に向けて、ミッションスタートだ!」
「「「「「「了解!」」」」」」
──花火大会当日 午後五時。
渋滞に巻き込まれることなく、心春の運転で予定ポイントへ到着した。
各自、椅子やテーブル、クーラーボックスを持っていくと場所取りをしているジョージが見えてきた。
「ジョージさん!場所取り、ありがとうございます!」
「おう、待ってたぜ、お前らっ!
……なぁ、真一、あれ持って来てくれた?」
ジョージがコソコソと相津に聞くと、相津はバッグをジョージに手渡した。
中にはジョージの着替えが入っていた。
「助かるぜ!ちょっくら便所で着替えてくらぁ!」
花火の打ち上げ開始時間は午後八時からなので、メンバーはそれぞれテーブルや椅子などのセッティングを済ませると次のミッションに移行した。
「さあ、ここからはアタシたちの出番ね!」
「ふっ、この私に任せるがいいさ!」
レオとアリスが張り切っていると相津が三チームに分かれようと提案した。
「女性店員のキッチンカーはおそらくデザート系が多い、なのでレオと翔のタッグでいく」
「了解」「オッケー」レオと翔が返事をした。
「アリスの屋台はガッツリ飯系がほとんどだ、ジョージを付けるから大量に確保を頼む」
「任せて」「おっしゃー」アリスとジョージが気合いを入れた。
「俺と心春は遊戯系を攻めて、景品をゲットしてくる。柏木がここで待機しているから各チームある程度、溜まったら一旦ここに持ってきてくれ」
「俺は先に飲んでるからツマミ系を早めに頼むな!」
柏木は右手の親指を立ててグッと合図した。
「よし!では散開して、花火が始まる一時間前の午後七時に再びここに集合だ!」
相津がそう言うとそれぞれミッションに出向いた。
──レオ&翔チーム。
「おや、なんて美味しそうなパンケーキなんだ!
やっぱり作っている人が美しいと美味しくなるのかな?キレイなお嬢さん?」
二十代前半と思われる若い女性の店員さんはレオの言葉に最初はびっくりしていたがとても喜んでいた。
レオの甘い言葉に店員はすっかり上機嫌となり、レオとの会話に夢中になっていた。
「やだもぉ〜、お兄さんすごいイケメンだから絶対みんなに言ってるでしょ〜」
「すまない、確かに色々言ったこともある気がするが、君を見た瞬間、全てを忘れてしまったよ」
「うふふ、面白いお兄さんね!
これサービスで三倍にしておくからまた来てね!」
レオと店員さんが笑顔で話してる後ろで翔がパンケーキを受け取り、呟いた。
「……はい、一丁上がり」
──アリス&ジョージチーム。
二人は焼きそばとたこ焼きが並んでいる屋台の前に来ていた。
「おお!アリスちゃん、待ってたよ!」
たこ焼き屋のオヤジがアリスに気づいて声をかけると焼きそば屋のオヤジが割って入った。
「バカヤロー!アリスちゃんは俺の屋台に来てくれたんだよ!引っ込んでろ!」
二人のオヤジは「ああ?」と睨み合うとアリスがわざとらしく髪をかき上げて、とても可愛らしい声で話した。
「二人ともケンカは止めて、アタシはどっちかなんて選べないわ……。二人とも素敵だから二人に会いにきたの。……それじゃあ、ダメ?」
アリスが前かがみになり、胸元を見せつけるとオヤジ共は肩を組んで急に仲良くなった。
「全然ダメじゃないよ!俺たち仲良しだからさ!」
「そう!俺たちマブだから!」
アリスはニッコリ笑うと二人に言った。
「アタシ、今日は会社の買出し担当でいっぱい持ってこいって言われてるの……。でもあまり予算もなくて……」
アリスは目をウルウルさせてオヤジたちを見つめた。
「バカ言っちゃいけねーよ、アリスちゃん!
アリスちゃんに恥かかせる訳にはいかねー、好きなだけこのたこ焼きを持っていきな!」
「おう!こっちもだよアリスちゃん。
腹がはち切れるくらいの焼きそばを持っていきな!」
「「お代は一人分で構わねーよ」」
最後にオヤジたちの言葉がハモった。
アリスが喜び、オヤジたちにボディタッチをしていると、後ろでジョージが呟いた。
「これ……、もう違う商売じゃね?」
──相津&心春チーム。
射的で無双した景品を持ち、二人は金魚すくい屋台の前に来ていた。
子どもたちが挑戦していたが難しいらしい。
「えー、また一匹も取れなかったよ。
おじさん、このポイ弱過ぎない?」
子どもたちが愚痴を言っていたがオヤジは満面の笑みだった。
「そんなことないよー」
(ぐふふ、意図的に弱いポイも混ぜてるんだよね、こりゃ今日も大儲けだな)
後ろで見ていた相津がオヤジに金を払って言った。
「オヤジ、ポイを一つくれ」
心春は子どもたちに見てるよう促すと、子どもたちは黙って相津を見守った。
「はいよ、兄ちゃん、頑張んな」
(ぐふふ、すぐに破れちゃうけどねー)
相津は《アイズ》を使い、金魚の動きを完璧に捉え、かつポイが破れない角度で次々と金魚を器へ捕獲していった。
(なにーーー!な、なんだこいつは!?)
相津は大量の金魚を捕獲すると子どもの人数分に分けてもらい、子どもたちに渡した。
「ありがとう!お兄ちゃん!」
子どもたちは感謝を伝え帰っていった。
相津と心春が振り返ると真っ白になったオヤジが座っていた。
──午後七時。
相津と心春が戻ってくると他のメンバーはすでに戻ってきていて、二人が最後だった。
テーブルには置ききれないほどの食べ物が山積みにされていた。
「これ、すごい量の食べ物ですねー」
心春が驚きと称賛の声を上げるとレオとアリスがドヤ顔で胸を張る。
その後ろで爆食しているジョージと翔がコメントした。
「まあ、少し詐欺みたいな感じもしたけど、美味しいし、結果オーライかな」モグモグ
翔がパンケーキを頬張っている。
「こっちも似たようなもんだ。まあオヤジたちは幸せそうだったから別にいいんだけどよ」バクバク
ジョージは焼きそばをかき込んでいた。
すっかり出来上がって真っ赤になっている柏木が立ち上がり言った。
「じゃあ全員揃ったし、乾杯といこうか!」
クーラーボックスから各自、飲み物を取り出すと乾杯した。
──午後八時。
ヒュゥゥゥ────ドォォォン
バンッバンッバンッバンッ───パラパラパラ
ヒュゥゥゥ────ドォォォン
色鮮やかな花火が夜空に舞った。
先ほどまでの賑やかさが嘘のように、みんな静かに花火を見ていた。
「……とってもきれいですね……」
心春が誰に言うわけでもなく、小さな声で独り言のように呟いた。
すると心春の後ろで花火を見ていた相津も独り言を呟いた。
「ああ、来年も一緒に見れたらいいな……」
心春は相津の小さな声に気付き、振り返り相津の顔を見たが相津はそのままずっと花火を見ていた。
心春は前に向き直し、再び花火を見ると、頬を少し赤くして嬉しそうに夜空に言った。
「はい、来年も一緒に見ましょう!」
ヒュゥゥゥ────ドォォォン
──一際大きな花火が夜空に咲いた。
その光は束の間でありながら、確かに彼らの夏を照らしていた。
【Zero】のメンバーはそれぞれの想いを胸に、同じ空を見上げていた──
おしまい




