『護衛MISSION ⑹─全員集結─』
──玲依奪還期限まで、あと四日。
午前九時。【Zero】オフィス 作戦指令室。
ジョージと心春も戻り、久しぶりに【Zero】全員が顔を揃えた。
「やっと帰ってきたよ、この脳筋ゴリラ」
翔がいつもの調子で軽口を叩く。
「ああ……。みんなにも迷惑かけちまった。
悪かったな……」
ジョージは素直に頭を下げた。
その瞬間──。
部屋の空気が止まった。
「「「「……えっ?」」」」
全員が同じ表情でジョージを見つめる。
「えぇっ!?
ちょっとジョージ、どうしちゃったのよ!?
変なものでも拾い食いしたんじゃないでしょうね!?」
アリスが慌てて駆け寄り、ジョージの頬を左右に揺さぶる。
「いやいや……。
あり得ない言葉を聞いたせいで鳥肌が立ってきたよ」
レオは腕をさすり、本当に鳥肌が立っていることを見せた。
「脳筋ゴリラが、脳筋チンパンジーくらいには進化したのかな?」
翔が真顔で首をかしげる。
「ジョージさん!
今すぐ病院へ戻りましょう!
頭を強く打ったのかもしれません!」
心春まで本気で心配し始めた。
「お前が一番失礼だからな!?」
ジョージが思わず叫ぶ。
「人がせっかく謝ってんのに、なんで全員して毒吐くんだよ!このやろう!」
その怒鳴り声を聞いた四人は顔を見合わせると、そろって安堵したように笑った。
「あー、良かった」
「いつものジョージだね」
「安心したわ」
「正常に戻りましたね!」
「だから何なんだよ、お前らぁ!」
作戦指令室に久しぶりの笑い声が響いた。
その様子を見ていた柏木と相津は苦笑しながら顔を見合わせる。
「……よし」
相津が一歩前へ出た。
「これより玲依奪還作戦の最終準備に入る。
決行日は三日後の夜。
期限前日に一気に仕掛ける」
部屋の空気が一変する。
「翔。玲依の居場所は特定できているな?」
「うん」
翔はメインコンソールを操作し、大型モニターへ地図を映し出した。
「玲依が持っていたインカムの発信機から位置を特定した。場所は神奈川県の港湾地区」
地図上の一点が赤く点滅する。
「もうインカムの電池は切れてるから現在地は追えない」
「でも数日間ずっと同じ場所から動いていなかった」
「だから、まだそこに監禁されている可能性は高いと思う」
翔は腕を組み、不思議そうに首をひねる。
「それにしても、よくインカムを没収されなかったよね。どうやって隠していたんだろう……」
相津が説明を引き継ぐ。
「そこは『皇城インフラ開発』の所有地だ。
現在は中国系マフィアも出入りしている。
確認できている敵戦力は──」
一拍置く。
「約一千人」
静まり返る室内。
最初に口を開いたのはレオだった。
「……千人か」
腕を組みながら冷静に分析する。
「分散させても各個撃破は簡単じゃない。
こちらの装備にも限りがある。
正面突破は現実的ではないね」
相津はうなずき、翔へ視線を送る。
モニターに一人の男の写真が映し出された。
「こいつにも注意しろ」
「榊悠馬。
フリーの殺し屋。
今回、玲依を攫った張本人だ」
写真を見たジョージが静かに呟く。
「……やっぱりな。
あいつだけ、明らかに他とは毛色が違ってた」
翔はもう一枚、別の人物の写真を表示した。
「そして──」
相津が続ける。
「権藤武。
『皇城インフラ開発』社長。
今回の事件の首謀者だ」
全員が無言で二人の顔を見つめる。
その姿を脳裏へ刻み込むように。
資料を閉じると、相津はジョージへ向き直った。
「ジョージ。お前はここまでだ」
「……は?」
「病院へ戻れ」
「なんでだよ」
納得できないという顔をするジョージへ、相津は淡々と言った。
「無断で病院を抜け出してきたんだろ」
「うっ……」
「決行日まで、お前の任務は一つだけだ」
真っ直ぐ見据える。
「身体を万全の状態まで戻せ」
少しだけ口元を緩めた。
「言っとくが、お前には一番重要な役目を用意してある。今さら『できません』なんて言わせねぇぞ」
その言葉を聞いたジョージは、大きく笑った。
「ああ。
玲依を助けるためなら、何だってやってやる」
「心春」
「はい!」
「病院にはお前も同行してくれ。
手続きでもリハビリでも、必要なものは全部サポートしてやってくれ」
心春は勢いよく胸を叩いた。
「お任せください!」
ジョージと心春は席を立ち、病院へ向かう。
残されたメンバーも、それぞれの役割を確認すると静かに立ち上がった。
玲依を取り戻すための戦いは、いよいよ最終段階へと動き始めていた。
──玲依奪還期限まで、あと三日。午後二時。
相津は一人、神奈川県にある『皇城インフラ開発』の施設へと足を運んでいた。
施設に隣接する高層ビルの屋上から、双眼鏡も使わず、静かに施設全体を見渡す。
そして──。
《アイズ》発動。
相津の瞳が、ゆっくりと紅く染まった。
数分間、一切動くことなく見つめ続けていた相津が、不意に小さく呟いた。
「……見つけた」
その口元に、わずかな笑みが浮かぶ。
もう確認すべきことはない。
相津は踵を返すと、何事もなかったかのようにその場を後にした。
彼の頭の中には、すでに玲依奪還作戦の全てが描かれていた。
──敵の思惑どおり、一人の少女は攫われ、囚われた。
だが彼らは、たった一つだけ見誤っていた。
その少女が、【Zero】にとって単なる護衛対象ではなかったということを。
彼女は、仲間だった。
笑い合い、食卓を囲み、共に時間を過ごした──大切な家族のような存在。
それに気づかぬまま、敵は虎の尾を踏んだ。
この時はまだ知らない。
自分たちが手を出した相手が、決して怒らせてはならない者たちだったことを。
そして数日後。
彼らは、生涯忘れることのできない"恐怖"を味わうことになる──。




