『護衛MISSION ⑽─作戦の"要"の二人─』
──敷地内 中央広場付近。
ジョージは皇城インフラ開発と中国マフィアの連合軍を相手に、激しい戦闘を繰り広げていた。
ドゴォォォォンッ!!
再びダイナマイトが炸裂し、爆炎が夜空を赤く染める。吹き上がった業火の中を、黒い巨体が一切ひるむことなく突き進んでいく。
「ちくしょう!何なんだ、あの化け物は!
炎の中を平然と突っ込んできやがる!」
「銃も効かねぇ!
何発撃ち込んでも止まらないぞ!」
「ひっ……!た、助けてくれぇぇぇ!」
連合軍は依然として数では圧倒していた。
だが、目の前で暴れ回る"怪物"と、どこから狙われるか分からない正体不明のスナイパー。
その二つの恐怖が、確実に彼らの戦意を削り取っていた。
「ビビるんじゃねぇ!!」
幹部が怒声を響かせる。
「よく見ろ!あいつの武器はもう尽きかけている!
このまま押し切れば勝てる!一斉に突撃しろ!」
その一喝で、下がりかけていた士気が再び持ち直す。
ジョージは最後の手榴弾を投げ終えると、ヘルメット内蔵の無線を開いた。
ザザッ──。
「こちらジョージ。悪いが、そろそろ頼むわ……。
『ポイントA』に、とびっきりイカしたやつを届けてくれ」
〈〈了解!〉〉
短い返答を聞くと、ジョージは最後のサブマシンガンと背中の両手剣を構え、敵を薙ぎ倒しながら『ポイントA』へ向かって駆け出した。
「逃がすな!」
幹部が叫ぶ。
「あいつの武器はあれで最後だ!のこのこと一人で乗り込んできたことを後悔させてやれ!」
四方八方から銃弾が降り注ぐ。
ジョージは応戦しながら後退を続け、ついに『ポイントA』へと到達した。
その瞬間──。
カチッ。
サブマシンガンの弾倉が空になった。
静まり返る戦場。
幹部は勝利を確信したように笑う。
「はっはっはっ!終わりだな、怪物!
最後に言い残すことはあるか?」
無数の銃口がジョージへ向けられる。
ジョージは肩で息をしながら、ゆっくりと口元を吊り上げた。
「……その言葉、そのまま返してやるよ」
その瞬間だった。
ドドドドドドドドド……。
腹の底まで響く重低音が夜空を震わせる。
「な、何だ……?」
敵全員が一斉に空を見上げた。
次の瞬間、高い塀の向こうから一機の軍用ヘリがゆっくりと姿を現す。
「なっ……!?UH-60ブラックホークだと!?」
幹部の顔から笑みが消えた。
ブラックホークは『ポイントA』上空で静かにホバリングを開始する。
同時に、開いたドアから機関銃が火を噴いた。
ダダダダダダダダッ!!
激しい制圧射撃に連合軍は一斉に地面へ伏せる。
その間、ワイヤーで吊られた1.5メートル四方のコンテナがゆっくりと降下していく。
ズシンッ!!
重量感あふれる音とともにコンテナが地面へ着地した。
ジョージは迷うことなく駆け寄り、蓋を開けた。
中には大量の弾薬と、新たな武装が整然と収められていた。
弾帯を肩から胸へ巻き付ける。
軽機関銃を片手で持ち上げる。
全身を覆う黒き装甲──《重装甲強襲服ケルベロス》が炎に照らされ、その巨体はまさに戦場へ解き放たれた怪物そのものだった。
ジョージは無線を開き、豪快に笑う。
「孝治!心春!サンキューな!」
ブラックホークから機関銃を撃っている柏木が静かに頷き、操縦席では心春が満面の笑みを浮かべる。
ジョージは軽機関銃を構え、目の前で凍りつく敵を見据えた。
「──さあ、第二ラウンド開始といこうじゃねぇか!」
その雄叫びとともに、再び戦場へ駆け出した。
──遡ること約一時間前。
ジョージが敵地へ突入し、施設内に非常警報が鳴り響いた頃。
柏木と心春は、神奈川県警のヘリポートを訪れていた。
「本部長。このたびは急なお願いにもかかわらず、ご協力いただき誠にありがとうございました」
柏木は神奈川県警察本部長へ深々と頭を下げた。
「頭を上げてください、柏木警視長。あなたと私は同じ階級です。そこまでかしこまる必要はありませんよ」
本部長が苦笑すると、柏木も照れたように笑う。
「ははは……。どうもこういうのは性分でしてね。
お世話になった方には、きちんと筋を通しておきたいんですよ」
その実直な人柄に、本部長は穏やかに頷いた。
「しかし驚きましたよ。軍用ヘリまで手配しただけでなく、操縦できる隊員まで公安零課にいるとは……。実に優秀な人材が揃っているのですね」
純粋な感心を口にする本部長。
すると、後ろにいた心春が照れくさそうに頭をかいた。
「いえいえ、わたしなんて全然すごくないですよ」
「たまたま通常ヘリの免許を持っていて、たまたまジョージさんと自衛隊の訓練合宿へ行くことになって、たまたま軍用ヘリの操縦訓練があって、たまたまそこで一番いい成績を取っちゃっただけなんです」
「そんなに褒められると、なんだか恥ずかしいですね」
その横で柏木が思わず苦笑する。
「……いや、"たまたま"が多すぎるだろ」
心春は「えへへ」と笑うだけだった。
本部長は口を半開きにしたまま柏木へ視線を向ける。
柏木は肩をすくめて笑った。
「お気持ちは分かります。でも、ご安心ください。
見た目は普通の女の子ですが、操縦技術は本物ですから」
そう言って柏木は心春と共にブラックホークへ乗り込む。
ローターが勢いよく回転を始め、轟音とともに機体がゆっくりと浮かび上がった。
夜空へ向かって飛び立つ軍用ヘリを見送りながら、本部長は感嘆混じりに小さく呟く。
「……いやはや、公安零課という組織は、本当に規格外だな」
──時は戻り、敷地内 中央広場付近。
軍用ヘリが地表すれすれを滑るように飛ぶ。
開いたドアから身を乗り出した柏木は、機関銃で敵を制圧し続けていた。
「心春ちゃん!あまり無理に高度を下げなくても大丈夫だからね!」
柏木が声を張ると、操縦桿を握る心春が元気よく応える。
「ありがとうございますっ!
でも柏木さん、ジョージさんと玲依ちゃんのためにも、ここは低空飛行で"あれ"をやりましょう!」
「準備はいいですか?……いきますよー!」
心春はアクセルを調整すると、高度十メートルを切る超低空で広場中央へ進入した。
「心春ちゃん、旋回っ!」
ダダダダダダダダッ──!
柏木の号令と同時に機関銃が火を噴く。
心春はその射線に合わせ、ホバリング状態のまま機体を三百六十度ゆっくりと旋回させた。
雨のように降り注ぐ銃弾が広場全体を制圧する。
「上空から制圧射撃だ!伏せろぉっ!」
「バカ、止まるな!後ろからあの化け物が機関銃を持って突っ込んできてるぞ!」
「ど、どうすればいいんだぁぁぁ!」
現場を指揮していた幹部は歯ぎしりした。
「くっ……。ヘリを安定したホバリング状態で維持するだけでも熟練パイロットの技術が必要だ」
「それを超低空で三百六十度旋回しながら射撃支援だと……」
「相当な腕のパイロットが操縦してやがる……」
「こんな芸当、撃墜どころか照準すら合わせられん!」
上空では、柏木と心春による圧倒的な制圧射撃。
地上では、重装甲に身を包んだジョージが機関銃を乱射しながら突撃を続ける。
空と地上、二方向から挟み撃ちにされた連合軍は、身を隠すことも反撃することも許されず、瞬く間に戦力を削られていった。
「くそったれ!
全員、社長のいるビルへ退避しろ!急げぇ!」
軍用ヘリとジョージの猛攻に完全に士気を砕かれた連合軍は、次々と武器を捨てて逃げ惑う。
その場で降伏する者も現れ始めた。
わずか数分。
千人いた敵戦力は、三百人程度にまで激減していた。
──一方その頃。
玲依が囚われている十階建てビル 五階。
翔の誘導を受け、相津は玲依の監禁部屋付近までたどり着いていた。
そこへ、見覚えのない黒髪ショートヘアの女性が静かに歩み寄る。
「待ってたわよ……。
さあ、玲依を取り返しましょう」
女性は自らの顔に手をかけると、一気に皮膚を剥ぐように引き剥がした。
ペリッ──。
現れたのは、風になびく長いブロンドヘア。
変装を解いたアリスが、不敵な笑みを浮かべて立っていた。
相津は窓の外で燃え上がる戦場へ視線を向ける。
銃声、爆発音、鳴り止まないサイレン──。
ジョージが敵を引きつけ、柏木と心春が空から援護する光景を一瞥すると、ゆっくりアリスへ振り返り、口元を吊り上げた。
「……ああ。玲依を取り戻して、あいつらにはたっぷり慰謝料を払ってもらわねぇとな」
アリスも小さく笑う。
「もちろん。利息付きで、ね」
二人は互いに頷くと、玲依が囚われた部屋へ向かって静かに歩き出した。
──燃え盛る戦場に、新たな牙が加わる。
解き放たれた獣は、一頭では終わらない。
闇に潜んでいた群れが、呼応するように動き始める。
奪われた"子"を取り戻すため──
獣たちは今、一斉に牙を剥いた──




