表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/49

『護衛MISSION ⑿─《アイズ》視野拡大─』

 ──玲依が囚われている十階建てビル


 一階正面入口前。


 ビルへ退避していく連合軍を追い、ジョージも正面入口までたどり着いていた。


 ザザッ。


「こちらジョージ。孝治!心春!『ポイントB』に屋内戦用装備のバッグを頼む!」


〈〈了解!〉〉


 無線が返ると同時に、上空を旋回していたブラックホークがゆっくりと高度を下げる。


 そして正面入口の目前へ、大型の装備バッグが投下された。


 敵兵たちが一斉にバッグへ駆け寄る。


 だが──


 ダダダダダダッ!


 ジョージの機関銃が火を噴き、敵を容赦なく薙ぎ払った。


 誰一人、バッグへ近づくことはできない。


 ザザッ。


〈ジョージ……。建物へ入ったら、俺たちもレオも援護はできねぇ。ここから先は、本当に一人だ。十分気を付けろよ〉


 柏木の落ち着いた声が無線越しに響く。


 続いて、心春の声が飛び込んできた。


〈ジョージさん!絶対に死んじゃ駄目ですからね!

 玲依ちゃんとの約束……絶対に守ってください!〉


 ジョージはバッグを開き、屋内戦用の装備へ手際よく換装していく。


 その様子を、ヘリから柏木と心春が固唾を飲んで見守っていた。


 準備を終えたジョージはゆっくりと立ち上がる。


 そして夜空を見上げると、頭上を旋回するヘリへ向かって静かに拳を突き上げた。


 ザザッ。


「ああ……。

 お前らがいなかったら、俺はきっとここまで来られなかった」

 

「本当に十分すぎるくらい助けてもらった。

 ……ありがとう」


 一拍置き、ジョージは静かに笑う。


「──あとは、俺が約束を果たす番だ」


 無線が切れる。


 ジョージは一度だけビルを見据えると、迷うことなく正面入口をくぐり、闇の中へと姿を消した。


 その背中には、迷いも焦りもない。


 あるのはただ一つ──


 玲依を必ず救い出す。


 その揺るぎない覚悟だけだった。




 ──五階 玲依の監禁部屋前 通路。


 アリスは、監禁部屋へ続く通路の半分ほどまで到達していた。


「十時の方向、上方にレーザー。

 右へ二歩。……そこで止まれ。

 腰の高さまで身体を落として、一歩前進」


 相津は《アイズ》で赤外線レーザーを捉えながら、インカム越しに一つひとつ指示を送る。


 アリスもまた、極限まで研ぎ澄まされた集中力で、その声だけを頼りに見えない罠をかいくぐっていく。


 一歩。


 また一歩。


 慎重に距離を縮めていく。


「……あと少しね」


 その時だった。


 廊下の奥から、複数の足音が響く。


 同時に翔から通信が入った。


 ザザッ。


〈相津、まずいよ。

 柏木さんたちのヘリ攻撃が予想以上に効いた〉


〈敵が予定より早くビル内へ退避してきてる。

 現在、相津の左右から二人ずつ、計四人。

 五階へ向かって移動中だ〉


「真一……!もう敵が来てるの!?」


 思わずアリスが振り返ろうとした瞬間──


「動くな!」


 鋭い一喝が飛ぶ。


 アリスの身体がビクリと止まった。


 数秒後、相津の落ち着いた声がインカムから聞こえてくる。


「いいか、アリス。

 何が聞こえても絶対に振り返るな。

 俺の指示だけを聞いて動け」


「敵は……俺が止める」


 アリスは微動だにしないまま、小さく答えた。


「止めるって……。

 レーザーを見ながら指示を出して、それで両側から敵まで来るのよ?」


「そんな状況、いくらアンタでもどうしようもないじゃない」


「アタシのことはいいから、一度片方だけでも──」


 震えを抑えるように囁く。

 すると相津は、小さく笑った。


「バカ言うな。

 俺がここを離れたとき、敵がお前を見つけたら終わりだぞ」


「今のお前はまともに動けない。

 そんな状態じゃ、一瞬でやられる」


 一拍置き、少しだけ口元を緩める。


「……それに、さっき言ってくれたじゃねぇか。

 『アンタの言葉を信じなかったことは一度もない』ってな」


 アリスは目を丸くする。


「その想いには、ちゃんと応えないとな」


「そ、そんなつもりで言ったんじゃ──」


 慌てて否定しようとしたアリスを、相津は笑って遮った。


「分かってる。冗談だよ」


 その笑みはすぐに消える。


「でも、対処できるっていうのは本当だ。

 だから心配するな。お前は目の前だけを見ろ」


「玲依を助ける役目は、お前に任せたからな」


 そう言って相津は一歩だけ後ろへ下がる。


 廊下の中央に静かに立ち、両手に拳銃を構えた。


 その視線は敵へ向けられている。


 だが《アイズ》はなおも赤外線レーザーを捉え続け、口からは絶え間なくアリスへの指示が紡がれる。


「そのまま半歩前。

 ……止まれ。右足だけをゆっくり上げろ」


 敵が迫る。


 アリスも止まれない。


 そして相津は、そのどちらからも目を逸らすことはなかった。


 この廊下は全長およそ五十メートル。


 玲依が監禁されている部屋へ続く通路は、その中央に位置していた。


 廊下の両端には階段があり、翔の予測どおり、敵が左右から上がってきた瞬間、相津の姿は否応なく見つかってしまう。


 アリスが通路の終点まであとわずかというところで──ついに敵が五階へ到達した。


「なんだあいつ?俺たちと同じスーツを着てるが、仲間じゃないよな?」


「ああ、見たことのない顔だ」


 その直後、反対側の階段からも二人が駆け上がってくる。


「そいつは侵入者だ!下で気絶していた連中が目を覚まして知らせてきた!」


「殺せ!」


 だが、左右から同時に突撃したことで、敵はすぐには発砲できなかった。


 誤射すれば、味方を撃ち抜く危険があったからだ。


 その一瞬の躊躇を、相津は逃さない。


 《アイズ》の能力の一つ──"視野拡大"。


 通常、人間の視野角は両眼で約200度。さらに、はっきり認識できる範囲は約60度に限られる。


 しかし《アイズ》の視野拡大を使えば、視野は最大270度まで広がり、その範囲すべてを鮮明に認識できる。


 相津は正面を向いたまま、左右へ銃口を向けた。


 バンッ! バンッ!


 乾いた銃声が響く。


 左右それぞれの先頭にいた敵が、ほぼ同時に崩れ落ちた。


「この野郎!」


 残る二人が味方ごと構わず引き金を引く。


 相津はアリスへの指示を一旦止め、《アイズ》を使い弾道の"軌跡"を捉えた。


 体を最小限だけ捻って銃弾をかわす。


 バンッ! バンッ!


 反撃は一瞬だった。


 相津の服を一発の銃弾が掠める。しかし、その頃には残る二人も床へ倒れていた。


「……な?だから言っただろ?」


「……バカ」


 アリスは少しだけ頬を膨らませる。


 その表情には呆れと安堵が入り混じっていた。


 再び前を向き、一歩ずつ慎重に進む。


 そして、最後のレーザーの前で足を止めた。


「アリス、これが最後だ。

 肩の高さから下へ等間隔に五本。

 隙間は約三十センチ……お前なら通れるはずだ」


「どこを抜ける?」


 相津が問いかける。


 しかし、アリスはその場でくるりと振り返り、相津へ笑みを向けた。


「……アリス?どうした──」


 次の瞬間だった。


 アリスは何の躊躇もなく、その場から真後ろへ跳んだ。


 大きく背中を反らせる。


 まるで棒高跳びの背面跳びのような美しい軌道。


 しなやかな身体が宙を舞い、五本並ぶレーザーの上を一気に飛び越えていく。


 そして──


 トンッ。


 音もなく着地した。


「どう?少しは見直した?」


 アリスは得意げに微笑む。


「このくらいの高さなら飛び越えるほうが早いわ。

 あんまり泥棒を舐めないでほしいわね」


 相津は思わず笑みを浮かべた。


「ああ……。お見逸れしたよ」


 その言葉に、アリスも満足そうに微笑み返した。




 気を取り直したアリスは、最後の扉の前へ歩み寄った。


 一方、相津は周囲への警戒を強める。


 アリスは潜入中に入手していた指紋データを認証装置にかざした。


 ピッ──。


 電子音とともにロックが解除され、重い扉がゆっくりと開く。


 部屋の中には、一人の少女がベッドの上で小さく膝を抱えてうずくまっていた。


「玲依っ!」


 思わずアリスは駆け出した。


 その声に反応して少女がゆっくりと顔を上げる。


 虚ろだった瞳に、少しずつ光が戻っていく。


「……アリ……ス……?

 え……アリス……?

 ……本当に、アリスなの……?」


 夢でも見ているかのように玲依は呟く。


 そして次の瞬間、堰を切ったように言葉が溢れ出した。


「……ごめんなさい……。

 わたしが……わたしのせいで……

 ジョージが……ジョージが、ひどい目に……」


 玲依は混乱したまま、自分を責め続ける。


 アリスは何も言わず、その小さな身体を優しく抱き寄せ、力強く抱きしめた。


「遅くなってごめんね。もう大丈夫よ」


「ジョージも無事。

 むしろ前より元気なくらいなんだから」


 アリスは少しだけ笑みを浮かべる。


「……みんなで玲依を迎えに来たの。

 本当に、ごめんね。

 こんなにつらい思いをさせちゃって……」


 その言葉を聞いた瞬間だった。


 玲依の張り詰めていた心が、音を立ててほどけていく。


「ひぐっ……ひっく……

 

 よかった……


 ジョージが……無事で……


 生きてて……」


 涙が次から次へと頬を伝う。


「わたし……


 ジョージが死んじゃうんじゃないかって……


 ずっと……ずっと怖かったぁ……」


 アリスは何も言わず、玲依の頭を優しく撫で続けた。


 その泣き声はインカムを通じて、廊下で警戒に当たる相津の耳にも届いていた。


 相津は静かに目を閉じる。


 そして、何も言わず小さく微笑んだ。


 その表情は、普段の彼からは想像もできないほど穏やかで、優しかった。


「……来てくれてありがとう……アリス……。


 ひっく……


 みんな……ありがとう……。


 ジョージ……


 生きててくれて……


 ありがとう……」


 玲依は涙で声を震わせながら、一人ひとりへの感謝を口にした。


 その言葉を聞いたアリスは、抱き締める腕にそっと力を込めるのだった。

 


 ──囚われていた獣の"子"は、大粒の涙を流しながら、ようやく心から安堵した。


 その涙は、自らが救われたことへの安堵だけではない。


 大切な仲間たちが誰一人欠けることなく、再び会いに来てくれたことへの喜びと感謝。


 その優しさが溢れ出した、温かな涙だった──。


  

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ