プロローグ⑵ ─《アイズ》を宿す者─
──午前十一時半。
書類整理が一区切りし、カップの洗い物を終えたところ出入り口の扉が開いた。
思わず見惚れてしまうような美女がブロンドヘアの長い髪をなびかせながらオフィスに入ってきた。
「おっはよー♡」
「おはようございます!アリスさん」
柏木がアリスに言う。
「もう、"おはよう"じゃねーけどな」
「どうでもいいわよ、それよりも心春〜!
前話してた駅前のケーキ買ってきたわよー!」
「はわ〜!
ホントだ!とってもおいしそうですぅ!」
「ありがとうございますアリスさん!
冷蔵庫にしまっておきますね」
───このナイスバディの美しい女性は『美月アリス』《みつき ありす》さん。26歳。
ドイツ人と日本人のハーフです。
私にとっては優しいお姉さんであり、頼れる先輩です。
元泥棒みたいなのですが「誇り」を持ってるとのことなのでたぶん良い泥棒さんなのでしょう。
アリスさんはレオさんと同様「有期契約社員」で警察所属では無いですが同じ【Zero】の仲間です。
レオさん曰く、「毒を持った女狐」みたいです。あはは……。
【Zero】では諜報活動で変装していることが多く、色々な格好をしています───
冷蔵庫にケーキをしまっていたらまたオフィスに誰かが入ってきた。
「くぁ〜……変な時間に寝たから体ダルいな」
「あ、相津さん、いらしたのですね」
「今ならまだギリギリお弁当間に合いますけど、どうしますか?」
「なんか目が覚めちまってな。
わりぃな心春、弁当頼むわ。日替わりのやつ」
「はい、分かりました」
───最後は『相津真一』《あいづ しんいち》さん。28歳。
警察庁の"天才"と称されている【Zero】の実質的なリーダーです。肩書は「警視」。
超自信満々の人で頭が良く、わたしが困っていると、いつの間にかフォローしてくれます。
とても頼りになる上司で尊敬しています。
アリスさん曰く「残念なイケメン」みたいです。あはは……。
【Zero】では主に作戦立案や指示をだしたりしてますが前線にも行くオールラウンダーです───
──午後一時半。
みんなで昼食のお弁当を食べ終え、各々撮影の準備を始めた矢先、柏木がロッカーでガサガサしている。
「あれ?俺の制服どこにしまったっけ?」
「そういえば柏木さん、三ヶ月くらい前にほとんど着ないから『本庁舎の倉庫に置いてくる』って言ってませんでした?」
「あ〜、そういえばそんなこともあったな。
でも倉庫のどこにしまったか全然覚えてねーな……」
「ふぇ、本庁舎の倉庫はすごく広いので探せますかね……」
心春と柏木がう〜んと悩んでいると柏木が何かを思い出した。
「そうだ!インカムも一緒にしまったから相津、お前なら"見える"だろ?」
「ったく面倒くせーなー。
でも本庁舎なんてほとんど行ったことないから倉庫がどこか───」
「それなら大丈夫!
心春ちゃんが一緒に行くからさ!
いいよね?心春ちゃん?」
「はい、本庁舎は前にいたので守衛さんもよく知っていますよ」
「じゃあ決まり!
上官命令ということで一つお願いします!」
柏木はニヤリと笑って親指を立てた。
──本庁舎地下倉庫。
守衛「はい、問題ありません。お通りください。
退出の際はまたこちらにご記入をお願いします」
「ありがとうございます」
心春は守衛の方にお辞儀をすると相津と共に中へ入っていく。
「はぇ~、久しぶりに来ましたけどやっぱり広いですね……」
「それに薄暗くて見えにくいです……。
どうやって見つけるのですか?」
「心春も知ってるだろ?俺の《アイズ》のこと」
───相津さんは目に《アイズ》という特殊な"眼"を宿しているそうで様々な能力があるらしいです。
わたしは「へぇー、とても目が良いんだな~」くらいにしか思ってなかったのですが───
「相津さんの《アイズ》ですよね!
視力がすごいって聞いてます」
「ちょっとダジャレっぽく言うのやめなさい……」
「まあ間違ってはないけど他にも色々出来るんだよ」
そう言った瞬間、赤い光が暗闇で浮く。
相津の目が赤色に変わった。
「暗視スコープ機能もあって暗くても全く問題ない、それに柏木の言ってたインカム」
「あれは【Zero】を立ち上げた時に作った特殊なインカムで、どこに隠れていても《アイズ》で見えるようになっている」
「ほぇ〜、すっごい便利ですねー」
「便利ってお前……」
「まあ本来は味方が捕まったとき用のGPS代わりみたいな役割なんだがな。
……E5の奥から三番目の棚の一番下にある」
相津がそう言うと、心春はダンボールの中身を確認した。
「……相津さん、ありました!」
──午後二時半 【Zero】オフィス内。
すでにみんな準備は整っており、柏木は心春と相津から受け取った制服に着替え、席に着いた。
「おう!久々に見たな孝治のその格好!」
ジョージが言うと、翔が口を挟んだ。
「どーでもいいけどまだ?
この格好疲れるんだけど……」
「あら?孫にも衣装で似合ってるわよボーヤ」
「誰がボーヤだ、この変態露出魔!」
アリスと翔がいつものようにジャレ合っているとレオがふと疑問を口にした。
「ところで、どこで撮影するんだい?
てっきり本庁舎と思っていたけれど……」
「ふぇ、そういえばわたしも聞いてなかったですね」
レオと心春がキョトンとしていると入口の扉が開いた。
撮影係「お疲れ様です。
本日は宜しくお願い致します。
さっそくですが公安第零課の皆さんの撮影を始めても宜しいでしょうか?」
相津が笑って答えた。
「撮影はここだよ」
「「「「はあー!?」」」」
柏木がすっとぼける。
「あれ?言ってなかったか?
まあどこでもいいじゃねーか!
はっはっはっ!」
四人は感情をぶち撒けた。
アリス「ちょっと!この日の為にエステ行って、美容院行って、ネイル、マツエクまでしてきたのよ!」
翔「ここだったら着替えなくても良かったじゃん!」
レオ「え?本庁にいるカワイイ娘たちと撮るんじゃないの?美しいレディたちは?」
ジョージ「せっかく画になると思ってとっておきのサブマシンガン持ってきたのによー」
撮影係「えっと……。どうしたらいいのでしょう……」
相津が笑いながら言った。
「くっくっく、お前らもう諦めろ。
まあどこで撮ろうが結果は同じだよ。なあ心春?」
「はい!七人揃っていればどこでも大丈夫です!」
心春がそう言うと四人は照れくさそうにそっぽを向きながら黙ってカメラを向いた。
「では撮影係の皆さん、宜しくお願い致します」
柏木がそう言うと撮影係の方々がニッコリとして配置についた。
撮影係「それでは皆さん、笑顔でお願いします!
……では撮りますよ。はい、チーズ!」パシャ!
───以上が【Zero】メンバー七人の紹介でした。
皆さん、いかがでしたでしょうか。
ただ、この時のわたしは、まだ知りませんでした。
こんなに優しくて、楽しいみんなにも、苦しく悲しい過去があったなんて───




