表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/48

『護衛MISSION ⒀─相津の意図─』

 ──玲依がいる十階建てビル 一階。


 ビルへ突入したジョージは、なおも暴れ回っていた。


 ドゴォォォン!!


 敵の攻撃をものともせず突進すると、そのまま体当たりを叩き込み、五人まとめて吹き飛ばす。


「ぐわぁぁっ!」


 人の塊が壁へ激突し、床へ転がった。


「クソッ!あの装甲服を着ている限り、銃じゃほとんど効かねぇ!」


「こうなりゃ鈍器でぶっ潰すしかねぇ!」


「単独で行くな!四方から一斉に襲え!」


 敵は銃を捨て、ハンマーや鉄パイプなどの鈍器を手に取り始めた。


 その様子を、防犯カメラを通して翔が確認する。


 ザザッ──。


〈ジョージ。敵が四方へ展開したよ。武器も銃から鈍器に切り替えてる〉


 翔は相津から任された役目を果たすべく、監視カメラを駆使して敵の位置をリアルタイムで伝えていく。


「へっ……。

 やっと直接ぶん殴りに来る気になったか」


 ジョージは背中のリュックから小型シールドを取り出し、左腕へ装着した。


〈ジョージ!三時、六時、九時の方向から、それぞれ三人ずつ!一斉に来る!〉


「おう!」


 ジョージは返事と同時に三時方向へ駆け出した。


「オラァァァァァ!!」


 勢いよく扉を開けた敵の目の前には、すでにジョージの姿。


「なっ──」


 言い終わる前に、豪快なラリアットが炸裂した。


 ドゴォォン!!


 三人まとめて吹き飛ばされ、廊下の奥まで転がっていく。


 そこへ今度は六時方向と九時方向からハンマーを振り上げた敵が迫る。


 ガギィン!!


 ジョージは左腕のシールドで二本同時に受け止めると、そのまま力任せにハンマーを奪い取った。


「返すぜぇ!」


 ブォンッ!!


 振り下ろされた一撃が敵をまとめて薙ぎ倒す。


 バゴォォォォン!!


 その激戦を、吹き抜けとなった二階から皇城インフラ開発の幹部と、中国マフィアのリーダーが見下ろしていた。


「……まるで象を相手にしてる気分だぜ」


「突破されるのも時間の問題ダナ。

 もう戦える者はほとんど残ってイナイ。

 我々が出るしかナイ」


「チッ……。本当に千人近く潰しやがった。

 高くつく仕事になったぜ」


 二人は顔をしかめると、そのまま奥へ姿を消した。


 一方、ジョージは翔の援護を受けながら着実に敵を制圧していく。


〈ジョージ!上から敵が──〉


「ナメてんのかコノヤローッ!!」


 ドゴォン!!


〈ジョージ!右から矢が──〉


「しゃらくせぇ!!」


 バキィッ!!


〈ジョージ!後ろからバイクが──〉


「俺を轢きたきゃ戦車でも持ってこいっ!!」


 ドガァァァン!!


 翔は無線を握ったまま、しばらく黙り込んだ。


〈…………ねぇ、ジョージ〉


「おう?」


〈……僕、いる?〉


 ジョージは敵を殴り飛ばしながら豪快に笑う。


「ああ!めちゃくちゃ助かってるぜ!」


「オラァァァッ!!」


 ボガァァァン!!


〈……ああ、そう。

 なら、よかったです……〉


 翔はどこか釈然としない表情でモニターを見つめるのだった。




 ──玲依がいる十階建てビル 五階。


 アリスが玲依を保護してから数分。

 相津はインカムに手を添え、アリスへ通信を入れた。


 ザザッ──。


「アリス、よくやった。

 予定どおり、そのまま玲依の保護を頼む」


「通路のレーザーが、今度はお前たちを外敵から守る壁になる」


「俺は元凶──権藤を押さえに行く。

 あとは頼んだぞ」


〈ええ、任せてちょうだい!

 その代わり、ちゃんと全員で玲依を迎えに来てあげてね!〉


 アリスらしい、不器用な激励だった。


 相津は口元をわずかに緩める。


「……当然だろ」


 短く答えると、最上階を目指して階段を駆け上がった。


 ザザッ──。


「翔、今少し話せるか?」


〈うん、大丈夫だよ。

 ほとんどジョージが一人で片付けちゃってるし……〉


 その口ぶりだけで、相津は一階の戦況をおおよそ察した。


「権藤の状況を教えてくれ。

 奴の部屋の防犯カメラ映像は、予定どおり差し替えてあるな?」


〈もちろん。ちょっと待って……〉


 翔はモニターを素早く確認する。


〈……うん、まだ気付かれてないみたい。

 権藤はソファにふんぞり返って酒を飲んでる〉


〈襲撃されたこと自体は報告を受けてるけど、偽の映像を見て『味方が迎撃している』と思い込んでるんじゃないかな〉


 相津は無言で数秒考え込む。


「玲依の監禁部屋の映像は?」


〈そっちも問題なし。

 アリスが侵入する前から、玲依が一人で眠っている映像をループ再生させてる〉


〈ただ……さすがに同じ映像が長すぎるから、そろそろ違和感を持たれてもおかしくないね〉


「了解。状況は把握した」


 相津は一段飛ばしで階段を駆け上がりながら、静かに続けた。


「悪いが、これから俺の通信を強制通話に切り替えてくれ。メンバー全員に対してだ」


〈了解〉


 翔は相津の意図を察したのか、それ以上は何も聞かなかった。


 すぐに操作を終えると、小さく頷く。


〈準備オッケー。いつでもいいよ、相津〉




 ザザッ──。


「こちら相津。

 取り込み中の奴がいたら悪いが、全員に連絡だ」


「先ほど、玲依を保護した。

 現在はアリスと共に監禁部屋で待機中だ」


 その一報だけで十分だった。


 インカム越しに返事はない。


 だが、誰もが胸をなで下ろし、同時に闘志を燃え上がらせていた。


 相津は続ける。


「全員、分かっているとは思うが、これで任務完了じゃない。


 作戦開始前にも言ったはずだ。


 最重要任務は──"全員で生きて玲依を迎えに行くこと"。


 現時刻をもって作戦を最終段階へ移行する。


 全員、最終ポイントへ向かえ。


 言っておくが、これは命令だ。


 拒否権はないからな」


〈〈〈〈〈〈了解!!〉〉〉〉〉〉


 返ってきた声は、誰一人迷いのない力強い返答だった。


 玲依を救出したことで、全員の士気は最高潮に達していた。


 通信が通常回線へ戻る。


 ザザッ──。


〈……相津、一ついい?〉


「なんだ?」


〈僕だけ、そっちへ行けないんだけど?〉


 翔は笑いを堪えながらわざと不満そうに言った。


 相津もすぐに意図を察する。


「分かってる。埋め合わせはする。

 今回はそれで勘弁してくれ」


〈ふふっ、冗談だよ。

 僕はそんな器の小さい男じゃないからね〉


 二人は思わず笑った。


 束の間の静寂。


 やがて翔が、ずっと胸に引っ掛かっていた疑問を口にする。


〈……ねぇ、相津。

 もう一つ聞いてもいいかな?〉


「なんだ?」


〈今回さ、無理に途中で玲依と合流しなくても、敵を全部片付けてから安全に迎えに行くこともできたよね?〉


〈それなのに、危険を承知でアリスを先に監禁部屋へ向かわせた〉


〈それはさっきみたいに皆の士気を上げるため?

 それとも……玲依のため?〉


 翔に責める気持ちはまったくない。


 ただ、相津が何を考えていたのか知りたかった。


 相津は階段を上りながら、ふとジョージと地下で交わした会話を思い出す。


 ───『お前が加われば"100%"必ず玲依を助け出せる』


 あの時、自分が口にした言葉。


(もしジョージが玲依を助けた時……


 玲依が虚ろな目をしていたり、絶望に沈んだままだったら──


 それは俺の言う『100%』じゃない)


 相津は小さく笑った。


「さあ?……どっちだろうな?」


〈ちぇっ。

 教えてくれないなんて、相津もケチだね〉


 翔は肩をすくめるような声で笑う。


〈……まあ、結果オーライだし。

 気にするのはやめておくよ〉


 プツッ。


 通信が切れた。


 相津は何も言わず、ただ静かに最上階への階段を上り続けた。




 ──五階 玲依の監禁部屋。


 ようやく落ち着きを取り戻した玲依をベッドへ座らせると、アリスも隣に腰を下ろし、そっと肩を寄せた。


「……玲依。ちゃんとアンタの声はアタシたちに届いてたわ。この状況で、よくインカムのことを覚えてたわね」


 優しく頭を撫でられながら、玲依はゆっくりと口を開く。


「うん……。最初は何が何だか分からなかったけど、この部屋に来てからはずっと一人だったから……。

 ジョージに言われたことを思い出して……布団の中に隠れて、インカムに話してたの……」


 アリスは部屋を見回した。


 殺風景な四角い部屋には、ベッドが一つ、トイレが一つ、小さな冷蔵庫が一つ。

 

 天井には監視カメラが二台設置され、壁には三十センチほどの小さな鉄窓がある。


 おそらく、食事はあの窓から渡されていたのだろう。


「でも、よくインカムを取り上げられなかったわね。

 バッグなんかは全部没収されてるじゃない。どうやって隠してたの?」


 それはアリスだけでなく、【Zero】の全員が気になっていたことだった。


 玲依は少し照れたように頷く。


「ジョージが『肌身離さず持ってろ』って言ってたから……。

 それで、アリスが教えてくれた……女の子が大事なものを隠す場所に、ずっと入れてたの」


 そう言うと玲依は胸元を少し開き、服の内側へ手を入れた。


 取り出したのは、小さなインカム。


 キャミソールの胸元に付いた小さなポケットへ隠していたのだ。


 一度も手放すことなく、大切に守り続けていた。


「あははっ……なるほどね」


 アリスは思わず吹き出した。


「それじゃあ、あの連中が見つけられないわけだわ」


 そう言って玲依の頭を優しく撫でる。


「玲依。

 アンタ、将来きっと素敵な女性になるわよ」


「……えへへ」


 玲依は少し照れくさそうに笑った。


 その笑顔は、監禁されて以来、初めて見せる年相応の笑顔だった。


 

読んで頂きありがとうございました。

良ければブックマーク、評価をお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ